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閑話 女神たちの茶会20

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 「んふふ~~ん♪」

 ライエル・アル・アウラが両手で頬杖ほおづえを突いて、機嫌良く水盤をながめています。

 ええ。ハクトが現地の子らにわれてつくったほこらの立像です。

 "世界樹"の力が戻るのはこちらとしても歓迎することですし、地の子らからの崇敬を集めることはわたしたちの力になりますからね。

 ですが……。

 モノには限度と言うものがあります。



 ……遣り過ぎです、ハクト。



 誰があれほど立派な泉付きのほこらを建てなさいと言いましたか!?

 お蔭で、ヘゼ姉様やポリマ、シェルマの機嫌がすこぶる悪いのですよ!?

 ヘゼ姉様は、それはもう悲壮な面持おももちで仕事にも手がつかない御様子ですし、ポリマは嬉しそうなライエル・アル・アウラを見て苛々イライラしてるし……。

 シェルマはシェルマで、「あれが欲しい~~!」と駄々をねる始末。

 表には出していませんが、姉さまたちもその祠を見て妙にソワソワしてる気がします。ええ。わたしもその1人ですよ?

 まさか、ハクトにあのような特技があるとは思いもよらぬではありませんか。

 確かに主要な神殿でまつられているわたしたちの立像の顔を直しなさいとは言いましたが、辺鄙へんぴな場所にあれほど立派な物を作るとは誰が思うでしょう!?

 ヘゼ姉様、そんなにねないで下さいませ。

 姉様がしっかりして下さらないと、下の者に示しがつきません。

 えっ!? わたしが示せばいいですか!?



 ね え さ ま!



 そんなに作って欲しければ、ハクトに"夢渡ゆめわたり"でお願いすれば――。



 ね え さ ま!



 「ぐえっ!? ゴホッゴホッ! ザニアちゃん、えりつかんだら首が締まるわ?」

 女神らしからぬ声が聞こえた気もしますが、良しとしましょう。

 背中を向けたヘゼ姉様の奥襟を掴んだ手を放す訳にはいきません。

 ええ、服がそのせいで引き上がってすそが上がり、ハクトが居た世界で見たミニスカートのような状態になってるヘゼ姉様に言い聞かせます。

 その手があったかと逃げないで下さいませ!

 ハクトにお願いするにしても、ご自分の仕事を済ませてからです。

 というか、ヘゼ姉様の豊穣の神殿は、この先ハクトたちが通る道すがらを見るに、無さそうですよ?

 何処をどう見てもしばらく砂漠ですから。

 燃え尽きて死んだふりしても無駄です。

 何処でそんなことを仕入れて来るのですか?

 え? どら焼きを買うついでに古書店巡り?



 ね え さ ま!?



 地上に降りていなければ問題ないって、前から思ってたのですがどのようにハクトの居た地球の物を仕入れてるのですか?

 秘密ですか?

 これ以上探ると、どら焼きをあげないっ!? そんな――!



 うぐっ。どら焼きが至高なのは認めます。



 おほんっ。ま、まあ、わたしも姉さまのご相伴しょうばんに与ってますからね。強く出れないのも確かです。

 「それにしても、ハクトちゃん、精霊のうつわも造っちゃったのよね?」

 ヘゼ姉様のえりから手を放し、立ち上がらせていると姉さまが思い出したように口にされました。

 そうなのです。

 あのほこらのライエル・アル・アウラの立像と一緒に、ハクトが頭痛の種を増やしたのですから……。

 はあ。無意識の暴走は本当に手に負えません。

 あの後、器に気付いた火の精霊が入り込み、フォルトゥーナの世界で顕現けんげんする形を得てしまうとは、わたしたちの誰一人予想だにしていなかったのです。

 「はい。何とか今は留めていますが、四元精霊しげんせいれいが器を得たことで、他の精霊たちもどうにかしてハクトに取り入ろうとしてます」

 「あら~~……。まあ、あんなに可愛い器を作ってもらったら、はしゃぐのも無理はないわね~~」

 ヘゼ姉様の言う通りです。

 ハクトの恐るべき才能。

 本当に、人は見かけによらぬとはこのことです。

 頼りない男かと思っていましたが、評価を上方修正しなければなりませんね。

 四元精霊しげんせいれいの器ですか?

