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第1章
第24話 あのあとの顛末
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――グゥ……。
不意に、ラークの腹が鳴った。
「あー、腹減った……」
「ふふ……3日間なにも食べていないのだから、仕方がないだろうね」
「えっ、3日も経ってるの!?」
「驚きだろう? かく言うボクも半日ほど前に目を覚ましたばかりなんだけどね」
どうやらあれから3日間眠り続けていたことを、ラークはいまさらながら知った。
「だから、さぞお腹がすいているだろうと思ってね、ほら」
セーラムが、自身のバッグから紙袋を取り出す。
中にはサンドウィッチが入っていた。
「おっ、美味そう! あー、でも……」
彼女の持ってきたサンドウィッチを見て目を輝かせたラークだったが、すぐに表情を曇らせる。
「どうしたんだい、なにか嫌いなものでも入っているのかな?」
「いやいや、めっちゃ美味そうだし、めっちゃ腹減ってるし、めっちゃ食べたいよ? すごくありがたいんだけど……」
彼はそう言って、自身の腹を撫でた。
「3日間なにも食べてないからなぁ……」
空腹の状態が続いたあと、いきなり固形物を食べると、胃が驚いて戻してしまうことがある。
場合によっては、それで死に至ることさえあるという。
「そういうことなら、黒癒を使えばいいよ」
「黒癒かぁ……あれって、なんていうか、時間を戻す感じの魔法じゃないの?」
「時間を? いやいや、そんな大層なものじゃないよ。なんていうのかな、身体を基本の状態に近づける、という感じかな」
セーラムが言うには、魂のようなものに刻まれた人の基本的な状態というのがあるらしく、[黒癒]は身体をそこへ近づける効果があるのだとか。
[黒癒]という名の通り、あくまで癒しの魔法であり、時間に関わるものではない。
「だから、たとえば生まれつき目が見えなかったり、手脚がなかったりする人の状態なんかは治せないし、傷を受けて時間が経ちすぎたものも癒やせないんだ」
「なるほど。つまり、大けがを負って治りかけたところにかけたら、また怪我の状態に戻る、みたいなことはないってことか」
「そういうこと」
さらに[黒癒]のすごいところは、普通の回復魔法と違って対象者の生命力をほとんど消耗しない点だ。
オリヴァの[呪撃]で受けたダメージを、ああも短時間に無理やり回復すれば、普通は身体の状態が戻るより先に生命力が尽きて倒れてしまうだろう。
3日間眠ったおかげで生命力もかなり回復してはいるが、万全にはほど遠い。
だが[黒癒]であれば、いまでも問題なく回復が可能だった。
「そっか、なら安心だ。と言いたいところだけど」
「他にもなにか問題が」
「うーん……」
自身の状態について話すかどうかを迷ったラークだったが、セーラムはあの死地を乗り切った仲である。
彼女にはすべてを打ち明けてもいいだろうと考え、口を開いた。
「実は、青魔法を全部忘れちゃったんだよね」
「は?」
ラークの言葉にセーラムは唖然とする。
「いや、大変じゃないか!!」
「そうなんだよなぁ」
驚き、目を見開いて声を上げたセーラムだったが、ラークののんきな様子に呆れてため息をついた。
「はぁ……青魔道士が青魔法を失うなんて、よっぽどの事態だと思うけど、もうちょっと慌ててもいいんじゃないかな?」
「まぁ、そうかもしれないけど、あの状況を生き延びたと思うと、安心のほうが勝っちゃうよね」
「その意見には同意できるけれど、でも……」
「それに、どうやらアビリティは残ってるからね。すごいぞー。前よりかなり強くなったって実感があるね」
「ふっ……キミってヤツは」
魔王軍四天王最強と呼ばれ、魔鋼票冒険者よりも遙かに強いオリヴァという魔族と戦い、生き延びた。
その結果失ったものではなく、得たもの、残ったものを見る彼の前向きな姿勢に、セーラムは思わず微笑んだ。
「というわけで、お願いします。美味そうなサンドウィッチを前に、お腹が叛乱を起こしそうだよ」
「ああ、わかったよ」
セーラムが手をかざし、ラークの身体が淡く光る。
