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第三章 商会を束ねる者

第四十五話 婚約者

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「なんとなく勘付いてはいたんだ。君が告げたクローネ金貨四十枚、近々入院したという事、そして大陸出身じゃ無い事も証明されたからね」

 商会の中、大きな建物の一階の廊下を歩く。

 お兄さんから装備の付け方を教えて貰って、今はお兄さんに案内されて二階へ向かう所だ。

「証明…ですか?」
「そう。ほら、これが私の名前だ」

 差し出された四角い紙には『ジュネ・モンタール』と書かれていた。

 …?

 思わず足を止めて首を傾げていると、お兄さんが見せてくれた名前の中間、黒い点を指差した。

 あぁ、そういえば僕の名前だと『=』を使うけど、お兄さんやギル兄、アリス姉さんの名前は全員『・』が使われてる!

「そういうことだったんですね!」
「はは、小さな点だけどね、小さな点だけに」
「……………?」
「俺が悪かったからそんな何を言っているのか分からないって顔をしないでくれ…!」

 そのまま歩き出そうと思ったけれど、誰かと一緒に歩く時は手を繋がなきゃいけない事を思い出して僕はお兄さんの手を取った。お兄さんも忘れてしまっていたから僕が気付けて良かった。危ない危ない。

 何故かお兄さんの脚が止まってしまったので、「忘れてましたよ、握りますね」と告げると、忘れていた事を指摘されたのが恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしていた。

 やっぱり大人の人でも忘れちゃう事はあるんだなぁ。

 そのまま手を繋いで商会の二階へ、お兄さんは一つの部屋の前で立ち止まると、僕との手を放して扉をノックした。
 どうやらここに、僕と関わりが在る人がいるらしい。

「要件は?」

 聞こえてきた声は少し変わったイントネーションだった。

「アル君ですよ、会長」
 
 その言葉には言葉では無く。何やら慌ただしい音が返って来た。そしてその後にようやく言葉。

「ほ、ほんまかいな!!は、はよう入り!」

 その言葉に頷いて、お兄さんは扉を開けた。

 豪華な装飾の目立つ室内、入って前方には先程僕とお兄さんが話をしていた商談スペースの様な物が置かれており、その奥に大きな机と大きな椅子、背にする形で大きな硝子窓が見えた。

 そしてその大きな椅子に、金色の髪をして、蒼い瞳で勝ち気に口元に笑みを作る女の人がいた。縦の線が入ったスーツを首元で蒼色のリボンで留めてあり、ベストを身に着けている。
 その人は椅子から立ち上がって黒いタイトスカートから伸びる脚を伸ばし、ハイヒールをカツカツと鳴らして僕に近付くと射抜く様な視線を僕に向けてきた。

 な、何か悪いことしたかな…。

 思わずお兄さんの腰に手を添えて、少し身を隠してしまった。

 お兄さんが凄く固くなっていた。

「あんたが…アル君?」
「…うー!」

 ツミレ先生直伝、歯をいーにして威嚇行動!

 怖い人から声を掛けられたらこれをしなさいって島を出る前に教えて貰った技だ!

 お隣のお姉さんに続いてコレを使うのは二人目だ!

「おいジュネ、なんやこの可愛い生物は、アル君は何処や…見ただけで鼻血出る位可愛いって言うのはガルディアさんの親バカちゃうんかったんか」
「どうやら事実を述べていたみたいですね…アル君、手を繋ぎますか?」

 何故かそう問い掛けられて、僕は今の不安を払拭する為にも誰かのぬくもりが欲しかった。

「うん!」

 お兄さんの手はギル兄と違って柔らかい。だけど、柔らかくない部分もある。

「お兄さんのって先っぽが固いね」
「「――――っ」」

 何故かお兄さんと怖い人が仰け反った。

 多分、お兄さんはお仕事で先っぽを良く使うんだろうな、だからこんなに固くなっちゃったんだ。

「お、おいジュネ、これはあかんで、ウチの精神が持ちそうにあらへん!!あんな十五歳反則や!十五ってもっとすさんどる物と違うんか!?」
「会長、俺もです!だからこの場は会長にお任せしますので失礼します!!」
「あぁ!!ジュネ!!」

 お兄さん…ジュネさんは僕の頭を二回ポンポンしてくれるとそのまま去って行った。

 うう…怖い人と部屋に二人。

「…ま、まずは、自己紹介から…やな、ああぁああぁああ!!」

 怖い人は僕がまだ胸元に手をやって怯えているからなのか、頭がガシガシと掻いて息を大きく吐いた。



「うしっ!よぉ来てくれたなアル君、ウチはカエラ・E・ヴェンディック!このカエラ商会の会長をやっとる者で…」



 何故か、顔を赤らめてもじもじ、もじもじ、指先もじもじ。

 そして何かを決意したように顔を上げて、僕に告げた。



「君の…こ、こん、婚約者や!!」



 その時、何処かから聞き覚えのある声で「えぇぇええぇえぇえ!?」と叫ぶ声が聞こえてきた。

 もしかしたら、僕の心の声を代弁してくれる誰かが居たのかもしれない。


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