聖弾の射手~会社が潰れて実家に帰ったら異世界へ行けるようになったのでクールビューティ-&黒猫娘を相手に二重生活を楽しみます~

平尾正和/ほーち

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第1章

19話 新機能

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 翌日、朝の早い時間に、ケントとルーシーは揃って食堂に下りた。

「おはようさん。昨日はお楽しみだったみたいだね」
「ちょ、ちょっと……!」

 女将のからかいに、ルーシーは慌てて抗議の声を上げる。

「あの、騒がしくしてすみません」
「ま、2階には玄人プロを連れ込むやつもいるから、そこまで問題ってわけじゃないけど……」

 ケントの謝罪に、女将は気にした様子もなく答えつつ、ふたりに顔を近づける。

「よかったら別棟に移ったらどうだい?」

 ケントらが利用しているのはひとり部屋ばかりの棟だが、それとは別に大部屋を扱う別棟が、この宿にはあるらしい。
 パーティー単位で泊まって安く済ませようという客も多いようだ。
 ふたり部屋もあるので、それを利用してはどうかと、女将は提案してきたのだ。

「ふたりでひと部屋のほうが安く上がるってのもあるけど……」

 そこで女将が、ニヤリと笑う。

「別棟は多少うるさくしても問題ないからねぇ」

 女将は口角を上げたまま、ふたりを交互に見た。

「えっと、どうする?」
「俺は、いいと思うけど」
「ケントがいいなら、あたしも……」
「よし、決まりだね!」

 どこか煮え切らないふたりの話し合いをさっと終わらせるように、女将は手を叩いた。

「それじゃ、預かってる宿泊料はそっちに充てとくからね。いまから活動かい?」
「うん、そのつもり」
「なら帰ってくるころには部屋の準備もできてるだろうから、私物の移動だけお願いするよ。モーニングふたつでいいね? 空いてるとこに座りな」

 話は終わりとばかりに食堂へ追い立てられたふたりは、朝食を終えてギルドを訪れた。

 かなり早い時間だったので、ギルドはまだ閑散としていた。
 クラークはまだきていないのか、受付台には女性職員が数名いるだけだった。

「いつものよろしく」

 ルーシーは加護板を受付台に置き、担当の女性にそう告げる。
 ケントも続けて、加護板を出す。

「すみませんが、ケントさんがいるのでゴブリンまでですね」
「あー、そっか。じゃあそれでいいよ」

 ルーシーのいう『いつもの』とは、常設依頼の申請だった。
 草原でラビット系を、森の浅いところでゴブリンとコボルトを討伐するのが、彼女の日課となっている。

 特に繁殖力の強いラビット系とゴブリンは放っておけば際限なく数を増やし、往来を行き来する人々や周辺の農作物、家畜などに被害が出てしまうので、積極的な討伐が推奨されている。

 常設依頼なので事後報告でも問題はないが、なにかがあったときに対処がしやすいということで、事前申告が励行されていた。

 今日はGランクのケントがいるため、コボルト討伐の依頼を受ける権利がなかった。
 ただ、遭遇した場合は倒してしまっても問題はない。

「それじゃいこっか」
「ああ」

 事前申告を終えたふたりは、町の外へ出た。

○●○●

 街道を少し外れた草原でふたりはジャイアントラビットを発見した。

「あらためて見ると、でかいな……」

 大型犬ほどはあろうかという巨大なウサギの姿に、思わず呟く。
 こちらへ飛ばされた初日、町への道すがら数匹倒したはずが、あのときはほぼルーシーが戦っていたし、なにより疲れていたのであまり覚えていなかった

「ジャイアント、っていうくらいだからね」

 なるほど、と思いつつ、ケントはマスケット銃を構える。

「いけそう?」
「たぶん」

 銃にはいま、魔石を取り付けていない。
 加護とともに〈射撃〉スキルを得たケントなら、MPの消費で撃てるはずだ。

 拳銃に意識を向けると、自分の中からなにかが抜き取られていくのを感じた。

(これが、魔力を込めるってことか)

 魔法や魔術を使うとMPが減る。
 そのため、MPは保有魔力量の目安とされていた。
 HPが完全に身を守る――0になるまで怪我をしない――のと違って、MPはその人が本来持っている保有魔力と連動している。
 なのでMPが0になると、魔法はおろか魔術まで使えなくなるのだ。

 ちなにみ加護を持たない者は、いくら魔力量が大きかろうと魔法は使えない。

(こんなもんでいいか?)

 ケントはある程度魔力を込めたところで狙いを定めて引き金を引いた。

 ――バスッ!

 光弾が飛び出したかと思うと、ウサギの頭が吹っ飛んだ。

「くっ……」

 同時に、目眩を覚える。

「大丈夫?」
「ああ、ありがとう」

 支えてくれたルーシーに礼を言い終えるころには、目眩も治まっていた。

「ちょっと魔力を込めすぎたね」

 頭部を失ったウサギが毛皮と小さな魔石を残して消え去るのを見ながら、ルーシーは苦笑した。

 加護板を見ると、MPが47/100になっていた。

「やっぱり込める量で威力は変わるのかな?」
「そうね、魔法だってそうだし。だから慣れないうちは加護板を見ながら調整するといいわよ」
「なるほど」

 とりあえずケントは敵のいた場所まで歩き、魔石を防災バッグに入れた。
 宿に置いておこうかとも思ったが、貴重品は身に着けておくべきだとルーシーに言われたので、担いでいる。
 ツイードの三つ揃いに安っぽいリュックサックはかなり不格好だが、贅沢を言っていられる身分ではないので、そこは諦めることにした。