「あ、いい感じ……」
身体の芯に残っていた疲れや、長時間眠り続けたせいで全身にあったきしみのような痛みが、癒されていく。
そして――、
《ラーニング成功! [黒癒]を習得》
――天の声が頭に響いた。
「よし、狙い通りだ」
「どうしたんだい?」
「セーラムのおかげでいま――」
《[黒癒]の効果により[黒癒]を忘却》
「――あー……」
「……だから、どうしたっていうんだい?」
なにやら喜んだかと思えば、残念そうに声を漏らすラークに、セーラム怪訝な表情を向ける。
「いや、実はさっき[黒癒]をラーニングしたんだよ」
「なるほど、忘れてしまった青魔法も、あらためて覚え直せばいいというわけだね。だからキミはそこまで悲観的に――」
「またすぐに忘れちゃったけど」
「――ならずに……なんだって!?」
そこでラークは、オリヴァ戦で経験したことも含め、[黒癒]の忘却効果について話した。
「忘却っていうのがはじめてでさ。だからなんでそんなことが起こるのかなーって」
「ふむう……ボクも正確なことはわからないけど、たぶん青魔法がしっかりと魂に定着さえすれば、忘却はしなくなるんじゃないかな」
「そういうものかな」
「ああ」
納得したように頷くセーラムだったが、ふと眉をひそめる。
「待ってくれ、じゃあなぜあのときキミは、黒癒を使えていたんだい?」
「俺にはディープラーニングがあるからね」
続けてラークは、〈ディープラーニング〉についても話した。
「ははは……なんとまぁ……」
習得済みの青魔法を改良でき、組み合わせて新しい魔法を創り出せるうえ、忘却しても再習得できる。
誰も知らなかった青魔法の恐るべき可能性に、セーラムは顔を引きつらせた。
「というわけだからさ」
ラークは軽く俯き、目を閉じた。
そして先ほど受けた[黒癒]の感覚を思い出す。
《ディープラーニング成功! [黒癒]を再習得》
「よし」
顔を上げたラークは、セーラムに手をかざした。
「これは、黒癒?」
「そう。たぶん他のもそのうち思い出せるよ」
彼は気楽に言うと、サイドテーブルに置かれたサンドウィッチに手をのばした。
「じゃ、いただきまーす」
そして包みをほどき、食べ始めた。
「そういやさ、教えてくれたよね?」
ひとつをぺろりと平らげ、ふたつ目を手にしたラークが、思い出したように尋ねる。
「なんの話だい?」
「サンドウィッチの由来」
「ふふっ、そうだったね」
ラークの言葉に、セーラムは昔を懐かしむように微笑む。
――ガチャリ。
そのとき、部屋のドアが開いた。
「ラークちゃん、目を覚ましたのね!」
アンバーが室内に駆け込んできた。
「まったく、心配かけて……。エドモンくんもよ」
呆れたように言いながらふたりを交互に見るアンバーだったが、安堵の表情を浮かべていた。
「心配かけてごめん」
「申し訳なかったね。ボクのことも気にかけてくれたようで」
「そりゃそうよ。ホントにもう……」
アンバーは腕を組み、わざとらしく鼻息を荒げたが、目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「ラークちゃんは倒れたまま運ばれてくるし、エドモンくんも報告を終えるなり気を失ったっていうし、ふたりともいつまで経っても目を覚まさないし、本当に心配したんだからね」
大氾濫の最中、アンバーは治療院で働きづめだった。
そこへ意識を失ったラークが運ばれてきたのだから、本当に驚いたことだろう。
幸い命に別状はなく、しっかり休んで生命力を回復させれば問題ないとのことだったので、治療院で1日寝かせたあと、この部屋へ運ばれた。
次から次へと怪我人が運び込まれる治療院の病床に、寝れば回復する人間を置いておく余裕はないのだ。
エドモンことセーラムは、チェブランコへの報告を終えるなり気を失った。
そこからの処置はギルドマスター自らおこなったので、アンバーも詳細は知らなかった。
「どうやら大した問題はなさそうだし、あとはエドモンくん、お願いできるかしら?」
「任されよう」
「それじゃ、あたしは戻るわね」
「戻るって、治療院に?」
「そうよ。大忙しなんだから」
聞けばこの3日のあいだに『草原』と『神殿』の魔族は倒され、スタンピードは収まりつつあるようだ。
