聖弾の射手

平尾正和/ほーち

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第二章

第18話 ダンジョンでの初戦闘です

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 探索を再開した一行は、ほどなく27番回廊に入った。
 そこから数十メートル進んだところで、魔物の気配があった。

「グルル……」

 現れたのは、コボルトの群れだった。

「コボルトが3匹か。いけるかい?」

 バートの問いかけに、賢人とルーシーが頷く。

「ではお手並み拝見といこうか」
「ええ、任せてちょうだい」

 賢人とルーシーが並んで前に出、先頭にいたマリーを待ってバートは下がった。
 その際に彼はアイリに目配せをし、視線を受けた彼女は小さく頷いた。
 なにかあれば援護する、ということだろう。

「それじゃケント、いくわよ」
「おう」

 現れたコボルトは、槍を持った個体、ブロードソードと円盾を装備した個体、そして素手の個体の3匹だった。
 素手の個体だけがほかの2匹にくらべてひと回りほど大きく、上半身に防具を身に着けていない。
 ほかの2匹は革の胸甲装備している。

「……っ!!」

 ルーシーは無言のまま駆け出し、中央に位置する槍のコボルトめがけて突進した。
 槍のコボルトは槍を構えて腰を落とし、他の2匹が左右から挟み込むようにルーシーへと迫る。

 ――バスッ! バスッ!

 賢人が短筒の引き金を引き、軽い音とともに光弾が発射された。

「キャゥッ!?」
「グルゥ……!」

 1発は素手のコボルトの肩に当たり、もう1発は剣のコボルトに盾で防がれた。

(森のコボルトなら、いまので倒せてたけどな)

 あわよくば倒すつもりでそれなりの魔力を込めた射撃だったが、素手のコボルトは着弾の直前に身をひねって致命傷を避け、もう1匹にはあっさりと防がれてしまう。
 ただ、あくまで目的は牽制であり、それは成功した。
 左右から迫っていた2匹が足を止めたことで、ルーシーと槍のコボルトとで一対一となる。

「グルァッ!」

 雄叫びとともに鋭い突きが放たれる。
 しかしルーシーはその槍の一撃をひらりとかわし、一気に間合いを詰めた。

「はぁっ!」
「ギャフゥッ……!」

 大技を繰り出して隙だらけになったコボルトは、ルーシーのロングソードによって袈裟懸けに斬り倒された。
 致命傷である。

「せあーっ!」

 槍のコボルトを倒したルーシーは、そのまま止まることなく左に踏み込み、身体をねじって突きを放った。

「グブッ……!」

 鋭い刺突は剣のコボルトが構える盾の脇を抜け、胸を貫いた。

「ふっ……」

 根本まで刺さったロングソードを抜き、身を翻す。

「グボッ……」

 背後から襲いかかろうとした素手のコボルトは、賢人の追撃を数発受けて仰向けに倒れた。

「やるじゃないか」
「おみごとです」

 全てのコボルトが消滅したところで、バートとマリーがほぼ同時に声を上げた。

「ルーシーすごい!」
「ごふっ……!」

 そしてアイリはルーシーに駆け寄り、勢いよく彼女に抱きついた。

 3人の反応から、どうやら認めてもらえたようだと、賢人は少し安心する。

「それにしてもルーシーは、あいかわらず貧乏くさい戦い方をするねぇ」

 先ほどまでとは一転して、バートは急にルーシーを貶めるようなことを言う。

「バート、ルーシーをバカにすることはアイリが許さない」

 最初に反応したのは、アイリだった。
 当のルーシーは、小さく苦笑を漏らすに留まる。

「そうほいほいと武器を買い換えられる身分じゃないし、メンテナンスも少ないほうがいいから。それに、武器を大切にするのって悪くないことでしょう?」
「たしかに武器を大切にすることは悪いことじゃない。でも、だからといって命を粗末にしてもいいというわけじゃないからね」
「別に、そんなつもりじゃないけど」
「ふん、どうだか」

 吐き捨てるようにそう言ったあと、バートの手にひと振りの剣が現れる。

「これを使ってみるといい」

 そう言ってバートは、その剣をルーシーに投げて寄越した。

「これは?」

 ルーシーは剣を受け取ると、少しだけ鞘から引き抜く。

「ブロンズシミター?」

 それは反りのある片刃の剣だった。

「あのさぁ、一応いまあたしが使ってるのって、鋼鉄製だよ? なんでいまさら青銅ブロンズ製の剣を使わなくちゃいけないわけ?」
「なに、このあたりならまだ青銅武器でも問題ないさ」
「でも、両刃の直剣から片刃の曲刀だなんて、いくらなんでも使い慣れてないし……」
「危なくなれば僕たちがサポートするさ。君の貧乏くさい戦い方には、それがお似合いなんだよ」
「でも……」
「ルーシーさま」

 戸惑うルーシーに、マリーが声をかける。

「それはご主人さまが、いつかルーシーさまに渡そうと用意したものなのです。よろしければ一度お試しいただけませんでしょうか?」
「おい、マリー!?」
「えっと……?」

 マリーの言葉にバートはうろたえ、ルーシーは戸惑う。

「いや、違うんだ。このあいだリザードマンを倒したら、たまたま手に入っただけなんだよ」
「それを、アイテムボックスのスロットを圧迫するにもかかわらず、ずっと保管し続けたのです」
「そうじゃない! せっかくのレアドロップだが、売っても二束三文にしかならないし、それなら記念にと……」
「このダンジョン街では青銅武器でもそれなりに価値があると言ったのはご主人さまではございませんでしたか?」
「ええいうるさい! とにかくルーシー!」

 バートはマリーの言葉を遮ると、ルーシーを指さした。

「その剣は君にくれてやる! 売るなり使うなり好きにするがいい!!」

 そう言うとバートはそっぽを向いてしまった。

「あはは……なんだかよくわからないけど、試しに使ってみるよ」

 バートの真意はよくわからないが、それなりに厚意を感じ取った彼女は、いままで使っていたロングソードをアイテムボックスに収納し、ブロンズシミターを腰に提げた。

 そんなやりとりを、賢人はぼんやりと眺めていた。
 正直に言って、バートになんの意図があってブロンズシミターを渡したのかが、よくわからなかったのだ。

「ケント! ぼーっとしてないで、ドロップ品を集めたまえ! そうしたら探索を再開するぞ!」
「あ、ああ。わかったよ」

 それから一行はコボルトの群れが落としたドロップアイテムと魔石を拾い集め、回廊の奥へと進むのだった。
 
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