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第一章 黄巾の乱
田豫、簡雍の決意
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どうやら田豫の看病をしていうちにいつの間にか眠っていたらしい。
目が覚めると幕舎には俺ひとりしかいなかった。
眠い目をこすりながら外に出ると、田豫はすでに武装して劉備のそばにいた。
「おはようございます、簡さん」
俺に気づいて挨拶する田豫だったが、表情はともかく顔色はよくなかった。
「夕べはご迷惑をおかけしました」
申し訳なさそうに、頭を下げる。
「いや。それより、いいのか?」
「ええ。簡さんのおかげで、ずいぶんよくなりました」
「そう言う意味じゃない」
体調のことはもちろん気になるが、それ以上に彼の身の振り方のほうが気になった。
「一度決めたことですから」
田豫はそう言って、儚げに笑った。
「そうか。よっちゃんがそれでいいなら、俺から言うことはないな」
「よっちゃんはやめてください。国譲ですよ」
そう抗議する田豫から、子供らしさが消えたような気がした。
「憲和は、どうするんだい?」
田豫のそばにいた、劉備が問いかけてきた。
夕べ、田豫の看病をしながら、随分と考えた。
一応俺の中で、答えは出たと思う。
「これから鄒校尉の所に顔を出すよ」
答えを聞いた劉備は少しだけ驚いた様子だったが、すぐに微笑んだ。
「そうか。なら、あとで頼み事をするかもしれない
劉備たちと別れた俺は、鄒靖のもとに向かった。
「おう、お前か」
どうやら俺の顔は覚えていてくれたようだ。
「鄒校尉にお願いがあってきました」
「なんだ?」
一度深呼吸し、鄒靖と向き合う。
「俺に、投石紐の使い方を教えてください」
結局俺は、直接人を斬ったり打ったりするのは無理だと思った。
訓練すればできるようになるのかもしれないが、そこまでしたいとはどうしても思えなかった。
だからといって、劉備のもとを離れる気にもならなかった。
その折衷案として、投石紐で劉備らを援護する、というのが俺の出した答えだった。
人を傷つけ、命を奪うことに変わりはない。
それでも、心にかかる負担はかなり違ってくるだろう。
卑怯者と呼ばれても仕方がないかもしれないが、少なくともこれがいまの俺に出せる精一杯の答えだった。
「おう、いいぜ」
鄒靖は快く俺の願いを聞いてくれた。
ある程度投石紐の扱いに慣れたところで、義勇軍から少しずつ俺の所に人が送られてきた。
戦いに倦みながらも、義勇軍を離脱できない、俺みたいな中途半端な連中に、投石紐の使い方を教えることになった。
気がつけば俺は、ちょっとした投石舞台を率いる隊長のような存在になっていた。
**********
その後も行軍は続いた。
もちろん戦闘も何度かあったが、ことごとく勝利した。
まぁ、敵といっても死にぞこないの農民がほとんどだからな。
劉備率いる義勇兵と官軍との関係は悪くなかった。
意外だったのは、田豫が鄒靖に懐いたことだ。
彼の故郷である幽州には、過去の移民政策によって移住した烏丸族が多く住んでおり、そのことで鄒靖と話が合ったのかもしれない。
なにせ鄒靖は烏丸や鮮卑といった、異民族に詳しいからな。
興味深そうに鄒靖の話を聞いている田豫は、年相応の少年に見えて、俺は少しだけ安心した。
ただ、田豫は日に日にやつれていった。
「ごめんささいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
ある夜、ふと目覚めた俺は、隣で小さく丸まった田豫がぶつぶつと呟いていることに気づいた。
「国譲……?」
「……あ、簡さん……起こしちゃいましたか」
隣でもぞもぞと動く音は聞こえるが、真っ暗なので表情などは見えない。
「もしかして、眠れないのか?」
「……はい」
どうやらこのところ彼はあまり眠れていないようだった。
それから注意深く田豫を観察したのが、どうやら食事もあまり取っていないらしいことがわかった。
「国譲、食わなきゃだめだぞ」
兵糧として分配される雑穀煮が主な食事なので、あまり美味いものじゃない。
しかし、食べないと身体は持たない。
いくら相手が弱くても、戦闘は激しく体力を消耗するのだ。
「僕みたいな者に、ご飯を食べる資格があるのでしょうか」
椀を手にした田豫は、虚ろな目を向けながらそう言った。
……まずいな。
「おう、どうした。悩み事か?」
投石紐の訓練をしているとき、ふと鄒靖が声をかけてきた。
心配が、顔に出いたらしい。
「友人が、心を病んでいるかもしれません」
俺は精神や心理の専門家でもなければ、そのあたりに豊富な知識があるわけでもない。
しかし、ブラック企業に勤めていると実際に心を病むやつを何人も見てきた。
これはあくまで私見だが、心を病むやつは、その前兆として眠れなくなることが多かった。
そして、自分を否定するようなことを言い出すと、かなりやばい、という印象だ。
そのあたりのことを、ざっくりと鄒靖に告げた。
「そうか、眠れんのか……それはキツいな」
別に解決を求めてのことじゃない。
