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第3章 塒と亡骸

第42話 えっ!? 本当に良いの!? これ……。

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 赤竜レッド・ドラゴンの解体を終えた俺たちは今、洞窟の奥に向かって歩いてる。

 明かり?

 ああ、生活魔法は懐中電灯のような光も作れるらしい。

 今テニスボール大の明かりが俺らの先頭に浮いて先を照らしてる。

 洞窟と言っても俺がイメージしていたような、迷宮ダンジョンの入り口っていう洞窟じゃねえ。入り口が少し通路みたいになっていた後は、ドーム状に地下空間が広がってた。ああ、当然ここも骨が散乱してる。

 あのドラゴン、どんだけ殺して喰ってきたんだか……。考えただけで胸糞むなくそが悪くなるぜ。

 その更に奥の方にうずたかく積まれた金銀財宝が、魔法の光りに照らされて光っていた。

 「おおっ! ドラゴンがお宝を守るという王道は守られてるんだなっ!」

 「主君が何を言ってるのか分からぬが、ドラゴンは財宝を守るのではなく、奪って貯め込むのだ。光る物や魔力を帯びた物を好むと聞いたことがある」

 カラスかよっ!?

 思わず突っ込みそうになったのを口を手で覆ってやり過ごす。

 「ま、何にせよ。臨時収入には違いねえ。俺らが貰ってもいいんだよな?」

 現実味が湧いてこない俺は、財宝から視線を切らさずに真っ赤な骸骨ちゃんヒルダへ確認した。

 「勿論だ。主君があの憎き邪竜ドラゴンを討ったのだから、ここにあるのは全て主君の物だぞ」

 その返答に驚き、油が切れたブリキの玩具みたいにギギギとヒルダの方へ顔を向ける俺。



 「えっ!? 本当に良いの!? これ……」



 「うむ。まごうことなく、主君の物だ。あ、ちょっ、主君!?」

 その瞬間、俺は弾かれたように金貨の山へ飛び込んだ。

 「おっしゃーーーーっ!! うははははははっ!! これやってみたかったんだよっ! 凄えっ! うははははははっ!! ヒルダもやってみろ! 一生に一度しかないチャンスだぞ!」

 昔に娘と一緒に見たディ○ニーのアニメで、アヒルの金持ちおじさんが金貨の海を泳ぐシーン、あれを大人ながら夢見たもんだが、まさか夢が叶うとはな!

 50の良いおっさんがと笑うが良い!

 だが俺に後悔の2文字はねえっ!

 「ふふっ。主君は子どもみたいわきゃっ!?」

 「五月蝿うるせえっ! お前も来いっ! うははははははっ!!」

 傍まで来たヒルダの腕を引っ掴み、金貨の山へ放り投げてやった。骨だけあって軽い。

 後は、想像の通り金貨を巻き上げたり、泳いだり、適当に武器や王冠みたいな冠を被ってみたりと、思い付く限り騒ぎまくったな。

 ん? ああ、騒いだよ。

 スピカのことを忘れて……な。



                 ◆◇◆



 目下もっか俺たち、まあ俺とヒルダしか居ねえんだが、猛省中だ。

 2人とも財宝の山を前に正座し、山の上からスピカのお叱りを受けている。

 まあ、要はやり過ぎたってこった。

 『ハクトさん! 聞いているんですか!?』

 「お、おう。年甲斐もなくはしゃいじまった。この通り、反省してます。ほら、ヒルダも」

 「ぬ、あれは主君が……」

 ヒルダが納得いかないって反論しかけたから、頭を下げた状態で小声で諭す。

 「莫迦ばか、最後はお前も笑ってただろうがよ! 頭下げとけっ」

 「も、申し訳ありませんでした」

 ここは頭を下げとく時だ。

 『もうっ! わたしだって泳ぎたかったんですからね!』

 えっ!? そっち!?

 そんな事を言い捨てて俺の頭に戻ってくるスピカ。

 うん、やっぱり俺、女心分かってねぇわ。通りで嫁にも愛想をかされたはずだわ。

 こりゃ、50の手習いじゃねえが色々本気でやらねえとな。

 「ヒルダ」

 「何だ主君?」

 「金貨は俺の方で回収しとくからよ、アイテムで目星めぼしい物を取り分けといてくれるか?」

 「承知した」

 後は財宝の回収だ。無限収納に収めちまえば、後は勝手に分類して表示してくれるから気にすることはねえ。そう思って金貨を掻き込むように財宝の山に手を突っ込んで動かすと、ざざーーって音と一緒に金貨の川が出来た。

 「おおーー……」

 「これは……」

 『わあーっ! 凄いですね、ハクトさん!』

 あまりに都合の良すぎる機能を目の当たりにして、言葉を失った。掃除機か!

 そりゃあよ、一生懸命金貨を掻き込む作業を思えばありがたい話だが、有難味ありがたみが湧かねえ収納だよな。いや、機能自体は凄え助かるんだが、何て言うか、風情がねえんだわ。

 ま、贅沢な不満だって言うのは承知してるから、これ以上ぶーたれる気はねえ。

 ヒルダの方もアイテムの選別が捗るだろうしな。

 というわけで、金貨以外の貨幣や宝石類もあるから無限収納収納ホイホイに入れていく。これで億万長者の仲間入りだな。一生遊んで暮らせる。

 ……んな訳にはいかんよな。功徳を積まにゃならんし。

 粗方あらかた金銀財宝を収納できた時点で、俺もヒルダの手伝いに回る。

 順調にアイテムを種類別に置いていってる最中、ヒルダ様子が可怪しい事に気が付いた。

 「ヒルダ?」

 「ーー」

 『鎧を着た骸骨さんですね』

 俺の頭から飛び立ったスピカが、ヒルダの視線の先にあるものを確認して教えてくれた。

 ヒルダの肩が小刻みに震えてる。

 ……泣いてるのか? 何を見つけた?

 「ーー」

 俺も黙ってその横に並び立つ。

 その視線の先にあったのは、首無しの全身鎧を着た骸骨だった。所々に痛々しい穴が穿うがたれてる。どれも致命傷になるような穴だ。

 直ぐ、あの赤竜レッド・ドラゴンに噛み殺されたんだろうと、ほとけさんを見てピンときた。

 「主君」

 「ん?」

 「……この遺体と鎧。われが貰っても良いだろうか?」

 「ああ、良いぜ」

 「主君」

 「ん?」

 「……聞かないのか?」

 「……お前さんの知り合いだろうと言うことは、何となく分かる。それで十分さ」

 「そうか……。感謝する」

 「おう」

 そう言うと、ヒルダがゆっくり膝を折り首無しの遺体を抱き寄せた。鎧を着てるから重たかろうが、そんなことはまるで気にならないらしい。

 「ーー」

 声を殺した嗚咽が聞こえてくる。

 居辛いづれえな。

 「わりぃ。ちょっと、用を足してくるわ」

 ヒルダの赤い髑髏しゃれこべを軽く撫でて、俺はスピカと一緒にその場を離れた――。





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