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第2章 巣喰う者

第285話 えっ!? いきなり!? 容赦ねえな!?

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 「うえぇぇ……。マヂかよ……」

 うめきのような独り言が自然とれてた。

 だってそうだろう?

 6.7パッスス約10m骸骨がいこつが両手に毛虫をつかんで、ムシャムシャとってんだぜ?

 いや、あれは喰ってるというか、口の前でにぎつぶした毛虫の中身をんでんのか?

 よく見りゃ、ひしゃげた外身そとは湖の方に投げてるな。水飛沫みずしぶきが上がってるのが月光でなんとか見えた。

 「しゅ、主君」

 「ん?」

 ヒルダに左袖ひだりそでを引かれて振り向く。

 「もう少し離れてはどうだろう?」

 月光のせいか、元々白いヒルダの肌が余計に青白く見えた。

 「ああ、そうだな。もう少し離れても問題ねえだろう。岸の方まで戻ってそこで茶でも飲みながら見るか」

 確かにな。何かの我慢大会でもねえし、罰ゲームでもねえんだから餓者髑髏シャドウに任せるか。しっかし、何があいつを食に駆り立てたんだろうな?

 「畏まりました。早速そのようにいたします。マリア、プラム行きますよ?」

 「あ、うん!」「はい!」

 マギーの言葉に、マリアとプラムが即座に反応してマギーの後を小走りで付いて行く。俺らもここに居残るつもりはねえから、ゆっくり後を追うことにした――。



                 ◆◇◆



 【無限収納】から取り出した、簡易の野外用テーブルとベンチに腰掛けた俺たちは、マギーのれてくれた薬草茶ハーブティすすらないように飲む。

 ヒルダとマギー以外は、この手の礼儀作法マナーの教育を受けてねえからな。特にマギーのチェックが厳しいのさ。知識としては知ってるが、俺もんな事は気にしないで良い環境で育ったからな。

 ここ数ヶ月で大分だいぶ真面まともになって来たってとこだ。

 茶を飲みながら視線を夜空に上げる。双子月ふたごづきが中天に来てた。

 感覚的には3時間近く経ってんじゃねえか?

 餓者髑髏シャドウの奴は相変あいかわらず毛虫を喰ってる最中だ。けど可怪おかしな事に気付く。

 あの鼻がげるかと思った臭いがしねえのさ。

 プラムも鼻をまむ仕草をすることもねえし、ヒルダたちも特に何も言わん。つう事は……あの毛虫共、臭角しゅうかくとかいう威嚇いかく用の角を出してねえって事だろ?



 何でだ?



 ――分からん。



 答えが出せるほど情報が手元にねえ。判るのは、毛虫共が角を出すことなく餓者髑髏シャドウに喰われ続けてるってこった。



 あと、かなり喰った、な。



 そう思った時だった。夜空を何か黒い影がよぎったじゃねえか!?

 「気を付けろ! 何んか来やがったぞ!?」「「「「「ッ!?」」」」」「【骸骨騎士ガイ】、出て来い」

 
 これの声に一斉に席を立つ5人。その拍子にベンチが倒れたが、後で良い。テーブルから距離を取ったとこで骸骨騎士ガイび出す。



 《おのれ――。愛おしい我が子らを――。よくも――》



 「っ!? 誰だっ!?」

 同時に耳が痛くなるような声が空気を震わせたのが判った。

 「主君。あかりが無ければわれらに分が悪いぞ?」

 「ああっ! そりゃそうだが――伏せろっ!」「「「「「ッ!?」」」」」

 ヒルダに言われるまでもなかったんだが、俺らの近くに光源を作れば狙ってくれと言ってる様なもんだ。それでヒルダの声を聞いても行動できなかったんだが、迷ってる最中に俺ら目掛けて大きな影が突っ込んで来やがったのさ。

 慌てて、そばに居たプラムとマリアを抱える様にしゃがむ。その上をほぼ無音で通り過ぎる影。しゃがんだままチラッと横を確認する。ヒルダたちも問題なくかわせたようだ。



 《この地にはエルフと砂蜥蜴しか居らぬはず。何奴なにやつ



 頭に響く女の声が飛んで来る。

 「何処に居やがる?」

 「旦那様、前を!」

 マギーの指の先に地面に降り立った何かが居るのが見えた。輪郭シルエットは何となく分るが、そこからどんな姿なのか見当が付かねえ。

 「ヒルダ。光を頼む。俺らとあいつの間くらいに出せるか?」

 「造作もない。【明かりよあれプラカッシェ・ホ】」

 俺の言葉に、今度は躊躇ためらわずに拳大こぶしだいの光の玉が俺たちと、何者かの間を月光よりも明るい光で照らす。

 「「ひぃっ」」「ゾワッとした」

 そこに居たのは、黒い毛に全身が覆われた莫迦ばかでかいだったのさ。腕の先は違うが腕も足もふさふさの毛で覆われてるってどうよ!?

 マリアだけじゃねえ。俺だってゾワッとしたわ!

