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第1章
30話 ふたりの意志
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活動報告と納品、そしてランクアップ手続きを終えるころには、すっかり夜もふけてしまった。
ケントとルーシーは人の少なくなった通りを並んで歩いている。
行き交う人がほとんどいないのにあまり寂しさを感じさせないのは、あちこちにある酒場から賑やかな声が漏れ聞こえるせいだろう。
どうやら冒険者たちにとって、夜はまだ始まったばかりのようだった。
「ねぇ、ケント」
「なに?」
「これからどうする?」
隣を歩くルーシーが、軽くしなだれかかりながら尋ねてくる。
かなりの量の酒を飲んでいるが、足取りはしっかりしていた。
それでも、表情や口調はいつもより緩く感じられるので、ほろ酔い程度ではあるのだろう。
ケントも、似たようなものだった。
「どうするって、宿に帰るんだろう?」
「うん、普段なら、それでいいんだけどさ。今日は部屋を変わる予定じゃない?」
「ああ、そういえば」
別棟のふたり部屋へ移るよう、今朝女将に言われていたことを思い出す。
「それが、なにか問題でも?」
「えっとね、この時間だと、たぶん手続きはできないのよ」
「……なるほど」
現在泊まっている宿は、いつ帰っても自分の部屋には入れる仕様になっている。
だが、チェックインの手続きなどは、少し早い時間に終わってしまうのだ。
「でも、元の部屋には入れるよな?」
「それは、そうなんだけどさ。いまの部屋は、ほら……」
ルーシーが小さくうつむき、口ごもる。
「ああ、うん。そっか」
彼女の意図を察したケントは、自分の顔が熱くなっているのに気づいた。
暗いのでそのことを悟られないのは、少しありがたい。
「それでね、ランクアップのお祝いに、ちょっといいとこに泊まるのは、どうかなって」
「えっと、いいんじゃないかな」
今日一日でかなりの稼ぎがあった。
ランクアップしたいま、さらに稼ぎは増えるだろう。
なら、今夜くらいは贅沢をしてもいいはずだ。
ケントはそう思い、ルーシーの提案に同意した。
「じゃあね、実は泊まってみたい宿があるから、そこにいってもいい?」
「もちろん」
○●○●
目当ての宿に着いたふたりは、無事チェックインを住ませた。
ここは普段ルーシーらが使っている長期滞在の宿と異なり、短期宿泊がメインとなっている。
そういう宿は、遅くまでフロントが開いているらしい。
「わっ、広いね。それにすごくきれい」
部屋に入るなり、ルーシーが感心したように言った。
広さはケントが泊まっている部屋の倍以上はあるだろうか。
ベッドもかなり大きく、3人くらいは並んで寝られそうだ。
それ以外に、座り心地のよさそうな革張りのソファや、それに見合うどっしりとしたローテーブルがある。
その上には、ワインボトルとグラスがふたつ、置かれていた。
「すごい、ちゃんと用意してくれたのね」
宿の1階にバーがあったので、せっくだから美味いワインを飲もうということになった。
部屋に持ち込めるかをフロントで聞いたところ、用意しておくと言われたので、おすすめを頼んでおいたのだ。
「見て、すごい! 部屋にお風呂があるわよ!!」
少し広いバスルームを見て、ルーシーがはしゃいでいた。
これとは別に、各フロアにある浄化施設も使っていいそうだ。
「あたし、こんな豪華な部屋に泊まるの、はじめてよ」
嬉しそうなルーシーを見るケントは、少し複雑な心境だった。
この宿はふたりで一泊3万シクロ。
決して安くはないが、豪華と言うにはほど遠い。
ケントの感覚でいうと、ちょっといいビジネスホテル、くらいの感覚だ。
そんな部屋を見てルーシーがこうもはしゃぐ姿に、ケントは彼女のこれまでの苦労を垣間見た気がした。
幼くして両親と育ての親たる祖父を失い、児童養護施設で育った彼女は、そのあいだ贅沢らしい贅沢はできなかっただろう。
施設を出てからも、養育費の返済があった。
