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第二章 船上の証明

第二十一話 初めてを教えてくれる

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 二つのベッドに豪華なクローゼットにキャビネット、敷かれているカーペットは布目が粗い部分を見つける事が出来ない程に毛が整っている。
 天井からは光るキノコが生えていて、その周りをガラスのドームが覆っている。

 外は海、そのハズなのに波の音が聞こえない、防音もしっかりとされている事が分かる。
 お手洗いと簡易的な湯浴み場まで付いていて僕が今いる場所が何処なのかを忘れてしまいそうになる。

「こちらがギルバート様とアルノート様のお部屋になります」
 船の中、僕が想像していた以上に丁寧な案内の下で部屋まで到着した。

 木造の船、船員は皆どこかに装飾の付いた華美な服を着ている。
 ギル兄の話によると、この船は幾つかの島を巡回しながら大陸へと戻るお貴族様の商団船なのだという。

「このご時世、大陸外の物ってのは価値が高いからな、大陸の沿岸部に居を構えている貴族連中はこぞってこういう船を回してるぜ」

 お金の話は僕には難しいけれど、大陸外に邸を持つお貴族様は珍しくて内陸部に居るお貴族様達は珍しい物に一杯お金を払ってくれるとのことだ。

「クリッケに一週間いたのもこの部屋のチケットを確保する為でもあったからな、少し値は張ったがアルは初めての船旅だし奮発しても罰は当たらねぇだろ」

 なんでも二番目に良い部屋を取ってくれたとか、ギル兄はお金持ちなのかも…。

「ギル兄、何だか綺麗な格好をした人が多いけど、それはお貴族様の船だからなの?」
 疑問に思った事を尋ねてみたら、ギル兄は少し困った顔をして答えてくれた。

「あー、まぁ、頑張ってるやつらは船倉で働いてたり、漕ぎ手を担っていたりするから俺達が見る事は無いだろうな、下らない貴族のプライドみたいな物があってな、そういう奴等は傍目の触れない場所で働かせるんだよ」
「だったら、そういう人たちにも感謝しなくちゃね」
「そうだな」

 昔、ツミレ先生に教えてもらった事がある。

 料理を作る人に感謝をする事は勿論の事だけれど、その料理の材料を作ってくれた人にも感謝しなくちゃいけないって、だから、この船に乗せてくれたお貴族様に感謝する事は勿論、この船を動かしてくれている人たちにも感謝しなくちゃいけないよね。

「そういえばアル、お前って魔法は使えんのか?」
 椅子に深く腰掛けたギル兄は思い出したように尋ねてきた。

 魔法…試した事も無いや、前に読んだ本では、『生まれながらに才能を持たずとも努力によって魔道の道は開かれる』って書いてあったけど、僕は剣だけを頑張ってきたからなぁ。
「ううん、使えないよ」

「船の中じゃ剣の稽古をしようにも傷付けちまうかもしれないからなぁ…それなら一丁、魔法の稽古でもしてみるか!」

 僕が…魔法を…?
 ま、魔法…手から焔を出したり、誰かを癒したり、空を飛んだり…か、かっこいい!!

「やりたいやりたい!僕魔法使いたい!」
「はっはっは、よしよし、それならまずはこいつで…」

 ギル兄が宙に印を書いたと思えば、一枚の紙が現れて僕の胸元へと吸い込まれる様に近付いてきた。

「な、なにこれ!?」
「今のは俺が軍事教官をある国で勤めてる時に教えてもらった奴でな、『現界』って術だ…対象の物を引っ張り出す物なんだが、能力札を引き出してアルに貼りつけたんだ」
 は、はぇー、そんな術が…、あれ?術っていうことは魔法とはまた別の物っていう事なのかな?