幸いそのどちらもダンジョンコアを破壊せずにすんだという。
『塔』を始め、それ以外にもいくつかあるダンジョンも活性化は見られたが、ラークたちがオリヴァを倒したあたりから落ち着きが見られはじめた。
それらの状況を加味した結果、今回の大氾濫はほぼ収まったとギルドは判断し、一両日には終息宣言が出されるだろうとのことだった。
「というわけで今日を乗り切れば治療院も落ち着くはずだから……」
そこでアンバーはラークとエドモンにそれぞれ鋭い視線を向ける。
「明日はじっくり話をきかせてもらうからね」
彼女はそう言って、部屋を出て行った。
「……ってことだけど、どうしよう?」
アンバーを見送ったあと、ラークはそう尋ねながら、困ったようにセーラムを見る。
彼女の正体を姉に話すべきかどうか、彼には迷いがあった。
「大丈夫、問題ないよ」
当のセーラムは落ち着いたものだった。
「問題ないって、どいうこと? うまくごまかせる自信があるってこと? 言っておくけど姉さんはすごく頭がよくて勘も鋭いから、ヘタなごまかしは通用しないよ? でも君の正体を話したらどんなことになるかなぁ……ああ、本当にどうしよう……」
「そう心配することはないよ。彼女は全部お見通しだからね」
「お見通しって、ほんとに?」
「ああ。だからすべて話してしまって問題ない」
「いや、でも、セーラムが先代魔王の娘さんだなんてことに、いくら姉さんでも気付けないんじゃないかなぁ」
「ボクがボヘムにいったとき、見られたんじゃないかな? 変装はしてるつもりだけど、アンバーさんなら見抜けるかも知れないし」
「うーん、たしか姉さんはあのとき、いなかったんだよなぁ……」
「じゃあ家族から特徴を聞いたとか、かな。少なくともボクが魔族ってことは気づいていると思う」
「それくらいなら気づくかな? いや、でもなぁ……」
ラークはしばらく悩んだが、セーラムが問題ないと言い張るのですべてを話す覚悟を決めた。
不意に、ラークの腹が鳴った。
「あー、腹減った……」
「ふふ……3日間なにも食べていないのだから、仕方がないだろうね」
「えっ、3日も経ってるの!?」
「驚きだろう? かく言うボクも半日ほど前に目を覚ましたばかりなんだけどね」
どうやらあれから3日間眠り続けていたことを、ラークはいまさらながら知った。
「だから、さぞお腹がすいているだろうと思ってね、ほら」
セーラムが、自身のバッグから紙袋を取り出す。
中にはサンドウィッチが入っていた。
「おっ、美味そう! あー、でも……」
彼女の持ってきたサンドウィッチを見て目を輝かせたラークだったが、すぐに表情を曇らせる。
「どうしたんだい、なにか嫌いなものでも入っているのかな?」
「いやいや、めっちゃ美味そうだし、めっちゃ腹減ってるし、めっちゃ食べたいよ? すごくありがたいんだけど……」
彼はそう言って、自身の腹を撫でた。
「3日間なにも食べてないからなぁ……」
空腹の状態が続いたあと、いきなり固形物を食べると、胃が驚いて戻してしまうことがある。
場合によっては、それで死に至ることさえあるという。
「そういうことなら、黒癒を使えばいいよ」
「黒癒かぁ……あれって、なんていうか、時間を戻す感じの魔法じゃないの?」
「時間を? いやいや、そんな大層なものじゃないよ。なんていうのかな、身体を基本の状態に近づける、という感じかな」
セーラムが言うには、魂のようなものに刻まれた人の基本的な状態というのがあるらしく、[黒癒]は身体をそこへ近づける効果があるのだとか。
[黒癒]という名の通り、あくまで癒しの魔法であり、時間に関わるものではない。
「だから、たとえば生まれつき目が見えなかったり、手脚がなかったりする人の状態なんかは治せないし、傷を受けて時間が経ちすぎたものも癒やせないんだ」
「なるほど。つまり、大けがを負って治りかけたところにかけたら、また怪我の状態に戻る、みたいなことはないってことか」
「そういうこと」
さらに[黒癒]のすごいところは、普通の回復魔法と違って対象者の生命力をほとんど消耗しない点だ。
