聖弾の射手~会社が潰れて実家に帰ったら異世界へ行けるようになったのでクールビューティ-&黒猫娘を相手に二重生活を楽しみます~

平尾正和/ほーち

文字の大きさ
上 下
8 / 48
第1章

1話 見知らぬ場所

しおりを挟む
 突然あたりが光に覆われ、気がつけば別の場所にいた。
 そんな意味不明な状況に、ケントは鼓動を早めた。

 背筋のあたりにゾワゾワと寒気が走る。

「はぁっ……! はぁっ!」

 息遣いは荒くなり、スーツとシャツで見えないが、袖をまくれば腕には鳥肌がびっしりと立っているだろう。

「はぁっはあっ……」

 混乱の極にあり、大声を上げて叫びそうになったケントは、胸のあたりをまさぐった。

「……あ?」

 すると、ジャケットの内ポケットに何かが入っているのに気づく。
 ケントは右手に持っていたマスケット銃を離してその場に落とし、内ポケットに入っていた物を取り出した。

「はぁっ、はぁっ……これ、は……?」

 銀色のシガレットケースだった。
 震える手でそれを開けると、中にはミントパイプがずらりと並んでいた。

 無我夢中で1本を取り出し、先端の栓を取ったあと、吸い口のキャップを外して口に咥える。

「すぅー……はぁーっ……」

 爽やかな香りが鼻をくすぐりながら、喉を通り抜けていく。
 目を閉じ、何度か繰り返して吸うと、そのたびに鼓動が収まり、気分が落ち着いてくるのがわかった。

「ふぅーっ……! もう、だいじょうぶ、うん」

 言い聞かせるように呟いたあと、目を開いた。
 そこにはやはり見覚えのない光景が広がっていたが、気分は落ち着いた。

 先ほど取り出したシガレットケースだが、いつものくせで片手で閉じ、ジャケットの右ポケットにしまっていたことに気づく。

「とにかく、助かったよ……」

 シガレットケースを内ポケットに入れ直したあと、ケントはパイプの吸い口にキャップをして空いた胸ポケットに入れた。

 そして落とした銃を拾う。

「まずは、ここがどこかだな」

 口に出してやるべきことを確認する。
 そうすることで、さらに落ち着きを取り戻したケントは、左手に持っていたLEDライトのスイッチを切ってズボンの左前ポケットに入れ、銃を脇に抱えた。

 そしてズボンの右前ポケットに手を突っ込んだのだが――、

「あれ、ない!?」

 ――いつもそこに入れているスマートフォンがなかった。

 銃と肩にかけたバッグを地面に置き、ズボンやジャケット、ベストのポケットを探したが、スマートフォンはなかった。

「っていうか財布も……」

 自動車に乗るので、運転免許証の入っている財布をズボンの右後ろポケットに入れていたはずなのだが、それもない。

「オーケーわかった。落ち着け俺。じゃあ持ち物を確認しようか、うん」

 一度ポケットにしまったLEDライトのスイッチをカチカチと切り替えながら、ケントは呟く。

 スマートフォンのGPSを使って現在位置を確認しようと思っていたが、ないのなら仕方がない。
 できることからしていくべきだろう。

「まずはこいつ」

 その存在を確認するかのように、手にしたLEDライトのスイッチを、カチカチと切り替える。
 手回し充電式のラジオ付きライトだが、どうやらバッテリーは充電済みだった。

 念のためラジオを起動してみたが、AM、FMとも、どの周波数に合わせてもノイズが聞こえるばかりだった。

 一応モバイルバッテリーとしても使えるようだが、スマートフォンがなくなったいま、ライト以上の価値はない。

「あとこれ」

 服の上から胸をトントンと軽く叩き、ミントパイプとシガレットケースの存在を確認する。

「でもって……これか」

 視線を地面に落とすと、そこには銃とバッグが置かれていた。
 しゃがみこんだケントは、バッグのファスナーを開いた。

「中身は……全部あるのか?」

 そもそもバッグの中に詰め込まれた防災セットの詳細を事前に確認していないので、中身が揃っているかどうかは不明だ。

「よし、これは確認しておくべきだろう」

 ひとつひとつ取り出しながら確認した内容は、以下の通りだった。

 500ミリリットルペットボトル入りミネラルウォーターが5本。
 レトルトの白米、五目ごはん、田舎ごはん、カレーが各ひとつずつ。これらは温めなくても食べられるものらしい。
 スティックタイプの練りようかん5本。
 簡易な寝床になるエアーマット。
 防寒用のアルミブランケット。
 折りたたみ式のウォータータンク。
 簡易トイレ。
 ラップ。
 紙皿。
 救急セット。
 軍手。
 ホイッスル。
 ロープ。
 レインコート。
 マスク。
 歯ブラシ。

「まぁ、これだけあればいろいろ助かるけど……」

 いつまでこの状況が続くかわからないいまとなってはありがたいものだが、祖母はなぜこれを自分に持たせたのだろうか?

