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第2幕 深淵の森 序章

第4話 えっ!? 獣人ってこういうこと!?

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 ピルルルル

 「ん……」

 頭を何かがとがったものでツンツンしている感覚で気が付いた。

 可愛らしい小鳥の鳴き声が聞こえる。

 色んな音が澄んで聞こえる気がするぞ。

 耳が良くなったのか?

 「あたたっ。お、スピカかい?」

 ピルルルル!

 ぼーっと雲の流れる空を眺めながら耳を澄ませてると、額の上に青い雀のような小鳥が舞い降りてくちばしで突かれた。

 名前で呼んでくれと言われてた手前、今更お嬢ちゃんとも言い辛いし、何より青い小鳥だ。名前で呼んだ方が無難だろうな。

 名前を呼ばれて嬉しそうにさえずるスピカを撫でようと伸ばした腕を見て、俺の思考は止まった。




 「なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁぁ――――――っ!!!」




 ○田○作ばりに驚いたね。

 あまりに大声出し過ぎてスピカが吃驚びっくりして逃げたようだ。

 スピカだけじゃない、周りの木々からも鳥たちが一斉に飛び立ってる。いや、すまん。

 だがな、想像してみて欲しい。

 目が覚めたら腕が真っ白な毛で覆われてたらどう思う?

 「――――」

 未だにドキドキしてる胸の鼓動を感じながら、俺は自分の目の前に手を恐る恐るかざしてみた。

 ――嫌な予感しかしない。

 5本指。

 確かに5本指、だな。両手を握ったり開いたりしてみるが、違和感はあまり・・・ない。

 いや、握ると毛も握るだろ?

 こう、何か1枚軍手を着けてるみたいで、ちょっとだけ変なんだよ。

 前はてのひらに毛なんか生えてなかったんだぜ?

 いや、掌だけじゃねえ。指の腹も全部毛で覆われてるってどういうことだ?

 唯一ピンク色の肌が見えてるのは指先の爪が見えてる部分が少しだけ……。

 爪?

 慌てて二度見した。これ、人間の爪じゃないぞ? 猫とか犬のような……。

 「は? まさかっ!?」

 がばっと上半身を起こし目に飛び込んで来た情報に俺の思考は止まった。



 えっ!? 獣人ってこういうこと!?



 魔族は危険過ぎる。妖精族は柄じゃねえ。じゃあ残った獣人でって選んだ訳だが……。

 クソっ。近年若いもんの間で見られる猫耳やウサ耳なるものを生え出させた、人間に近いものが獣人かと勝手に思い込んでた自分が恨めしい。

 そりゃあよ。そんな格好の若いもんが街の中を闊歩かっぽしてるんだぜ? 目に付くってもんだ。

 しかも、今の俺は布切れ1枚身に着けてない。

 大事な2つのお下げ袋は確認できたが、マイサンは何処いずこ

 というか、ザニアさん、からだがこんなことになるんだったら教えてくれよ!

 そう内心ぼやきながら空を睨みつけるが、あの人なら「功徳を積むためです」という一言で片付けそうだと思い、諦めることにした。

 はぁ……どうせぼやいても聞こえねえだろうしな。

 くも全身毛だらけと言う状況に落ち込んだ。俺はチュー○ッカか。

 ピルルルル

 スピカが俺の様子が落ち着いたのを見計らって頭の上に降りて来た。



 ――ん?



 スピカが頭の上でピコピコと跳ねるのに合わせて何かに当たる。何だ? 何か邪魔くさいものがある。

 恐る恐る手を伸ばして触ってみた俺は、その感触に青くなった。

 耳が頭の上にある!?

 いや、髪がねえっ!?

 「――――っ!?」

 慌てて顔を触るが人間らしさを微塵みじんも感じない。

 「鏡! 鏡は!? ない、じゃあ、川は!? スピカ、川がないか!?」

 ピーッ

 俺の問いかけにスピカが飛び立つ。

 それを追いかけようと思って体を起こして駈け出そうとしたら、盛大に転んでしまった。

 「ぶはっ! 何だこりゃ、体のバランスが可怪しい!?」

 上半身は人間の頃と変わりはない。

 問題は下半身だ。

 ゆっくり立ち上がってみると、2本足で立てる。だが――。

 けつから太腿ふとももにかけてが異常に太い。以前の倍はあるか?

 そして、膝から下は完全に人から外れた形だった。

 猫の後ろ足のような、兎の後ろ足のような形で、4本指……。

 くにくにと足の指先に力を入れて動かしてみる。動いてるな。

 1本少ないが……。

 くっ足よりも、頭の上で揺れるものに意識がどうしても向いてしまう。

 どう触ってみてもこの長い耳、あれ・・だよな。ゆっくり何度も耳の縁をなぞるように触って思う。

 ってことはやっぱり――。

 ピーッ! ピーッ!

 「ああ、悪い悪い!」

 所謂いわゆる爪先立ちのような形でスピカに急かされながら、ふらふらと歩く。

 それも、転びながら。

 七転び八起きどころの回数じゃない。全身泥だらけだ。きっと背中やけつには小枝や落ち葉が一杯ついてるに違いない。

 時間の感覚は良く判らないが、結構な時間を掛けて小川までやって来た。

 「ふーっ、やっと着いたな。助かったよ、スピカ」

 ピルルルル!

 そう礼をいを言いながら、俺は意を決して水面をのぞき込んだ。

 つむっていた両目をゆっくり開く。

 横で水浴びを始めたスピカの立てた波紋で輪郭が微妙に歪むが、間違いない。

 おいおいおい、まぢかよ……。

 頭髪もなく、張りのないひげを生やした直立歩行の白兎しらうさぎがそこに居た――。




 「よりによって何で白兎なんだよ――」





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