オリヴァの[呪撃]で受けたダメージを、ああも短時間に無理やり回復すれば、普通は身体の状態が戻るより先に生命力が尽きて倒れてしまうだろう。
3日間眠ったおかげで生命力もかなり回復してはいるが、万全にはほど遠い。
だが[黒癒]であれば、いまでも問題なく回復が可能だった。
「そっか、なら安心だ。と言いたいところだけど」
「他にもなにか問題が」
「うーん……」
自身の状態について話すかどうかを迷ったラークだったが、セーラムはあの死地を乗り切った仲である。
彼女にはすべてを打ち明けてもいいだろうと考え、口を開いた。
「実は、青魔法を全部忘れちゃったんだよね」
「は?」
ラークの言葉にセーラムは唖然とする。
「いや、大変じゃないか!!」
「そうなんだよなぁ」
驚き、目を見開いて声を上げたセーラムだったが、ラークののんきな様子に呆れてため息をついた。
「はぁ……青魔道士が青魔法を失うなんて、よっぽどの事態だと思うけど、もうちょっと慌ててもいいんじゃないかな?」
「まぁ、そうかもしれないけど、あの状況を生き延びたと思うと、安心のほうが勝っちゃうよね」
「その意見には同意できるけれど、でも……」
「それに、どうやらアビリティは残ってるからね。すごいぞー。前よりかなり強くなったって実感があるね」
「ふっ……キミってヤツは」
魔王軍四天王最強と呼ばれ、魔鋼票冒険者よりも遙かに強いオリヴァという魔族と戦い、生き延びた。
その結果失ったものではなく、得たもの、残ったものを見る彼の前向きな姿勢に、セーラムは思わず微笑んだ。
「というわけで、お願いします。美味そうなサンドウィッチを前に、お腹が叛乱を起こしそうだよ」
「ああ、わかったよ」
セーラムが手をかざし、ラークの身体が淡く光る。
「あ、いい感じ……」
身体の芯に残っていた疲れや、長時間眠り続けたせいで全身にあったきしみのような痛みが、癒されていく。
そして――、
《ラーニング成功! [黒癒]を習得》
――天の声が頭に響いた。
「よし、狙い通りだ」
「どうしたんだい?」
「セーラムのおかげでいま――」
《[黒癒]の効果により[黒癒]を忘却》
「――あー……」
「……だから、どうしたっていうんだい?」
なにやら喜んだかと思えば、残念そうに声を漏らすラークに、セーラム怪訝な表情を向ける。
「いや、実はさっき[黒癒]をラーニングしたんだよ」
「なるほど、忘れてしまった青魔法も、あらためて覚え直せばいいというわけだね。だからキミはそこまで悲観的に――」
「またすぐに忘れちゃったけど」
「――ならずに……なんだって!?」
そこでラークは、オリヴァ戦で経験したことも含め、[黒癒]の忘却効果について話した。
「忘却っていうのがはじめてでさ。だからなんでそんなことが起こるのかなーって」
「ふむう……ボクも正確なことはわからないけど、たぶん青魔法がしっかりと魂に定着さえすれば、忘却はしなくなるんじゃないかな」
「そういうものかな」
「ああ」
納得したように頷くセーラムだったが、ふと眉をひそめる。
「待ってくれ、じゃあなぜあのときキミは、黒癒を使えていたんだい?」
「俺にはディープラーニングがあるからね」
続けてラークは、〈ディープラーニング〉についても話した。
「ははは……なんとまぁ……」
習得済みの青魔法を改良でき、組み合わせて新しい魔法を創り出せるうえ、忘却しても再習得できる。
誰も知らなかった青魔法の恐るべき可能性に、セーラムは顔を引きつらせた。
「というわけだからさ」
ラークは軽く俯き、目を閉じた。
そして先ほど受けた[黒癒]の感覚を思い出す。
《ディープラーニング成功! [黒癒]を再習得》
「よし」
顔を上げたラークは、セーラムに手をかざした。
「これは、黒癒?」
「そう。たぶん他のもそのうち思い出せるよ」
彼は気楽に言うと、サイドテーブルに置かれたサンドウィッチに手をのばした。
「じゃ、いただきまーす」
そして包みをほどき、食べ始めた。
「そういやさ、教えてくれたよね?」
ひとつをぺろりと平らげ、ふたつ目を手にしたラークが、思い出したように尋ねる。
「なんの話だい?」
「サンドウィッチの由来」
「ふふっ、そうだったね」
ラークの言葉に、セーラムは昔を懐かしむように微笑む。
――ガチャリ。
