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第1章 砂塵の里
第277話 えっ!? おいっ!? そんなものまであんのかよ!?
しおりを挟む「何だ~? 良く見えんが、砂蜥蜴族じゃねえみたいだな」
目を細めて見たが輪郭だけでまだはっきり見えん。
『ハクトさ~ん!』
散策に出かけてた青い小鳥が帰って来た。赤いチビ四翼竜は騒がれるのが解ってるからか、ヒルダの肩に止まって転寝中だ。
「おはようさん。里の隅々まで見て来たのか?」
『はい。ぐるっと"世界樹"の周りと崖の側を回ってきました! 凄いですよ! 里の反対側、湖と"世界樹"を挟んだ崖の下に迷宮の入り口があるんです!』
「えっ!? おいっ!? そんなものまであんのかよ!?」
マヂかよ。そんなんで良く無事にこの里が残ってたな!?
迷宮の氾濫とか起きたら一溜まりもねえだろうが……。
『あと、エルフ族の隠れ里がありました。あそこに来てるのもエルフですよ?』
考え事してたら、サラッと爆弾が落とされた。
「おいおいおい。砂漠のど真ん中だぜ?」「嘘でしょ!?」
俺とマリアがほぼ同時に反応する。
そりゃそうだろ。エルフっていやあ森の民だ? 海エルフの話は聞いたが砂漠に住むエルフが居るとは聞いてねえよ。つう事はだ、この大砂海を渡って来たってことか? あれだけの森がある国だ、住む場所がねえってことはねえだろ?
もしくは、大砂海を渡らざるをえない程の理由があったか……だな。
「なあ、おばちゃん」
鮫肝を俺から受け取ろうと順番待ちをしてるおばちゃん蜥蜴に声を掛けてみた。
「何だい?」
「里の端にエルフが来てるらしいぞ? よっと」
鮫肝をずるっとおばちゃんの桶に落とす。
「ああ。あの人らはね、里で魚が上がったのに気が付いて物々交換に来たんだよ。よいしょ。ありがとね」
「物々交換?」
鮫をずるりと引き出しながらそう聞いた時には、おばちゃんの背中は離れてた。
「こんな場所だ。金はあっても店はねえし、商人が来ることもねえ。使い道はないだろ? 里じゃ物々交換で欲しい物を手に入れるのさ! よっと!」
俺の問いに今度は男衆の1人が答えてくれるが、止まることなく取り出した鮫を【骸骨騎士】の前へ引っ張って行ったよ。【無限収納】にはまだまだ鮫がある。入れ代わり立ち代わり忙しいことに変わりねえ。
確かにな。
宿もなければ小さい店もねえ。金よりも物の方が価値が高くなるのも解る。
チラッとエルフたちに目を向けると、何人かの里の者と話をしてて、丁度俺の方を指差してるのが見えた。
「マリア」
「何?」
「エルフがこっちに来るかもしれん。俺のとこにエルフが来たら、マギーと一緒に応対してくれるか?」
「良いけど。お上品な対応できないわよ?」
「良いんじゃねえの? 何となくだが、こんなとこに住んでるって事は訳ありな気がするぜ? よっと。下手に出る必要はねえが、こっちも強く出る必要もねえだろ? ほいっ。普通で良いと思うぞ?」
取り出す手を止めずにマリアとマギーに対応を任せる。
「うん。分かった。マギーもお願いね?」
「はい」
「プラムは念の為、ヒルダと一緒に居るんだぞ? アルもな?」
「はい、旦那さま!」「あぎゃ!」
「はい! あたしは?」
残ったプルシャンが俺が口を開く前に手を挙げた。もう決めてるがな。
「よっと。プルシャンはスピカと一緒に、あの湖の水を見て来てくれるか? ほいっ。里の不漁とは言うが、湖も見てみねえ事には原因が判らんだろ? お前さんなら水に詳しいだろうから、って思ってな。よっと」
「湖にゃ鰐竜が居るから気を付けな~~」
プルシャンと話してても鮫を取り出しながらの話だからな。そこに居る奴にバレバレだ。んで、俺の思ってることの答えがポロッと出たりする訳よ。
「わにりゅう!? そりゃ、手を出したら拙い奴か?」
新しい竜が出て来たぞ!?
竜だからってヒルダやアルを祭ろうとするくらいだからな。下手に手を出して石打ちとかマヂ勘弁してだぞ!?
