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第1章

4話 おいしい水と甘いようかん

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「ちょっと待ってね、方角を確認するから……えっと、こっちね」

 ルーシーはときおり手元でなにかを確認しながら森を歩き、ケントはそれに続いた。
 そして彼女が警戒し、敵を見つけてはケントが撃ち倒していく、ということの繰り返しとなった。

 小学生くらいの体格をした醜悪な顔の魔物、ゴブリン。

 全身が毛で覆われた人型の身体に、犬の頭を乗せたような魔物、コボルト。

 そんな具合に、なんとなくゲームなどで見知ったような魔物が出現したが、オークほどの強さはなく、どれも一撃で倒すことができた。

 オークにしても、当たり所次第では1発で倒せていたかもしれない。

「ちょっともったいないけど、ゴブリンの革と骨は置いていくわね。コボルトの牙と毛皮はできるだけ持って帰るってことで。これくらいならまだ〈アイテムボックス〉に入るから」

 ゴブリンやコボルトも、オーク同様ドロップアイテムを落とした。

 魔石はケントが防災バッグへ収めていった。
 その他のアイテムは消えていったので、おそらくルーシーの〈アイテムボックス〉に入っているのだろう。

 なぜ魔石を入れないのかはわからないが、なにかしらの制約があるのかもしれない。

 そうやって繰り返された何度目かの戦闘で、銃に取り付けられた黒い石がボロボロと崩れて消滅してしまった。

 そしてそのあとから、光弾が発射されなくなる。

「どうやら魔石の魔力が切れたみたいね」
「魔石の魔力?」

 ルーシーがいうには、この銃は撃鉄で魔石を打って弾丸を飛ばすという仕組みらしい。

 ただ、これまで拾ってきた魔石はくすんでごつごつしていたが、銃に取り付けられていた石は光沢がありスベスベしていたので、ケントはそれらが同じものだとは思いもしなかった。

「試しにゴブリンの魔石をつけてみなよ」

 バッグから親指の先ほどの黒い石を取り出し、撃鉄を半分だけ起こした。
 その状態でためしに引き金を引こうとしたが、固定されて引けなかった。

(ハーフコックポジションもちゃんとあるんだな)

 ハーフコックポジション――撃鉄を半分だけ起こした状態――は、安全装置と同じ効果がある。

(大きさは、まぁ同じくらいか)

 そう思いながらニップルの先に魔石を当てると、吸い付くようにピタリと固定された。

「おおー」

 不思議な現象に思わず声が漏れる。

「よし、試し撃ちしてみるよ」

 撃鉄を起こし、銃を構える。

 ――バスッ!

「あれ……?」

 ゴブリンの魔石は、1発撃っただけで消滅した。

「1発しか撃てないなんてもったいないけど、安全には変えられないからね」

 そこから数回の戦闘を繰り返して、さらにわかったことがあった。

 まずゴブリンの魔石は威力が弱い。

 これまで1発で倒せていたゴブリンやコボルトを倒すのに2~3発必要で、ルーシーも戦闘に参加しなくてはならなくなった。

 そこでゴブリンの魔石よりふた回りほど大きいコボルトの魔石を使ってみたが、これも1発で消滅した。
 威力は少し上がったようだった。

 オークの魔石は大きすぎて取り付けられなかった。

「もしかしたら、魔結晶まけっしょうがついていたのかしら」
「魔結晶?」
「そう。魔石を精製して魔力密度を高めたものよ。オークをああも簡単に倒せる弾を何発も撃てたってことは、かなり高価な魔結晶だったのかもしれないわね……」

 ルーシーが申し訳なさそうな表情を浮かべたので、ケントは軽く微笑んで頭を小さく振った。

「気にすることはないよ。命には替えられないだろ?」
「……そうね。まずは町へ帰るのを最優先にしないと」

 ゴブリンならルーシーだけで倒すことができた。
 コボルトが出たときはまずケントが銃で弱らせてからルーシーがとどめをさすようにした。

 しばらく時間が経過したことでHPとやらが少しだけだが回復したらしく、ゴブリンやコボルトの攻撃なら受けても問題なくなったので、途中からは移動のペースを早めた。

「ふぅ……抜けたよ、ケント」
「ああ。おつかれ、ルーシー」

 そしてオークとの戦闘を終えて2時間ほどで森を抜けた。
 生い茂る草木を抜けた先には、広大な草原が広がっていた。

「しかし、よく迷わず出られたな」

 草原を少し歩いたところで振り返ると、そこには鬱蒼とした森があった。

「冒険者には〈マップ〉があるからね。一度歩いたところは迷わないのよ」
「なるほどねぇ」

 よくわからない言葉がまた飛び出してきた。

 事情を聞くのは町に着くまでお預けかな、などと考えながら、ケントは先を歩くルーシーのあとに続いた。

○●○●

「ここまでくればもう安全ね。ちょっと休憩にしましょうか」

 森を出て10分ほど歩いたところで、休憩を取ることになった。

「このあたりは魔物が出ないのか?」
「いえ、ラビット系やハウンド系の魔物はでるんだけど、そんなに強くないのよ。それに、このあたりは見晴らしもいいから不意打ちを食らうことはないわ」

