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第1章

第32話 効率的なレベリング

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 その後もしばらくウェアラットばかりに遭遇したため、俺の出番はなかった。
 なにせ敵が現れてちょろちょろ動くたびに、シャノアが瞬殺してしまうからな。

「1階ってウェアラットだけなの?」
「いいえ、少し進めばゴブリンがでますよ」

 じゃあ俺はゴブリンが出てからデビューしよう。

「ん?」

 10匹ほどウェアラットを倒したあたりで、シャノアに違和感を覚えた。

「シャノア、なにかあったか?」
「うむ、なにやら力がみなぎってくるようだったな」
「あっ、でしたらレベルアップしたのでは?」

 そこでシャノアを〈鑑定〉したところ、【忍者】レベルが2になっていた。
 レベルアップまで先を越されたか……!

「グゲグゲ……」

 そうこうしているうちに、ゴブリンが現れた。
 数は3。
 見た目は地球のやつとほぼ同じだ。
 敵は数メートル先で固まって、こちらを警戒している。

「シャノア、俺にやらせろ」
「かまわんよ」

 ゴブリン相手だと、ウェアラットほどに興味をそそられないらしい。

「とりあえずくらえ!」

 ――バスッ!
「ギャッ!?」

 魔弾がゴブリンの顔に命中する。

「ギャウ……グブブ……」

 ダメージを受けたゴブリンが、顔を押さえてうずくまった。

「えっ?」

 1発で倒せないのかよ。

「ゲギャーッ!」
「ギギーッ」

 残る2匹のゴブリンが襲いかかってきた。

「おいおい……」

 俺は少々焦りつつ銃に魔力を込め、手前のゴブリンに向けて引き金を引いた。
 動く相手にヘッドショットは難しいので、胴体を狙う。

「ギャウッ……ウゥ……!」

 弾は胸に命中したが、そいつは傷を抑えてよろめきながらも近づいてくる。

「ギギーッ!」

 そうこうしているうちに残る無傷の1匹がすぐそばまで迫っていた。
 魔力の装填は間に合わない。

「援護します!」

 左後背に控えていたアイリスが素早く踏み込んで、槍を繰り出す。

「ゴェッ……」

 彼女の突き出した槍がゴブリンの胸を貫いた。
 即死だった。

「助かった!」

 その間に魔力の装填が終わった俺は、胸にダメージを与えたゴブリンに追撃する。

「グベッ……」

 弾は運良く頭に命中し、そいつはその場に倒れた。

 もう1匹は、シャノアがサクッとトドメを刺していた。

「いやー、思ったより弱かったな」

 魔弾銃を見ながら、呟く。

「魔弾の威力は【銃士】レベルに依存しますから」
「なるほど」

 レベル1だと、こんなもんか。

「おっ、レベルが上がった」

 戦闘を終えてひと息ついたところで、身体に力がみなぎるのを感じた。

「儂よりだいぶ早いな」
「ウェアラットよりゴブリンを倒したほうが、レベルは上がりやすいですからね」

 強い敵のほうが経験値が多い、みたいなものだろう。

「あと【忍者】はレベルアップが他のジョブに比べてかなり遅いです」
「むっ、そうなのか?」

 シャノアが不満そうな声を上げる。

「そのぶん1レベルあたりの成長率が高いとか、そんな感じなんだよ」
「ですね」

 上級職あるあるだな。

「……つまり、どういうことだ?」
「【忍者】は強いってことさ」
「ふむ、そうか」

 このあたりの理解に必要なのは、知性よりも知識だからな。
 別にシャノアをバカにして言ってるわけじゃない。
 なんとなくわかればいいのさ。

「よし、ここからはペースを上げていこう」

○●○●

 そこから何度か戦闘を繰り返した結果、ダンジョンの魔物は地球でいう野良モンスターと同等だとわかった。

 なので俺は魔弾銃から拳銃に持ち替え、敵を倒していく。

 階層ごとの行き来は階段だった。
 ダンジョンによっては転移陣みたいなのもあるからな。

「それにしても、順調ですね」
「シャノアのおかげだな」

 シャノアが敵の気配を察知してくれるおかげで、効率よく戦闘をこなせた。
 今日の目的はレベリングであって、ダンジョン攻略ではない。
 なので、敵は倒せるだけ倒したかった。

 階を進むごとに敵は強くなり、ウェアラットやゴブリンだけでなく、コボルト、オーク、リザードマンなんかも現れた。

 たとえばリザードマンなんてのは、向こうの野良でも結構な強敵なんだが……。

「シャッ!」

 シャノアが飛びかかって前足を一閃すれば、首が飛ぶ。
 さすが忍者。
 よく考えればこいつ、裸忍者なんだよな。
 そりゃ最強だわ。

○●○●

「おっ、〈エンチャントブレット〉を覚えたぞ」
「それは金属の銃弾を強化できるスキルですね。普通の【銃士】はあまり使いませんけど、アラタさまなら有用じゃないでしょうか」
「つまり、普通の銃弾に魔力付与ができるってことか……」

 これはなにげにすごい。

「一応確認するけど、スキルオーブで覚えられる付与魔法との違いは?」
「スキルオーブのものですと、ダンジョン産か、名工の武具じゃなければ効果はないですね」
「やっぱり、そうだよな」

