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第1章

9話 パーティー結成

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 1階に下りて気づいたことがあった。

(タバコを吸う人が、結構いるな)

 併設された酒場にちらほらといる冒険者の中には、タバコの煙をくゆらせている者が結構な割合でいた。

 さすがに受付台の向こう側に喫煙者はいないが、酒場に漂うタバコの煙は、ケントらがいる受付近くにまで到達していた

(でも、匂いが全然違うな)

 漂ってくる煙の見た目はタバコのものとさほど変わりないが、匂いはもう少しマイルドで、なにかしらのアロマ的なものを感じさせる。

「なぁ、ルーシー」
「ん?」
「タバコを吸う人って多いの?」
「心を落ち着ける作用があるから、常用している人は多いわね。あたしは普段吸わないけど、必要なときのために何本か持ってるよ」
「必要なとき?」
「睡眠や混乱、恐怖なんかの状態異常回復に有効だからね。そのあたりのいやらしい攻撃をしてくる魔物がいるところだと、常に吸っておけば抵抗レジストもできるし」
「なるほど……」

 どうやらこの世界におけるタバコは、回復アイテムの一種らしい。

「常用して害になることは?」
「まぁクスリだから吸い過ぎはよくないだろうけど、具体的になにか身体に害があるかっていうと、なんとも言えないわね」
「なるほどね」
「そういえば昨日もチラッと見たけど、それってタバコ?」

 ケントが咥えたパイプを見ながら、ルーシーが訪ねる。

「ま、似たようなものかな」

 ルーシーがミントパイプへ忌避感を示さないことに、少し胸を撫で下ろした。

 いまや日本を始めとする先進国の、特に都市部ではタバコを嫌う声が大きい。
 人によってはケントが吸っているような禁煙サポートパイプに対してすら、文句を言うこともある。
 近年急速に普及されている電子タバコと勘違いする人もいるのだろう。

 なのでケントは、食事のときなど彼女の前でミントパイプを吸わなかったのだが、特に嫌っていないのなら問題ないと判断した。

「ルーシーも吸う?」

 ジャケットの内ポケットからシガレットケースを取り出し、開いて見せたが、ルーシーは軽く首を横に振った。

「いいよ。あたしは必要なときだけ使う主義だから」
「そっか」

 シガレットケースを懐にしまいながら、ケントは一度大きくパイプを吸った。

「ケント、ルーシー、待たせたな」

 ほどなく呼び出されたケントは、胸ポケットにパイプを入れ、ルーシーと一緒に受付台へと向かう。

「ケント、これがお前の加護板だ」

 職員が透明の板を掲げた。

「これを受け取った時点で、お前は正式に冒険者となる。成人だから、ランクはGからだ」

 冒険者の最低ランクはH。
 しかしこれは、12歳以上15歳未満の未成年用だ。

 ケントはすでに成人しているので、Gランクからのスタートとなる。

 職員から受け取った加護板は、硬質でつるりとした手触りだった。
 重さはガラスより少し軽く、プラスチックより重い、といった程度か。

「ありがとうございます」

 加護板を受け取ったケントは、職員に礼を言った。

「じゃあ次にパーティー登録をしてもらおうか。ルーシー」
「はいよ」

 ルーシーの手に彼女の加護板が現れる。

「じゃあ、これにケントの加護板を重ねてくれる?」
「わかった」

 彼女の指示通りに、ケントは加護板を重ね合わせた。

「それじゃいくわね」

 そこでコホンと咳払いしたあと、ルーシーはケントを見て口を開いた。

「ルーシーからケントへ、パーティー申請を行う」
「……えっと」

 今朝の講習でパーティー結成について習っていたが、そのときは『申請を受けた者が同意すれば完了』という程度の説明だったので、具体的にどのように同意すればいいのかがわからず、ケントは戸惑った。