「毛皮はアイテムボックスに入れとくといいわよ。ジャイアントラビットのなら1スロットに10枚は入るから」
「わかった」

 ジャイアントラビットの毛皮を持ち、念じてみる。

「おおっ」

 手に持っていた毛皮が、消えた。
 だがそれを所有しているという不思議な感覚はあった。

 出そうと念じると、手の中に毛皮が現れる。

「ははっ、すごいな」
「そうよね。あたしも始めは不思議に思ったわ」

 ケントは何度か毛皮を出し入れして感覚を掴んだあと、行動を再開した。

 幸いそう遠くない場所に別の個体がいたので、それを練習台にする。

 銃を構え加護板に目を向ける。
 ケントが銃に魔力を込めると、加護板のMPが減少し始めた。

(これは、いいな)

 なんだかゲームみたいだと思いながら、ケントはとりあえずMPを10消費したところで込めるのをやめ、狙いを定めて引き金を引いた。

「キュッ……!」

 先ほどよりもかなり小さな光弾だったが、うまく頭を撃ち抜けた。

「いい腕ね」
「こいつがすごいんだよ」

 褒められたケントは、マスケット銃を掲げた。
 もちろんしっかりと狙いを定めてはいるが、それでも拳銃というのはそう命中率の高い武器ではない。
 ミリ単位のブレや風の影響で、軌道は大きく狂ってしまうものだ。

 だがこのマスケット銃は、狙ったところへちゃんと当たってくれる。
 これは非常に、ありがたいことだった。

 それからケントは、何匹かのジャイアントラビットを倒した。
 検証の結果、8以上のMPを込めれて頭を撃てば、1撃で倒せるとわかった。
 それ未満だと、2発は必要となった。

 MPはおよそ1分で1回復したので、MP切れを起こすことはなかった。

「おっ、レベルが上がった」

 一瞬身体に力がみなぎるのを感じたケントが加護板を見ると、レベルが2になっていた。

**********
【名前】ケント
【レベル】2
【HP】100/100
【MP】18/100
【SP】2
【冒険者】G
**********


(レベルアップで全快、みたいなのはないか……)

 さすがにそれは都合がよすぎるかな、とケントは思わず苦笑した。

「あっ、【SP】が増えてる」
「だな」

 昨日把握したとおり、レベル2になったので【SP】も2ポイント獲得できた。

「どうるすの?」
「とりあえず【攻撃力】を上げてみるよ」

**********
【名前】ケント
【レベル】2
【HP】100/100
【MP】18/100
【SP】2→0
【冒険者】G

【攻撃力】G→F(A~G)
【防御力】H(S)
【魔力】F(B)
【精神力】G(B)
【敏捷性】H
【器用さ】G
【運】G
**********

「0になったわね……」
「能力値のランクが上がると、消費する【SP】も増えるみたいだな」

 上昇した能力値の効果を確認するため、ふたたびジャイアントラビットと戦うことにした。

 ちなみに【攻撃力】が上昇すると、同じ力、同じ武器で攻撃した場合の威力が上がるという。
 それは物理攻撃に限らず、魔法や魔術にも適応される。
 もちろん、銃にも。

 結果、消費MP2で倒せるとわかった。

「威力が4倍になったのか?」
「レベルアップでMPの絶対量が増えたから、そうとも言えないわね」
「なるほど」

 HP/MPとも、レベルアップによる最大値の変化はない。
 レベルアップによって絶対量は増えるのだが、残念ながらそれを数値で確認はできないようだった。

「問題なさそうだし、進みましょうか」
「ああ」

 さらに検証をすべく、ふたりは森に向かって歩き始めた。

「おっ、角が生えてる」

 ほどなく、ジャイアントラビットの額に角が生えたような魔物に遭遇した。

「ホーンラビットね」
「あれに突かれるとやばそうだな」

 額から伸びる10センチほどの角は、細いドリルを連想させた。
 あれに貫かれると、ひとたまりもなさそうだ。

「そうね。レベルが低いうちは、突進一発でHPがゼロになるわね」
「なるほど、1撃は耐えられるのか」
「ええ。でも2匹以上で群れることも多い魔物だから、油断できないのよ。毎年何人かは、ホーンラビットに殺される新人がいるわね」
「それは、大変だな」

 他人事のように呟きながら、ケントは銃を構える。
 新人にとって危険な魔物だろうと、近づかなければ問題ない。

 ルーシーによれば、ジャイアントラビットの倍ほどの強さだというので、MP5を込めて頭を撃ち抜いた。

「よし」

 頭を撃ち抜かれたホーンラビットはその場に倒れ、角と魔石を残して消え去った。

「あっ、レベルが上がった」

 レベル2になったあと、ジャイアントラビットを1匹倒していただけだった。
 思わぬレベルアップの速さに、ケントは少し戸惑う。

「そりゃそうよ。ホーンラビットはソロだとレベル5以上はないと厳しい相手だもの」
「なるほど」

 強い敵を倒せば、そのぶん早くレベルアップする、というのは講習でも聞いていたし、ゲームなどにもよくある仕様なのでわかりやすかった。

(経験値みたいなものが入るのかな? それも見えるとありがたいんだが……)

 そんなことを考えながらケントは加護板を取り出し、能力値を表示する。

「あ、やっぱり【SP】が3に……って、えっ?」

 ケントの横で加護板を見ていたルーシーが、声を上げる。

「どうした?」
「えっと、ケント、これ……」

 ルーシーが、おそるおそる加護板を指さす。

「んんっ!?」

 彼女が示した先をみて、ケントもまた、声を上げた。

**********
【名前】ケント
【レベル】3
【HP】100/100
【MP】21/100
【EXP】12/100
【SP】3
【冒険者】G
**********

 そこには【EXP】という項目が増えていた。
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