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第1章 西挟の砦

第68話 えっ!? ひょっとして、やっちまった!?

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 「おおっ!? ほら、ほら! 皆の装備があるよ! これも! あ、これもそうだ!」

 「何してるの?」

 「ん? 取り上げられてた自分と仲間の道具が見つかったって喜んでるのさ」

 忙しく装備品を嗅いで、選別する狼娘リリーの行動の意味が解らないプルシャンの問い掛けに答えてやる。

 「ふ~ん」

 俺らは今、盗賊どもが倉庫にしてた廃屋に居る。

 リリーが自分と騎士団仲間の装備を掘り出してるとこだが、プルシャンは財宝も装備も興味ないらしい。らしい、じゃねえな。ない、だ。

 装備品は俺から貰うからいいんだと。

 で、俺はというと、めぼしい物が無えか【鑑定眼】で見てるとこだ。

 ……今の所んなもんは出てねえ。

 見た所結構な金貨が銀貨がある。これだけありゃ、まかなえるだろう。一旦いったん、俺の【無限収納】に収めとけば運ぶのも邪魔にはなるまい。

 徳利とっくりのような花瓶のような陶器の小瓶に、木の栓がしてある物が財宝や防具とは別に保管してあるのが見えた。

 【鑑定眼】に働いてもらおうじゃねえの。

 【6級傷薬ヒールポーション
 見習い薬師の造った練習品。
 効果はまばらだが、安く手に入れれることから駆け出し冒険者に人気。
 掛けて良し、飲んで良し。
 ただし、良薬は口に苦いと知れ。

 お、おう。何だ最後の一文は……。飲むと苦いのか?

 確かにゲームじゃガブガブ飲んでたけどな。実際味の表現なんか無かったし。

 こっちはどうだ?

 【5級傷薬ヒールポーション
 傷薬の正規品。
 軽度裂傷、深度1熱傷・凍傷、中度疲労からの回復が期待できる。
 回復魔法:第1位階【手当て】相当の回復量が上限。
 掛けて良し、飲んで良し。
 但し、良薬は口に苦いと知れ。(苦味+1)

 何だ、「苦味+1」って!?

 回復量が上がるともっと苦くなるってことか!?

 それに、6級も5級も鑑定掛けねえと判別できねえぞ?

 どうやって判断……まさか舐めてんのか!? 苦味で等級チェック!?

 いや、まだそうと決まった訳じゃねえ。後で聞いてみよう。

 狼娘リリーは、甲斐甲斐かいがいしく仲間の装備を拾い出してるから、今の内に収納へ入れるか。

 「プルシャン、ちょっとここに来てくれるか?」

 「ん? 良いよ? 何で?」

 リリーの死角になるような位置にプルシャンが来た時、傷薬ポーションを収納へ入れておく。結構な数だ。数量は後で確認すりゃあ良い。

 「いや、何でもねえ。それよりも、何か気になるものがあるか?」

 無理矢理会話を切り替えて、隣りに呼んだプルシャンの勘に頼ってみることにした。

 正直、俺はピンとこねえし、1個1個鑑定していくのも面倒だというのもある。

 「ん~……じゃあね~。これと、これ! 後は気になるもの無いよ」

 「早っ!? それで良いのかよ!?」

 「うん。コレでいい」

 そしたら、モノの数秒でぱぱっと2つ財宝の中から取り上げたじゃねえかよ。

 躊躇ちゅうちょせずプルシャンが取り上げたのは、何の変哲へんてつもねえ、革製の水筒と飾りっけのない短剣1本だった。いや、柄の頭に何か宝石っぽい石が嵌め込まれてるのか?

 革製の水筒は、日本の勾玉のとがった方を飲み口にしたような形だ。

 短剣は、……つばの付いてないぐな両刃で、刃渡りは20㎝くらいか。

 一先ひとまずリリーに確認だな。

 「リリーさんや、この革の水筒と短剣はお前さんらの物かい?」

 「ん? どれ? あ~違う。それウチらのじゃないよ」

 「じゃあ、貰っても文句は言われねぇな」

 「そうだね。良し、これで装備は全部かな。騎士章きししょうもあって助かったわ~!」

 問題なし、と。言質げんちは取ったぜ?

