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第1章 西挟の砦

第74話 えっ!? 銀貨1枚でいいの!?

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 二頭立ての幌馬車がゆっくりとわだちを進む様子を、俺たちは後ろからながめている。

 正しくは、その後ろを歩いてると言った方が良いな。

 俺たち3人の周りには、幌馬車に乗りきれなかった姉ちゃんたちが居る。

 幌馬車には、妊婦の比較的腹が大きい姉ちゃんたちが8人と、廃墟で回収した武具防具、金、傷薬ポーションを一緒に積んでる。傷薬ポーションは半分だ。後は貰った。御者席に居るのは、馬車に繋いだ馬に乗ってた、騎士の姉ちゃんたちで、俺たちの足に合わせるように出来る限りゆっくり進めてくれてる。

 ん? 金? ああ、ちっとばかり手間賃は貰ったかな。

 金を大量に姉ちゃんたちに分けてやりたいとこだったが、没収されても腹立たしいので、銀貨を1枚ずつ姉ちゃんたち37人の下着パンツに縫い付けてやった。ああ、縫ったのは俺じゃねえよ。騎士の誰かだろうさ。

 いや、下着というがな。その実、ふんどしみたいなもんだぞ?

 まあ、簡易で脱ぎ着できるのは良いことだけどな。

 ちなみに。因みだ。銀貨1枚があればこの国で1年つつましく過ごせるらしい。



 えっ!? 銀貨1枚でいいの!? って驚いたのは内緒だ。



 「想像してる以上に、この世界の生活水準は低いのかも知れんな」と思ったね。

 貨幣価値は、聞いた所こんなもんだ。

 1番価値の低いのが小銅板。俺の感覚で、これを1円という基準にする。

 次に、小銅板10枚で銅貨1枚の価値がある。10円だ。

 その銅貨10枚で小鉄板1枚の価値になる。100円。

 小鉄板10枚で鉄貨1枚分。1000円だな。

 鉄貨を10枚貯めると、小銀板1枚分。ということは、ここで1万円。

 そして、小銀板10枚で、銀貨1枚、10万円の価値になるって話だ。

 つまり、贅沢しなければ10万円で1年が過ごせるというこった。いや、相当貧しいぞ、これ?

 で、銀貨を100枚で金貨1分の価値になるってんだから驚きだ。金貨1枚1000万!?

 ヒルダこれ何枚持ってた!? おいおいおい。

 目の色が変わるのもうなずける。

 逆にしももんが金貨をたんまり持ってたら、怪しまれるってこった。

 もう腹一杯だが、金貨100枚で白金貨1枚分なんだそうだ。え~っと……10億、だな。



 けっ。



 んな訳で、姉ちゃんたちには銀貨を渡したのさ。金貨なら没収だろうさ。

 あ~勿論、銀貨も没収されちまう可能性も捨てきれねえからな。予備は貰っておいた。

 あと、この貨幣はどの国でも使えるらしい。

 その理由は、貨幣を作っているのが神殿だからだそうだ。貨幣局みたいなもんか?

 女神ヴィンデミアトリックスをまつ律令りつりょうの神殿で数量が管理されて、製造されてるらしい。確かに、作り過ぎると貨幣の価値が下がっちまうもんな。ヴィンデミアトリックス様っていうのは、ザニア姐さんの1こ上の姉ちゃんらしい。

 それぞれの国の支配者が居を構える都にある律令の神殿で、それぞれの国内で流通出来るだけの額しか作り出してないそうだ。ということは、国に左右されない存在ということかもな。

 でだ。神殿で鋳造ちゅうぞうされた貨幣には刻印が押されてる。表も裏も1つ残らずな。それが偽造防止の魔法刻印なんだと。表面は女神の横顔。裏面はその神殿の紋章らしい。それならどこでも使える。魔法刻印は門外不出。貨幣の偽造は重罪で、軽くて永久奴隷らしい。後は推して知るべし、だな。



 凄えな、異世界! そう思ったね。

 

 それとも1つ感動したのは、目の前にそびえる砦の重厚さだ。

 深淵の森に面する側は、万里の長城みたいに左右に城壁が広がっていて街はない。つまり、その後ろに広がってるってことだろう。一辺の壁なのか、それとも街まで保護する囲いなのかは入ってみねこと判らねえ。

