南洋王国冒険綺譚・ジャスミンの島の物語

猫村まぬる

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第2章 時の流れは、僕をおそろしく奇妙な場所に

2-4 御邸

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 歩きながら辺りの様子を観察すると、広場に面した大きな家々の裏側にもたくさんの小さな家が連なっているのが見えた。物売りの露店などもある。村というより小さな町のようだった。
 しかしやはり、車やバイクや自車、Tシャツや携帯電話やコカ・コーラのブリキ看板、トタン板や電線やアンテナ、マンホールに至るまで、現代的なものは一切見当たらない。

 立ち止まって後ろを見ると、ぞろぞろとついて来ていた子どもたちが、あわてて互いにぶつかり合いながら足を止めた。
 どの子の目にも悪意は感じられず、見て取れたのは好奇の色だけだった。あの少女も同様に、剣術ごっこの時の手練てだれぶりが嘘みたいな無邪気なまなざしで、興味深げに僕を見ている。
 初めて近くで見る顔は、他の子たちよりも少し肌が白く、小さいけれど真っ直ぐな鼻やくっきりした眉が意志の強さを感じさせた。黒々とした髪を後ろで結び、サイドに白いジャスミンの花を飾っている。やはりあの頃の茉莉と同じくらいの年齢に見えた。

「気にするな」とアディが僕の腕に手を添えて促した。「子どもたちはただ異国人が珍しいんだよ」

 連れて行かれたのは、やはりあの大きな家だった。木造家屋とは言え、近づくと見上げるほど大きい。四、五階建てのビルくらいはありそうだ。柱や梁、壁や垂木に至るまで、花や鳥や人物などの素朴なレリーフがびっしりと彫られ、要所要所には白や赤、金色などの彩色も施されていた。そして仏塔のように重なった三層の屋根の頂点には、花の形の大きな木彫りが取り付けられていた。

 正面の入り口に向かって幅の広い階段があったが、アディは迂回して建物の側面に回り、通用口らしい戸口への階段を登りながら、ついてくるようにと僕に指示した。
 二階ぐらいの高さの階段の上から振り返ると、子どもたちはみんな下で足を止めていた。ただ一人あの少女だけが、巻衣の裾を気にしながら、ちょっと取り澄ましたような足取りで階段を登ってくるのが見えた。

「異国の客をお連れしました」とアディが薄暗い奥の部屋に向かってかしこまって告げた。「殿下ヤン・ムリアにお目通りを願いたいとのことです」

 殿下? 聞き間違いでなければ、彼はたしかにそう言った。
 ずいぶん大袈裟じゃないか、と僕は思った。こんな田舎で、まるでマレーシア国王ヤン・ディプルトゥアン・アゴンの宮廷にでも来たみたいに。
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