○●○●

 祖母の意図に疑問は残るが、考えても仕方がないので、次はなにがなくなっているかを確認する。

「まず、スマホ。あと財布。それから……」

 服の上からポケットを叩き、なにも入っていないことを確認したケントは、続けて周りを見回した。

「……車だ」

 そして、近くにあったはずの自動車がないことを確認した。
 ポケットに入れてあったはずのキーもなくなっている。

 景色が変わり、近くにあったものがなくなっている。
 やはり、先ほどまでとは別の場所にいると考えていいのだろう。

「次は、こいつだな」

 続けてケントは片手式のマスケット銃を手に取った。
 本当ならいの一番に調べたかったが、現状把握が優先だろうと後回しにしていたのだ。

 手にかかるずっしりとした重さが心地いい。

「たぶんこれは前装式だから……」

 確認するように呟き、銃口を地面に向けて銃をふる。
 銃口から弾丸を入れるタイプの銃なので、なにが入っていれば落ちてくるか、違和感を覚えるはずだ。

 手に伝わってくる感覚からして、銃身にはなにも入ってなさそうだった。

「よし、じゃあ……」

 引き金に指をかけず、銃口をのぞき込む。
 暗くてよく見えないので、LEDライトで中を照らした。

「ライフリングは、なし……」

 近代銃は銃弾に回転を与え、威力や命中精度をあげるため、銃身の内側にらせん状の溝――ライフリング――が刻まれる。
 だが火縄銃などの古い銃にはライフリングがない。

「やっぱマスケット銃、だよなぁ」

 ライフリングのない前装式の銃を、マスケット銃、あるいは単にマスケットと呼ぶ。

「パーカッションロックか、渋いな」

 古代銃であれ現代銃であれ、火薬の爆発を利用して弾丸を飛ばすという仕組みに違いはない。

 ケントが手にした銃は、パーカッションロック方式、または雷管らいかん式、菅打かんうち式とも呼ばれるものだ。

 銃口から銃弾を込めたあと、銃身にあるニップルという穴の空いた突起に火薬の入った銃用雷管パーカッションキャップを設置。
 それを撃鉄で叩いて火薬を爆発させ、発射するという方式だ。

 現代銃だと火薬の入った銃弾の尾部を撃鉄で叩くことで弾丸を発射する。
 つまり弾丸と雷管がセットになっているわけだが、パーカッションロック式の銃は、それが別々になっているのだ。

「顧問のうんちくが、こんなところで役に立つとは……」

 高校時代にケントが所属していた射撃部の顧問は日本史を担当する教師でもあり、部活の合間にこの手のうんちくをよく聞かされた。

 ときにはマスケット銃を持ち込んで、実物を触りながらの解説をしてくれたこともあった。
 装飾品とわかっていても、いざ銃を前にすると男子部員の多くは目を輝かせていたことを思い出す。

「雷管はないけど……石がついてるのか?」

 火薬の入った雷管をセットすべきニップルの先には、黒い石がはめ込まれていた。

「とりあえず、試し撃ちはしとこうか」

 なにが射出されると言うこともないだろうが、念のため少し離れた場所をめがけて引き金を引いてみることにする。

「あの木で、いいか」

 10メートルほど先にある樹木の幹を標的に定めた。

 標的に対して身体の右側面を向け、足を軽く開いてしっかりと大地を踏みしめる。

 軽く上半身をひねって標的の方に向き、左腕を下げたまま銃を持った右手を肩の高さへ。

 顎を引き、背を軽く反らしながら、照門と照星を重ねて標的に狙いを定める。

 ピストル射撃で慣れ親しんだ、立射りっしゃ片手射かたてしゃの構えだ。

 ――銃を構える君の姿を初めて見たとき、美しいと思ったんだ。

 あの夜の、ヨシコの言葉がふと頭に浮かんだ。

「ふっ……」

 自重するように笑みを漏らしたケントは、軽く頭を振り、表情をあらためて標的を見直す。

 ――カチリ……。

 撃鉄を起こし、仕掛けがはまるような小さな感触が手に伝わる。

「すぅ……」

 軽く息を吸い、止め、標的を見据えて引き金を引く。
 カチッ! と撃鉄が黒い石を叩いた瞬間――、

 ――バスッ!

 ――という空気の抜けるような短い音とともに、エア・ピストルと同じくらいの軽い衝撃が手に伝わってきた。

「なんか、出たよな……?」

 一瞬のことでよく見えなかったが、銃口からなにかが高速で射出され、標的とした木の幹に命中した。

 なにも起こらないだろうという予想のもと引き金を引いたので、注意深く見ていなかったせいか、ケントはそれを見逃してしまった。

「確かこのへんに当たったよな……」

 木の近くまで歩き、なにかが当たったと思われる箇所を見てみたが、傷らしい傷はなかった。

「気のせいか? とりあえずもう一回やってみるか」

 ケントはもう一度先ほどと同じ場所まで下がり、銃を構えて撃鉄を起こし、そして引き金を引いた。
しおりを挟む
ノクターンノベルズにて先行公開中!
https://novel18.syosetu.com/n5959ho/
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ

桜庭かなめ
恋愛
 高校生の麻丘涼我には同い年の幼馴染の女の子が2人いる。1人は小学1年の5月末から涼我の隣の家に住み始め、約10年間ずっと一緒にいる穏やかで可愛らしい香川愛実。もう1人は幼稚園の年長組の1年間一緒にいて、卒園直後に引っ越してしまった明るく活発な桐山あおい。涼我は愛実ともあおいとも楽しい思い出をたくさん作ってきた。  あおいとの別れから10年。高校1年の春休みに、あおいが涼我の家の隣に引っ越してくる。涼我はあおいと10年ぶりの再会を果たす。あおいは昔の中性的な雰囲気から、清楚な美少女へと変わっていた。  3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。  出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!  ※特別編4が完結しました!(2024.8.2)  ※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

処理中です...