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第2章

第18話 お買い物

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 翌日、俺はシャノアを連れて地球の自宅に〈帰還〉した。

 セイカのことはアイリスに任せてある。
 昨日の探索で【銃士】レベルも16まで上がり、基礎的な戦闘力は身に着けたので、今後は【武闘僧】のレベルアップに励んでもらう。
 素手で戦えるうえ、自分への回復や支援ができるジョブなので、自衛に最適だからだ。
 それ以降は、ふたりで相談して自由に活動してもらうことにした。
 念のため、セイカにはシャノアの〈影分身〉をつけてある。

「まずはマツ薬局だな」
「主、スイスイか?」
「ん? そうだな、スイスイでいこうか」

 シャノアの要望もあり、スクーターで町を走る。
 お金に余裕もできたし、次はバギーでも買うかな。

「うむ、風が気持ちいいな」

 俺の膝に乗るシャノアは、満足げだった。
 姿を表しているシャノアだが、〈隠身〉を使っているのでよほど勘のいい人でないと存在に気付けない。
 ただカメラには映ってしまうので、そこは少し気をつけなきゃいけないけど。

「自分で走るほうが速いだろ?」
「それとこれとは話が違うのだ」
「そういうもんか」

 そうこうしているうちに、マツ薬局に到着した。

「おやっさん、どうも」

 おやっさんの姿を見つけ、声をかける。

「おう、アラタ! セイカとはどうだ?」
「まぁ、なんとか。それよりこれ、セイカから」
「おっ、手紙か。今時めずらしいな」

 おやっさんは封を開けて手紙を読み、少し眉を寄せた。
 セイカからは、しばらく帰れないこと、安全であること、スマホでの連絡ができないことなどを伝えておきたいと言われ、手紙を預かっていたのだった。

「……なにがあった?」
「鵜川元議員がらみで、念のため」
「ふん、あのボンクラめ」

 ボンクラ、というはヤスタツのことだ。
 本人が知っているかどうかはともかく、地元ではそう呼ばれていた。
 ヤスタツの父親、つまりタツヨシの祖父に当たる人物もまた政治家で、その人がかなり優秀だったらしい。
 それに比べて二世はボンクラだな、というのが地元の評判ってわけだ。
 一度は入閣し、たしか旧労働大臣も務めたから、それなりに優秀だとは思うんだけどね。
 それでも俺らの親以上の世代からは、なかなか評価してもらえないようだ。

「セイカは、安全なんだな?」
「ええ。俺を信じてください」
「わかった、信じるぜ」
「おやっさんのほうは大丈夫ですか?」
「いまのところな。まぁなにがあってもあのボンクラにやられるほど、俺ももうろくしちゃいねーよ」
「ですよね」

 マツ薬局は周辺に利用客も多いし、おやっさん自身顔も広い。
 なのでヤスタツも、進んで敵に回すような真似はしないだろう。
 そういう意味ではセイカもほぼ安全なんだけど、念には念をってやつだ。
 こういうところで油断すると、足下をすくわれるからな。

「アラタ、ちょっとこい」

 おやっさんに呼ばれて、バックヤードに入る。

「ちょっと待ってろ」

 おやっさんはそう言い残して、奥に消えていった。
 あそこはたしか、医薬品倉庫だったか。

「よいせっと」

 ほどなく、おやっさんがいくつかのケースを持って戻ってきた。

「それは?」
「セイカから、アラタに渡してくれってよ」
「俺に?」

 ケースを開けると、そこにはポーションの小瓶がぎっしり詰め込まれていた。

「ヒールポーションが2ダース、マナポーションとキュアポーションがそれぞれ1ダース、ライフポーションが3本だ」
「えっ、こんなに?」
「遠慮する必要はねーぞ。代金はしっかりいただくし、ライフポーション以外の在庫はたっぷりあるからな」
「いや、代金はもちろん払いますけど、在庫がたっぷりって……」

 俺が尋ねると、おやっさんは呆れたようにため息をついた。

「こりゃアラタのせいだからよ」
「俺の?」
「ああ、お前さんがいないあいだ、セイカのやつは大変だったんだぜ?」

 なんでも俺が行方不明になったと聞いたセイカは、数日部屋に閉じこもっていたらしい。
 ようやく出てきたと思ったら、今度は店の作業場に篭もって、ひたすらポーション作成を続けていたそうだ。