「で、でもギル兄、僕トントルから旅立つ前に自分に能力札を使ったけど、魔法の能力は一つも無かったよ?」
「んぁ?いや、そうでも無いみたいだぞ…?」

 ギル兄は僕の胸元を見ながらそう言った。
 釣られて僕も見てみれば、能力札に僕の能力が映し出されていた。

『アルノート=ミュニャコス Lv 002
 固有能力 精と生の呪い 勇者の祝福
 能力   長剣術Stg.0  学習Stg.2 
      性技Stg.0   誘惑Stg.3
      炎魔法Stg.1 水魔法Stg.1
      雷魔法Stg.1 風魔法Stg.1
      土魔法Stg.1 光魔法Stg.1
      闇魔法Stg.1 影魔法Stg.1
      重力魔法Stg.2 空間魔法Stg.2
 称号   勇者     犯される者 
      譲り受けし者 千魔へ至る者
      旅立ちの徒  死神の弟子   』

 え…?
 ええぇぇえぇええぇ!?

「ぎ、ぎ、ギル、ギル兄!?ぼ、僕なんか、凄い事になってる!!」
「…ははーん、アル、トントルに誰かしらとんでもない奴がいたみたいだな、見てみろ、譲り受けし者って称号が付いてらぁ、誰かから能力を譲渡されたみたいだな」
「能力を…譲渡?」
「あぁ、世の中にはアルみたいに生まれながらに固有能力を持っている奴がいるんだが、固有能力の中でも結構有名な部類に当たる物で譲渡ってのがあってな、簡単に言えば能力を誰かに渡す事が出来ちまうんだ」

 だ、誰だろう…そんな凄い人がトントルに居たのか…。
 でも、僕に能力を譲渡してくれたっていうことは、その人が弱くなっちゃってるんじゃ…。

「譲渡には条件があってな、送り主と受け取り主の間に信頼関係が無ければ成り立たないんだが…ソイツは余程アルの事を大切に思ってくれていたんだろうな」
「僕を大事に…」

 誰から譲り受けたのかは分からないけれど、僕を想ってしてくれた事だっていうのは分かる。
 今更ありがとうと言いに帰る事も出来ないけれど、ただ、感謝しよう…僕に出来る事は、譲り受けた能力を有効に使えるよう頑張る事だ。

「にしても、千魔ねぇ…まさかとは思うが、いや、今はいいか、それよりも俺の弟子って称号が付いてるな、こいつは嬉しいぜ」
「えぇ!?死神ってギル兄の事なの!?黒断じゃないの!?どうして!?」

 確かに真っ黒な装いだけど…死神って聞くと悪いイメージが強くて…。

「あー、昔、戦場で鎌を持って戦っていたらな、周りの連中が死神だって言いだして、気が付いたら俺の称号に死神ってのが追加されてたんだよ、それ以来、俺の二つ名は死神さ」
「ギル兄…」

 何処か寂しげに吐き捨てたギル兄に、僕はなんと声を掛ければいいのか分からなくなった。
 ギル兄の過去を、僕は何も知らない、死神と呼ばれていた時、どんな戦い方をしていたのだろうか?

 …そうじゃないよね。

 確かに過去を知りたいとは思うけど、僕が知っているギル兄は優しくて強くて頼りになるお兄ちゃん、僕にとってのギル兄はそれでいい、それ以外のギル兄を知る事があっても、僕にとってのギル兄はそういうお兄ちゃんだ。

「それでも僕は、この称号を誇りに思うよ、ギル兄の歩んできた足跡が称号になって、それが僕にも引き継がれたんだもの、ギル兄との距離が少し近くなった気がして、嬉しいな」

 その言葉にギル兄は笑顔になると、優しく僕の頭を撫でてくれた。

「なら、俺も誇れる師匠にならなきゃな…よし、やるか!」
「うん!」

 船の中、暇な毎日なんて訪れやしない、ギル兄は僕にいつも新しい事を教えてくれる。色々な初めてをギル兄がくれるんだ。


☆ギルバートの散財

 アルの為に見栄を張って…金が無くなった―――。
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