 「騎士章? 何だそりゃ?」

 耳慣れない言葉に思わずき返す。視線を落とすと、リリーの手の中に松明の明かりを反射させる銀の五角形板プレートが握られているのが見えた。

 「知らないの? 騎士章はね、貴族の出じゃなくても貴族と同じ扱いをしてもらえる勲章なんだよ。騎士団に所属して、騎士に成った者にだけ与えられる大事な物なのよ。魔法で授与者の名前が彫ってあるから、本人しか使えないしね」

 そのプレートを俺の前に掲げながらにへらと笑うリリー。

 「そりゃ良かったな」

 「む~。随分淡白な反応だな~。普通はもっと驚くよ?」

 「悪かったな。田舎暮らしが長かったもんでよ。その辺の事にはうといのさ。おし、んじゃ片付けてさっさと広場に戻るぞ」

 やることはやったし、さっさと戻るか。金入れて、装備品入れて、良く分からんが道具入れて、んでもって、ここに騎士団の装備置いとくもあれだろうから、ついでに持ってってやるか。

 「片付けるってどうするのよ。荷車も大袋もないっていうのにーーえっ!?」

 「ん?」

 何やらリリーの驚いた声が直ぐ隣りでするから、顔を向けると零れ落ちそうなほど大きく目を開いて唖然あぜんと口を開けたリリーがそこに居るじゃねえか。

 「変顔か?」と思った次の瞬間、その開いた口から絶叫が廃屋を揺らしたーー。

 「ええええええーーーーーーっ!?」



                 ◆◇◆



 で、俺はというと、「何で!? 何で!?」と付きまとうリリーと、俺からリリーを離そうとするプルシャンを連れて広場に戻って来ていた。

 盗賊どもの死体はもう無く、広場の中央でかれている火のそばに女たちの姿がある。

 エレンさんを筆頭に、騎士団の姉ちゃんたち10名、ヒルダに連れて来てもらった妊婦さんたち20名、例の顔を腫らした姉ちゃん1名、他16名、で、俺たち3名を入れて都合50人の大所帯おおじょたいだ。

 それも男は俺だけというな。

 ハーレム状態ではあるんだが、そんな気はサラサラ無い。

 それよりも、どう見ても健康状態がわりいだろ。顔色までは分らんがせてることは見たら判る。妊婦の姉ちゃんたちもだ。

 誰が親父おやじなのかは知らんが、腹の子に罪はねえ。

 食うもん食わねえと、丈夫じょうぶな子は育たねえからな。

 んじゃ、一肌脱ぐとするか!

 「おい、ちょっと肉出すから、そこどけてくれ。ヒルダ、プルシャン、切り分けてくれよ? 俺は焼く準備するから」

 「いや、主君、それはーー」「判った!」

 ずんっ

 「「「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」」」

 ヒルダが止めたような気がしたが、そのまま【無限収納】から深淵猪蛇しんえんいのへび肋骨周辺の肉バラ肉かたまりを取り出した。

 ざっと軽トラぐらいの大きさだ。あ~700kgはあるか?

 皮と骨はもうはががして処理を済ませてあるから、純粋に肉の塊だ。脂も多過ぎず赤身が美味いのが特徴だ。

 「わりいな。ナマクはねえんだが、味は保証するぜ? ん?」

 気が付くと、辺りがしんと静まり返ってることに気付く。チラッとヒルダを見たら額に手を当てて、うつむいてるじゃねえか……。その目が動いて俺の視線とぶつかる。



 えっ!? ひょっとして、やっちまった!?



 「「「「「「「「「「ええええええーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 次の瞬間、女たちの叫び声が夜空に浮かぶ双子月に向って駆け上ったーー。





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