 どの器もハクトが居た地球の生物をしたもののようですね。ハクトは歪曲表現デフォルメなどと言っていましたが……。

 火の精霊は山椒魚サンショウウオの可愛らしい姿。

 水の精霊は青い体をした飛魚トビウオ

 それも鼻先から背鰭せびれまで短刀のような刃が生えています。可愛いい姿にだまされると大変な事になるでしょう。

 風の精霊は、飾絹羽鳥ケツァールを模したずんぐりむっくりでいて、全身が綺麗な緑の羽根で覆われ、赤い腹、尾の裏半分が白い可愛らしい小鳥です。

 ただ、尾が体の4倍くらいあるのと、頭の左右から尾の半分まで届くかという長さの赤い飾り羽根が何とも言えぬ品を醸し出していると言えるでしょう。

 最後に、地の精霊はわたしの心を鷲掴わしづかみするほどの衝撃を与えてくれました。

 てのひらに乗せれる小さな体。黒曜石を思わせるつぶらな黒いまなこ。それでいて凛々りりしい鼻筋とそのさきで揺れる栗の実を思わせる鼻。何という可愛さでしょう。脇から腹にかけては白い毛で覆われ、背中は槍衾やりぶすまを思わせる針の衣をまとっている姿はわたしの庇護欲ひごよくき立ててやみません。



 四ツ指針鼠ヨツユビハリネズミ。良くぞその姿を器としましたね、ハクト。



 そう言えば、四元精霊しげんせいれいたちが器を貰ったお礼にと、ハクトに加護を付けようとしていましたが、上手くいかなかったようです。

 本人は何処吹く風でしたが、精霊子どもたちは気にしているようでしたね。

 原因は思い当たります。



 ――"神族ノ因子"。



 これで間違いないでしょう。

 赤竜アドヴェルーザ討伐のおり、切っ掛けはわたしたちでしたが、"神族ノ因子"がハクトの体に変化を起こした形跡がありましたからね。

 神族にはなっていないものの、わたしたちが用意した体ですから精霊と比べても霊格れいかくが上になるのは致し方ないことです。

 格下の者が格上の者に加護を付けることなどできないのが道理。

 ヒルデガルドは赤竜アドヴェルーザと混ざったせいでハクトに次ぐ格の高さですから、火の精霊の加護が受けれないのもうなずけます。

 人の子らに霊格といってもピンとこないでしょう。

 彼らは肉体的な成長に格という言葉を当てているのですから、見えぬ者にある格を認識できないのも無理はありません。

 ハクトも「無理に加護を付けなくても、付けれそうな家族が出来たら頼む」とは上手くはぐらかしたものですね。

 何が何でもと、欲しないところも評価して良いでしょう。

 結局、プルシャンが水の加護、マルギットが風の加護、プラムが火の加護を付けられたということですか。

 ロサ・マリアは加護ではなく、対価もなく四元精霊しげんせいれいと召喚契約を得たようですし……念の為、支配系の耐性を挙げておかねばなりませんね。

 本来は、それ相応の対価を支払って初めて1体の四元精霊しげんせいれいと契約できるものを、ハクトの妻と言うだけで無条件に力を借りれたのですから……。

 この娘たちがよこしまな心を持つ者に奪われると大変な事になってしまいます。

 円卓の水盤に近づき、ライエル・アル・アウラに断りを入れてから4人を映し出すと、事が済んだ後でしょう、乱れた姿のまま寝息を立てている様子が映し出されました。プラムはまだお手付きはしていないようですね。

 獣人は基本人族と違い、幼くても成長速度が格段に違いますから……いつまで……。ふふふ、それは下世話な話でした。

 人の枠を出ないように……これくらいにして、後は上がりやすく……。

 ああ、そうでした。

 あの子たちも居たのですね。

 仕様は同じで良いでしょう。

 ……あら。また、可笑しなことになっているようですね。



 ん?



 そう言えばと顔を上げて周りを見回します。

 先ほど間でこの歓談室サロンに、ヘゼ姉様をはじめ、姉さまたちが居たはずですが?

 ライエル・アル・アウラ、姉さまたちは何方どちらに?

 わたしの作業が終わったのを見計らって、再び水盤で自分のために作ってもらえたほこらを映し出し、嬉しそうに見ている末の妹を問いただします。

 え?

 耳を疑いました。

 貴女と同じほこらを発注すると息巻いて出ていった、ですか?

 ポリマやシェルマも?

 こうしてはいられません。女神が己の欲に走ってどうするのですか!

 確かに"夢渡ゆめわたり"でお願いすればとは言いましたが、くまでも冗談です。それを本気にするとは!?

 先回りして連れ帰らなければ……!

 いえ、ライエル・アル・アウラは良いのですよ?

 貴女のそれは、人の子らがうて造られたものなのですから、間違いなく寄進物です。姉さまたちのようなお強請おねだりではないのです。

 その代わり、ちゃんと自分の仕事もこなすのですよ?

 嬉しそうにうなず末妹まつまいの頭を優しく撫でたわたしは、足早に自分の執務室へ向かうのでした――。





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