ディープラーニングから始まる青魔道士の快進撃

平尾正和/ほーち

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第1章

第15話 町の異変

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「ははっ! すごい、すごいぞこれは!」

 ラークはひとりで突きや蹴りを繰り出しながら、嬉しそうに声を上げていた。
 いつもの訓練している型の動きすべてに、魔力が乗っているような感覚があるのだ。

「すごい、全部が青魔法だ!」

 繰り出す攻撃のすべてが、青魔法だった。

 その証拠に、ときおり壁を殴ったり蹴ったりしてみたが、痛みがなかった。

「いまある手札を組み合わせるだけで、新たな青魔法を習得できるなんて……!」

 それが〈ディープラーニング〉の効果だった。

「それだけじゃない!」

 ラークは少し先に現れたレッドキャップに向けて、片腕を軽く振った。

「ギギッ!?」

 彼が放った風の刃によって、敵は真っ二つに切り裂かれ、消滅する。

《ディープラーニング成功! [ウィンドスラッシュ改]を習得》

 本来両腕を大きく振らなくてはならない[ウィンドスラッシュ]を、片手で撃てるようになった。

 〈ディープラーニング〉は複数の青魔法を組み合わせて新しい魔法を作るだけでなく、既存の魔法を改良することもできたのだった。

「強くなれる……俺はもっと強くなれるぞ!!」

 こうしてラークは休むことも忘れて新たな青魔法習得に努めた。

 すべての青魔法が無制限に組み合わさるわけではなかったが、それでも彼はいくつかの魔法を新たに習得した。

「アビリティは、上がらないか……」

 ただ〈ディープラーニング〉はあくまで新たな青魔法の習得ができるだけで、アビリティの上昇には通常の〈ラーニング〉が必要だということも判明したのだった。

○●○●

「ちょっとお客さん、いいかげん起きてくださいよ」
「ん……?」

 『塔』を出て町へ戻る馬車に乗ったラークだったが、どうやら眠っていたらしい。

「ああ、やっと起きなすった」
「ふぁ……すみません」

 街に着いてしばらく経つのか、ラークの他に乗客の姿はなかった。

「まったく、こんなときに馬車で居眠りとは、のんきな冒険者がいたもんだ」

 馬車の馭者と思しき男性が、心底呆れたようにそう言って、肩をすくめる。

「こんなとき……?」
「ほらほら、さっさと降りて! こちとら忙しいんだから」
「あ、ああ、すみません」

 ラークはせき立てられるように馬車を降り、町に入った。

「なんだか、騒がしいな?」

 まだ眠気の残る頭のまま歩きながら、彼はそう言って辺りを見回す。

 ひと月ぶりに帰ってきた町は、様子がどうにもおかしかった。
 だが具体的にどうおかしいのかまではよくわからない。
 まだ、頭がうまく回っていないようだった。

 そうやって騒がしい町を歩き、冒険者ギルドに到着する。

「うわぁ……」

 まだ昼だというのに、ギルドには多くの冒険者がいた。

 なにやら殺伐とした雰囲気の冒険者たちをよけながら、受付に到着する。

「あの……」
「ああ、ラークさん! 貴重な鋼鉄票冒険者スティールタグなのにいったいどこへいっていたんですか!?」

 受付担当の女性から責めるようにそう問われ、ラークはたじろいだ。

「いえ、その、ひと月ほど『塔』に篭もってまして……」
「そうなんですね……じゃあ、いまの状況もわからない?」
「はぁ、なんだか騒がしいなぁくらいにしか」
「それは……仕方がありませんね……はぁ……」

 ラークの言葉に、彼女は肩を落としてため息をつく。ずいぶんお疲れのように見えた。

「なにかあったんですか?」
「実は、大氾濫スタンピードの兆候がありまして……」
「ええっ!?」

 大氾濫スタンピードと聞いて思わず声をあげたラークだったが、思い返せばここしばらく続いていた魔物の活性化は、異常だった。

 どうやらあれもまた、小さな兆候であったようだ。

「兆候があるということは、まだ発生はしていないんですね?」
「はい。ですが時間の問題かと」

 受付担当は昏い表情でそう告げた。

「『塔』も、そこそこ魔物が多かったでしょう?」
「あー、えっと……そういえば……?」

 言われてみればいつもより魔物が多かった気もするが、〈ディープラーニング〉で習得した新たな青魔法を試しているうちに気分が高揚し、状況を把握する余裕はなかった。

 何度か冒険者とも行き違ったはずだが、彼らの様子についてもほとんど覚えていない。

 勢いに任せて塔を駆け抜け、馬車に乗ってすぐに眠ってしまったのだ。

「ああっ、そうだ! 姉さんは!?」

 町が大変な状況になっていると知り、姉のことが心配になった。

「アンバーさんなら治療院に詰めてますね。しばらくは帰れないかと……」
「ああ、そうなんですね。なら大丈夫かな」

 申し訳なさそうに告げる受付担当だったが、ラークはむしろ安心した。
 この状況だと治療院は大忙しだろうが、ダンジョンに駆り出されるよりは安全だ。

「それで、俺はどうすればいいんでしょう?」
「いま特に『廃坑』が危険な状態なので、できればラークさんにはそちらへ行っていただきたいのですが……」

 そこで彼女は、ラークの顔をじっと見据えて眉をひそめる。

「おかしいですね……」
「えっと、なにか……?」
「ラークさんはいま、エドモンさんとパーティーを組んでいるんですよね?」
「あっ……!」

 ラークはそのことをすっかり忘れていた。

 平時ならばエドモンがギルドに顔を出さなければ、『塔』で別れたことが露見することはない。

 だがいまは有事である。

 そして彼がこの町の危機的な状況に、なにもしないわけがないのだ。

「エドモンさんは半月ほど前に『塔』を出たと言ってましたが? もちろんラークさんも一緒に」
「いや……それは、その……」

 たじろぐラークを見ていた受付担当が、大きなため息をつく。

「はぁ……しかたありません、いまは置いておきましょう」
「あの……すみません」
「ただし、後日きっちり事情は聞かせていただきますからね」
「あ、はい」
「それにしても……」

 ふと顔を上げた彼女は、心配そうな表情でラークを見つめる。

「かなりお疲れのようですねぇ……」
「……そう見えます?」
「はい。いまにも倒れそうに見えます」
「はぁ……そうですか」

 馬車で少し眠ったおかげか、目は覚めているつもりだが、気の抜けた言葉しか返せないあたり頭はまだ回っていないのかもしれない。

「仕方ありません。今日のところは帰って休んでください」
「あー、いいんですか?」
「ええ。ただでさえ危険なダンジョンに、いまのあなたを向かわせるわけにはいきませんからね」
「はぁ、わかりました。ではまた明日」

 ぼんやりした頭でそう答えたラークは、そのままギルドを出て宿に戻った。

 あまり眠気を感じておらず、眠れないかもしれないと不安だったが、部屋に入ってベッドに倒れ込むなり、ラークは意識を失った。
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