ライギョマン

松ノ木下

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覚醒

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「上田くん、もうすぐ地原ダムや!ここから先は、一般人は侵入禁止や。」

「え?じゃどうやって入るんですか?洞窟ですか?」

「まさか(笑)僕はここの管理責任者と顔見知りなんだよ。」

「あっ、そういうことですか(笑)」

 笑顔で会話をしてるが、張りつめた空気が車中に漂っている。

「着いたで、ここが地原ダムや。」

「ここが地原ダム…」

 早朝の地原ダムは静寂に包まれていた。
 深山幽谷。確かに何かとてつもないものがいる。そう思わせる雰囲気がある。

 突如、沖で何かが蠢いた。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴー
 ズバっシャーーーーン 

 沖にいた鵜の群れが何かに飲み込まれた… 

「大浦さん!あれが??」

「せや、あれが地原ダムに棲む最古のビースト。ダリロフや!」

「だ、ダリロフ…」

 ゴクっ…大きさは五メートル程だろうか?確かに天竜湖のビーストと比べると見劣りするが、とにかく動きが早い。高台から見ていても、動きが補足しきれない。獰猛さも、天竜湖のビーストとは比べものにならなそうだ。手当たり次第に何かを捕食して動き回っている。

「さ、上田くん、山田くん、準備に取りかかろう。」

 そう言って、大浦さんは、僕にストレングスマイルドを手渡した。

 ストレングスマイルド…僕に使いこなすことが出来るのだろうか?


「なっ、奈緒美さーーーん!!!」

 奈緒美さんに危機が迫っている。どうしよう。やっぱり僕にはまだ早かったんだ。僕は成す術なく、呆然と立ち尽くしている。ダリロフは奈緒美さんにトドメを刺そうと距離を摘め始めた。

「上田くん!何しとんねん!早く、ライギョマンに変身せんか!ストレングスマイルドは飾りやあらへんぞ!」

 分かっている。分かっているが、どうしたらいいのか解らない…変身しようにも、変身の仕方がわからない。ストレングスマイルドを手にしても何も変わらない。マズイ、マズイぞ?このままだと、奈緒美さんは確実に殺られる!

「えーい、クッソー!上田くん、ストレングスマイルドを貸すんだ!俺が行く!早く!」

「え、あ、はい…あ、あーーー…」

 コロコロコロコロ…

 マズイ、ストレングスマイルドを崖から落とした…早く取りに行かないと!

「何グズグスしとるんや!俺が行く!」

 そう言うと、大浦さんは崖を下っていった。大浦さんは、ストレングスマイルドを拾い上げると、奈緒美さんに襲いかかろうとしているダリロフに攻撃した。
 バコっ!!
 大浦さんの攻撃でダリロフが怒りの矛先を大浦さんに変えた。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォ! 

「君は、山田くんを救出してくれ!俺が時間を稼ぐ!早く!」

「はっ、はい!」

 奈緒美さんを救出し振り返った瞬間、ビーストは大浦さんを襲った。

 バシャッバシャッドっゴーーーン!

「大浦さーーーーん!」

「上田くん!後は任せた!ストレングスマイルドを受け取ってくれーー!」

バキバキッ!グシャグシャァァァァァ

「うわーーーー!大浦さーーーん!」

 ストレングスマイルドを放り投げ、大浦さんは、ダリロフに飲み込まれた。

「うわーーーー!まただーーー!また僕のせいでーーーー!」

 ゴホゴホっ、

 ?? 

「奈緒美さん!気がついたんですか?」

「なっ、何をしているんですか…?そうやって立ち尽くして…、ダっ、ダリロフにやられるのを…待っているだけですか…?そ、それともまた誰かが助けに来てくれると思っているんですか…?ゴホゴホっ…」

「もう喋らないで下さい。分かっています。分かっていますが、どうやったらいいのか解らないんです…」

「きっと、あなたは…いつもそうやって…逃げてきたんでしょうね…?」

「はい。その通りです…子供の頃から、何をやっても、全力を出すことをためらい…誰かが助けてくれることを願い、途中で投げ出してきました…」

「わかりました…ゴホゴホっ…そ、そうやって、いつまでも逃げ続けて下さい…」

 そう言うと奈緒美さんは、よろよろと立ち上がった。

「た、立ち上がるなんて無理です!早く逃げましょう!」

「わ、私は…最期まで戦います…上田さんは…に、逃げて下さい…」

「なぜそこまで??」

「あ、あなたには説明しても…り、理解できないでしょう…は、早く逃げて…」

 どうして?どうして皆、そんなにボロボロになってまで戦うんだ?ビーストなんて放っておけばいいよ…
 またか?また僕は逃げるのか?皆に助けてもらってばかりで、剛三さん、堤さん、飯見さん、大浦さん…、ダメだ!ダメだ!もう逃げる訳にはいかない!僕がやらないとダメなんだーーーーー!!!!

 ピカーー!!!!





 僕の全身が光に包まれた。
 その後のことはよく覚えていない。
 気がつくとダリロフの死骸が僕の脇に転がっていた。今まで味わったことのない、高揚感、全身にみなぎる力、どうやら僕はライギョマンに変身できたようだ?

「や、やれば、で、できるじゃないですか…」

「奈緒美さん!あなたのおかげです!あなたのボロボロになってまで戦う姿に心打たれた結果です!ありがとう!」

「お、お礼を言うのは、私の方です。父の敵を討ってくれてありがとう。」

 ニコっ。

 ホッ。よかった!やっと、奈緒美さんに笑顔が戻った!なんて、かわいいんだ!

「な、な、な、奈緒美さん?」

「なんですか?」

「あ、あのー…」

「ん?」

「ぜ、全部、終わったら…」

「終わったら??」

「ぼっ、ぼっ、ぼっ、僕とデートして下さい!」

 な、何を言っているんだ?僕は…

「いいですよ♪」

 え、え、え、えーーーーーー!!!

「ほんとですかーーーー!!!」

「はい♪でも、とりあえず私を病院に運んで下さいますか?」

 僕の中で燻っていたものが、全て解決できたような気がした。
 よし、待っていろ!天竜湖のビーストよ!

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