7 / 333
第2幕 深淵の森 序章
第6話 えっ!? 骨抜きってこういうこと!?
しおりを挟むづるんっ
「――は?」
背中を掴んだ手に力を入れて持ち上げたら、大鼠の背骨が抜けた――。
「はああああ?!?」
はっ!? えっ!? 骨抜きってこういうこと!? 何、どういうこと!?
俺、今、魔法使ったの!?
ピーッ ピーッ ピーッ
嬉しそうに俺の右肩で跳ねるスピカ。可愛いんだが、そこは置いといてこれだ。
落ち着け、落ち着け俺。
50歳にもなって狼狽えるな。
まずは状況を整理しろ。深呼吸する。
「す~~~~は~~~~。よし」
俺は【骨抜き】を使おうと思った。
思ったが、発動しなかった。
魔法といえば、手か指先から「ドドーン」と出るもんだと俺は思ってたが、なぁ~んにも出なかった。
そこは良い。
いや待て良くない。
魔法が発動してない証拠もないければ、確証もないんだ。
逆に発動してたと仮定して考えたらどうだ?
発動条件が、ライターの着火石を回さないと火が点かないみたいに、もう一手間要ったとしたら?
ぷんっと鉄錆に似た匂いが鼻を突く。
ああ、そりゃ背骨を引っこ抜かれたら死んじまうわな。
力なくぶらりと手足を垂らす大鼠を見ながら、思考を止める。
先にやっとなきゃ面倒なことになると思ったんだ。
血の匂いで肉食獣を呼び寄せたくもないからな。
左手に大鼠を掴んだまま川に入り、背骨を引き抜いた穴から内臓を取り出し、川に流す。埋める手間が省けるし、沢蟹やら沼蝦の餌に丁度良いだろうさ。
解体用のナイフなんかねえんだから、勿論素手だ。
昔、田舎のじいちゃんに連れられて猪を狩りに山へ入り、仕留めて捌いた数回の経験が生きてる。人生、何が役立つか分かったもんじゃない。
はは……あん時は気持ち悪くて何回か吐いたんだったな。
背中の穴から筋肉と皮との間に指を入れていく。
毛がある所為か、スムーズに毛皮が剥げそうだな気がする。
ああ、そうだ。検証がてら【骨抜き】を使ってみれば良いのか。
「【骨抜き】。おお! こりゃいい! 楽に皮が剥げる!」
俺は頭、手足、腰、肋骨の順に骨を抜いていく。
粗方骨抜きが終わってさあ皮剥の続きをと思った時だった。
「あれ? 眠い?」
ピーッ! ピーッ! ピーッ!
「いてて、スピカ、髭を引っ張ら――」
髭をスピカに引っ張られた所為で川岸の方に体を捻った時だ。
あまりの眠気に眼を開けていれなくなった俺は、そのまま川岸に突っ伏した――。
◆◇◆
ピーッ ピーッ ピーッ ピーッ
耳元でスピカの声がする。
――あれ?
体が冷たい?
ばちゃっと腕を動かすと水飛沫が跳ねた。
「――川の中で寝てたのか? こんな危険な所で無防備に昼寝?」
ピーッ ピーッ
「ああ、何かあったから俺がこんな場所で寝てたって事だろ?」
身を起こしながらスピカに尋ねると、鳴きながら首を上下に振ってくれた。嬉しそうに肩の上に戻って来てひょこひょこ跳ねている。
何か俺の体に起きたらしい。
どれくらい寝てたのか判らないが、陽は傾きだしてる。
「結構寝てたってことだな……」
皮を剥ぎかけた大鼠は握ったままだったようで、流されずに済んだ。
森の中で飯抜きとかありえん。
この幸運を喜ばないとな。
それより川の中で倒れてたら土左衛門だわ。
そう思ったらゾワッと鳥肌がたった。
何か分かるかもとステータスをもう1度出してみたら、【魔力】が1/16になってるじゃないか。
つまり?
「魔法が使えるって調子にのって使い過ぎて倒れたってことか?」
ピーッ
「何てこった。俺は玩具をもらったガキか」
【骨法】は使い勝手が良いが、今は自重しろってことだな。
ピルルル
「ああ、悪い悪い。心配を描けたな。すまんね、スピカさんや」
ちゃんと謝っておくことにした。
見た目は可愛い青色の小鳥だけど、中身は女神様だからな。
俺はその女神様の婚約者らしいが……。
俺の目より高い枝に止まって鳴くスピカに頭を下げると、彼女は俺の頭に戻って来てくれた。許してくれたって事だろう。そう思う事にした。
色々とやらなきゃならん事があるが、皮剥ぎを終わらせることにする。
――――。
剥ぎ終わったのは良いが、どこに納める?
火もない。
このまま置いとくと誰かの胃の中に納まるよな……。間違いなく。
バサバサバサバサッ!
突然、少し奥で鳥たちが一斉に木々から飛び立って行くのに気付く。羽音からして結構な量だぞ?
ピーッ!
何だ? 警戒の色が濃い様な声をスピカが出してる。
蛇に巣を狙われた鳥のような……。
バキバキと音がし始め、ズーンと木々が倒れて足元が震える。こりゃ……ただ事じゃない。
何だ?
何かが来てるのか?
森の奥に目を凝らしていると、ヌメリと光を反射する莫迦デカイ何かが這ってるのが見えた――。
0
お気に入りに追加
574
あなたにおすすめの小説
辺境の農村から始まる俺流魔工革命~錬金チートで荒れ地を理想郷に変えてみた~
昼から山猫
ファンタジー
ブラック企業に勤め過労死した俺、篠原タクミは異世界で農夫の息子として転生していた。そこは魔力至上主義の帝国。魔力が弱い者は下層民扱いされ、俺の暮らす辺境の農村は痩せた土地で飢えに苦しむ日々。
だがある日、前世の化学知識と異世界の錬金術を組み合わせたら、ありふれた鉱石から土壌改良剤を作れることに気づく。さらに試行錯誤で魔力ゼロでも動く「魔工器具」を独自開発。荒地は次第に緑豊かな農地へ姿を変え、俺の評判は少しずつ村中に広まっていく。
そんな折、国境付近で魔物の群れが出現し、貴族達が非情な命令を下す。弱者を切り捨てる帝国のやり方に疑問を抱いた俺は、村人達と共に、錬金術で生み出した魔工兵器を手に立ち上がることを決意する。
これは、弱き者が新たな価値を創り出し、世界に挑む物語。
スマートシステムで異世界革命
小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 ///
★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★
新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。
それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。
異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。
スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします!
序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです
第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練
第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い
第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚
第4章(全17話)ダンジョン探索
第5章(執筆中)公的ギルド?
※第3章以降は少し内容が過激になってきます。
上記はあくまで予定です。
カクヨムでも投稿しています。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
異世界で俺はチーター
田中 歩
ファンタジー
とある高校に通う普通の高校生だが、クラスメイトからはバイトなどもせずゲームやアニメばかり見て学校以外ではあまり家から出ないため「ヒキニート」呼ばわりされている。
そんな彼が子供のころ入ったことがあるはずなのに思い出せない祖父の家の蔵に友達に話したのを機にもう一度入ってみることを決意する。
蔵に入って気がつくとそこは異世界だった?!
しかも、おじさんや爺ちゃんも異世界に行ったことがあるらしい?
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる