聖弾の射手~会社が潰れて実家に帰ったら異世界へ行けるようになったのでクールビューティ-&黒猫娘を相手に二重生活を楽しみます~

平尾正和/ほーち

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第1章

21話 謎の広場

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 光点で示された場所を目指すことにしたふたりは、周囲を警戒しつつその場で休憩した。

「サンドウィッチ食べる?」
「ああ、もらうよ」

 これは今朝町を出る前に、ルーシーが買ってアイテムボックスに収納していたものだ。

 町にいくつかある門の近くには、旅人や冒険者を相手にする露天が朝早くから並んでいる。
 そこで手軽に食べられるものを買う冒険者は多い。

「はい、お水」
「ありがとう」

 水もルーシーが持っていたものだ。
 防災バッグのものは補充ができないので、極力使わないようにしていた。

「明日からは自分のぶんくらいは持つようにするよ」
「そうね。それくらいの余裕はできてそうね」

 今朝はまだレベル1でアイテムスロットも1しかなかったケントだが、いまはレベル6になっている。
 ドロップアイテムを収納しつつ、まだ少し余裕があった。

「それじゃ、そろそろいこっか」

 食事を終えたころには、ケントのMPも8割がた回復していた。

「せっかくだからあたしのと見比べながら、歩いてみよっか」
「それ、おもしろそうだな」

 主にルーシーが周囲を警戒しながら、ふたりは互いの〈マップ〉を表示したまま森を進む。

「あら、道が塞がれてるわね」

 獣道を進んでいたふたりを、倒木が遮った。
 かなりの巨木で、向こうが見えない。

「あれ? ルーシー、道が……」

 ルーシーの加護板をのぞき込むと、先ほどまで〈マップ〉に表示されていた道の先が消えた。

「こういう変化があると、情報が更新されるのよ」
「なるほど」
「さて、この先だけど……」

 ひょいひょいと倒木を上ったルーシーが、先を確認する。

「この木さえ越えたら進めるわね」
「わかった」

 ケントも危なげなく倒木に上り、反対側へ下りる。
 加護のおかげで、身体能力が上がっていることを、改めて実感できた。

「ほら、また更新されたわよ」

 見せてもらったルーシーの加護板だが、先ほどまで消えていた道の先が再び現れた。
 倒木のところだけ、途切れているような表示だ。

 対してケントの〈マップ〉は、現在位置から見える範囲より先の道は表示されていなかった。
 歩き始めると、少しずつ道の表示がのびていく。
 オートマッピング機能付きのゲームをやっているような感覚だ。

「こうやって〈マップ〉が更新されていくの、ちょっと楽しいな」
「そうね。マップを広げるのも、冒険者の醍醐味のひとつかもね」

 そう言ったルーシーは、少し寂しげな表情だった。
 彼女がここ十数年のあいだ、エデの町近郊から外へあまり出られていないことを、ケントは思い出す。

「これから、どんどん広げていこうな」
「そうね、楽しみにしておくわ」

 ルーシーのレベルが上がり、【SP】を獲得できれば、Cランク到達の道が開けるかもしれない。
 もし実現すれば彼女は晴れて自由の身となり、好きに旅をできるのだ。

 そんな未来を思い描きつつ、ふたりはさらに森を進む。

 道が少しずつ細くなり、木々や枝葉などの障害物も増え始めた。
 そして森に入って2時間ほど経ったころ、完全に道はなくなった。

「〈マップ〉がないと、どの方角を向いているのかさえわからないな」
「ええ。でも本当に、この先になにかあるのかしら?」

 脚に絡みつく草や蔦をよけ、行く手を遮る枝葉を払いながら、ケントの〈マップ〉に表示された光点を目指す。
 森はどんどん深くなり、日光も届きづらく、昼に近い時間だというのにあたりは薄暗かった。

「ん?」

 そんなとき、不意に視界が開けた。
 さっきまで目の前にあったはずの木々がなくなり、広場のようなスペースが突然現れる。

「ここは……?」

 最初に飛ばされた場所が、こんな風景だったことを思い出す。

「なぁ、ここっていったい、なんなんだ?」

 ぽかんと口を開け、あたりを見回しながら、ケントは呟いた。
 しかし、ルーシーからの返事はない。

「ルーシー?」

 周りを見回してみたが、彼女の姿はどこにもなかった。

○●○●

「ルーシー! どこだ!?」

 急にいなくなったルーシーの名を呼びながら、注意深く辺りを見回したが、彼女からの反応はないし、姿を見つけることもできなかった。

「戻ってみようか」

 そう呟き、ケントはきた道を戻った。

「うおぁっ!?」
「きゃあっ!?」

 突然景色が変わり、あたりは鬱蒼とした森に包まれたので、ケントは思わず声を上げてしまう。
 その声に、ルーシーの驚いた声が返ってきた。

「ルーシー! いたのか、よかった……!」
「いたのか、じゃないわよ! 急にいなくなったりして、どうしたの!?」

 どうやらルーシーのほうでもケントの姿を見失っていたらしい。

「どこかに隠れてたの? だとしても、ひと声かけてくれたっていいじゃない」

 あらためてケントがあたりを見回すと、そこは鬱蒼とした森で、姿を隠せそうな木々がそこら中に生えていた。
 たしかにこの景色の中で姿が見えなくなったとすれば、どこかの木陰に隠れたと思われても仕方がない。

「いや、それなんだけど、この先に変な広場があるんだよ」

 ケントは加護板を取り出し、〈マップ〉で光点の位置を確認し、その方向を見た。

「広場? どこにもないと思うけど……」

 ルーシーの言うとおり、目の前には薄暗い森が広がるばかりである。

「でも、さっきは――」

 言いながらケントが一歩踏み出すと、再び景色が変わり、広場が現われた。

「――って、またか!?」

 戸惑いつつ、ケントは前を向いたまま一歩さがり、元の位置に戻ってみる。
 やはりというべきか、景色が広場から森に戻った。

「……どうなっているんだ?」

 そう呟いたあと、ふとルーシーのほうを見てみると、彼女はぽかんと口を開け、大きく目を見開いてケントを見ていた。

「な……ケ、ケント、いま、フッて消えて……」
「え?」

 どうやらルーシーの目には、ケントが突然消えたように見えたらしい。
 先ほどと違って注意深く見ていたからこそ、ケントが広場に踏み込む瞬間を目にしたのだろう。

「なんだかよくわからないんだが、ここから先に進むとちょっと明るい広場に出るんだよ」
「ここから、先に……?」

 ルーシーは軽く首を傾げたあと、ケントの示す先を見た。
 少し怯えたような表情でじっとそちらを見た彼女は、口を引き結び、小さく頷いて一歩を踏み出す。

「……ん?」

 なにも、起こらなかった。
 ルーシーはただ、森のなかを一歩進んだだけで、ケントにもその姿は見えている。

「えっと……」

 不安げに尻尾をゆらゆらと揺らしながらも、ルーシーは2歩3歩と慎重に歩みを進めていく。
 しかし、彼女はただ森のなかを進み、ケントから少しずつ離れていくだけだった。

「ねぇ、広場なんてないけど?」

 振り返った彼女は、そう言って肩をすくめる。

「そんなはずは――」

 と、ケントが一歩踏み出すと、またも景色が広場に変わる。
 そして、さきほどまで数メートル先に見えていたルーシーの姿が、ふたたび見えなくなった。

「――どうなってるんだよ」

 しばらくあたりを見回したあと、うしろにさがって景色を戻す。
 ルーシーが、こちらへ駆け寄ってきた。

「ケント、また消えたわよ!」
「ああ、そうみたいだな……」

 たとえば、特定の人物だけが入れる領域といったものが、この世界には存在するのだろうか。

「〈マップ〉には、表示されてたんだけど……」

 〈マップ〉には、パーティーメンバーの位置も表示されるのだが、あの広場にいるあいだもケントの位置を示すものは消えなかったようだ。

 ちなみにメンバーの現在位置は白、町や施設などの場所は青い点で示される。

「俺もよくわからないんだけど、この先に進むと突然景色が変わって、いままで見えていたもの……たとえばこのあたりの草木や、それから、ルーシーの姿が、見えなくなるんだよ」
「いったいなんなのかしらね……」

 どうやらルーシーには、こういったものの心当たりがないようだ。

「たとえばさ、手をつないで入ってみるとか、どうだろう?」
「手を? そ、そうね。試してみましょう」

 少し照れたように返事をするルーシーの手を、ケントは握った。
 彼女の手は、少し汗ばんでいた。

「じゃあ、いくよ」

 と一歩踏み出すと、手から彼女の感触が消えた。
 念のため〈マップ〉を確認したところ、ルーシーを示す点は、ケントの点とほとんど重なる位置にあった。

「……だめみたいね」

 戻るなり、彼女は残念そうにそう言った。

「うーん、どうするかなぁ……」

 あらためて〈マップ〉を見る。
 表示倍率をあげてみると、青い点はいまいる場所より50メートルほど先のようだった。

「……なにも、見えないわね」

 ケントの〈マップ〉をのぞき込み、おおよその位置を把握したルーシーは、目をこらして点の示すあたりを見てみたが、どうやらなにも発見できなかったようだ。

「まずは、あたしが行ってみるよ」
「わかった。じゃあ俺はここで見ているよ」

 ルーシーが点の示すあたりを目指して歩き始めた。
 深い森ではあるが、50メートル先ならなんとか見失わずに済む。

「もう少し前……あー、ちょい左!」

 〈マップ〉の倍率を最大限に上げ、ルーシーの点と青い点とが重なるようケントは誘導した。

「だめー! なにもないわよー!」

 ひとしきりそのあたりを捜索したルーシーだったが、結局なにも発見できずにケントのもとへ戻ってきた。

「俺が、行くしかないか……」

 互いの姿が見えなくなる、謎の広場。
 青い点が示すなにかは、やはりそちら側にあるようだった。
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