能力値が上がらず、ランクアップによる返済免除を諦めざるを得なかった彼女は、金銭面でどれほどの苦労をしたのだろうか。
ドロップ運が高いおかげで、貧しい思いはせずに済んだようだが、逆に贅沢をできるほどの余裕もなかったに違いない。
「気に入ったんなら、たまにこようか」
室内を物珍しそうに見たり、調度品にふれたりする彼女に、ケントはそう告げた。
Cランクへの道が開けた以上、これまでのように返済に勤しむ必要はない。
そもそも、ギルド側も返済など求めていないような制度なのだ。
なら、今後は多少の贅沢も、許されるだろう。
「うん、そうね」
ケントの意図を察したのか、ルーシーはそう言って微笑んだ。
○●○●
装備をといたふたりは、ソファに並んで腰掛け、ワインを満たしたグラスを掲げた。
「それじゃ、ランクアップに」
「乾杯!」
赤ワインに口をつけると、ふたりそろって目を見開く。
「美味いな」
「ほんと、美味しいわね」
もしかしてワインのまずい世界じゃないかと、実は不安に思っていたケントだったが、どうやらギルドで出されたものがひどいだけだとわかった。
「さて……」
1杯を飲み終えるまで軽く談笑したところで、ケントが表情をあらためた。
「ルーシーに、話しておかなくちゃいけないことがある」
その言葉に、ルーシーの表情がかすかにこわばる。
「あそこで……森の奥で、起こったこと?」
「ああ、そうだ」
森の奥には、ケントだけが入れる広場があった。
ルーシーからすれば、ケントの姿が突然消えたようにしか見えなかった、あの場所だ。
そのうえ加護板からもケントの反応が消えたため、彼女は取り乱してしまい、戻ったあとも何があったのかを詳しく話していなかった。
お互い、なんとなく避けていたのだ。
だがケントとしては、ここをうやむやにしておくわけにはいかなかった。
「俺が異世界から来たって話は、したよな?」
「ええ。聞いたわ」
「俺はあのとき、元の世界……俺の故郷がある場所に帰っていたんだ」
「そっか……」
彼女はそのことをなんとなく予想していたのか、あまり驚きを見せなかった。
だが、グラスを持つ手は少し震えていた。
それからケントは、あのときあったことをルーシーに話して聞かせた。
マスケット銃がトリガーになって世界間を行き来できること。
それぞれの世界のものは他の世界に持ち込めないこと。
ただし、アイテムボックスに入れていれば持ち込めること。
そしておそらく、自分以外は行き来ができないこと。
「それで、ケントはどうするの? 帰っちゃうの……?」
その問いかけに、ケントは小さく首を横に振る。
「今日ギルドで言ったことは、俺の本心だ。そこに嘘はないと、先に言っておくよ」
ケントはルーシーを不安にさせないため、まずはそう告げた。
それを聞いて、ルーシーはほっと胸を撫で下ろす。
「最初は、帰れないと思ったんだ。ここで生きていくしかないと、覚悟を決めていた。だから、君にはすべてを話したうえで、その……抱いた」
「うん」
初めてのときを思い出したのか、ルーシーは少しはにかみながら、頷いた。
「でも今日、帰れるとわかった。そうなると、俺はこっちで暮らす必要がなくなるんだ」
加護があり、魔物と戦うという非日常は、ケントにとって刺激的なことだった。
だが、それは死と隣り合わせのものだ。
命の危険をおかしてまで、この世界にいる意味はない。
元の世界に帰れるなら、さっさと帰って安全な暮らしをしたほうがいいに決まっているのだ。
「でも、この世界にはルーシーがいる」
だがケントは、この世界でルーシーに出会ってしまった。
そして彼女を、愛おしいと思ってしまった。
この世界で暮らさなくてはならないのなら、パートナーはいたほうがいい。
そんな打算的な思いが、なかったとは言い切れない。
「ルーシーがいるなら、俺はこれからもこの世界で、君と過ごしたいと思っている」
ケントはそう言うと、隣に座るルーシーの手を取った。
元の世界へ帰れると知った彼は、打算抜きで彼女とともに過ごしたいと思う自身の心に気づいた。
「だからさっき、ギルドでも言ったけど、俺は君を離したくない」
