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第一章 黄巾の乱
義勇軍、出陣
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袁紹と曹操は、ざっくり言ってしまえば元ヤンだ。
若いころにやんちゃして、党錮の禁を食らって世間から避けられていたような文系のアウトローなんかと、好んで親睦を深めたりしていた。
なので、かなりの家柄に生まれ、そこそこの出世をしていながら、俺たちのような庶民に毛の生えたような義勇兵を相手に、侮るような態度を見せなかった。
対する劉備らだが、悪さ度合いは比べものにならないだろう。
旦那衆や塩賊との付き合いを考えれば、袁紹、曹操なんてかわいく見えたんじゃないかな。
そういう裏付けもあってか、いまや官軍内でも一目置かれるようになった、若手のホープである袁紹、曹操を前にして、劉備は一切怯むことなく堂々としていた。
「せっかくだ。お互いに情報を共有しようじゃないか」
そう提案した袁紹は、武勇伝を期待するように、キラキラとした目を劉備に向けた。
曹操のほうは一応すまし顔だったが、ちらちらと劉備を見る頻度が高くなり、興味があるのを隠せないでいた。
「そうですね。では若輩の私から、これまでの経緯を話させていただきます」
劉備は茶をひと口すすり、軽く喉を湿らせ、再び口を開いた。
「琢県を出発した我々は、近隣の義勇兵を統括している鄒校尉のもとを目指し、南へ進みました」
朗々と語り始めた劉備の言葉を聞きながら、俺もこれまでの経緯を振り返った。
**********
劉備の故郷である楼桑村を出た俺たち義勇軍は、南へ進み、冀州に近いところで、官軍校尉の鄒靖と合流した。
校尉ってのは中隊長みたいなもんだと思ってくれ。
「おう、よくきたな。もう何日か待ったら出発するから、それまでゆっくりしてくれ」
俺たちを迎えた鄒靖という人は、なんとも厳ついおっさんだった。
古今東西ゲームのおかげで、名前だけは知っているという程度の人だ。
彼が率いる官軍は五百。
それに義勇兵を加えて千を超えたところで、出発するということだった。
「なんだか、妙な雰囲気ですね……」
陣地内を歩きながら、田豫が不安げに呟く。
確かに彼の言うとおり、変な空気だった。
「義勇兵の士気ははそこそこ高そうですけど、官軍のみなさんに元気がないというか」
この陣には、俺たちに先んじてすでに二百名ほどの義勇兵が集まっていた。
その義勇兵は、酒を飲んだり抱負を語り合ったりと、結構賑やかなんだが、官軍のほうは通夜のように静まりかえっていた。
「潁川郡で官軍が敗走!? 本当ですか!!」
翌日、豫州潁川郡で十万の黄巾軍と対峙していた朱儁が敗走したことを、鄒靖から伝えられた劉備は、驚きの声を上げた。
どうやらこの情報を得たのは、官軍のほうが早かったらしい。
ただ、この報が入ったのは今朝のことなので、官軍の雰囲気が暗いのとは関係がないみたいだ。
「そういうわけだから、鉅鹿のほうは膠着状態が続いて当分動きはないようだし、俺らはとりあえず南へ行く」
ひとまず豫州を目指して南下し、そのときの状況次第で臨機応変に対応する。
距離的には盧植と張角がにらみ合ってる、冀州|鉅鹿郡《きょろくぐんに行くだろうと予想していた劉備は、恩師に会えなくなったことを少し残念に思っているようだった。
それからさらに2日がたち、義勇兵が五百を超え、官軍とあわせて千名に達したところで、出発となった。
義勇兵の中で最大の集団は、俺たちだった。
俺ら以外で数が多いのは、おそらくどこぞの旦那衆が送り込んだであろう30~50の集団がふたつみっつ、あとは5~10名の有志が集まっている、という感じかな。
集まった義勇兵は官軍主導で再編成された。
再編成と言っても、少人数の集団をまとめるというのが主な作業だったので、劉備率いる俺たちの軍に、なにかしら手を入れられることはなかった。
「ようし野郎ども、出発だ」
鄒靖の野太い号令で、出発となった。
よく通る大きな声だったが、どこか陰りがあるように感じられた。
ザッザッという足音に、ガラガラと車輪の回る音が混じる。
この軍で、馬に乗っているのは50名に満たないだろうか。
ほぼ全員が徒歩なので、馬の足音は完全にかき消されてしまうのだが、荷車の数が多いので、車輪が立てる音は結構響いた。
荷車のほとんどは、人が引いていた。
軍である以上、兵糧を始めとする物資は多く必要になる。
しかしその物資に交じって、石が山積みにされた荷車が、各所に目立った。
「しかし、到着するなり石投げの練習をさせられるとは思いませんでした」
田豫は、少しうんざりしたように言った。
荷車に積まれているのは投石用の石で、到着早々に遠投のレクチャーが始まったのだ。
また、空いた時間には手頃な大きさの石を拾いにいかされ、荷車に載せた物以外に、各人2~3個を持っていた。
「いやいや、投石を甘く見ちゃ行かんぞ? なにせ人類最古の遠距離攻撃だからな」
「原始的過ぎやしませんか?」
「だからこそ、だれにでも扱える、とも言えるな。まぁ、最初にひと当てして、そこから戦闘に入るんだろうけど、投石でちょっとでも数を減らせればあとが楽だろう?」
「それはそうですけど……」
「はっはっは。戦はきれいごとだけじゃ勝てないんだよ。よっちゃんにはまだわからんかもしれんけど」
「わ、わかってますよ!」
