聖弾の射手~会社が潰れて実家に帰ったら異世界へ行けるようになったのでクールビューティ-&黒猫娘を相手に二重生活を楽しみます~

平尾正和/ほーち

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第1章

13話 ルーシーの能力値

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 ポケットから取り出した加護板に、文字が浮かび上がっていた。

「それ、指でなぞるみたいに動かすと、隠れている部分も出てくるから」

 スマートフォンのモニターをスワイプする要領で触れてみると、文字がスクロールされた。
 加護板を見て判明したケントの能力は、以下の通りだった。

**********
【名前】ケント
【レベル】1
【HP】100/100
【MP】100/100
【SP】1
【冒険者】G

【攻撃力】H(A~G)
【防御力】H(S)
【魔力】F(B)
【精神力】G(B)
【敏捷性】H
【器用さ】G
【運】G

【スキル】
 〈魔女の恩恵〉
 〈マップ〉
 〈アイテムボックス〉0/1
 〈射撃〉F

【パーティーメンバー】
 ルーシー
**********


 自分でひととおり確認したあと、ルーシーに加護板を見せた。

「Hが一番低いんだっけ?」
「そう。でもこれはあくまで補正値。素の能力はまた別だからね」

 いかに加護の能力値が低かろうと、それは本来の能力に上乗せされるものだ。
 なので、加護を受けた瞬間から、多少なりとも強くなるのである。

「カッコに入ってる値は?」
「それは装備による補正ね。本人にしか見えないわ」「なるほど……」

 装備による補正がとんでもないことになっていた。
 例のマスケット銃がそれなりの【攻撃力】を誇るのはわかる。
 変動値になっているのは、使う魔石によって威力が変わるからだろう。

 また、魔法効果の補正値である【魔力】や、魔法への耐性、回復魔法の効果に関わる【精神力】へも、銃の影響が考えられる。

 しかし【防御力】――すなわちダメージを受けた際の【HP】減少量に関わる能力値は、どう考えても異常だった。

(まさか……このスーツか?)

 ただこれについては、いまのところ考えても答えは出なさそうである。

「この〈魔女の恩恵〉っていうスキルはなんなんだ?」
「うーん……聞いたことないわね。それより気になるのは【MP】の隣にあるものなんだけど……。この文字が、どうしてここに……」
「ああ、えっと……【SPエスピー】か」

 ケントがそう言った瞬間、加護板をのぞき込んでいたルーシーが勢いよく顔を上げた。

「ど、どうして……?」

 ケントを見るルーシーの顔は青ざめ、わずかに口元が震えていた。

「ルーシー、いったいどうし――」
「どうしてケントはその文字を読めるの!?」

 それは悲鳴のような声だった。
 ルーシーは目を血走らせ、ケントの両肩を掴んだ。

「なんでケントがそれを読めるの!? 誰も読めなかったのにっ!!」
「落ち着けルーシー!」
「どうしてっ!? ねぇ、なんでなのっ!?」
「まずは落ち着くんだ!」

 今にも暴れ出しそうなルーシーをひとまず押さえつけようとしたところ、驚くほど簡単に組み伏せることができた。
 加護の補正のおかげなのだろうか。

「くぅ……! いや、やめて……」

 気がつけば、ケントはルーシーに覆い被さっていた。

「ご、ごめん!」

 ケントは慌ててとびのいた。

「けほ……うぅ……」
「ごめん、ルーシー」

 謝るケントに対して、ルーシーは身体を起こしながら首を小さく横に振った。

「あたしのほうこそ、ごめん……取り乱しちゃって」

 そう言うと、ルーシーは顔を上げて力なく微笑んだ。

「でも……」

 しかしすぐに訝しげな表情を浮かべて、ケントを見た。

「どうしてケントはその文字を――」
「その前にルーシー、俺には記憶がない」
「あ……」

 ケントの言葉を受け、ルーシーは呆然とした。

「だから、なぜその文字を読めるのかは俺もわからない」

 嘘ではあるが、とりあえずその設定で話を進めることにした。

「俺には記憶がないけど、名前は覚えてたし、言葉もしゃべれるだろう? だから、神代文字についてもなにか知っていたかもしれないけど、いまはよくわからないんだ」
「……そっか」

 ルーシーはがっくりとうなだれた。

「じゃあ、文字の意味なんかもわかんないんだね……」

 うなだれたまま、彼女は呟いた。

「意味……意味か……うーん」

 この世界で神代文字と呼ばれるアルファベットは、表意文字ではないので、文字そのものに意味はない。
 だが、それがどこに表示されているかで、なにを意味するのかはある程度判断できるだろう。