そう言って、彼女の手を強く握った。
「あたしも、ケントと離れたくない。離れるなんて、いやよ」
彼女のほうにも恩恵絡みで打算的なところがなかったとは言えなかった。
「バルガスさんたちと話して、あらためて思ったの。ケントじゃなきゃ、やだって」
Bランク冒険者とともに行動し、ダンジョンに潜れば、あるいは養育費の返済も可能かもしれない。
彼らの実力とルーシーのドロップ運があれば、本当に不可能ではないのだ。
自由の身になりさえすれば、冒険者としてランクアップにこだわる必要もなかった。
バルガスたちの引退に合わせて、自分もこの町で準職員として新人の育成をしつつ、のんびり暮らすという人生も悪くないだろう。
もしケントに出会っていなければ、そんな人生があったのかもしれない。
だがルーシーは、ケントに出会ってしまった。
そして、彼と離れたくないと思った。
「ケント……あたしのこと、離さないでね」
「ああ、離すもんか」
そしてふたりは手を取り合ったまま、どちらからともなく身を寄せ合い、やがて唇を重ねた。
「あむ……ん……ちゅる……れろ……」
互いを求めるように、舌を絡め合う。
口の中には、ワインの味が微かに残っていた。
「れろぉ……ちゅぷ……んはぁっ……ふふっ」
しばらくキスを続けたあと、顔を離したルーシーが、不意に笑う。
「どうした?」
「ううん、ちょっと、汗くさいなって」
「あっ」
気まずそうな声を上げたケントは、慌てて自分の身体に顔を近づけ、鼻を鳴らす。
「気にしなくていいわよ、お互い様だもの」
丸一日草原や森を歩き回って戦闘を繰り返したうえ、セックスまでしたのだ。
におうのは、仕方のないことだった。
「それじゃ、浄化施設に……」
「それもいいけど」
ケントの言葉を途中で遮ったルーシーは、部屋の一角を一瞥し、すぐに視線を戻す。
「せっかくだから、お風呂に入らない?」
――――――――――
すみません、ストックが完全に切れたうえに今週いろいろと立て込んでいるので、少し更新を休ませていただきます。
今月中に第1章(たぶんあと5~6話、多くても10話以内)は終えられるよう調整したいと思います。
ケントとルーシーは人の少なくなった通りを並んで歩いている。
行き交う人がほとんどいないのにあまり寂しさを感じさせないのは、あちこちにある酒場から賑やかな声が漏れ聞こえるせいだろう。
どうやら冒険者たちにとって、夜はまだ始まったばかりのようだった。
「ねぇ、ケント」
「なに?」
「これからどうする?」
隣を歩くルーシーが、軽くしなだれかかりながら尋ねてくる。
かなりの量の酒を飲んでいるが、足取りはしっかりしていた。
それでも、表情や口調はいつもより緩く感じられるので、ほろ酔い程度ではあるのだろう。
ケントも、似たようなものだった。
「どうするって、宿に帰るんだろう?」
「うん、普段なら、それでいいんだけどさ。今日は部屋を変わる予定じゃない?」
「ああ、そういえば」
別棟のふたり部屋へ移るよう、今朝女将に言われていたことを思い出す。
「それが、なにか問題でも?」
「えっとね、この時間だと、たぶん手続きはできないのよ」
「……なるほど」
現在泊まっている宿は、いつ帰っても自分の部屋には入れる仕様になっている。
だが、チェックインの手続きなどは、少し早い時間に終わってしまうのだ。
「でも、元の部屋には入れるよな?」
「それは、そうなんだけどさ。いまの部屋は、ほら……」
ルーシーが小さくうつむき、口ごもる。
「ああ、うん。そっか」
彼女の意図を察したケントは、自分の顔が熱くなっているのに気づいた。
暗いのでそのことを悟られないのは、少しありがたい。
「それでね、ランクアップのお祝いに、ちょっといいとこに泊まるのは、どうかなって」
「えっと、いいんじゃないかな」
今日一日でかなりの稼ぎがあった。
ランクアップしたいま、さらに稼ぎは増えるだろう。
なら、今夜くらいは贅沢をしてもいいはずだ。
ケントはそう思い、ルーシーの提案に同意した。
「じゃあね、実は泊まってみたい宿があるから、そこにいってもいい?」