「問題なければ同意する旨を言葉に出してくれ。決まった文言はない」

 職員の助言に無言で頷き、ルーシーを見る。

「申請を受けます」

 ケントがそう答えると、重ね合わせたふたりの加護板が淡く光った。
 その光はふたりを包むと、すぐに消えた。

「これであたしたちは晴れてパーティーってわけ。これからよろしくね」
「ああ、よろしく」

 ルーシーが手を差し出し、ふたりは握手をした。

「ちなみにパーティーを解消するときも、いまのように加護板を重ね合わせて解消を宣言すればいいからな。それにお互いが同意すればパーティーは解消だ」

 このあたりも今朝の講習で習ったばかりなので、さすがに覚えていた。

「ただ、できればルーシーとは長く組んでやってくれ」
「ちょ、ちょっと! 余計なこと言わなくていいから!!」

 少し頬を赤くしたルーシーは、職員に抗議したあと、そのままケントを見る。

「さっきも言ったけど、解消したくなったらいつでも言ってね。あたしのほうは大丈夫だから」
「おいルーシー――」
「わかってるよ」

 ルーシーへなにか言おうとした職員の言葉を、ケントは遮った。

「俺もさっき言ったけど、いやになったら遠慮なく言ってくれよ。ルーシーに迷惑をかける気はないから」
「わ、わかってるわよ」

 ケントに言葉を遮られた直後は不機嫌そうにしていた職員だったが、続けられた言葉に目を見開き、いまはふたりの様子を見ながら満足げに頷いていた。

「さて、これで晴れてケントは冒険者となったわけだが」

 ケントとルーシーのやりとりが落ち着いたところで、職員が話し始める。

「冒険者ギルド職員である俺から、さっそくお前に言っておきたいことがある」
「なんでしょう?」
「そのしゃべり方をやめろ」
「はい?」

 突然しゃべり方を注意されてきょとんとするケントをよそに、職員は続けた。

「冒険者ってのは命がけで魔物と戦うやつがほとんどだから荒くれ者が多い。そのしゃべり方じゃあなめられるぜ」
「えっと……」
「それに加えてその恰好だ。鼻持ちならねぇと感じるやつもいるだろう。貴族の坊ちゃんが遊びで冒険者やってんじゃねぇかってな」

 30半ばで坊ちゃんもなにもないだろうが、日本人は若く見られがちなので、こちらでもそういうことがあるのかもしれない。

「そういう反感みてぇなもんが、お前さんだけじゃなくパーティーメンバーにも向く恐れがある。わかるか?」
「……わかった、気をつけよう」

 所変われば常識も変わる。
 郷に入っては郷に従えということだろう。

「それでいい」

 ケントの言葉を聞いた職員は、そう言ってニッと笑った。
 その様子を見ていたルーシーも、安心したように頷いていた。

「ああ、それから。これも返しておこう」

 職員は用意していたマスケット銃を手に取り、ケントに手渡した。

「もう返してもらっていいのか?」
「ああ。加護板という身分証もできたし問題ない」

 ずしりとした適度な重みが、心地いい。
 とりあえず受け取った銃は、腰のベルトに挟んでおいた。

「で、どうする? さっそく依頼を受けるか?」
「いえ、さきに納品をしておくわ」
「ドロップはアイテムボックスだな」
「ええ」

 慣れた様子で、ルーシーは受付台に手を置いた。
 そこには魔法陣のようなものが書かれていて、そこに置いたルーシーの手が淡く光る。

「ほう、オークを倒したってのは本当なんだな」

 職員は手元にある板を見ながら、そう言った。
 それはタブレット大の透明な板で、のぞき込めば文字が浮かび上がっているのが見えた。

「これはなにを?」
「さっきの講習でも軽く教えたが、アイテムボックスからの直接納品だな」

 受付台の魔法陣に手を置き、納品したいものを思い浮かべるだけで、アイテムボックスからドロップアイテムを取り出すことなくギルドの収納庫へ直接納める方法だ。
 その段階で同時に鑑定もされ、買取額が計算される。

 ドロップアイテムだけで5万シクルを超える額となった。

「オークは何匹倒した?」
「1匹だよ」
「そうか、あいかわらずドロップ運はいいな」
「それだけが取り柄だからね」
「馬鹿を言うな。それが一番大事なんだよ」
「【運】は最悪なのにね」
「それだってまだわからねぇだろ? 少なくともドロップ運はいいんだ」
「そうね。でもあたしはもっと強さがほしい。ドロップ運なんかより、強さがね」
「ルーシー……」

 ふたりの会話からルーシーはなにかしら悩みや問題を抱えていそうだが、いずれ関係が深まれば話してくれるだろうと、ケントは聞き流した。

「魔石はあるか?」
「俺が持ってる」

 ケントは答え、バッグから魔石を取り出し、受付台に並べた。

「魔石も全部納品でいいか?」
「その前にケント、銃を見てもらわない?」
「銃を?」
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