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序幕
第3話 えっ!? 小鳥!?
しおりを挟む「「…………」」
俺とスピカは今仲良く正座して、突如現れたスピカの姉から説教を喰らっていた。まだ彼女の手にはハリセンがある。
俺は共犯者らしく、スピカの巻き添えだ。
「ハクトさん、それはないですよ~」
「心を読むな。何か妙に話が噛み合うと思ってたらそういうカラクリか!」
「聞いてるの、スピカ!」
パアン!
「ひぃっ! 聞いてます! 聞いてます、ザニア姉様!」
床をハリセンで叩いて、効果的にスピカを威圧しているその姿は堂に入っている。
まぁ、この姉にしてこの妹ありと言う構図なんだろうな。
スピカは短い時間だけど行き当りばったりな残念さが滲み出てるから、苦労してるんだろう。
「そんな~」
「そこの男、よく解ってるじゃない。わたしに乗り換えてもいいのよ?」
「は? もしかして……」
「はい、姉様たちに奪われる前に、と」
「――――。なんて言うか、ありがとう?」
「いえ!」
「はぁ、スピカ聞きなさい」
「はい、姉様」
「あなたが地上に行ったのは重大な違反行為ですよ。解ってるのですか?」
「――はい」
「それに、あなたの伴侶であるそこの男はわたくしたちがどうこうできる存在ではありません。創造主様の御言葉であなたの伴侶にと決まっていたのです。知らなかったのですか?」
「――え?」
「はぁ。これだから日頃から気をつけなさいと言ってたのに、まったくあなたという子は……」
「ごめんなさい、姉様」
「男、ハクトとかいったな」
「は、はい!」
「スピカを頼みます」
「え、あ、俺なんかで良ければ……って、死んだばかりで何が何だか解らないんですが……」
可怪しい。何で俺はこの異常な状況を受け入れてるんだ?
「それです。本来はこの莫迦娘が説明するのだったのですが事情が変わりました」
「は、はあ」
「スピカ」
「は、はい!」
「創造主様からの御言葉を伝える」
「はい!」
正座のまま姿勢を正して頭を垂れるスピカ。
創造主というからには一番上の神様んだろう。
さっきまでホームレスだった俺にはさっぱりだ。
若干だが、今の状況に慣れ始めてる気もするが、それはあれだ、路上生活が長かったから適応能力が上がったんだろう。
色々と思うことはある。けど、まずはどういう裁定がくだったか、だな。
俺はザニアさんの言葉に耳を傾けることにした。
「禁を犯し地上に行ったのは厳罰に値する。だが、伴侶を思う心を汲んで、伴侶が神格を得る日まで降神とし、力を封じ濫りに使うことを禁じる。だが、そなたに向けられる信仰が増えればこの戒めが解ける日も近づくであろう」
「寛大な御温情に感謝致します。きゃあっ!?」「おわっ!?」
その言葉に正座から土下座に移行したスピカが閃光に包まれる!?
俺も咄嗟に目を瞑れず、視力が戻るまで暫く時間が必要だった。
時計もないから時間の経過も判からないが、そんなに長い時間目が眩んでたんじゃないと思う。転げ回る必要もなかった。
ピルルルル
「えっ!? 小鳥!?」
視力が戻ると、俺の目の前には公園で見た青い雀のような小鳥がピョコピョコと跳ねていた。
スピカの姿は、ない――。
「――」
「まさか――!?」
寂しそうにそれでいて毅然と口を噤むザニアさんの表情で解ってしまった。
この小鳥がスピカ……。
「降神したとはいえ、その姿であっても神族に代わりはありません。力は使えませんが、ハクト、お前との意思の疎通くらいは可能でしょう。神族だからといって不死ではありません。お前もですが」
「俺が? 神族?」
「今はまだ違います。神格を獲ればの話ですね」
「神格を得なければスピカはこのままなんですよね?」
「残念な話ですが――」
「でもどうすれば?」
「それが本来スピカが話し世話することでした。まず大前提として、ハクト。お前が今まで居た世界にはもう戻れません。死んでしまいました故」
「はあ」
諦めというか、現状が解かってるから無理なく受け入れたってことか?
「それで別の世界で功徳を積んでもらいます」
「功徳? 具体的にそこで何をすれば?」
「自分で考えなさい。そこまでは面倒は見ません」
「そんな――」
「だが、虚し手で送り出すことはしませんよ? スピカの伴侶になるというのです、可能な範囲で希望を聞きましょう」
「あ~、別の世界とは?」
「文化レベルはお前のいた世界より低いですが、剣と魔法の世界だと言えば想像しやすいでしょう。魔王、魔物、勇者と呼ばれる者が居います」
ドラ○エとかF○とかの世界ってことか?
「俺は勇者ではないのですね?」
「それはありません。勇者の勤めなど求めていません。ですが、功徳を積むのは生易しいものではありません。世界で生きるための体を選びなさい。細かくは聞きません。魔族、獣人族、妖精族から選びなさい」
というか、人間はねえのかよ!?
いきなりハードモード!?
「詳しく聞いても?」
「どの種族も人間から疎まれ、軽蔑され、恐れられています。中でも一番嫌悪されているのは魔族でしょうね。わたしのお薦めは魔族ですよ?」
「却下でお願いします」
「そう、ではどの種族にしますか?」
妖精って柄じゃねえ。残ったのは――。
「……獣人族で」
「分かりました。では世界に送り届けましょう」
「え、もうですか!?」
「これ以上何を聞くというのですか?」
「旅行のしおりとか――」
「ありません。ああ、そうでした。最初に言っておきますが、功徳を積む為に制限を掛けました。生活魔法と呼ばれる最低限の魔法以外は使えません。その代わり、お前の持つ技術を【固有スキル】として付与しています。向こうで確認してください。最低限の品を無限収納に入れておきます」
「言葉は……?」
「共通語と獣人族特有の言葉は問題が無いようにしておきましょう。あとは自分で覚えなさい」
「えっと、俺、下手をすれば死ぬんですよね?」
「ええ。なので、回復の加護は付けてあげましょう」
「ありがとうございます。おわ――っ!? まだ心の準備が――――っ!!!?」
ピーッ!
御礼を言った瞬間、俺の足元がポッカリと口を開けたんだ。
何処にも捕まるものはなく、ふわっと宙に浮いた俺は真っ逆さまに落ち始める。底なしだ。
そこにスピカが慌てて飛んできて、懐へ潜りこむ。
薄れゆく意識の片隅で、ザニアさんの声が響いていた――。
「スピカの事をくれぐれも頼みます。フォルトゥーナの世界へようこそ、ハクト」
序幕 了
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