「もちろん」
○●○●
目当ての宿に着いたふたりは、無事チェックインを住ませた。
ここは普段ルーシーらが使っている長期滞在の宿と異なり、短期宿泊がメインとなっている。
そういう宿は、遅くまでフロントが開いているらしい。
「わっ、広いね。それにすごくきれい」
部屋に入るなり、ルーシーが感心したように言った。
広さはケントが泊まっている部屋の倍以上はあるだろうか。
ベッドもかなり大きく、3人くらいは並んで寝られそうだ。
それ以外に、座り心地のよさそうな革張りのソファや、それに見合うどっしりとしたローテーブルがある。
その上には、ワインボトルとグラスがふたつ、置かれていた。
「すごい、ちゃんと用意してくれたのね」
宿の1階にバーがあったので、せっくだから美味いワインを飲もうということになった。
部屋に持ち込めるかをフロントで聞いたところ、用意しておくと言われたので、おすすめを頼んでおいたのだ。
「見て、すごい! 部屋にお風呂があるわよ!!」
少し広いバスルームを見て、ルーシーがはしゃいでいた。
これとは別に、各フロアにある浄化施設も使っていいそうだ。
「あたし、こんな豪華な部屋に泊まるの、はじめてよ」
嬉しそうなルーシーを見るケントは、少し複雑な心境だった。
この宿はふたりで一泊3万シクロ。
決して安くはないが、豪華と言うにはほど遠い。
ケントの感覚でいうと、ちょっといいビジネスホテル、くらいの感覚だ。
そんな部屋を見てルーシーがこうもはしゃぐ姿に、ケントは彼女のこれまでの苦労を垣間見た気がした。
幼くして両親と育ての親たる祖父を失い、児童養護施設で育った彼女は、そのあいだ贅沢らしい贅沢はできなかっただろう。
施設を出てからも、養育費の返済があった。
能力値が上がらず、ランクアップによる返済免除を諦めざるを得なかった彼女は、金銭面でどれほどの苦労をしたのだろうか。
ドロップ運が高いおかげで、貧しい思いはせずに済んだようだが、逆に贅沢をできるほどの余裕もなかったに違いない。
「気に入ったんなら、たまにこようか」
室内を物珍しそうに見たり、調度品にふれたりする彼女に、ケントはそう告げた。
Cランクへの道が開けた以上、これまでのように返済に勤しむ必要はない。
そもそも、ギルド側も返済など求めていないような制度なのだ。
なら、今後は多少の贅沢も、許されるだろう。
「うん、そうね」
ケントの意図を察したのか、ルーシーはそう言って微笑んだ。
○●○●
装備をといたふたりは、ソファに並んで腰掛け、ワインを満たしたグラスを掲げた。
「それじゃ、ランクアップに」
「乾杯!」
赤ワインに口をつけると、ふたりそろって目を見開く。
「美味いな」
「ほんと、美味しいわね」
もしかしてワインのまずい世界じゃないかと、実は不安に思っていたケントだったが、どうやらギルドで出されたものがひどいだけだとわかった。
「さて……」
1杯を飲み終えるまで軽く談笑したところで、ケントが表情をあらためた。
「ルーシーに、話しておかなくちゃいけないことがある」
その言葉に、ルーシーの表情がかすかにこわばる。
「あそこで……森の奥で、起こったこと?」
「ああ、そうだ」
森の奥には、ケントだけが入れる広場があった。
ルーシーからすれば、ケントの姿が突然消えたようにしか見えなかった、あの場所だ。
そのうえ加護板からもケントの反応が消えたため、彼女は取り乱してしまい、戻ったあとも何があったのかを詳しく話していなかった。
お互い、なんとなく避けていたのだ。
だがケントとしては、ここをうやむやにしておくわけにはいかなかった。
「俺が異世界から来たって話は、したよな?」
「ええ。聞いたわ」
「俺はあのとき、元の世界……俺の故郷がある場所に帰っていたんだ」
「そっか……」
彼女はそのことをなんとなく予想していたのか、あまり驚きを見せなかった。
だが、グラスを持つ手は少し震えていた。
それからケントは、あのときあったことをルーシーに話して聞かせた。
マスケット銃がトリガーになって世界間を行き来できること。
