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第1章
第12話 『塔』の7階
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「それじゃあ、キミとはここでお別れだ」
『塔』に入るなり、エドモンはラークに告げた。
「あ、うん。ありがとう」
ラークはぎこちなく、彼に礼を言った。
あのあと気づけばエドモンは姿を消していた。
すでにギルドを出て『塔』に向かっている、と受付担当から告げられたラークは慌ててあとを追ったが、彼を乗せた馬車はすでに出発した後だった。
1本あとの馬車で遅れて到着したラークはエドモンに謝罪したが、黙って先に出た自分が悪いと、逆に謝られた。
そこから妙にぎくしゃくしてしまい、姉とのことなどをうまく聞き出せないまま塔に入った。
そして、別れることになった。
もともとラークは長期間『塔』に篭もる予定で、エドモンに付き合わせるつもりはなかった。
入場には厳しいが、退場に関しては緩いので、別々に出てもそれほど問題はない。
「まぁ、せっかくだし、10日ほど潜らせてもらうよ」
「ああ、うん。気をつけて」
「キミのほうこそ、気をつけて」
最後に彼はそう言い残し、ラークの前を去っていた。
「仲良くなれたと思ったのになぁ……」
去って行くエドモンの姿を見ながら、ラークはそう呟いた。
「よしっ、気を取り直して、いくか!」
エドモンの姿が見えなくなったところで、両手で自分の顔を叩き、気合いを入れ直す。
「油断せずにいかないとね」
パーティー内に鋼鉄票冒険者が2人以上いること、という入場規制がある『塔』は、いうまでもなく高難度のダンジョンだ。
別名『死の影の塔』と呼ばれるこの場所は、多くの冒険者を死に追いやってきた。
『塔』という名が示すとおり、このダンジョンは上層に向かって進んでいく。
外から見ると頂上が雲に隠れて見えないほど高く、最上階に到達した者はいなかった。
上にいくほど難易度が高く、下層はそれほどでもない。
10階くらいまでなら、ジョブによっては鋼鉄票冒険者のソロでも探索は可能だ。
白銀票冒険者に近い実力をもつラークなら、下層に限っては問題なく活動できた。
ちなみにラークが抜ける前の『幸運の一撃』は、この『塔』の30~40階あたりを中心に探索していた。
なのでラークは、何度もここへ足を運んだことがあった。
何度も行き来した場所ではあるが、やはりパーティーとソロでは勝手が違った。
下層階などいつもは駆け抜けるように進んでいたが、不十分な索敵によって不意打ちを受けることもあり、思わぬ苦戦を強いられる場面がいくつかあった。
そうやって半日ほど進んだところで、塔の7階に到着した。
「ふぅ……やっと着いたか」
ここが、ラークの目的地だった。
「おっ、いるな」
通路の向こうに、赤い帽子を被ったゴブリンの姿が見えた。
レッドキャップという魔物だ。
「とりあえず、いっとくか……おりゃっ!」
ラークはレッドキャップへと駆け寄ると、そのまま間合いを詰めて頭突きを食らわせた。
「ゲペッ……」
ヘッドバットを食らったレッドキャップは頭を潰されて倒れ、消滅した。
そのあとに、魔石と赤い帽子が残る。
「そううまくはいかないよな」
ラークはそう言ってため息をつくと、魔石だけを拾ってポーチに入れた。
赤い帽子も買い取ってはもらえるが、それこそ二束三文にしかならない。
魔法鞄といっても容量に制限はあるので、あまりに価値の低いものを入れる余裕はなかった。
「よし、まずは安全地帯を目指そう」
ダンジョンには、魔物が出現しにくかったり、襲われづらかったりする場所がある。
そういう場所は安全地帯と呼ばれ、冒険者の休憩所として使われることが多かった。
塔の7階にもいくつか安全地帯があり、そのひとつを目指してラークは進んだ。
途中、数匹のレッドキャップを倒したが、赤い帽子ばかりがドロップされた。
辿り着いたのは、袋小路のような場所だった。
通常安全地帯は、なにかあった場合の逃げ道として複数の通路かドアのある広間であることが多い。
ただ、弱い魔物しか出現しないエリアの場合は不意打ちさえ防げれば問題ないので、一方向にのみ注意を配ればいい袋小路が好まれることもあった。
そしてこの塔の7階には、大して強くないレッドキャップ以外の魔物が出現しない。
「あ、どうも」
安全地帯には、先客がふたりがいた。
ひとりはスキンヘッドで体格のいいヒューマン、もうひとりは小柄な猫獣人で、どちらも男性だった。
「よう。兄さんは今日からかい?」
スキンヘッドの男性が、声をかけてきた。
「ええ。おふたりは?」
「俺は今日で半月くらいだな。そっちのおっさんはもうふた月以上になるらしいぜ」
「へへ……まぁ、何回か出入りはしてやすがね」
自嘲気味に笑う猫獣人の目からは、生気が失われているように感じられた。
「それは、大変ですね」
ふた月と聞いて、ラークは覚悟を新たにする。
「兄さんはなに狙いだい? ちなみに俺は【武闘僧】だ」
「俺も、そうですね」
「ふふん、たしかに体術の心得がありそうな佇まいだな。装備からして、いまは魔道士かなにかか」
「まぁ、そんなところです」
スキンヘッドは動きやすそうな革鎧を身に着け、長剣を傍らに置いているので、【戦士】なのだろう。
「あっしは【斥候】以外ならなんでも構いやせん」
猫獣人はさらに軽装なので、現在【斥候】だと思われる。
「ジョブチェンジ、うまくいくといいな」
スキンヘッドが、誰に言うでもなく呟いた。
『塔』の7階は、『転職エリア』と呼ばれている。