 ここから町まで、さらに1時間は歩かなくてはならないという。

 正直に言って2時間森を歩き、戦闘を繰り返したケントは、このまま眠ってしまいたいほど疲れていたので、休憩はありがたかった。

「よっこらせっと」

 バッグを肩からおろし、地面に座る。
 それほど重くはないリュックサックだったが、それでも長時間担いでいると肩が凝るものだ。

「あ、水飲む?」

 バッグを開けてペットボトルを取り出し、ルーシーに問いかける。

「えっと、ありがとう。でも、自分のがあるから……」「んー、戻すのも面倒だし、貰ってくれると嬉しいかな」
「そういうことなら、遠慮なく……それにしても、変わった入れ物ね?」

 ペットボトルを受け取ったルーシーは、それをいろんな角度から見たあと、首を傾げた。

「あの、これってどうやって開ければいいの?」
「ああ、ごめん。貸して?」

 ルーシーから一度ペットボトルを返してもらったケントは、キャップをひねって軽く緩めた。

「ここをこうして回すと……こんな感じでフタがあくから」
「なるほど」
「で、逆に回すと閉まる、と」

 一度キャップを開いて見せ、閉じ直して再びペットボトルを渡す。

 ペットボトルはともかく、キャップの開閉方式には馴染みがあるようで、彼女は危なげなくふたを開けた。
 そしてひと口飲み、目を見開く。

「なにこれ、美味しい!」

 こくりと喉を鳴らしたあと、ルーシーは感嘆の声を上げた。

「そう? 普通の水だと思うけど」
「ぜんぜん普通じゃないわよ! すっごく美味しいって!!」

 再びペットボトルを口に当てると、ルーシーはこくこくと喉を鳴らして、半分ほどを飲み干した。

「はぁー……! なんか、生き返ったって感じ」
「まぁ喜んでくれたんならよかったよ」

 ケントは飲みかけのペットボトルを口にしたが、やはり普通のぬるい水としか思えなかった。
 もしかすると彼女が普段飲んでいる水は質が悪いのだろうか。

「あ、そうだ。これ食べる?」

 続けてケントはスティックタイプの練りようかんを2本取り出し、片方をルーシーに差し出した。

 少し前から空腹を感じ、腹になにか入れたかったが、自分だけ食べるのも気が引けるので、ルーシーにも勧めたのだ。

「これは?」
「練りようかん。甘くて美味しいよ?」

 ケントは個包装になっているようかんのパッケージを開けて、ひと口かじって見せた。

「それじゃあ、いただきます」

 ルーシーも見よう見まねでようかんをぱくりと口にする。

「ん~~~!!!!」

 なにやらうめきながらも、ルーシーはようかんを小さくかじって口に入れ、噛む必要のほとんど無いそれをしばらく咀嚼したあと、ゴクリと飲み込んだ。

「なにこれーっ!? ほんとに美味しいんですけどーっ!!?」

 いちいちリアクションがおおげさだな、と微笑ましく思いつつも、これに関してはケントも同感だった。
 空腹と疲労の極にあるいまの状況において、ようかんの甘さはありがたい。

 ケントもルーシーを見習って、甘さを堪能するようにゆっくりとようかんを食べた。

「はぁあぁぁ……しあわせ……」

 しばらく幸せそうな顔で余韻にひたっていたルーシーだったが、すぐに申し訳なさそうな表情を浮かべてケントを見た。

「あの、いまのって、まだあったり……」
「あるよ」

 ケントは苦笑を漏らしながら、バッグから練りようかんを取り出した。
 もしかしたらこのあたりは甘味が貴重かもしれない。

 練りようかんは残り2本で、補充ができる可能性は低いが、ここでケチっても仕方がないだろうと考えた。

「あれ? ちょっと待って」

 ケントが差し出した練りようかんを受け取ろうとしたルーシーはなにかに気づいて手を引っ込めた。
 そして彼女の手に、1枚のカードが現れる。

「えっ……?」

 ケントが驚いて漏らした声に気づいた様子もなく、ルーシーはカードを凝視し、目を見開く。

「やっぱり……」

 小さく呟き、顔を上げてケントを見ると、ルーシーは再び口を開いた。

「HPが回復してる!」
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