それぞれの世界のものは他の世界に持ち込めないこと。
ただし、アイテムボックスに入れていれば持ち込めること。
そしておそらく、自分以外は行き来ができないこと。
「それで、ケントはどうするの? 帰っちゃうの……?」
その問いかけに、ケントは小さく首を横に振る。
「今日ギルドで言ったことは、俺の本心だ。そこに嘘はないと、先に言っておくよ」
ケントはルーシーを不安にさせないため、まずはそう告げた。
それを聞いて、ルーシーはほっと胸を撫で下ろす。
「最初は、帰れないと思ったんだ。ここで生きていくしかないと、覚悟を決めていた。だから、君にはすべてを話したうえで、その……抱いた」
「うん」
初めてのときを思い出したのか、ルーシーは少しはにかみながら、頷いた。
「でも今日、帰れるとわかった。そうなると、俺はこっちで暮らす必要がなくなるんだ」
加護があり、魔物と戦うという非日常は、ケントにとって刺激的なことだった。
だが、それは死と隣り合わせのものだ。
命の危険をおかしてまで、この世界にいる意味はない。
元の世界に帰れるなら、さっさと帰って安全な暮らしをしたほうがいいに決まっているのだ。
「でも、この世界にはルーシーがいる」
だがケントは、この世界でルーシーに出会ってしまった。
そして彼女を、愛おしいと思ってしまった。
この世界で暮らさなくてはならないのなら、パートナーはいたほうがいい。
そんな打算的な思いが、なかったとは言い切れない。
「ルーシーがいるなら、俺はこれからもこの世界で、君と過ごしたいと思っている」
ケントはそう言うと、隣に座るルーシーの手を取った。
元の世界へ帰れると知った彼は、打算抜きで彼女とともに過ごしたいと思う自身の心に気づいた。
「だからさっき、ギルドでも言ったけど、俺は君を離したくない」
そう言って、彼女の手を強く握った。
「あたしも、ケントと離れたくない。離れるなんて、いやよ」
彼女のほうにも恩恵絡みで打算的なところがなかったとは言えなかった。
「バルガスさんたちと話して、あらためて思ったの。ケントじゃなきゃ、やだって」
Bランク冒険者とともに行動し、ダンジョンに潜れば、あるいは養育費の返済も可能かもしれない。
彼らの実力とルーシーのドロップ運があれば、本当に不可能ではないのだ。
自由の身になりさえすれば、冒険者としてランクアップにこだわる必要もなかった。
バルガスたちの引退に合わせて、自分もこの町で準職員として新人の育成をしつつ、のんびり暮らすという人生も悪くないだろう。
もしケントに出会っていなければ、そんな人生があったのかもしれない。
だがルーシーは、ケントに出会ってしまった。
そして、彼と離れたくないと思った。
「ケント……あたしのこと、離さないでね」
「ああ、離すもんか」
そしてふたりは手を取り合ったまま、どちらからともなく身を寄せ合い、やがて唇を重ねた。
「あむ……ん……ちゅる……れろ……」
互いを求めるように、舌を絡め合う。
口の中には、ワインの味が微かに残っていた。
「れろぉ……ちゅぷ……んはぁっ……ふふっ」
しばらくキスを続けたあと、顔を離したルーシーが、不意に笑う。
「どうした?」
「ううん、ちょっと、汗くさいなって」
「あっ」
気まずそうな声を上げたケントは、慌てて自分の身体に顔を近づけ、鼻を鳴らす。
「気にしなくていいわよ、お互い様だもの」
丸一日草原や森を歩き回って戦闘を繰り返したうえ、セックスまでしたのだ。
におうのは、仕方のないことだった。
「それじゃ、浄化施設に……」
「それもいいけど」
ケントの言葉を途中で遮ったルーシーは、部屋の一角を一瞥し、すぐに視線を戻す。
「せっかくだから、お風呂に入らない?」
――――――――――
すみません、ストックが完全に切れたうえに今週いろいろと立て込んでいるので、少し更新を休ませていただきます。
今月中に第1章(たぶんあと5~6話、多くても10話以内)は終えられるよう調整したいと思います。
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