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第B章:何故異世界飯はうまそうに見えるのか

趣味と実益/1:2位はおろか最下位でも勝利できる仕組みのある日本の選挙がいかに楽か技術者は知るよしもない

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 シズクの立場は極めて悪い。しかし、持ち前のポジティブさかそれほど焦っているわけでもない、一方、立場がそれほど悪くもないのに焦っている男がいた。彼の名はトーマス・アルバ・エジソン。このまま当日を迎えれば、結果が敗北に終わることが明らかだったためだ。

 かつて日本の技術者を震撼させた一言がある。「2位じゃダメなんですか?」と。結論から言えばダメである。勝負事を健全なスポーツのように考え、さらには優劣をつけることを嫌い手を繋いで並んでゴールテープを切るような運動会の経験を積んだものにとって、2位というのは非常に良い結果に見える。しかしこれは致命的な過ちである。

 資本主義経済社会において、富は一極集中する傾向にある。資本主義とは共産主義と異なり、富むものはより富み、貧しいものはより貧しくなることを加速させるルールだ。そして明確に何かの優劣をつける機会が訪れた場合、すべての富も栄光も1位に集中する。世界1位のスーパーコンピューターを完成させれば、世界中の研究機関がそれを求めるだろう。あえて2位のスーパーコンピューターを購入する理由は妥協でしかなく、研究において妥協がいかに足を遅くさせるかは言うまでもないため、もしも間違って2位のスーパーコンピューターを選択すれば、それは1位を選んだものとの差を今以上に拡大する結果となる。すなわち、選ばれないという点において2位と最下位は事実上イコールであり、もしもどうしても事業仕分けを行いたかったのならば彼女はこういうべきだった。「1位になれる確証なく突き進むならきっぱり諦めてもらいます。1位になれるという確信を具体的に説明してください」と。

 エジソンは当然このことをよく知っている。故に、このまま自分が2位で終わるという事実を前に手をこまねいているわけにはいかなかった。1位になる男の名は言うまでもない。事実上自らの生涯において一度も勝利したことがない天才、テスラである。世間は彼をライバルと呼んだが、エジソン本人にとってはライバルでもなんでもない。明らかな格上をライバル宣言するほど、彼は愚かではないのだ。

 彼はこの戦いにおいて、真っ向勝負では勝てないことを当然理解していた。故にあの時と同じようにロビー戦略に切り替えた。特許の概念を作り自らの料理のレシピを惜しみなく公開した理由は、遥か後ろから追いかけるシズクへの妨害ではなく、遥か先を進むテスラに勝利するための戦略だったのだ。

 だが本番一ヶ月前にして今、その連携が崩れつつある。理由は単純で、ここまでの包囲網を引いてなお、人々がテスラの料理に心を傾かせつつあるためだ。総売上という点でいえば、エジソン特許連合の売上はテスラ1人を圧倒している。だが、常に大行列で超満員のテスラの屋台に対して、こちらはまず行列ができることもない状況、売上の平均値で言えば逆に圧倒的な差がつけられているのだ。

 それでもロビー戦略でしか勝てないと判断した以上手を緩めることなく突き進むしかないのだが、こんな状況が続くとなれば違約金を払ってでも連合を寝返るものが現れるのはある種の必然であった。

 尤も、エジソンが経営戦略家として天才である点はここにある。すなわち、彼は負けた後のことも考えているということだ。元々この食神決戦に出場した理由は当面の発明資金を稼ぐためであり、優勝することは目的ではない。仮に敗北し参加登録時に渡した大金が没収されたとしても、それ以上の額を稼ぐことができれば目的は達成される。彼の特許連合が稼いだ額は既に十分すぎる額である。また、彼は最終的にテスラの手によって連合が瓦解することを予期していたからこそ、契約に違約金を含んでいた。予想通り連合は瓦解しつつあるが、それは想定内であり、むしろこの瓦解に伴って違約金としての大金が転がり込んでいる状況。もはやエジソンは「2位でもいい」のだ。

 というのが合理的に状況を分析した事実なのだが、エジソンのエゴはこれを拒絶する。彼にとってテスラはライバルではない。いずれ倒すべき敵である。生前はついぞその機会が訪れなかったが、この死後の世界で再びそのチャンスがやってきた。だというのに、ここでも再び力の差を示されるというのは、彼のプライドが許さなかった。

 故に彼は、諦めてもいい状況だというのに諦めていない。今まさに全力であがき、全力で勝利を目指している。そんなエジソンがテスラに勝利するための手段として考えて、ロビー戦略に追加されるサブプラン。それが、己の得意とする実験実証により、テスラが知らないものを発見すること。この状況においてそれは、未知の食材である。

「うっ……げほっ! げほっ……げっ……かっ……」
「ふむ。毒性があるな。もう息は……ないか。致し方ないな。約束通り死亡時違約金を上乗せしてこの男の家族に金を届けてくれ」
「わかりました」

 もう何人目かもわからない処理し、エジソンはため息をつく。

「既にわしの身は地獄にある。ならばもうここより下には落ちん。あの男に勝つためならいかなる非道も悪魔との契約も辞さぬ」

 天才とバカは紙一重だ。一方で、狂人とは天才の別の呼び方である。
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