そのとき、部屋のドアが開いた。
「ラークちゃん、目を覚ましたのね!」
アンバーが室内に駆け込んできた。
「まったく、心配かけて……。エドモンくんもよ」
呆れたように言いながらふたりを交互に見るアンバーだったが、安堵の表情を浮かべていた。
「心配かけてごめん」
「申し訳なかったね。ボクのことも気にかけてくれたようで」
「そりゃそうよ。ホントにもう……」
アンバーは腕を組み、わざとらしく鼻息を荒げたが、目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「ラークちゃんは倒れたまま運ばれてくるし、エドモンくんも報告を終えるなり気を失ったっていうし、ふたりともいつまで経っても目を覚まさないし、本当に心配したんだからね」
大氾濫の最中、アンバーは治療院で働きづめだった。
そこへ意識を失ったラークが運ばれてきたのだから、本当に驚いたことだろう。
幸い命に別状はなく、しっかり休んで生命力を回復させれば問題ないとのことだったので、治療院で1日寝かせたあと、この部屋へ運ばれた。
次から次へと怪我人が運び込まれる治療院の病床に、寝れば回復する人間を置いておく余裕はないのだ。
エドモンことセーラムは、チェブランコへの報告を終えるなり気を失った。
そこからの処置はギルドマスター自らおこなったので、アンバーも詳細は知らなかった。
「どうやら大した問題はなさそうだし、あとはエドモンくん、お願いできるかしら?」
「任されよう」
「それじゃ、あたしは戻るわね」
「戻るって、治療院に?」
「そうよ。大忙しなんだから」
聞けばこの3日のあいだに『草原』と『神殿』の魔族は倒され、スタンピードは収まりつつあるようだ。
幸いそのどちらもダンジョンコアを破壊せずにすんだという。
『塔』を始め、それ以外にもいくつかあるダンジョンも活性化は見られたが、ラークたちがオリヴァを倒したあたりから落ち着きが見られはじめた。
それらの状況を加味した結果、今回の大氾濫はほぼ収まったとギルドは判断し、一両日には終息宣言が出されるだろうとのことだった。
「というわけで今日を乗り切れば治療院も落ち着くはずだから……」
そこでアンバーはラークとエドモンにそれぞれ鋭い視線を向ける。
「明日はじっくり話をきかせてもらうからね」
彼女はそう言って、部屋を出て行った。
「……ってことだけど、どうしよう?」
アンバーを見送ったあと、ラークはそう尋ねながら、困ったようにセーラムを見る。
彼女の正体を姉に話すべきかどうか、彼には迷いがあった。
「大丈夫、問題ないよ」
当のセーラムは落ち着いたものだった。
「問題ないって、どいうこと? うまくごまかせる自信があるってこと? 言っておくけど姉さんはすごく頭がよくて勘も鋭いから、ヘタなごまかしは通用しないよ? でも君の正体を話したらどんなことになるかなぁ……ああ、本当にどうしよう……」
「そう心配することはないよ。彼女は全部お見通しだからね」
「お見通しって、ほんとに?」
「ああ。だからすべて話してしまって問題ない」
「いや、でも、セーラムが先代魔王の娘さんだなんてことに、いくら姉さんでも気付けないんじゃないかなぁ」
「ボクがボヘムにいったとき、見られたんじゃないかな? 変装はしてるつもりだけど、アンバーさんなら見抜けるかも知れないし」
「うーん、たしか姉さんはあのとき、いなかったんだよなぁ……」
「じゃあ家族から特徴を聞いたとか、かな。少なくともボクが魔族ってことは気づいていると思う」
「それくらいなら気づくかな? いや、でもなぁ……」
ラークはしばらく悩んだが、セーラムが問題ないと言い張るのですべてを話す覚悟を決めた。
0
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小説家になろう
https://ncode.syosetu.com/n5971ho/
カクヨム
https://kakuyomu.jp/works/16816927860928867020
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