聖弾の射手~会社が潰れて実家に帰ったら異世界へ行けるようになったのでクールビューティ-&黒猫娘を相手に二重生活を楽しみます~

平尾正和/ほーち

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第1章

3話 不思議なマスケット銃

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 剣で切られてもかすり傷を負う程度。

 身軽そうな女性とはいえ、人を10メートル以上も殴り飛ばす怪力。

 なによりも醜悪で、現実にはあり得ない容姿。

 見ているだけで正気を失いそうな存在が、明らかに自分へ敵意を向けている。

 叫び出し、逃げ出したい衝動に耐えながら、恐怖に震える手を胸ポケットに伸ばし、ミントパイプを手に取ると、それで少しだけ落ち着いた。

 手の震えが止まったことを自覚したケントは、左手だけで器用にキャップを外し、吸い口を咥えた。
 右手で作業をしながら左手だけでパイプを吸うという、何度も繰り返した動作に淀みはない。

「すぅ……」

 ミントパイプを咥えたまま、大きく吸って息を止める。

 ――カチリ……。

 パイプのキャップをつまんだままの左手で、右手に持った銃の撃鉄を起こして構えた。

 立射片手射の構え。

 照準の先にいるオークは、口元を笑みのようにゆがめたまま、よだれを垂らしながらこちらを見ていた。

(なめられてるのか? まぁそのほうがありがたい)

 銃から放たれるのは、樹皮をめくることすらできない光の弾。

 なんの威力もなく、ゆえに何の意味もない行動。

 しかし、なぜかケントには自信があった。

 これがあれば、なんとかなる。

 なぜかそう思え、だからこそ落ち着いて狙いを定めることができた。

(食らえ、ブタ野郎)

 咥えたパイプの吸い口を少しだけ強く噛み、引き金を引く。

 ――バスッ!

 最初の弾はオークの左肩に命中した。

「ブフォッ!?」

 敵の身体は衝撃を受けたように弾かれた。

 ――バスッ!

 2発目は右肩に。

 ――バスッ!

 反対側に敵の身体が仰け反り、3発目が胴に当たる。

「グフゥ……」

 みぞおちを撃ち抜かれたオークは身体をくの字に曲げた。

「グブファァーッ!」

 口から血を吐きながら身体を起こしたオークは、拳を振り上げて駆けだそうとした。

 ――バスッ!

 踏み出そうとしたところで、眉間に光弾を受けたオークはのけぞり、ぐらりと仰向けに倒れた。

 撃鉄を起こし、倒れたオークに銃口を向け、様子を見る。
 さらに1発追撃しようとしたところで、オークは光の粒子になって消えた。

「ふぅー……」

 なにが起こったのかよくわからないが、どうにか勝ったらしい。
 そう悟ったケントは大きく息を吐き、撃鉄を戻して構えをといた。

 そして何度かパイプを吸って気持ちを落ち着けたあと、キャップを戻して胸ポケットにしまう。

「すごい……! オークをあんな簡単に」
「うわぁっ!」

 突如聞こえた声に、思わず声を上げてしまう。
 振り返ると、そこには猫耳女性が立っていた。

「だ、大丈夫なのか?」

 あれだけ大きく吹っ飛ばされる一撃だったのだ。
 致命傷受けていてもおかしくはないだろうし、当たり所がよかったとしても、骨の数本は折れているはずだ。

 にもかかわらず、女性は少し痛そうに腰をさすっているだけで、特に大きな怪我をしているようにはみえなかった。

「うん、HPがギリギリもってくれたからね。地面に落ちたとき腰を打っちゃったけどさ」
「え、えいちぴー……?」

 首を傾げるケントをよそに、猫耳女性はオークの倒れたあたりへスタスタと歩み寄った。

「お互い気になることはあるけどさ、とりあえずドロップは回収しとかないと」
「ドロップ?」

 オークの消えたあたりにしゃがみ込む女性に、ケントも歩み寄っていく。

「あんた、冒険者じゃないんだよね? 商人とか?」
「いや、そういうんじゃ……」
「だったら〈アイテムボックス〉は持ってないよね?」
「アイテム、ボックス?」
「あー、その様子じゃないみたいね。じゃあ豚肉はとりあえずあたしが預かっとくよ」
「豚肉……?」

