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第二章 冒険者活動
2-9 魔術の練習
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無事に『冒険者基本パック』にある魔術を習得した俺は、習得した魔術が使えるかどうかを確認するため、ハリエットさんに連れられて地下に向かった。
入った部屋は、魔道講座を受けた部屋の倍くらいの広さで、ちょっと薄暗い。
魔術の練習をしているのか、先客が数名いた。
ハリエットさんに促され、俺は床に座った。
「じゃあまずは《灯火》から。使い方はなんとなくわかると思うけど、一応説明するわね」
そうなんだよな。
不思議なことに、魔術を習得すると、なんだかそれが当たり前に使えるような気になってるんだよ。
「人差し指を立てて《灯火》と念じてみて。うまく行かなければ口に出したほうがいいかもね」
「はーい」
とりあえず念じてみる。
すると、指先にほのかな光を放つ球体が現れた。
「あら、お上手ねぇ。じゃあ消せるかしら」
灯りが消えるようにイメージすると、フッと光の玉は消えた。
「じゃあ次は、《点火》ね」
同じように人差し指を立て《点火》と念じると、ライターから出るくらいの小さな火が現れた。
これも消そうと思ったら、すぐに消えた。
「あらぁ、ショウスケちゃんってば優秀ねぇ。じゃあ次はこれ」
そう言ってハリエットさんは、洗面器くらいの桶を取り出し、俺の前に置いた。
「ここに《製水》で水を出してみて」
桶を見ながら《製水》と念じると、桶が水で満たされた。
ちなみにこの《製水》、空気中の水分を集めて水を作り出す魔術だと思ってたんだが、ぜんぜん違うらしい。
いや、もともとはそういう原理の魔術だったんだが、それだと、たとえば砂漠みたいな湿気ゼロのところでは使えない、という欠点があるんだわ。
“本当に水が必要なところで水出せないなんて不便じゃね?”と過去の研究者たちが頭を捻った結果、“じゃあ水のあるところから持ってくればいいじゃん!”っとことで改良されたのが現在の《製水》。
どういう原理かというと、魔術士ギルドが管理する貯水槽から転移させてんの。
貯水槽っつっても、ダムみたいなところを何箇所も作ってるらしく、水が汚れないよう、きっちり浄化もされてるんだと。
万が一のため、海水から淡水を生成する施設も作ってるから、水不足になることはまずないらしい。
海水の淡水化なんて、元の世界でもなかなか実用レベルに達せないってのにさ。
しかも分離した不純物から、塩を取り出す施設もついでに作っちゃったらしく、塩の安定供給にも貢献しているんだと。
さらに、純粋な塩だけじゃなく、海水に含まれるミネラルやらなんやらの旨味成分も合わせた、旨味塩的なものも精製できるんだとか。
……すごくね?
どうりで、この世界の料理レベルが高ぇワケだわ。
っと、話が少し脱線してしまったが、この《製水》って魔術、名前も効果も〈水魔術〉って感じだけど、実際は転移を使った〈空魔術〉なんだな。
でも元の原理の名残で、名前は《製水》のままなんだとさ。
こんなふうに、大規模な施設を管理することで、魔術士個人に掛かる負担を軽減するってのも、魔術士ギルドの大切な役目らしい。
「じゃあ次は、《加熱》でその水を温めてみましょう」
桶の水を見ながら《加熱》と念じる。
かなり時間がかかったけど、風呂くらいの温度にはできたよ。
もう少しうまく魔力を込めるなり、時間をかけるなりすれば沸騰させることも可能らしい。
「じゃ、次は《冷却》ね」
お湯になった桶の水を、冷やしていく。
これも時間かかったけど、うすーく氷が張るくらいにまで冷やせた。
頑張れば、冷凍も可能みたいだ。
この《加熱》と《冷却》は熱を操ってるだけだから、どっちも〈火魔術〉だ。
やろうと思えばひとつにまとめられるのだが、そこをあえて《加熱》と《冷却》に分けることで、効率をよくしてるってわけ。
「次は《乾燥》ね。これどうぞ」
ハリエットさんが手ぬぐいを渡してくれたので、桶の水に浸して軽く絞った後、《乾燥》と念じてみた。
少し時間はかかったが、ちゃんと水気はとれてたよ。
「じゃあ最後に、《止血》ね」
ハリエットさんに渡されたナイフを使って、手の甲に軽く傷をつけた。
ツーっと血が流れてきたので、《止血》と念じてみる。
出血が止まったところで、ハリエットさんが手ぬぐいを渡してくれた。
血を拭ってみると、傷は開いたままだけど、血は完全に止まっていた。
「《止血》はあくまで応急処置だから、回復魔術や傷薬で処置することを忘れないでね。あと、太い血管を切った場合には効果が薄いし、仮に血を止められても、長時間経過するとその先が壊死することもあるから、気をつけて」
そう言って、ハリエットさんが俺の手の甲に、そっと手を乗せてくれた。
ちょっとひんやりとした、柔らかい手だった。
その手を外すと、傷は綺麗に消えていた。
たぶん回復魔術を使ってくれたんだと思う。
「《収納》は収納庫の契約をしないと使えないから、後日頑張ってね。もし契約後にうまく使えないときは、お手伝いするわ。まぁ、ショウスケちゃんってば優秀だから、問題ないと思うけど」
「ありがとうございます」
立ち上がった俺は、激しい立ちくらみを覚え、倒れそうになる。
ハリエットさんが優しく支えてくれた。
「大丈夫? 魔力酔いかしらね」
ちょうど顔が、おムネに当たる形になった。
(こ……これがラッキースケベってやつか!)
