聖弾の射手

平尾正和/ほーち

文字の大きさ
上 下
33 / 58
第一章

第27話 【SP】とはなんでしょう?

しおりを挟む
 ルーシーはこれまで、半年から1年ほどでパーティーを替わっていた。
 二十以上のパーティーから、クビになったということだが、裏を返せばそれだけの新人を世に送り出したともとれる。
 実際ルーシーが所属したパーティーの生存率は、彼女が抜けた後もかなり高いらしい。

「あたしは普通に活動してるつもりなんだけどね。気がつけば育成担当みたいになっちゃって」

 その功績を認めたからこそ、ギルドは解放までの期間を5年延長し、さらに3000万円での身請けを提示したのだろう。
 もちろん彼女が冒険者として真面目に行動した結果ではあるが、それが正しく評価されることもまた、幸運といえるのではないか。

(やっぱ、『【運】S』はダテじゃないな)

 ただ、それを言ってしまうと彼女が運だけでこれまでやってこられたと思われそうなので、口にはしなかったが。

「ねぇ、このSっていうのがAより上なら、もしかしてあたしのランクも……」
「それは、どうだろうな」
「……やっぱ、ダメかな」
「Sランクの意味を証明する方法がないからな。いくら俺が説明したところで、記憶を失った男のたわ言として処理されそうだ」
「だよねぇ……」

 それについてはあまり期待していなかったが、それでも精神的なダメージはあったようで、ルーシーは猫耳をペタンと寝かせ、がっくりとうなだれた。

「あ、そうだ」

 しばらく肩を落としていたルーシーは、なにかを思い出したように顔を上げた。

「ケントの加護にあった【SP】ってなんなの?」
「そういえば、ルーシーにはなかったよな」
「うん……初めて見――えっ……?」

 言いながら加護板をスワイプしたルーシーが、驚いたような声を上げて固まった。

「どうした?」
「こ、これ……」

 驚いた拍子に猫耳を立てた彼女は、震える手で加護板を差し出す。

**********
【名前】ルーシー
【レベル】24
【HP】126/126
【MP】63/63
【SP】132
【冒険者】F
【魔術士】G
【治療士】G
**********

【SP】が、あった。
 最初に見せてもらったときは、なかったはずだ。
 ルーシーも、賢人の加護板で初めて見たと言っていた。

「どういうこと?」
「わからん……」

 考えられる要因としては、賢人と関わったことか。
 彼の加護板には、最初から【SP】が表示されていた。
 その賢人の加護に、何らかの理由でルーシーが影響を受けた?

「俺と、パーティーを組んだからか?」
「え?」

 いまのところ考えられるのはその程度だった。
 それ以上を判断するには、情報が少なすぎる。

「それより、この【SP】がなんなのか、だよな」
「たしか『超越』とか『特別』って意味があるのよね」
「……そうとも限らない。【HP】には最低ランクを意味するHの字が使われてるけど、そこに関連はないだろ?」
「たしかにそうね……」
「神代文字には、文字そのものに意味はないんだ。どう使われるかで、その意味も変わってくる」

 アルファベットがひと文字で使われる場合、単語の頭文字であることが多い。
 たとえば【HP】なら『ヒットHitポイントPoint』、【MP】なら『マジックMagicパワーPower』と言った具合に。
 SランクのSの字が正確になにを意味するかは、賢人もよく知らないが、おそらく『スーパーSuper』や『スペシャルSpecial』あたりだと思ったので、ルーシーにはあのように説明していた。

(【SP】か……よくあるのは『スキルSkillポイントPoint』とか『ステータスStatusポイントPoint』なんだけど……。あとは『サービスServiceポイントPoint』とか?)

 【SP】がスキルポイントなら、【スキル】の習得やランクアップに使える可能性が高い。
 そしてステータスポイントやサービスポイントなら、能力値などに振り分けることができる、というのがゲームなどのキャラクターメイクによくある仕様だ。

(たとえば、この【SP】を使って、ルーシーの【攻撃力】を上げ……えっ!?)
「んんっ!?」

 賢人が驚きに目を見開き、ルーシーは声を上げて眉を寄せた。

「あ、あれ? いま、【SP】の数字が……減った?」

**********
【名前】ルーシー
【レベル】24
【HP】126/126
【MP】63/63
【SP】132→122
【冒険者】F
【魔術士】G
【治療士】G
**********


 彼女の言うとおり、【SP】が10減っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...