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第1章 西挟の砦

第77話 えっ!? 今何処から出したのですか!?

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 「エレンさん。店の人を呼んでもらますか?」

 「え、ああ、分かりました」

 俺の頼みにうなずいて、テーブルに置いてある手桶で手を洗い、呼び鈴ベルを振ってくれた。

 ああ、手桶だ。

 この世界はナイフの文化がないらしい。

 フォークとスプーンしかねえのさ。だから、切り分けて盛り付けされてても、もっと小さくしたい場合は指で抑えて、フォークで裂いて食べるか、手掴みで食べる。王侯貴族でも、見た限りではそうだ。

 文化的衝撃カルチャーショックってやつだな。

 ベルの小気味良い音が余韻を残す中、扉がノックされ給仕ウエイターが入ってくる。

 「済まないが、彼の言葉を聞いてくれ」

 俺たちとは気さくフランクに話してくれるエレンさんだが、ここは上下をはっきりさせるんだな。

 「承けたまります」

 さっきのウエイターだって気が付いたが、今度は表情は変えてない。一応、プロってことか。

 「済みませんが、肉を載せれるトレーのようなものと、小皿を1つ持って来ていただけますか? 殿下に食べて頂きたいものがあるのです」

 「それはーー」

 チラッと姫さんの顔色をうかがうウエイター。内心は断ってくれっと思ってるんだろうな。

 「構いません。彼の言うようにしなさい」

 「畏まりました」

 残念だったな。兄ちゃん。姫さんは俺の味方だ。

 パタンと扉が乾いた音を立てて閉まるのを見計らって姫さんが目をキラキラさせてたずねてきた。

 「何を食べさせてくれるのかしら?」

 「ああ、肉は肉なんですが、あまりにこの肉が味気あじけなかったもので……。済みません、差し出がましい真似をしました」

 「エレンはどうですか? わたしは王宮で食すものに比べれば劣りますが、悪くはないと思うのです」

 「はい。わたしもそう思いますが、ハクトさんやプルシャさんはそうではない様ですね?」

 軽くお辞儀すると、そんな遣り取りが返って来た。プルシャンもエレンさんの言葉に首を上下に振ってるところをみると、俺の観察は間違ってなかったようだ。

 っと、ウエイターが来る前に出す物出しとかねえとな。

 【無限収納】から飛竜ワイバーンのブロック肉を取り出す。大きさは10kgくらいか。

 こっちの重さを表す単位を聞いてねえから何とも言えんが、これくらいありゃ問題ねだろう。

 「えっ!? 今何処から出したのですか!?」

 Oh……。ウエイターじゃなく、こっちで捕まったか。どっちが良かったんだ?

 「姫様。ハクトさんは【空間収納】持ちなのです。こちらのヒルダさんも」

 エレンさんが実は敵だった!? そんなにバラすんじゃねえよ!

 「……そうですか」

 いや、そうですかの前に間があったよな!?

 くっそぉ~、まずったぜ。街中の噂と、貴族の煩わしさの認識を完全に間違えてた俺がわりいんだが、こりゃ、完全に目を付けられたな。

 と、そこへ扉をノックする音が響き、ウエイターとシェフらしき男が入って来た。

 注意がそっちに向いている隙に、小分けにしてる胡椒カリミルチを1つ取り出しておく。

 「失礼します。御呼びと伺い参上致しました」

 「彼から肉を受け取って、調理して欲しい」

 エレンさんの言葉に、俺の前に大きな木製のトレーを置くシェフ。

 なので直ぐに俺もそこに置いてやった。手の熱が肉に伝わっても美味くねえしな。

 「失礼します。立派なブロック肉でございますね。一体何の肉なのでしょうか? 出処が判らぬ肉を調理して殿下方にもしものことがあっては参りませんので」

 そりゃそうだ。言い分は理解できる。

 胡散臭うさんくさそうな視線を向けてくるシェフらしきおっさんに言ってやった。

 「ああ、その肉は、飛竜ワイバーンのバラ肉だ」

 「「「「ワイバーンッ!!?」」」」

 「え、あ、ああ。ほら、外縁の森に住んでたって言ったでしょう? 運良く、縄張り争いに負けて死にそうなワイバーンが落ちてきたんですよ。あとは、皆に手伝ってもらって、こうザクッと……」

 「わ、ワイバーンをですか?」

 「ははは。……そうなりますね。外縁の森に住んでるとよくある事ですよ?」

 驚きで目が見開かれたまま、いてくる姫様に笑いながら答えておく。ヒルダとプルシャンは黙ったままコクコクと首を縦に振ってるだけだ。

 「そ、そ、それでは、ど、どのように致しましょうか?」

 一気に顔色を青くしたシェフが質問してくれたので、これ幸いにとばかりに注文を付けてやる。

 「厚みは今出してもらったステーキと同じでいいんですが、強火で裏表の表面を短時間で焼き、後は余熱か、釜の熱でじっくり中まで火が通るようにしてもらえますか? ソースは要りません」

 「は、はぁ」

 生返事だな。わかってんのか?

 「それと、焼く前に肉の表と裏へナマクこれ・・を1摘みずつ全体へ振り掛けてもらえますか?」

 「これは?」

 「胡椒カリミルチです」

 「「「「カリミルチィッ!!!?」」」」「おわっ! っとっと。ビックリしたぁ……」

 ワイバーンの反応は何となく予想はしてたけど、それより声がデカいってどういうこった。

 吃驚しびびって胡椒を落としそうになったが、シェフと2人で慌てて受け止めて事なきを得る。

 「あ、あの、余った食材は、ど、どのように致しましょうか?」

 「無理を言って作ってもらうんです。ケチって変なものを出さない限りは・・・・・・・・、そちらで自由にしてもらって構いませんよ」

 「ほ、本当でございますか!?」

 いや、おっさん、俺もおっさんだが、顔ちけえって。

 「言った通り出来なければ、……解ってますよね?」

 「も、勿論でございます! では、早速調理してまいります! おい、行くぞ!」「し、失礼致します!」

 念を押すと、一転、今までの表情は何だったんだと言いたくなるような笑顔を振り撒いて、シェフのおっさんとウエイターの兄ちゃんは去っていった。勿論、物はシッカリと持ち去られてる。

 「「……」」

 「はははは……」

 姫さんとエレンさんの視線が痛い。何て言うんだ? ジト目?

 何とも言えねえ迫力に思わず、乾いた笑いで応えるしかなかったよ。どうしろってんだ!?

 「ハクトさん」

 「な、何でしょう?」

 「胡椒カリミルチは、大公家ですら多く貯蔵できない香辛料です。どこで手に入れたのですか?」

 深淵しんえんの森です、とは莫迦正直ばかしょうじきには言えんわな。

 「……あ~秘密です」

 「ひ、秘密なのですか?」

 「ええ、秘密です。教えて、うっかり入ってしまうと死人が出ること請け合いですからね。たかが香辛料一つに、そこまで命をかける必要はないと思ってますから。お教えできません」

 胡椒のために兵士や、そういう頼まれ仕事をする人らが死ぬのは心苦しいんだよ。悪党は何とも思わんが、仕事を一生懸命こなそうとする人らには、危険は避けてもらいたい。

 「むぅ」

 頬を可愛らしく膨らませる姫さんに、エレンさんが合いの手を入れた。

 「レリア姫。ハクトさんを困らせるためにここへお招きしたのではないでしょう?」

 「え? いや、それは別に」

 「そうでした! ハクトさん、ヒルダさん、プルシャさんも、ヒュドラという組織の名前を聞いたことがありますか?」

 エレンさんに促されるまま話し始めた姫さんの言葉を聞いて、俺は内心頭を抱えたよ。もっとはっきり会話をさえぎっとけば良かったと思っても、後の祭りだ。

 マヂかよ。それ、盗賊が言ってた組織の名前じゃねえか。明らかに厄介事だろうがよ。

 だから、それにどう答えようかと逡巡しゅんじゅんし、口を開きかけた時、扉がノックされたーー。





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