「ショウスケちゃん? 立てる?」
「あ、はい、もう勃って……、いやいや立てます」
「ふふ……。どうする? ウチ、泊まってく?」
「え……?」
一瞬変なことを想像してしまったが、これはあれだ、寝台で寝て魔力回復するかって意味だな。
「あの、大丈夫です」
1,000Gの借金が増えた今、10Gだって節約しないと。
頑張って冒険者ギルドまで行こう。
MP枯渇ってわけじゃないから、気をしっかり持ってればちゃんと歩ける。
「ショウスケちゃん、また来てね。いつでもおねーさんが魔術教えてあげるから」
「はい、また来ますね」
魔術教えてくれるっつっても、覚えるのは有料だけどなー。
ま、余裕ができたら攻撃系の魔術も覚えたいし、ここにはちょくちょく訪れることになるだろうな。
ハリエットさんもいるしね、ふへへ。
「あと、これからもダジギリの根、よろしくねぇ」
「了解です」
**********
魔術士ギルドを出たが、まだ全然明るい時間だった。
ハリエットさんが言ってた『魔力酔い』ってのは、魔力が枯渇しなくとも、一気に魔力消費すると出る、悪酔いに近い症状のこと。
MPが0にならなくても、短時間で一気にMPを消費すると、起こるものなんだろうな。
ただ、MPが0になるわけじゃないから、ちょっと時間を置けば自然に回復する。
冒険者ギルドに戻るころには、魔力酔いも落ち着いてきたし、ぎりぎりランチの時間に間に合ったので、とりあえず食事をすませる。
とはいえ、疲れていることに変わりはない。
この日の清掃は終わっていたので、そのまま寝台に直行し、俺は午後から翌朝まで、ぐっすり眠った。
入った部屋は、魔道講座を受けた部屋の倍くらいの広さで、ちょっと薄暗い。
魔術の練習をしているのか、先客が数名いた。
ハリエットさんに促され、俺は床に座った。
「じゃあまずは《灯火》から。使い方はなんとなくわかると思うけど、一応説明するわね」
そうなんだよな。
不思議なことに、魔術を習得すると、なんだかそれが当たり前に使えるような気になってるんだよ。
「人差し指を立てて《灯火》と念じてみて。うまく行かなければ口に出したほうがいいかもね」
「はーい」
とりあえず念じてみる。
すると、指先にほのかな光を放つ球体が現れた。
「あら、お上手ねぇ。じゃあ消せるかしら」
灯りが消えるようにイメージすると、フッと光の玉は消えた。
「じゃあ次は、《点火》ね」
同じように人差し指を立て《点火》と念じると、ライターから出るくらいの小さな火が現れた。
これも消そうと思ったら、すぐに消えた。
「あらぁ、ショウスケちゃんってば優秀ねぇ。じゃあ次はこれ」
そう言ってハリエットさんは、洗面器くらいの桶を取り出し、俺の前に置いた。
「ここに《製水》で水を出してみて」
桶を見ながら《製水》と念じると、桶が水で満たされた。
ちなみにこの《製水》、空気中の水分を集めて水を作り出す魔術だと思ってたんだが、ぜんぜん違うらしい。
いや、もともとはそういう原理の魔術だったんだが、それだと、たとえば砂漠みたいな湿気ゼロのところでは使えない、という欠点があるんだわ。
“本当に水が必要なところで水出せないなんて不便じゃね?”と過去の研究者たちが頭を捻った結果、“じゃあ水のあるところから持ってくればいいじゃん!”っとことで改良されたのが現在の《製水》。
どういう原理かというと、魔術士ギルドが管理する貯水槽から転移させてんの。
貯水槽っつっても、ダムみたいなところを何箇所も作ってるらしく、水が汚れないよう、きっちり浄化もされてるんだと。
万が一のため、海水から淡水を生成する施設も作ってるから、水不足になることはまずないらしい。
海水の淡水化なんて、元の世界でもなかなか実用レベルに達せないってのにさ。
しかも分離した不純物から、塩を取り出す施設もついでに作っちゃったらしく、塩の安定供給にも貢献しているんだと。
さらに、純粋な塩だけじゃなく、海水に含まれるミネラルやらなんやらの旨味成分も合わせた、旨味塩的なものも精製できるんだとか。
……すごくね?