 「それにしてもでけえな」

 何回目か忘れたが、同じ言葉がこぼれ落ちる。

 近づけば近づくほど、その頑強さと威圧感が半端ねえ。

 「うむ。防衛線とうたうだけの事はある」

 「うわーっ! 大きいねーっ!」

 ヒルダとプルシャンの声に和すように、女性陣の声が被せられる。騒がしいが、元気になったと喜ぶべきか。色々と街の中の様子を教えてくれる女性も居るようで、2人のことは任せることにした。

 「騎士団以外は、城門で入城検査を受けてもらうことになります。犯罪歴がないという証明をしてもらうだけなので、心配いりません。わたしたちも立ち会いますから、ご安心下さい」

 そこへ、副団長ヨハンナさんが馬首ばしゅをめぐらせて声を掛けてくれた。女性陣からも安堵の溜息が漏れ聞こえてる。緊張した雰囲気感じ取ってくれたんだろう。

 何で今そんなことを言いに来たのかと思い視線を馬車が向かう先に向けると、大きなアーチ型で両開きの門扉もんぴがあることに気が付いた。その横に衛士らしき兵が左右に1人ずつ立ってるのが見える。

 ああ、もう少しで着くからか。

 素通りはねえだろうと思ってたが、少し緊張するな。

 俺ら3人は、今【偽装】スキルで色々と隠し事が多い。種族やら職業ランクやら、レベルもだ。

 幸いというか、俺は【骨法師】から【骨仙人】にランクアップしただろ? レベルは1に戻っちまったから【偽装】の必要はねえ。あるのはステータスだ。ヒルダに言わせれば、7次職級の初期ステータス値なんだそうだ。面倒事は御免被ごめんこうむりたい俺は、すぐさま加工したよ。

 今の俺のステータスはこうだ。

 ◆ハクト◆
 【種族】兎人族:雪毛ゆきげ
 【性別】♂
 【職業】骨仙人
 【レベル】Lv1
 【状態】健康
 【生命力】14600 / 14600
 【魔力】14430 / 14430
 【力】1450
 【体力】1470
 【敏捷】1455(1450+5)
 【器用】1470
 【知性】1470

 【ユニークスキル】
  無限収納
 ☆骨法こっぽう Lv21

 【アクティブスキル】
  鑑定眼 Lv4
  爪戯そうぎLv3

 【パッシブスキル】
  回復強化 Lv10
  耐痛 Lv10
  耐魅了Lv1
  耐火Lv1
  耐磁力Lv1
  偽装Lv2

 【称号】
  竜殺し

 【装備】
  ベルト
  ポーチ×2
  剣鉈けんなた×1
  森躄蟹の草摺
  森躄蟹の籠手
  森躄蟹の脛当て
  森躄蟹の胸当て

 【従者】
  ヒルデガルド・セイツ・アイヒベルガー(隷従)
  プルシャン(隷従)

 【所持金】
  銀貨2枚

 ヒルダと相談して、職種ランクを【骨仙人】から【武闘家ケンプファー】に。

 ステータスを上の数字から、下2桁を切り捨てた数字にしておいた。

 【無限収納】と【鑑定眼】、勿論【偽装】と、称号欄にある【竜殺し】を消しす。【骨法Lv21】は【武術Lv10】に書き換えて【偽装】完了だ。

 エレンさんや騎士団の面々に、剣や槍の武器を扱うスキルについて話を聞いてみたら【戯】→【技】→【術】の順に上がるらしい。なので、俺の【骨法】もこれ以上はどうしようもないので【武術】でいいかという話に落ち着いたのさ。

 ああ、あと、【従者】の項目にあるヒルダの長ったらしい名前も、ヒルダに書き換えたぞ。

 やることはやったんだ。後は野となれ山となれ、だな。

 「「止まれっ! 何者だっ!」」

 「我らは聖レリア騎士団! わたしは団長エレン=グレヴィリウスだ。レリア姫の命を果たし、盗賊を狩り、捕らわれていた娘たちを連れ戻したっ! 開門を願うっ!」

 衛士の野太い問い掛けに応えるエレンさんの張りのある澄んだ声が、城壁を駆け上り夕暮れの空に吸い込まれたーー。





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