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第2幕 深淵の森 序章

第6話 えっ!? 骨抜きってこういうこと!?

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 づるんっ



 「――は?」

 背中を掴んだ手に力を入れて持ち上げたら、大鼠おおねずみの背骨が抜けた――。

 「はああああ?!?」

 はっ!? えっ!? 骨抜きってこういうこと!? 何、どういうこと!?

 俺、今、魔法使ったの!?

 ピーッ ピーッ ピーッ

 嬉しそうに俺の右肩で跳ねるスピカ。可愛いんだが、そこは置いといてこれだ。

 落ち着け、落ち着け俺。

 50歳にもなって狼狽うろたえるな。

 まずは状況を整理しろ。深呼吸する。

 「す~~~~は~~~~。よし」

 俺は【骨抜き】を使おうと思った。

 思ったが、発動しなかった。

 魔法といえば、手か指先から「ドドーン」と出るもんだと俺は思ってたが、なぁ~んにも出なかった。

 そこは良い。

 いや待て良くない。

 魔法が発動してない証拠もないければ、確証もないんだ。

 逆に発動してたと仮定して考えたらどうだ?

 発動条件が、ライターの着火石を回さないと火が点かないみたいに、もう一手間ひとてまったとしたら?

 ぷんっと鉄錆てつさびに似た匂いが鼻を突く。

 ああ、そりゃ背骨を引っこ抜かれたら死んじまうわな。

 力なくぶらりと手足を垂らす大鼠を見ながら、思考を止める。

 先にやっとなきゃ面倒なことになると思ったんだ。

 血の匂いで肉食獣を呼び寄せたくもないからな。

 左手に大鼠をつかんだまま川に入り、背骨を引き抜いた穴から内臓を取り出し、川に流す。埋める手間がはぶけるし、沢蟹サワガニやら沼蝦ヌマエビエサに丁度良いだろうさ。

 解体用のナイフなんかねえんだから、勿論素手だ。

 昔、田舎のじいちゃんに連れられて猪を狩りに山へ入り、仕留めてさばいた数回の経験が生きてる。人生、何が役立つか分かったもんじゃない。

 はは……あん時は気持ち悪くて何回か吐いたんだったな。

 背中の穴から筋肉と皮との間に指を入れていく。

 毛がある所為か、スムーズに毛皮が剥げそうだな気がする。

 ああ、そうだ。検証がてら【骨抜き】を使ってみれば良いのか。

 「【骨抜き】。おお! こりゃいい! 楽に皮がげる!」

 俺は頭、手足、腰、肋骨の順に骨を抜いていく。

 粗方骨抜きが終わってさあ皮剥の続きをと思った時だった。

 「あれ? 眠い?」

 ピーッ! ピーッ! ピーッ!

 「いてて、スピカ、ひげを引っ張ら――」

 髭をスピカに引っ張られた所為で川岸の方に体をひねった時だ。

 あまりの眠気に眼を開けていれなくなった俺は、そのまま川岸に突っ伏した――。





                 ◆◇◆





 ピーッ ピーッ  ピーッ ピーッ

 耳元でスピカの声がする。

 ――あれ?

 体が冷たい?

 ばちゃっと腕を動かすと水飛沫みずしぶきが跳ねた。

 「――川の中で寝てたのか? こんな危険な所で無防備に昼寝?」

 ピーッ ピーッ

 「ああ、何かあったから俺がこんな場所で寝てたって事だろ?」

 身を起こしながらスピカに尋ねると、鳴きながら首を上下に振ってくれた。嬉しそうに肩の上に戻って来てひょこひょこ跳ねている。

 何か俺の体に起きたらしい。

 どれくらい寝てたのか判らないが、陽は傾きだしてる。

 「結構寝てたってことだな……」

 皮を剥ぎかけた大鼠は握ったままだったようで、流されずに済んだ。

 森の中で飯抜きとかありえん。

 この幸運を喜ばないとな。

 それより川の中で倒れてたら土左衛門ドザエモンだわ。

 そう思ったらゾワッと鳥肌がたった。

 何か分かるかもとステータスをもう1度出してみたら、【魔力】が1/16になってるじゃないか。



 つまり?



 「魔法が使えるって調子にのって使い過ぎて倒れたってことか?」

 ピーッ

 「何てこった。俺は玩具おもちゃをもらったガキか」

 【骨法】は使い勝手が良いが、今は自重しろってことだな。

 ピルルル

 「ああ、悪い悪い。心配を描けたな。すまんね、スピカさんや」

 ちゃんと謝っておくことにした。

 見た目は可愛い青色の小鳥だけど、中身は女神様だからな。

 俺はその女神様の婚約者フィアンセらしいが……。

 俺の目より高い枝に止まって鳴くスピカに頭を下げると、彼女は俺の頭に戻って来てくれた。許してくれたって事だろう。そう思う事にした。

 色々とやらなきゃならん事があるが、皮剥ぎを終わらせることにする。

 ――――。

 ぎ終わったのは良いが、どこに納める?

 火もない。

 このまま置いとくと誰かの胃の中に納まるよな……。間違いなく。



 バサバサバサバサッ!



 突然、少し奥で鳥たちが一斉に木々から飛び立って行くのに気付く。羽音からして結構な量だぞ?

 ピーッ!

 何だ? 警戒の色が濃い様な声をスピカが出してる。

 蛇に巣を狙われた鳥のような……。

 バキバキと音がし始め、ズーンと木々が倒れて足元が震える。こりゃ……ただ事じゃない。

 何だ?

 何かが来てるのか?

 森の奥に目を凝らしていると、ヌメリと光を反射する莫迦ばかデカイ何かがってるのが見えた――。





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