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第1章 西挟の砦

第65話 えっ!? 本気で言ってんの!?

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 月明かりで細部までは見えんが、改めて見ると皆そこそこの綺麗どころのようだ。

 騎士団の面々もさることながら、さらわれてるのもそこそこのレベルなのかもな。

 「いって」

 プルシャン、つねるな。ヒルダも。

 「何か?」

 ほら、団長ちゃんに怪しまれただろうが。

 「いや、何でもねえ。あんたらもそのままだと動き辛いだろ。俺も目のやり場に困る」

 「「「「「っ!?」」」」」

 「いってっ! ーーーーだから抓るなって!」

 一斉に恥ずかしそうに身をよじる姉ちゃんたちを見てたら、腹を抓られた。思わず声を上げちまったが、小声で抗議する。

 ほら、姉ちゃんたちに笑われちまっただろうが。

 「ハクトが悪い」

 「そうだ。主君が悪い」

 「ーーーーだから抓るな! 分かった。悪かったって。一先ず、残党刈りと、シーツみたいな布切れを探すぞ。あんたらに」

 「団長を務めているエレンと申します」

 「副団長のヨハンナです」

 「アンナです」

 「ロリです」

 「カーリン」

 と次々に名乗ってくれるが、正直覚えきれねえ。

 「お、おう。名前が覚えるのが苦手だからまたくかも知れんから、その時は宜しく頼む。こっちの面を着けてる方がヒルダで、着けてない方がプルシャンだ。エレンさんたちには悪いが、死体の処理を任せても良いかい? 生死不問の賞金首なら、何かと証明するものが居るんだろ?」

 「ありがとうございます。お任せしても宜しいですか?」

 「ああ、落ち着いたら皆で飯でも食おう」

 「主君」「ヨロシクね!」

 「ーー静かにーーーー本名を名乗るのはダメだーー後で話す

 「ーー」

 正式に名乗らせなかったことで思うとこはあるんだろうが、今はまだはええ。

 300年も経ってんなら、貴族の家の1つや2つは潰れてても可怪しくはねえからな。

 貴族として持てはやされるか、石を投げられるか、無反応かのどれかだろうよ。

 それが判るまで、ヒルダはヒルダのままの方が何かと都合が良い。不承不承ふしょうぶしょう肯いてはくれたが、早めに説明しとかねえとな。

 ま、このまま歩きながらでも良いか。

 盗賊たちは、恐らくだが首級しるしと取るのが一番手っ取り早いだろう。

 下っ端の首は要らねえだろうが、頭と幹部は必要だろうな。

 騎士団の姉ちゃんたちと分かれて、篝火かがりびいてある廃墟を回ることにした。

 まともな寝床があるはずだ。皆が同じように地面で雑魚寝ざこねってことはねえだろうよ。

 「ヒルダ」

 「何だ主君?」

 「お前さんの名前だがな。家がまだ残ってるかどうかも分かんねえし。300年前の責任をなすり付けられてねえとも限らねえ」

 「なっ!?」

 「落ち着けって。まだ判らねえって話をしてるんだ。だから、事がはっきりするまで、あの長ったらしい名前を名乗るのは我慢しな」

 「……そうだな。釈然とせぬが、主君の言いたいことも解る。分かった。しばらくはヒルダで良い」

 「へ。ありがとよ。ところで、小指を立てた時、随分ぼーっとしてたな。ありゃなんだ?」

 「しゅ、主君は知らぬのか!?」

 「だから何を?」

 「左手の小指を立てて紹介する場合。つ、つーー」

 「つ?」

 「その者を妻だと紹介しているのだ!」

 地面に向けて、思いっ切り吐き出すように大声を出すヒルダの両肩をつかんで向き直させる。

 「えっ!? 本気で言ってんの!? マヂ!?」

 おいおいおいおいっ! 恋人とか愛人っていう意味じゃねえのかよ!?

 「う、うむ。スピカ様だけでなく、われとプルシャンも妻として認めてくれるのだな」

 と言いながら片手を頬に当てて首をしなっと倒すヒルダ。

 きっと効果音的にはポッとか付いてんだろうが、いや、待て。そこじゃねえ。

 「え!? 何!? わたしも奥さんになれるの!? やった! ありがとう、ハクト!」

 状況を呑み込んだ、プルシャンが抱き着いてくる。ダメだ。あの時に間違ったと言ってねえだけに、今更違うからとは言えねえ。いや、どっかでそういう気持ちがなかったといえば嘘になるが、ここは重婚は認められてるのか!?

 待てまて待て。落ち着け。

 重婚云々うんぬんは後だ。

 「え、あ、う……。ちなみに、因みにだ。右の小指は?」

 「何を言ってるのだ。恋人に決まっているだろう」

 Oh……やっちまった。

 久々にうっかりミス。確認してねえ俺がわりい。

 いや、うっかりミスのレベルじゃねえ! 相当重大な意味だぞ!? 妻!?

 いやいやいや、スピカになんて説明する!?

 悶々もんもんとしながら篝火に近づくと、喘ぎ声のようなくぐもった声が聞こえてきた。

 ちっ。真っ最中かよ。

 「おし、お前らここで待ってろ」

 「一緒に行くよ?」

 「そうだぞ、主君。吾とて、主君らのむつみごとを毎日見てるのだ。今さは恥ずかしいとは思わん」

 いや、お前らはそうだろうがよ。「相手をさせられてる姉ちゃんはそうとは限らねえだろ?」と言っても聞かねんだろうな。

 「はぁ。好きにしな」

 溜息じりに答え、篝火かがりびから松明たいまつに出来そうな火の付いた木を取り上げて廃屋の中を照らす。

 「誰だ!? まだ俺の時間だろうが!」

 「あ~取り込み中わりいな。お前さんらの仲間は全部殺っちまった。後はお前だけだ」

 床の上で腰を振る野郎が振り返って声を荒げるが、まったく凄みが伝わってこねえ。

 「んだとっ!?」「ひぐぅっ」

 起き上がる男に押されて相手の女が転がり、顔が松明の火に照らされる。その顔は殴られ過ぎて青くはれれ上がっていたーー。





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