半分以上愚痴みたいなもんだ。
「おい」
ふと、鄒靖が部下に声をかけた。
「先生を呼んでこい」
そして誰かを呼んでくるよう指示した。
目が覚めると幕舎には俺ひとりしかいなかった。
眠い目をこすりながら外に出ると、田豫はすでに武装して劉備のそばにいた。
「おはようございます、簡さん」
俺に気づいて挨拶する田豫だったが、表情はともかく顔色はよくなかった。
「夕べはご迷惑をおかけしました」
申し訳なさそうに、頭を下げる。
「いや。それより、いいのか?」
「ええ。簡さんのおかげで、ずいぶんよくなりました」
「そう言う意味じゃない」
体調のことはもちろん気になるが、それ以上に彼の身の振り方のほうが気になった。
「一度決めたことですから」
田豫はそう言って、儚げに笑った。
「そうか。よっちゃんがそれでいいなら、俺から言うことはないな」
「よっちゃんはやめてください。国譲ですよ」
そう抗議する田豫から、子供らしさが消えたような気がした。
「憲和は、どうするんだい?」
田豫のそばにいた、劉備が問いかけてきた。
夕べ、田豫の看病をしながら、随分と考えた。
一応俺の中で、答えは出たと思う。
「これから鄒校尉の所に顔を出すよ」
答えを聞いた劉備は少しだけ驚いた様子だったが、すぐに微笑んだ。
「そうか。なら、あとで頼み事をするかもしれない
劉備たちと別れた俺は、鄒靖のもとに向かった。
「おう、お前か」
どうやら俺の顔は覚えていてくれたようだ。
「鄒校尉にお願いがあってきました」
「なんだ?」
一度深呼吸し、鄒靖と向き合う。
「俺に、投石紐の使い方を教えてください」
結局俺は、直接人を斬ったり打ったりするのは無理だと思った。
訓練すればできるようになるのかもしれないが、そこまでしたいとはどうしても思えなかった。
だからといって、劉備のもとを離れる気にもならなかった。
その折衷案として、投石紐で劉備らを援護する、というのが俺の出した答えだった。
人を傷つけ、命を奪うことに変わりはない。
それでも、心にかかる負担はかなり違ってくるだろう。
卑怯者と呼ばれても仕方がないかもしれないが、少なくともこれがいまの俺に出せる精一杯の答えだった。
「おう、いいぜ」
鄒靖は快く俺の願いを聞いてくれた。
ある程度投石紐の扱いに慣れたところで、義勇軍から少しずつ俺の所に人が送られてきた。
戦いに倦みながらも、義勇軍を離脱できない、俺みたいな中途半端な連中に、投石紐の使い方を教えることになった。
気がつけば俺は、ちょっとした投石舞台を率いる隊長のような存在になっていた。
**********
その後も行軍は続いた。
もちろん戦闘も何度かあったが、ことごとく勝利した。
まぁ、敵といっても死にぞこないの農民がほとんどだからな。
劉備率いる義勇兵と官軍との関係は悪くなかった。
意外だったのは、田豫が鄒靖に懐いたことだ。
彼の故郷である幽州には、過去の移民政策によって移住した烏丸族が多く住んでおり、そのことで鄒靖と話が合ったのかもしれない。
なにせ鄒靖は烏丸や鮮卑といった、異民族に詳しいからな。
興味深そうに鄒靖の話を聞いている田豫は、年相応の少年に見えて、俺は少しだけ安心した。
ただ、田豫は日に日にやつれていった。
「ごめんささいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
ある夜、ふと目覚めた俺は、隣で小さく丸まった田豫がぶつぶつと呟いていることに気づいた。
「国譲……?」
「……あ、簡さん……起こしちゃいましたか」
隣でもぞもぞと動く音は聞こえるが、真っ暗なので表情などは見えない。
「もしかして、眠れないのか?」
「……はい」
どうやらこのところ彼はあまり眠れていないようだった。
それから注意深く田豫を観察したのが、どうやら食事もあまり取っていないらしいことがわかった。
「国譲、食わなきゃだめだぞ」
兵糧として分配される雑穀煮が主な食事なので、あまり美味いものじゃない。
しかし、食べないと身体は持たない。
いくら相手が弱くても、戦闘は激しく体力を消耗するのだ。
「僕みたいな者に、ご飯を食べる資格があるのでしょうか」
椀を手にした田豫は、虚ろな目を向けながらそう言った。
……まずいな。
「おう、どうした。悩み事か?」
投石紐の訓練をしているとき、ふと鄒靖が声をかけてきた。
心配が、顔に出いたらしい。
「友人が、心を病んでいるかもしれません」
俺は精神や心理の専門家でもなければ、そのあたりに豊富な知識があるわけでもない。
しかし、ブラック企業に勤めていると実際に心を病むやつを何人も見てきた。
これはあくまで私見だが、心を病むやつは、その前兆として眠れなくなることが多かった。
そして、自分を否定するようなことを言い出すと、かなりやばい、という印象だ。
そのあたりのことを、ざっくりと鄒靖に告げた。
「そうか、眠れんのか……それはキツいな」
別に解決を求めてのことじゃない。
半分以上愚痴みたいなもんだ。
「おい」
ふと、鄒靖が部下に声をかけた。
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