「わかるような……わからないような……」

 ルーシーの落ち込み方がかわいそうで、ケントははっきりと〝わからない〟とは言えなかった。

「意味、わかるの……?」

 ルーシーが顔を上げた。
 期待の眼差しを向けられ、ケントは少し早まったかと後悔し始めた。

「いや、その……なんというか……」
「あのね、ケント」

 すっと差し出されたルーシーの手に、板が現れた。

「あたしの加護板、見てもらってもいいかな?」

○●○●

 ケントが加護板をのぞき込む前に、ルーシーは加護板の表面を軽くスワイプした。

「あの、笑わないでね?」

 加護板を乗せた彼女の手は、少し震えていた。
 あまり見せたくないもののようだ。

「笑うもなにも、加護のことはよくわかってないから」

 安心させるように軽く微笑んだあと、ケントは板をのぞき込む。
 画面には能力値のみが表示されていた。

**********
【攻撃力】H
【防御力】H
【魔力】H
【精神力】H
【敏捷性】H
【器用さ】H
【運】S
**********

「これは……」
「おかしいでしょ? いくらレベルがあがっても、全然能力値があがらないのよ」
「なるほど、そういうことか……。たしか、最高能力値のランクにまでしか上がれないんだったな」

 ケントは講習で教えられたことを思い出していた。

「ええ。Fランクだけは例外だけど」

 つまり冒険者ランクをEにしたければ、能力値のどれかがEになっていないといけない。
 ただし、Fランクだけは功績のみでの昇格が可能だった。
 Fランク昇格だけは、能力値を考慮せずギルドへの功績のみが評価される、と規定されているからだ。

「まぁ、俺もレベル1の時点でいくつかGやFがあったもんな」
「最初の昇格だけはかならず経験を積ませる、という意味での規定なんだけど、あたしにはそれがありがたかったってわけね」

 彼女が十数年であげた功績のわりに、冒険者としてのランクが低いことの謎がこれで解けた。

「でも、【運】のSは?」
「それよ!!」

 弾かれたようにルーシーは顔を上げ、距離を詰めてきた。
 黄色い瞳がまっすぐにケントを捉えている。

(改めてみると、ルーシーって美人だよな……)

 いまさらながら、ケントはそんなことを考えていた。

 艶のあるショートボブの黒髪は、前髪のひと房だけが白かった。
 形のいい眉に、つり目気味の大きな目。
 黄色い瞳の中央にある縦長の瞳孔は、いまは少し開いて楕円系になっていた。
 鼻は少し低いが顔全体のバランスを考えるとちょうどいいだろう。
 口は小さく、唇は薄い。
 上唇の中央が少し上がっているのが、どことなくかわいらしかった。
 視界の端では頭に生えた猫耳がピクピクと動いているのが見えた。

「ねぇ、聞いてる、ケント?」
「ああ、ごめん……なんだっけ?」
「だからぁ! その〝えす〟っていうの、なんなの? ギルドで調べてもらったけど、誰も知らなかったのを、なんでケントが知ってるの!?」

 鼻と鼻が触れそうな所まで、ルーシーの顔が迫っていた。
 少し荒くなった彼女の呼吸に合わせて、温かい息が顔にかかる。

「ちょっと、落ち着いてくれ」

 胸の高鳴りをごまかすように、ケントは軽く仰け反り、彼女の顔の前に手を出した。

「さっきも言ったけど、俺は記憶喪失で細かいことは覚えてないんだよ」
「そ、そうだったわね……ごめんなさい……」

 手にかかる息が遠ざかっていくの感じ、ケントは腕をおろした。
 ルーシーは力なくうなだれていた。

「まず聞きたいんだけど、神代文字についてはどれくらいのことがわかってるんだ?」

 落ち込むルーシーの様子に胸が痛んだケントは、話せる範囲のことを話しておこうと考えた。
 まずはルーシーを通してこの世界におけるアルファベットの認識を確認しておきたい。

「えっと、わかっているのはランクに使われるAからHの8文字と、【MP】に使われるMとPの全部で10文字だけね」

 つまり、ステータス画面に表示され得るもの以外の文字は判明していないということか。

「じゃあSという文字についてはなにも?」
「うん。読み方すらわかってないの」

 そこでルーシーは顔を上げ、ケントを見た。
 目が、少し潤んでいる。

「ケントは、読み方を知ってたよね?」
「ああ」
「じゃあ、順番はわかる?」
「順番?」
「あたしにとって、それはすごく大事なことだから」
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