田豫をからかい、気を紛らわせてはいたが、いつ敵が現れるのかと、俺は内心ドキドキしていた。
「前方に敵! 数、およそ三百!!」
そしてついに、俺たち義勇軍は最初の敵に遭遇した。
若いころにやんちゃして、党錮の禁を食らって世間から避けられていたような文系のアウトローなんかと、好んで親睦を深めたりしていた。
なので、かなりの家柄に生まれ、そこそこの出世をしていながら、俺たちのような庶民に毛の生えたような義勇兵を相手に、侮るような態度を見せなかった。
対する劉備らだが、悪さ度合いは比べものにならないだろう。
旦那衆や塩賊との付き合いを考えれば、袁紹、曹操なんてかわいく見えたんじゃないかな。
そういう裏付けもあってか、いまや官軍内でも一目置かれるようになった、若手のホープである袁紹、曹操を前にして、劉備は一切怯むことなく堂々としていた。
「せっかくだ。お互いに情報を共有しようじゃないか」
そう提案した袁紹は、武勇伝を期待するように、キラキラとした目を劉備に向けた。
曹操のほうは一応すまし顔だったが、ちらちらと劉備を見る頻度が高くなり、興味があるのを隠せないでいた。
「そうですね。では若輩の私から、これまでの経緯を話させていただきます」
劉備は茶をひと口すすり、軽く喉を湿らせ、再び口を開いた。
「琢県を出発した我々は、近隣の義勇兵を統括している鄒校尉のもとを目指し、南へ進みました」
朗々と語り始めた劉備の言葉を聞きながら、俺もこれまでの経緯を振り返った。
**********
劉備の故郷である楼桑村を出た俺たち義勇軍は、南へ進み、冀州に近いところで、官軍校尉の鄒靖と合流した。
校尉ってのは中隊長みたいなもんだと思ってくれ。
「おう、よくきたな。もう何日か待ったら出発するから、それまでゆっくりしてくれ」
俺たちを迎えた鄒靖という人は、なんとも厳ついおっさんだった。
古今東西ゲームのおかげで、名前だけは知っているという程度の人だ。
彼が率いる官軍は五百。
それに義勇兵を加えて千を超えたところで、出発するということだった。
「なんだか、妙な雰囲気ですね……」
陣地内を歩きながら、田豫が不安げに呟く。
確かに彼の言うとおり、変な空気だった。
「義勇兵の士気ははそこそこ高そうですけど、官軍のみなさんに元気がないというか」
この陣には、俺たちに先んじてすでに二百名ほどの義勇兵が集まっていた。
その義勇兵は、酒を飲んだり抱負を語り合ったりと、結構賑やかなんだが、官軍のほうは通夜のように静まりかえっていた。
「潁川郡で官軍が敗走!? 本当ですか!!」
翌日、豫州潁川郡で十万の黄巾軍と対峙していた朱儁が敗走したことを、鄒靖から伝えられた劉備は、驚きの声を上げた。
どうやらこの情報を得たのは、官軍のほうが早かったらしい。
ただ、この報が入ったのは今朝のことなので、官軍の雰囲気が暗いのとは関係がないみたいだ。
「そういうわけだから、鉅鹿のほうは膠着状態が続いて当分動きはないようだし、俺らはとりあえず南へ行く」
ひとまず豫州を目指して南下し、そのときの状況次第で臨機応変に対応する。
距離的には盧植と張角がにらみ合ってる、冀州|鉅鹿郡《きょろくぐんに行くだろうと予想していた劉備は、恩師に会えなくなったことを少し残念に思っているようだった。
それからさらに2日がたち、義勇兵が五百を超え、官軍とあわせて千名に達したところで、出発となった。
義勇兵の中で最大の集団は、俺たちだった。
俺ら以外で数が多いのは、おそらくどこぞの旦那衆が送り込んだであろう30~50の集団がふたつみっつ、あとは5~10名の有志が集まっている、という感じかな。
集まった義勇兵は官軍主導で再編成された。
再編成と言っても、少人数の集団をまとめるというのが主な作業だったので、劉備率いる俺たちの軍に、なにかしら手を入れられることはなかった。
「ようし野郎ども、出発だ」
鄒靖の野太い号令で、出発となった。
よく通る大きな声だったが、どこか陰りがあるように感じられた。
ザッザッという足音に、ガラガラと車輪の回る音が混じる。
この軍で、馬に乗っているのは50名に満たないだろうか。
ほぼ全員が徒歩なので、馬の足音は完全にかき消されてしまうのだが、荷車の数が多いので、車輪が立てる音は結構響いた。
荷車のほとんどは、人が引いていた。
軍である以上、兵糧を始めとする物資は多く必要になる。
しかしその物資に交じって、石が山積みにされた荷車が、各所に目立った。
「しかし、到着するなり石投げの練習をさせられるとは思いませんでした」
田豫は、少しうんざりしたように言った。
荷車に積まれているのは投石用の石で、到着早々に遠投のレクチャーが始まったのだ。
また、空いた時間には手頃な大きさの石を拾いにいかされ、荷車に載せた物以外に、各人2~3個を持っていた。
「いやいや、投石を甘く見ちゃ行かんぞ? なにせ人類最古の遠距離攻撃だからな」
「原始的過ぎやしませんか?」
「だからこそ、だれにでも扱える、とも言えるな。まぁ、最初にひと当てして、そこから戦闘に入るんだろうけど、投石でちょっとでも数を減らせればあとが楽だろう?」
「それはそうですけど……」
「はっはっは。戦はきれいごとだけじゃ勝てないんだよ。よっちゃんにはまだわからんかもしれんけど」
「わ、わかってますよ!」
田豫をからかい、気を紛らわせてはいたが、いつ敵が現れるのかと、俺は内心ドキドキしていた。
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