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幕間
閑話 女神たちの茶会10
しおりを挟む水盤の縁を撫でながら、そこに映し出されている様子に思わず「ふぅ」と小さく溜息を吐いてしまいました。
ちょうど今、深淵湖の主が人化したのです。
ハクトに従者をと思い、ヴィンデミアトリックス姉様の協力を得て形になった瞬間ですね。
ほっと胸を撫で下ろすのも仕方のないことでしょう。
わたしたちも、勇んで姿絵をハクトに送りつけてしまったと言うのもあるのですが、まさか人化の魔法陣の存在期限ギリギリまで湖に来ないとは思いませんでしたから……。
問題の姿絵。ハクトにあのような特技あるとは予想もしていませんでしたが、その準備に、アウヴァ姉様が一番時間をお掛けになるとも思ってもみませんでした……。
完全にわたしの想像の斜め上を行く結果でしたね。
そう思い返して、チラリと姉様を見ると、ぷいっと顔を逸らされました。
ふふふ。姉様の照れたお姿も新鮮です。
人化も最後は荒っぽくなっていましたが、結果が良いなら問題ないでしょう。
ハクトは確認していないようでしたが、わたしが見た限りではプルシャンの種族は【魔族/人種】となっています。
問題ありませんね。
流石、ヴィンデミアトリックス姉様。
ヒルダの時と同じように、何も足さず、何も引かずに有る物だけで再構築させる事はもうしない方が良さそうです。
ええ、アウヴァ姉様、仰ることは良く解ります。
何が切っ掛けでバランスが崩れるか分かりませんからね。
それに、これ以上ハクトに従者を付ける気はありませんし、種も増やしません。
種を増やすと管理が面倒になりますからね。
何ですか、シェルマ?
え? 自分もヴィンディアトリックス姉様みたいなことをしたい?
ライエル・アル・アウラもですか?
ダメです。
ケチではありません。
も う 一 度 言 っ て み な さ い。
ぜ、絶壁ではありません! ちゃんと膨らみはあります!
違う意味で頭が痛くなります。本当にこの子たちは……。
良いでしょう。そこまで言うならはしてみなさい。
序ですから、ヒルダとプルシャンの管理もしてもらいましょう。新しい種族ですからね。色々とデータを集めなければなりません。レベルの上昇に伴う肉体の変化。同調率。スキルの習得率。肉体の成長と新陳代謝。排卵に伴う周期的な状態変化。心の状態。道徳観の習得に関わる収集。他にもーー。
え? もう良い? 折角、貴女たちのやる気を勝って上げたのに……。
本当にしなくて良いのですか?
わたしが良いということは、滅多にないんですよ?
そうですか、そんなに勢い良く首を横や立てに振らなくても……。
面倒事は最小限のほうが良いのです。
それにこの種は、今の時点でヒルダとプルシャンの2人だけですから、バレれば奪い合いにならぬとも限りません。
ヴィンディアトリックス姉様特性の主従契約ですから、そこが人の子らに破棄されることはないでしょう。そこではなく、契約主が1番に狙われるということです。
余分な諍いの種を抱えさせるのですから、ここを発つまでに【隠蔽】スキルを身に着けさせないといけませんね。
ポリマ、頼みましたよ?
「ん……準備はできてる。後はタイミング」
ヘゼ姉様は何もしないで下さい。
え~、ではありません。
ヘゼ姉様はハクトに過保護ですから、手出しは禁止です。
ダメなものはダメです。
ケチではありません。
ね え さ まっ!
わたしの胸はちゃんとありますからっ!
ふぅ。疲れる……。
あとは……。
あとは、ハクトの体です。
ハクトは、フォルトゥーナでは人族ではなく、兎の特徴を継いだ獣人ですからね、遅かれ早かれ発情期が来ることでしょう。
誰彼無く手を出していては、功徳よりも業が溜まってしまいます。
それではスピカが可哀想ですからね。
プルシャンも初めからそのつもりでしたし、スピカとの折り合いまではこちらで面倒見きれません。スピカはともかく、メスを多く惹き寄せる程、お前の規律も試されているのですよ?
まあ、これは言うつもりはありませんが……。ふふふ。
そう思っていると、あら、山に棲む飛竜たちが騒ぎ始めたではありませんか。
やはり、あれが居なくなると五月蝿くなるとは思っていましたが、意外に早かったですね。
その中の赤い特殊個体が、ハクトたちの所に飛んでいくのが見えます。
「どうやら、うりゅうは静観の構えのようだな」
右隣で水盤を見ながら、ポツリと漏らしたアウヴァ姉様の声が耳に残りましたーー。
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