聖弾の射手~会社が潰れて実家に帰ったら異世界へ行けるようになったのでクールビューティ-&黒猫娘を相手に二重生活を楽しみます~

平尾正和/ほーち

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第0章

5話 数年ぶりの実家

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 シャワーを浴び、身だしなみを調えて部屋を出た。
 ワイシャツは少しシワになっているが、ジャケットを着ていれば目立たないだろう。

「さて……」

 鍵をかけたところで、ケントはぼそりと呟く。

「どうするかな、これ」

 彼の手には、ヨシコから預かった合鍵が残っていた。

 こういった場合、普通はドアポストか1階の郵便受けに入れておくものだ。
 鍵がひとつしかないと、住人が閉め出されることもある。

 ただ、わざわざ合鍵というからには、彼女自身も鍵は持っているのだろう。

 そしてヨシコは、鍵をかけたあとの合鍵をどうするかまでは書いていなかった。

「連絡先、聞いとけばよかったな」

 ヨシコとは、射撃場で会えば食事に出かけるという仲であり、プライベートで連絡を取り合うようなことはなかった。
 なので、預かった合鍵をどうするか、確認することもできない。

 まさか警視庁に電話をかけてまで確認するようなことでもないだろう。

「書き忘れたのかな。それとも……」

 彼女は、あえて書かなかったのかもしれない。
 合鍵をどうするかはケントに任せる、ということなのだろうか。

 どうすべきか。

 あるいはどうしたいか。

 昨夜、これまで経験したことがないほど情熱的な時間を過ごした相手だったが、一夜空けたいま、彼女に対する想いを、ケントはうまく整理できずにいた。

 ふと三島のことを思うと、申し訳ない気持ちにもなる。
 かの同僚のことなどどうでもいい、と思えるほどに、ヨシコへの想いは強くないのかもしれない。

 あるいはまだ状況の飲み込みきれず、戸惑っているのだろうか。

「……よし」

 ケントは意を決したように頷くと、スラックスのポケットから財布を取り出し、小銭入れに鍵を収めた。

 実家に帰ってゆっくり考えよう。
 幸い、時間にも金銭にも余裕はある。

 会いたいと思えば、会いに来ればいいのだ。
 鍵を返すにしても、直接渡そう。

 そのときは、警視庁を訪れるのもいいだろう。

 ケントはそう決め、部屋の前を去った。

○●○●

 実家への帰路には鉄道とフェリーを使うことにした。
 新幹線や飛行機を利用すれば半日ほどだが、あえてのんびりと帰ることにしたのだ。
 しばらくのあいだひとりで考える時間が欲しい、という思いもあった。

 すっかり日が落ちた頃に港町へ辿りついたケントは、そこでしばらく時間を潰してフェリーの深夜便に乗った。
 そして翌早朝、地元県に到着した。

 そこからさらに電車とタクシーを乗り継ぎ、昼前に帰り着いた実家は、随分と様変わりしていた。

「リフォーム……いや、建て替えたんだったか」

 2階建てでかなり広い家だったが、ケントが大学進学とともに離れ、10年ほど前に姉が隣町に嫁いでからは、祖母だけになってからはあまりにも広すぎた。

 そのため何年か前に建て替えるという報告を受けていたが、仕事が忙しくて帰省できずにいたのだった。

「ばあちゃんひとりなら充分だろうけど、俺も寝泊まりできるのかな?」

 こぢんまりとした平屋の家を見ながら、ケントはそうつぶやいた。

「ただいま」
「あ、おかえりー」

 真新しい玄関の戸を開けると、ぱたぱたという足音とともに姉が出てきた。
 姉は嫁いでからも、週に一度は面倒を見に帰っていると聞いていた。

「会社、大変だったみたいね。ニュースになってる」
「あー、うん。でもゆっくりできるいい機会だと思うことにするよ」
「そうね。何年も帰ってこられないほど、忙しかったみたいだし?」
「ごめんごめん」

 少し含みのある姉の言葉に、ケントは思わず謝ってしまう。

「ごはん、食べるでしょ?」
「うん」
「じゃあ、あがってゆっくりしといて。あ、先にばあちゃんに挨拶だね」

 いい匂いが玄関にまで漂っている。
 祖母が料理をしているのだろう。

「ばあちゃんただいまー」
「はいよ、おかえり」

 姉に続いてダイニングキッチンに入ると、祖母が作業をしながら挨拶を返してくれた。
 数年ぶりに見る祖母は以前と変わらずはつらつとしていた。

(……歳、とってんのかな?)

 と思ってしまうほどに、変化がない。
 まぁ、人間ある程度の年齢を超えると、外見にはあまり変化が現れないものだ。

 元気そうで何よりだった。

「奥の部屋、使っていいよ。荷物もそこに運んでるからね。まだ時間かかりそうだから、シャワーでも浴びといで」
「うん、ありがとう」

 祖母に促され、指示された部屋に入った。

 そこにはケントが前の住居から送った荷物と、事前にネット通販で買っておいた寝具や衣類などが積まれているだけで、他にはなにもない。

 まるでケントが使うことを想定して、空き部屋を用意していたかのようだった。

「そのうち俺が帰ってくるって思ってたのかな」

 いつの日か孫が帰ってくると期待して、そのために余分な部屋を用意し、何年も待ってくれていたのかと思うと、少し申し訳ない気持ちになった。

「孝行なら、これからできるか」

 自分に言い聞かせるようそう呟いたケントは、荷物の梱包を解いて、新しい生活の準備を始めた。

○●○●

 荷ほどきが一段落ついてシャワーを浴び終えるころには、食事の準備が終わっていた。

「いただきます」

 素朴な料理ばかりだったが、祖母と姉の手料理はあいかわらず美味しくて、なにより懐かしかった。

「会社が潰れたって聞いたときは心配したけど、元気そうで安心したよ」
「ま、いい機会だと思って、ゆっくり休むことにするよ」
「それがいいね」

 食事を終えたあと、ケントは懐からミントパイプを取り出して吸った。

「あんたそれ、まだ吸ってんの?」
「……なんかクセになってね」

 もう一度パイプを吸ったあと、呆れたように言う姉から目を逸らしたままケントは答えた。

「じいさまがタバコみだったからねぇ。ケントはそれに憧れて吸い始めたんだっけ?」
「そういや、そうだったかも」

 タバコをぷかぷかと吸う祖父の姿をはっきりと思い出しながら、ケントはとぼけたようにそう言った。

 家族3人、数年ぶりの再会だった。

 少しぎこちなくなるかな、とケントは心配していたが、自然と会話が弾み、気がつけば日が暮れようとしていた。

「さて、そろそろ帰るわね。いつまでも旦那にチビたちを任せるのも悪いし」
「ああ、うん。今日はごちそうさま。ありがとう」
「落ち着いたらウチにも顔出しなよ? あの子たちも会いたがってたから」
「わかったよ」

 甥と姪がどれくらい大きくなっているのかな、と想像すると、少し楽しくなった。

「ばあちゃんも、ケントと一緒にまたきてね」
「はいはい。近いうちに寄らせてもらうよ。じゃあ、気をつけて帰るんだよ」
「ねえちゃん、気をつけて」
「うん。じゃあまたね」
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