「あのバカ、とんでもねぇペースでポーションばっか作りやがって。おかげで薬品倉庫が一杯だったんだよ」

 いくら在庫があるからといって、ポーションは安売りができない。
 困っていたところにセイカからの手紙を受け、渡りに船とばかりに持ってきたそうだ。

「セイカはなんて?」
「渡せるだけ渡してくれってよ」
「そうですか」

 ポーションなんていくらあっても困らないからな。
 ありがたく買わせてもらおう。
 あと、あっちに戻ったらあらためてお礼を言わないとな。
 心配かけたことも、もう一度ちゃんと謝っておこう。

「アラタ、金はあるか? なんならツケといてやるぜ?」
「大丈夫ですよ。運よくスキルオーブを見つけたんでね」

 スマホを出し、ウォレットアプリを立ち上げる。
 今日付けで1億数千万円が振り込まれていた。

 その場でポーションを〈収納〉し、カウンターに戻って代金を支払う。
 数百万円も、いまの俺にとっては大した額じゃない。

「アラタ、セイカのこと、頼んだぜ」
「まかせてください」
「それと、結婚式なんだが」
「いや、気が早いですって。落ち着いたらゆっくり話し合いましょう」
「わぁーったよ。だがちゃんと考えとけよ」
「考えてますよ、ずっと。じゃあまた」

 そう言い残して、マツ薬局をあとにした。

○●○●

 マツ薬局を出た俺は、ふたたびスクーターを走らせ、今度はガンショップを訪れた。
 いまやホームセンターの一角に銃が置かれる時代だが、ああいう店が扱えるのは拳銃までだ。
 自動小銃やショットガンを使う俺は、もっぱら専門店を愛用している。

 というわけでやってきたのが『マック銃砲店』だ。
 ここはダンジョン発生前から猟銃を扱っていた、由緒あるガンショップなのだ。

「どうもー」

 声をかけながら、店のドアを開ける。
 こういう個人店みたいなところって、入店時に挨拶しがちなんだよな。

「いらっしゃい」

 奥から、物腰の柔らかい中年男性が現れる。

「やあ、アラタさんでしたか」

 メガネに無精ひげのひょろっとしたこの男性は、店主のサカイさんだ。
 どこにでもいそうな普通のおじさんだけど、銃の知識や扱いに関しては右に出る者のいないエキスパートだったりする。

「聞きましたよ。大変だったそうで」
「ええ、おかげで弾がカツカツですよ」
「はははっ、じゃあいつもの種類を多めに用意しますね」
「それなんですが、いっそ倍くらい用意できます?」
「ええ、大丈夫ですけど……」
「大変だったぶん、稼げたんですよ」
「なるほど」
「なので、予備の銃も買っておこうかな」

 そう言って俺は、9ミリのオートマティックと自動小銃、ショットガンを5丁ずつ買った。
 拳銃と自動小銃に関しては、マガジンも多めに買っておく。

 これらは異世界にいるアイリスたちに渡すぶんだ。

 本当は先に買って帰る予定だったが、いろいろあってタイミングがずれてしまった。
 これがあれば、異世界でかなり有利に戦えるからな。

「それと、たいぶつだんあります?」

 対物弾とは、大量生産されたものではなく、ダンジョン産の資源を〈鍛冶〉スキルなどで加工して作られる、ハンドメイド弾のことだ。
 元はアンチ・マテリアルの意味で使われた『対物』だが、モンスターの和名が魔物や怪物になるので、その『物』を指してアンチ・モンスターの意味で使われるようになった。

 対物弾は魔素含有量が多く、ダンジョンモンスターにも有効なのだが、とにかく生産量が少ないうえに高い。
 9ミリ弾1発で、ダンジョンでも通用する短剣が買えるし、2~3発分で普通に長剣も買えるわけだから、本当に需要がないんだよ。

「あー、対物弾はさすがに取り寄せですね」

 まぁ、ほぼ受注生産だからな。

「じゃあ、とりあえず9ミリと12ゲージのスラッグ弾、できるだけ多めにお願いします」
「わかりました」
「定期的に買いたいので、店頭に置いてくれると助かります」
「……なんとかしましょう」

 対物弾は以前からほしいと思ってたけど、高すぎて手が出なかったんだよな。
 必要になるかどうかはわからないけど、持っておいて損はないはずだ。

「じゃあ、よろしくお願いします」
「はいはい、またきてくださいねー」

 マック銃砲店を出た俺は、適当に昼食を取ってギルドに向かった。
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