どうりで、この世界の料理レベルが高ぇワケだわ。
っと、話が少し脱線してしまったが、この《製水》って魔術、名前も効果も〈水魔術〉って感じだけど、実際は転移を使った〈空魔術〉なんだな。
でも元の原理の名残で、名前は《製水》のままなんだとさ。
こんなふうに、大規模な施設を管理することで、魔術士個人に掛かる負担を軽減するってのも、魔術士ギルドの大切な役目らしい。
「じゃあ次は、《加熱》でその水を温めてみましょう」
桶の水を見ながら《加熱》と念じる。
かなり時間がかかったけど、風呂くらいの温度にはできたよ。
もう少しうまく魔力を込めるなり、時間をかけるなりすれば沸騰させることも可能らしい。
「じゃ、次は《冷却》ね」
お湯になった桶の水を、冷やしていく。
これも時間かかったけど、うすーく氷が張るくらいにまで冷やせた。
頑張れば、冷凍も可能みたいだ。
この《加熱》と《冷却》は熱を操ってるだけだから、どっちも〈火魔術〉だ。
やろうと思えばひとつにまとめられるのだが、そこをあえて《加熱》と《冷却》に分けることで、効率をよくしてるってわけ。
「次は《乾燥》ね。これどうぞ」
ハリエットさんが手ぬぐいを渡してくれたので、桶の水に浸して軽く絞った後、《乾燥》と念じてみた。
少し時間はかかったが、ちゃんと水気はとれてたよ。
「じゃあ最後に、《止血》ね」
ハリエットさんに渡されたナイフを使って、手の甲に軽く傷をつけた。
ツーっと血が流れてきたので、《止血》と念じてみる。
出血が止まったところで、ハリエットさんが手ぬぐいを渡してくれた。
血を拭ってみると、傷は開いたままだけど、血は完全に止まっていた。
「《止血》はあくまで応急処置だから、回復魔術や傷薬で処置することを忘れないでね。あと、太い血管を切った場合には効果が薄いし、仮に血を止められても、長時間経過するとその先が壊死することもあるから、気をつけて」
そう言って、ハリエットさんが俺の手の甲に、そっと手を乗せてくれた。
ちょっとひんやりとした、柔らかい手だった。
その手を外すと、傷は綺麗に消えていた。
たぶん回復魔術を使ってくれたんだと思う。
「《収納》は収納庫の契約をしないと使えないから、後日頑張ってね。もし契約後にうまく使えないときは、お手伝いするわ。まぁ、ショウスケちゃんってば優秀だから、問題ないと思うけど」
「ありがとうございます」
立ち上がった俺は、激しい立ちくらみを覚え、倒れそうになる。
ハリエットさんが優しく支えてくれた。
「大丈夫? 魔力酔いかしらね」
ちょうど顔が、おムネに当たる形になった。
(こ……これがラッキースケベってやつか!)
「ショウスケちゃん? 立てる?」
「あ、はい、もう勃って……、いやいや立てます」
「ふふ……。どうする? ウチ、泊まってく?」
「え……?」
一瞬変なことを想像してしまったが、これはあれだ、寝台で寝て魔力回復するかって意味だな。
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頑張って冒険者ギルドまで行こう。
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