「厄介者だよ。そいつが湖に居るせいで、あたしらは湖で漁ができないのさ」
目の前から居なくなったおっちゃんに代わっておばちゃんが答えてくれる。体型と声だけで男と女を区別してるだけだ。砂蜥蜴族にゃ頭髪ってもんはねえからな。
「出会い頭にうっかり殺しちゃったら?」
「ガハハハッ! そりゃ助かるが、止めとけ止めとけ!」「そうだぜ! 名前に竜って付くくらいだからな!」「怪我で済めば御の字だぞ?」「嬢ちゃん、危ねえから止めとけって!」
手を出しても問題ねえと。言質は取ったぜ?
「つうこった。気を付けて頼むわ!」
「うん! 任せといて! 今日の晩御飯に取って来るからね! さ、ピーちゃん行くよ~~!」
『ルーちゃん、こっちですよ~~』
うおいっ!? いつからお互いをんな風に呼んでんだ!?
思わずツッコミそうになったが、それよりもプルシャンの発言で広場の動きが一瞬止まったぞ!? いや、まあ、言葉の綾だから気にせんで欲しいんだがな。
プルシャンと青い小鳥の背中を見送って、手を動かしだす。
「ほら、手が止まってるぜ? まだまだあるんだからよ。ちゃっちゃと持ってかねえと晩までに終わらねえぞぉ!?」
「ひ~~っ! 兎の旦那は人使いが荒いな~~!」「おうっ! じゃんじゃん持って来い!」「莫迦野郎! お前が切るんじゃねえだろうがよ!」「違いねえ!」「「「ガハハハハッ!」」」「鎧の兄さん頼むぜ!」「しっかし大漁だね~」「里始まって以来じゃないかい!?」「俺はまだ生まれてねえな!」「莫迦、それを言ったらあたしもだよ!」「痛え! 尻尾ぉっ!」「「「アハハハハッ!」」」
ったく賑やかな奴らだぜ――。
なぁんて一緒に笑ってたら、横にエルフたちが来てたわ。
1、2、3……6人か。随分と痩せてるな。
それが間近で見た第一印象だった。
皆、背中に矢が入った矢筒を背負い、心臓がある左側だけに胸当てをして背中だけを隠す、頭巾付きの釣り鐘型外套を身に着けてる。目に付く他の装備は、手の甲までを覆う腕当てと革長靴と脛当てが一体化したような物だけだ。
軽装ってやつだな。
服は、砂蜥蜴族と同じ作務衣のような前開きを紐で縛るものと、七分丈のズボンだ。砂蜥蜴族の下は、それよりもアラビアンパンツに似てる気がする。まあ、そりゃどうでも良い。
腰の後ろに着けてるのは短弓と短剣で、取り回しが良さそうだ。
敵意はなさそうなので、そのままマリアとマギーに任せることにした。
「初めてお目にかかります。貴い方。我々は竜鱗樹の森に住むエルフです。いつも漁が終わって賑わっている所へお邪魔をして、物々交換をしています」
そう切り出した痩せたイケメンの言葉に俺は驚いたね。
こいつら、エルフって言うのにエルフ語を使わねえ。つまり、俺にも分かる共通語で話してるってこった。高慢ちきなエルフ族って言うイメージだったが、随分と腰が低いな。
いや、その前にマリアを見て「貴い方」って言いやがったぞ?
俺も特徴は聞いたが覚えてねえ。良く見分けれたな!?
「……その目。なる程。貴方たちが何故こんな大砂海の真ん中でひっそりと住んでいるのか、理由が解りました。待って! 跪かないで!」
マリアの一言に6人の男女が膝を折ろうとしたんだが、慌てて止めに入る。
「しかし、貴女様と我々は――」「黙って!」「はっ」
うん。相変わらず気が強え。初対面で良くその態度が出せるもんだぜ。
「貴方たちは遜らなくて良いの! 確かにあたしの血筋は貴いだけど、今はそこで砂鮫を引っ張り出してる雪毛の旦那様に救ってもらったただの奴隷よ」
「「「「「「――っ!?」」」」」」
6人が驚いて言葉を失い俺を凝視するのが背中越しに判った。
後、俺の周りで作業する砂蜥蜴族の面々の非難するような視線も俺に刺さる。
いや、マリアさんや。皆が聞いてるとこでそれ言う必要があったかね?
「と言っても、玩具にされてる訳じゃなく、ちゃんと人として扱ってもらってるわよ? だから、貴方たちがここで身分を気にする必要はないの」
「おお~~~~いっ!! 空いた樽が無くなったからここで一旦止めてくれってよ~~~~っ!!」
マリアのフォローを掻き消すように、俺たちに大声で呼びかける男衆の声が広場に響き渡った――。
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