ここに出現するレッドキャップが極まれに落とすアイテムを得れば、ジョブチェンジが可能なのだ。
本来ジョブは、その人物にあったものが授けられる。
だがときにその人物の適性と、本人の意志とが食い違うこともあった。
あるいはケガや病気の後遺症などで、ジョブの能力を生かせなくなる者もいる。
そんな者たちが一縷の望みをかけて訪れるのが、各地にある『転職エリア』であり、ここもそのひとつだった。
ただ、当該アイテムのドロップ率は非常に低く、人によっては1年以上かけ、数万匹のレッドキャップを倒しても手に入れられないこともあるという。
なので、ジョブチェンジにはそれなりの覚悟をもって臨む必要があるのだった。
――――――――――
お読みいただきありがとうございます。
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1本あとの馬車で遅れて到着したラークはエドモンに謝罪したが、黙って先に出た自分が悪いと、逆に謝られた。
そこから妙にぎくしゃくしてしまい、姉とのことなどをうまく聞き出せないまま塔に入った。
そして、別れることになった。
もともとラークは長期間『塔』に篭もる予定で、エドモンに付き合わせるつもりはなかった。
入場には厳しいが、退場に関しては緩いので、別々に出てもそれほど問題はない。
「まぁ、せっかくだし、10日ほど潜らせてもらうよ」
「ああ、うん。気をつけて」
「キミのほうこそ、気をつけて」
最後に彼はそう言い残し、ラークの前を去っていた。
「仲良くなれたと思ったのになぁ……」
去って行くエドモンの姿を見ながら、ラークはそう呟いた。
「よしっ、気を取り直して、いくか!」
エドモンの姿が見えなくなったところで、両手で自分の顔を叩き、気合いを入れ直す。
「油断せずにいかないとね」
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別名『死の影の塔』と呼ばれるこの場所は、多くの冒険者を死に追いやってきた。
『塔』という名が示すとおり、このダンジョンは上層に向かって進んでいく。
外から見ると頂上が雲に隠れて見えないほど高く、最上階に到達した者はいなかった。
上にいくほど難易度が高く、下層はそれほどでもない。
10階くらいまでなら、ジョブによっては鋼鉄票冒険者のソロでも探索は可能だ。
白銀票冒険者に近い実力をもつラークなら、下層に限っては問題なく活動できた。
ちなみにラークが抜ける前の『幸運の一撃』は、この『塔』の30~40階あたりを中心に探索していた。
なのでラークは、何度もここへ足を運んだことがあった。
何度も行き来した場所ではあるが、やはりパーティーとソロでは勝手が違った。
下層階などいつもは駆け抜けるように進んでいたが、不十分な索敵によって不意打ちを受けることもあり、思わぬ苦戦を強いられる場面がいくつかあった。
そうやって半日ほど進んだところで、塔の7階に到着した。
「ふぅ……やっと着いたか」
ここが、ラークの目的地だった。
「おっ、いるな」
通路の向こうに、赤い帽子を被ったゴブリンの姿が見えた。
レッドキャップという魔物だ。
「とりあえず、いっとくか……おりゃっ!」
ラークはレッドキャップへと駆け寄ると、そのまま間合いを詰めて頭突きを食らわせた。
「ゲペッ……」
ヘッドバットを食らったレッドキャップは頭を潰されて倒れ、消滅した。
そのあとに、魔石と赤い帽子が残る。
「そううまくはいかないよな」
ラークはそう言ってため息をつくと、魔石だけを拾ってポーチに入れた。
赤い帽子も買い取ってはもらえるが、それこそ二束三文にしかならない。
魔法鞄といっても容量に制限はあるので、あまりに価値の低いものを入れる余裕はなかった。
「よし、まずは安全地帯を目指そう」
ダンジョンには、魔物が出現しにくかったり、襲われづらかったりする場所がある。
そういう場所は安全地帯と呼ばれ、冒険者の休憩所として使われることが多かった。
塔の7階にもいくつか安全地帯があり、そのひとつを目指してラークは進んだ。
途中、数匹のレッドキャップを倒したが、赤い帽子ばかりがドロップされた。
辿り着いたのは、袋小路のような場所だった。
通常安全地帯は、なにかあった場合の逃げ道として複数の通路かドアのある広間であることが多い。
ただ、弱い魔物しか出現しないエリアの場合は不意打ちさえ防げれば問題ないので、一方向にのみ注意を配ればいい袋小路が好まれることもあった。
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「あ、どうも」
安全地帯には、先客がふたりがいた。
ひとりはスキンヘッドで体格のいいヒューマン、もうひとりは小柄な猫獣人で、どちらも男性だった。
「よう。兄さんは今日からかい?」
スキンヘッドの男性が、声をかけてきた。
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「俺は今日で半月くらいだな。そっちのおっさんはもうふた月以上になるらしいぜ」
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ここに出現するレッドキャップが極まれに落とすアイテムを得れば、ジョブチェンジが可能なのだ。
本来ジョブは、その人物にあったものが授けられる。
だがときにその人物の適性と、本人の意志とが食い違うこともあった。
あるいはケガや病気の後遺症などで、ジョブの能力を生かせなくなる者もいる。
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