 「……マヂかよ」

 アンテナみてえな触覚が額から左右に出てるのは判ったが、更にその横、人で言えば蟀谷こめかみ辺りから牛の角みたいなもんが出てるじゃねえか。



 《この感じ……。貴様ら、"世界樹"の加護を持っているな? チッ忌々いまいましい。子どもたちを守らねばならぬというのに、ここに来て厄介な者共が来おって……》



 どうやら、我が子って言うのは今餓者髑髏シャドウに喰われてる毛虫の親玉のようだな。

 "世界樹"の加護で随分敵意と言うか、殺気を叩きつけて来るって事は敵対関係にあると思って間違いなさそう――。

 「【炎の荊棘いばら】」

 「えっ!? いきなり!? 容赦ねえな!?」

 こう、もう少し遣り取りしながら情報を引き出そうかと思っていたら、ぬっとヒルダの白い右腕が突き出されたと思った瞬間、地面から鞭状むちじょうの炎が何条も吹き出て真っ黒い巨大蛾にからみついたんだ。

 止める間もなく、一瞬だったな。



 《ほどけぬ!? 第6位階ごときの魔法が振り切れぬだと!?》



 そりゃあ……「こっちの先制攻撃、次はあんたのばんな?」って言う昭和のRPGみたいな流れは、現実じゃ有り得んわな。

 ヒルダの勝ち。

 けどよ、俺の目には一つも焼けてるように見えねんんだわ、あの黒い蛾。何つったか……。ああ、そうそう、確か――。

 「"鬼夜蛾おにやが"だったか」



 《毛虫、貴様何処でその名を聞いた!?》



 「おう、毛虫の親玉にそう呼ばれるとは俺もまだまだ捨てたもんじゃねえな」

 ビィンと頭に響く声に眉間へしわを寄せながらうそぶく。まともに取り合う気はねえよ。どの道、"世界樹"を弱らせてる元凶がこいつだ。

 動けねえ内にダメージを与えちまうに限る。



 《戯言ざれごとを!》



 「さてね。エルフの国だったか、凪の公国だったか……忘れちまったな? ガイ、ヒルダの後で・・・、斬り捨てろ」

 「【爆炎ばくえん】!」「【熱結界ねつけっかい】」

 俺が言い終わるかどうかのタイミングで、大きな渦巻く炎の玉が俺らの頭上に現れ、"鬼夜蛾"へ向かって飛んでいきぜる。ヒルダの詠唱とほぼ同時にプルシャンも俺らを覆う幕を張ってくれた。



 《なっ――!? ギィッ》



 ドオ――ンって言うの爆音と火炎が火柱になって天をく。

 幸い、"世界樹"から距離を取ってたお蔭で飛び火することもなさそうだ。熱気もプルシャンの【水魔法】で感じることはねえ。ほほを撫でるのは弱った爆風だけだ。

 ヒルダが前に【火の柱】って魔法を見せてくれたことがあったが、これは・・・あれよか何倍も威力がある魔法だぜ。

 チラッと、爆炎の中を盾で受け流しながら突っ込む白く月光を反射する骸骨騎士ガイの姿が、炎の隙間に見えた。

 おおっ!? お前さんも容赦ねえな!?



 《ギャア――――ッ!!? おのれ、おのれ、おのれ!! 美しいわたくしの翼に傷を付けるなど、万死ばんしに値する!》



 爆炎では然程さほどダメージが無かったのか、ガイが突っ込んでった後の方が叫びが出掛かった気がするぞ?

 「主君、すまぬ。今の【爆炎】でいましめも解けてしまった」

 「いや、怒らせることが出来たんだ、上等だ! 【骨釘ほねくぎ】」

 右隣りに立つヒルダにそう声を掛けて、腕を振る。白い5寸約1ペースの釘が十数本黒い巨大蛾の体に吸い込まれのが見えた。



 《グギィッ!? 小癪こしゃく真似まねを! 【爆ふ――ギャア――ッ!?》



 おっほっ!?

 ガイの奴、大盾で巨大蛾のあごをカチ上げて、体が浮いたとこに斧槍ハルバードの斧を叩き込みやがった。けど、あれでも切れねえのな!?

 「【爆炎】!」「【風の刃】!」

 ヒルダとマギーの魔法がそれに追従するが、ガイの奴は巨体に似合わん素早い動きで蛾と距離を取るのが見えた。が、直ぐに炎で見えなくなる。

 俺も追っかけそれに乗ろうかと思ってた矢先やさき、左隣りで弓弦がビィンと鳴るじゃねえか。見ると、プルシャンとマリアが蛾を撃ってるんだわ。

 確かに、プルシャンの【水魔法】はヒルダと相性が悪い。マリアは【風魔法】が使えなくもないが、何か思惑があるんだろう。

 俺の【骨釘】ほどじゃねえが、2人の矢も巨大蛾のはね付根つけね辺りに刺さってる。ダメージはあんまりなさそうだ。



 かてえな。



 昆虫の体は骨がねえし……ん?

 昆虫や甲殻類って外骨格だったか?



 《ガアアアアアア――――ッ!!!》



 外骨格なら、【骨法スキル】が効く――っ!?

 「がっ!?」「「くっ!?」」「「きゃあっ!?」」「わあっ!?」

 物は試しと、重心を落として駆け出そうかと前傾姿勢になりかけた瞬間だった。爆風と土埃が壁の様に現れて、俺らを湖に吹き飛ばしたんだ。水飛沫みずしぶきが俺らの上で跳ね、双子月ふたごづきが波紋で崩れた――。





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