上 下
18 / 54
第1章

第18話 伝説のアイテム

しおりを挟む
 あれから1時間ほどで馬車は町に着いた。

 入場には審査があるのだが、トマスさんが俺の身元を保証してくれたため問題なく町へ入れた。

 それから大通りを馬車で駆け抜け、俺たちはトマスさんの邸宅に到着した。

「では、私はこれで」

 ギルダスさんは亡くなった部下の遺族へ報告にいくため、邸宅で別れることになった。

「アラタさま、またのちほど」

 治療院へ運ばれるマリアンさんに付き添うということで、アイリスさんとも別れる。

「まるで城だな、こりゃ」

 トマスさんの邸宅を見て、思わず呟いた。
 振り返ると、俺の身長の倍以上はあるだろう塀と、大きな門が目に入る。
 あそこを通って、ここまできたんだよな。

 やっぱりトマスさん、ただ者じゃなかったな。

「それではアラタさん、こちらへ」

 執事さんやらメイドさんやらが現れ、いろいろと話をしたあと、トマスさんの案内で邸宅に入った。

 彼に続いて、家の奥へ向かう。
 トマスさん自身の先導で、いくつか鍵のかかったドアを開け、先へ進んだ。

「こちらが当家の宝物庫となっております」

 宝物庫があるって、すごいなぁ。
 なんて感心しながら、彼の案内で中に入る。

「おお……」

 絵画やら芸術品やら楽器やら、いろんなものが保管されていた。

「ここには売りたくないものや、買い手のつかないものを保管しているのですよ。ま、ほとんどは私の趣味で集めたガラクタですがな」

 自嘲気味にそう言いながら、トマスさんは宝物庫内を歩く。

「えーと、たしかこのへんに……ああ、あったあった」

 どうやら目当てのものが見つかったみたいだ。

「それは、腕輪ですか?」

 トマスさんの手には、黒い腕輪があった。

「はい。これは魔神の腕輪と呼ばれる、伝説のアイテムですな」
「伝説のアイテム……」

 なんでもその腕輪を使うと、あらゆるスキルの効果が数倍から数十倍に増幅されるらしい。

「かつてこれを身に着けた魔道士が、万を超える魔物をたった一度の魔法で焼き払い、町を守ったという伝説があるのです」
「すごいじゃないですか!」

 たしかにこれがあれば、〈帰還〉で世界を越えられるかもしれない。

「ただ、ひとつ問題がありましてな」

 トマスさんの表情が曇る。

「それだけの効果を発揮するには、対価が必要となるのですよ」
「対価、ですか」

 まさか、生命力を吸われるとかなのか?
 でも、シャノアのためなら、それくらいの賭けに出ても……。

「高密度の魔石が必要なのですよ」
「えっ、魔石でいいんですか?」

 そんなもので使えるんなら、安いもんだと思うけど。

「ここに魔石をはめ込むのですがね」

 腕輪には、一握りサイズの石がはまりそうなくぼみがあった。

「密度が高いほど、効果が上がるのです。世界を越えるとなると、かなり高密度の魔石が必要でしょうなぁ」
「なるほど……」

 魔石の大きさは、モンスターの体格で決まる。
 たとえばオークとウェアウルフだと、体型はともかく体格は近いので魔石のサイズもほぼ同じだ。
 だがオークよりも遙かに強いウェアウルフの魔石のほうが、魔素含有量が大きい。

 つまり、魔力密度が高いわけだ。

「このサイズに加工して、それなりの魔力量を確保しなくてはいけないわけですか」
「そのとおりですな」
「たとえば、さっき俺が倒したオーガだとどうでしょう」
「オーガ程度でしたら、せいぜい3割増し程度でしょうな」

 それはそれですごいが、さすがに世界を越えるには足りなそうだ。

「ですがご心配なく。ウォーレン商会のあらゆる伝手を使って、ドラゴンの魔石でも手に入れて見せましょう! 遅くとも10日以内には必ず!」
「10日、ですか……」

 ギリギリだな。

 いや、待てよ……ドラゴンの魔石?

「トマスさん、見てほしいものがあるんですが」

 魔石なら、何とかなるかもしれない。

○●○●

 俺たちはトマスさん宅の裏庭にいた。
 裏庭といっても、運動場くらいあるんだけど、それはそれで都合がいい。

「それじゃ、いいですか? 出しますよ?」
「ええ、どうぞ」

 トマスさんに確認をとった俺は、〈収納〉からモンスターの死骸をいくつか取り出した。

「なんと!? これは、レッドドラゴン! こちらはハイオーガですか……! オークキングまで……なんとまぁ」

 次々に現れるモンスターの死骸に驚きの声を上げていたトマスさんだったが、ふと眉を寄せる。

「どれも、一刀のもとに倒されておりますが……もしや?」
「ええ、すべてジンが倒したものです」

 そう、これは昨日の探索で、ジンが倒したモンスターだった。

「恐るべき腕の持ち主ですなぁ。よくぞ生き延びられたものだ」
「助けてくれた人が、いたので」

 あそこでタカシが来てくれなければ、逃げられなかっただろう。
 それだけじゃなく、ナイフを渡してくれなければ、オーガにも勝てなかったかもしれない。

 もし帰れたら、ちゃんと礼をいいたいな。

「そうですか。でしたらその方は、我々にとっても恩人ですな」
「そうなりますかね」

 俺が生き延びたからこそ、トマスさんたちを助けられたもんな。

「それにしても、ものすごい質と量ですなぁ」

 トマスさんがふたたび感心したように呟く。

 昨日のあいつがやたらハイペースで数を倒すものだから、メンバーたちのポーチへの収納が間に合わず、俺も〈収納〉していたのだ。
 そのうちの強そうなやつを、ここに並べたわけだ。

「これなら、なんとかなるやもしれません」
「そうですか、よかった……」

 俺はほっと胸を撫で下ろした。

「では大急ぎで解体を済ませ、魔石の加工をさせていただきます」
「よろしくお願いします」

 ジンのせいで異世界へくる羽目になった俺だが、あいつのおかげで地球に帰れるかもしれないっていうのは、なんだか妙な気分だな。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

彼の幸せを願っていたら、いつの間にか私も幸せになりました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:1,392

拾った駄犬が最高にスパダリだった件

BL / 連載中 24h.ポイント:3,409pt お気に入り:642

旦那様! 愛し合いましょう!

I.Y
恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,159pt お気に入り:514

魔術師令息の偽装婚約

恋愛 / 完結 24h.ポイント:681pt お気に入り:274

街を作っていた僕は気付いたらハーレムを作っていた⁉

BL / 連載中 24h.ポイント:3,643pt お気に入り:1,968

冷遇された王妃は自由を望む

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,264pt お気に入り:273

こんなに好きなのに伝わらないのなら――

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:64

処理中です...