 本来〈エンチャント〉系のスキルってのは、魔素を多く含む武器や防具にしか効果がない。
 名工の武具ってのは、地球で言うところのダンジョン産鉱物を、魔素が抜けないよう〈鍛冶〉スキルなどで鍛えたものだ。
 こちらの世界だと高レベルの【鍛冶師】は武具製作の際に魔素を込められるらしく、そういったものでなければ〈エンチャント〉の効果はない。

「ジョブスキルのエンチャントは通常武具に効果がある反面、対象が絞られますけどね」

 たとえば俺が習得した〈エンチャントブレット〉は、銃弾にしか効果がない。

「私も〈エンチャントスピア〉を使えますけど、剣にかけても意味はありません」

 対してスキルオーブのエンチャントは、武器防具を問わず強化や属性付与が可能だ。

「なんにせよ、これで戦いはさらに楽になるってわけだ」
「ですね」

 そんなわけで引き続き俺たちはレベリングに励むのだった。

○●○●

「お昼休憩をしたら引き返そうと思ったんですが、このままクリアしちゃいますか?」

 あまりの順調さに、アイリスは当初の予定を変えて最下層の攻略を提案してくれた。

「シャノア、どうだ?」
「儂は余裕だな」
「じゃあ、いくか」

 13時の時点ですでに7階まで下りていた。
 元々〈健康〉を持っていて疲れづらく回復しやすい俺だが、ジョブレベルが上がったおかげでより行動が楽になっている。
 アイリスもさすが7級冒険者だけあって、疲れた様子はなかった。
 普通なら数時間歩き回っただけでも相当疲れるからな。

「では最深部を目指して、がんばりましょう!」

 その後も特筆すべきことはなく、順調に探索は進んだ。

「ボス部屋ですが、いけますか?」

 最深部を前に、アイリスが尋ねてくる。

 迷宮型ダンジョンの最深部には、こういうボス部屋があることが多い。
 深いダンジョンになると、10階ごとに中ボスがいたりもする。

 ボス部屋は簡素な木製の扉によって閉ざされていた。
 ちなみにこの扉、なにをやっても破壊はできない。
 どんな強力な爆薬や攻撃スキルをぶつけようとも、傷ひとつつかないのだ。

「ダンジョン七不思議のひとつだな」
「ほう、では残り6つはどんなのがあるんだ?」
「さて、俺が聞いただけでも20はあるから」
「なんだそれは……」
「ダンジョンは不思議がいっぱいってことだよ」

 俺が頷くと、アイリスが扉を開けた。

「おっ、リザードマンか」
「レッドがいますね」

 現れたのは、3匹のリザードマンと、それよりひと回り身体の大きな赤いリザードマンが1匹の群れだった。

 ――ギィ……ガチャン!

 背後で、ドアが閉まる。
 これでボスを倒すまで、この部屋からは出られなくなった。

「なにかあれば援護しますので、存分にどうぞ」
「おう」

 俺たちを確認するなり、まず2匹のリザードマンが駆け寄ってくる。
 赤いリザードマンは様子見、残るもう1匹のリザードマンは、弓を構えていた。

「させんよ」

 俺は自動小銃を構え、セミオートにして引き金を引く。

 ――ズガンッ!
「ジャッ――」

 弓を構えていたリザードマンは頭を撃ち抜かれて倒れた。

 その時点でシャノアが残る2匹のリザードマンを瞬殺。

「シャアアアッ!!」

 最後に残された赤いリザードマンが、怒りの声を上げた。

 この赤いやつはレッドリザードマンという、見たまんまの名前をしている。
 火属性を持っており、攻撃を受けると火傷をするという、少々厄介な相手だ。
 火属性の攻撃を無効化する反面、水属性は弱点となる。
 そんなわけで俺は、少し前に習得した〈エンチャントブレットアクア〉で銃弾に水属性を付与した。

「ニャッ!」

 シャノアが、地面に爪を立てる。

「シャッ!?」

 次の瞬間、レッドリザードマンの動きが止まった。
 シャノアのスキル〈影縛り〉だ。

「ナイスだシャノア!」

 ――ズガンッ!

 水属性を付与された弾丸が、敵の頭に命中する。

「……ッ」

 頭を吹き飛ばされたレッドリザードマンは、叫ぶ間もなく死んだ。

「アラタさま、シャノアさま、おつかれさまでした!」

 アイリスは短槍を小脇に抱え、拍手で勝利を祝ってくれた。

「アイリス、ありがとな」
「いえいえ、わたしなんてただうしろを歩いていただけですから」
「それでも、だよ。君のおかげで、ずいぶん楽だったから」

 なにかあったときの救援があるというのは、本当にありがたいことだった。
 それにアイリスはこのダンジョンのマップを頭に入れていたようで、ほとんど迷うことなく攻略を進められたのだ

 おかげで早い段階で下層に下りられ、効率よくレベリングができた。
 シャノアとふたりだけなら、こうもうまくはいかなかっただろう。

 アイリスこそ、 今日一番の功労者だ。

「あっ、転移陣が出ましたよ!」

 アイリスが指し示す先に、光る魔法陣が現れた。
 ボス部屋があるタイプのダンジョンでボスを倒すと、大抵出てくるものだ。

「それじゃ、帰るか」
「うむ」
「はい」

 俺たち3人は現れた転移陣に乗り、地上へ帰るのだった。
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