 ふと女性の視線を追うと、そこにはブロック肉がいくつか転がっていた。
 小さいものでもひとかたまり1キロ、大きいものだと5キロはありそうだ。

「って、なんで肉!?」
「いや、オークのドロップなんだから豚肉に決まってるじゃない」

 女性が呆れ気味に言いながらブロック肉に手をかざすと、それらが次々に消えていく。

「――っ!?」

 ケントは思わず息を呑んだが、声は上げずに済んだ。

「悪いんだけど魔石は持ってもらってもいいかな? 豚肉で〈アイテムボックス〉が圧迫されちゃったからさ」

 ブロック肉をすべて消したあと、女性は立ち上がり、ケントに黒い石を差し出した。

「あ、ああ。わかった」

 彼女が魔石と呼んだ拳大の石を受け取ると、ケントはリュックサックの空いたところに入れ、再び背負い直した。

○●○●

「さて、いろいろ聞きたいことはあるんだけど、まずは自己紹介といこうか。あたしはルーシー。冒険者だよ」

 ルーシーと名乗った女性は、興味津々といった視線を、遠慮なくケントへ向けた。

「えっと、俺はケント。あー、一般人、かな」

 ケントは咄嗟にファーストネームを告げた。
 なんとなく、そうしたほうがいいような気がしたからだ。

 ケントの名乗りに、ルーシーは思わず顔をほころばせた。

「あはは。ツッコミどころはたくさんあるけど、とりあえずよろしくね、ケント」

 ルーシーが握手を求めたので、ケントはそれに応えて彼女の手を握った。

「よろしく、えっと、ルーシー」

 会ったばかりの女性を呼び捨てにするのに少し抵抗はあったが、ここは相手に合わせることにした。

「それで、ケントはなんでこんなところにいたの? 森の奥が危険だなんてことは子供でもわかってることだけど」
「いや、なんでといわれても、気がつけばここにいたというか、なんというか……」
「気がつけばここに? じゃあ家はどこなの?」
「家? 家は、その……」
「もしかして、記憶がない、とか?」
「記憶が……ああ、そう! そんな感じ!!」

 自分のことをどう説明するのか困ったケントは、とりあえずルーシーの言葉に乗ることにした。

「記憶がないのに、名前は覚えてるんだ?」
「あ、ああ、うん。不思議と、ね」

 記憶喪失といっても症状は様々なのだが、ここでそれを説明するのもおかしいだろう。

「ふーん。それに言葉もちゃんとしゃべれるみたいだし」
「そうだな。言葉も……ん?」

 そこでふと思い至ったのは、いったい彼女は、そして自分は何語なにごを話しているのだろうということだった。

 自分では当たり前のように日本語を話しているつもりだったが、目の前にいるルーシーは、瞳の色といい顔つきといい、およそ日本人とは思えない。

(……というか、猫耳とか尻尾とかがある時点でいろいろおかしい)

「どうしたの?」
「ああ、いや、なんでもない」

 細かいことは考え出したらキリがないので、それは後回しにする。

「それで、ケントはこれからどうするの? よかったら町まで案内するけど」
「本当に!? ぜひお願いします!」

 勢いよく頭を下げるケントに、ルーシーは目を見開いたあと、思わず吹き出した。

「ぷふふっ、急にかしこまらないでよ」
「いや、俺ひとりじゃどうにもならないからさ」
「あはは、そっか。でも、それはお互いさまかもね」
「お互いさま?」
「うん。あたしひとりで森を抜けられるかわかんないからさ」
「それって、さっきのオークみたいなのが出るってこと?」
「そ。オークは滅多に出ないけど、森には魔物がたくさんいるからね。ゴブリンやコボルトなんかは結構出るかな」

 どうやらオークだけでなく。ゴブリンなどのモンスターも登場するようだ。

 いや、彼女は『魔物』と言ったか。

「さっきの戦いでHPをごっそり持って行かれちゃったから、いまはゴブリン相手でもキツいかも」
「さっきも言ってたけど、えいちぴーって?」
「ああ、そのあたりも説明しなきゃだめね。でもそれはもう少し安全なところに移動してからにしましょうか」
「そうだな」
「ま、HPがあるうちは怪我をしない、って思っておいてくれていいわよ」
「わかった。じゃあ、えいちぴーが少ないいまの状態だと、かなり危険ってことだよな?」
「そうね。でも冒険者の加護がないあなたよりは、ましだわね」
「冒険者の加護?」
「あー、それもあとで説明するわ。とにかく、森を出るまではあたしが警戒するから、もし魔物が現れたら――」

 そこでルーシーはケントの手にあるマスケット銃を一瞥し、すぐに顔を上げた。

「――その銃で倒すか追い払ってちょうだい」
「あ、ああ。わかった」

 どうやら彼女は、銃というものの存在を知っているらしく、ケントはそれを少し意外に思った。
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