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第5幕 大砂海 序章

第268話 えっ!? 揶揄われた!?

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 ゾワリッ!?



 今度は鳥肌が立つどころじゃねえ。まさに総毛立つって言いても良いくらいに、体が言う事聞かん。目が合ったと思った瞬間にこれだ。

 野生のかんが恐怖に似た危険を感じたんだろう。

 骨の谷で青い小鳥スピカいやがったとブチ切れて、炎帝アドヴェルーザ昔のアルに殴り掛かった時はんなこと無かったんだがな。



 砂皇シルティムーザこいつの方が格が上って事か?



 結構な距離があるのにこの感覚になったって事は、【鑑定】みたいなスキルでのぞかれたって事だろう。

 それとなく目をくばるが、俺以外は何事もなかったかのようにしてる。



 ヤベエな、おい。



 「ねえ。何で毛が逆立ってんのよ? 大丈夫なの?」

 俺の異変にそばに居たマリアが気付いたようだ。こんな時は放っといて欲しんだが、真逆の反応が帰って来るんだよな。

 「……問題ねえ」

 「問題なくないよ!? 何で震えてるのよ!?」

 「主君!?」「旦那様!?」『ハクトさん!?』

 何とか声は出たが、まあ、そうなるわな。

 マリアの声に、ヒルダとマギーが寄って来る。俺の頭に乗ったままの青い小鳥スピカ転寝うたたねでもしてたんだろう。2人の声で何事かと起きたような動きが伝わってきた。

 4人に何て説明しようかと迷っていると――。



 グオオオオオオオォォォォォ――――――――ッ!!!!



 「くっ!?」「「「ひゃあっ!?」」」「むっ!」「ひっ!?」『ぴゃっ!?』

 急に、砂竜さりゅうが空気を震わせるほどの莫迦ばかデカイ声でえやがったのさ。思わず体がビクッてビビっちまったが、嫁たちも似たようなもんだ。

 青い小鳥スピカは驚き過ぎてパタパタと俺の頭の上を飛んでる。

 「……何のつもりだ?」

 答えが返ってくるわけでもねのに、つい思いがれちまった。

 にらみ返すように黒山くろやまのような砂竜さりゅうを見てたらよ、くじらのような口の端をこう、ニヤリと奥歯をチラッと見せるように上げたんだよ。



 えっ!? 揶揄からかわれた!? 



 間違いねえ。あの砂竜やろうわざえやがった!

 この距離は流石に何もできん。クソッ!



 ズズ――ン



 何もできねえ歯痒はがゆさにこぶしにぎめていると、地面を震わせて巨体が砂漠に沈み始めたじゃねえか。濛々もうもうと砂煙を上げながら黒い小山が動く。

 本当に砂の中を泳いでるのな……。

 ゆっくり50を数えるくらいの時間で巨体は地表から消えた。潜行しながら最後に出て来た砂竜さりゅうの尻尾を見て「ああ、本当に竜なのね」と思ったわ。

 だってよ。尾鰭おびれかと思ってたら、丸っきり竜の長い尻尾なんだぜ!?

 昔のアルみたいな尻尾なんだが、背鰭せびれが尾の先まで伸びてる。あと、体の角度を下に向けた時だろうが、尻尾の付け根に腹鰭はらびれみたいなのが見えて気がしたな。

 砂の中をあの巨体でも泳げる構造になってるって事だろう。

 本当、この世界は俺の常識を超えて来るぜ。

 「……何よ?」

 気が付いたら、マリアが俺の左腕に抱き着いたまま見上げていた。

 「うんにゃ。ありがとよ。おかげで震えも止まったようだぜ?」

 「うん……」

 腕に抱き着かせたまま、空いてる右手でぽふぽふとマリアの頭を撫でておく。しおらしい時に点数を稼いでおかねえと、直ぐにストップ安になっちまうからな。

 そうこうしてるとパタパタと忙しく4枚の翼を動かしてチビ四翼竜アルが帰って来た。

 動きを見てる限りじゃ、本当に生き物みたいな動き何だよな。間違ってなければ、俺がさっき骨粘土で作った模型……。



 本当、どうなってやがる。



 「帰って来やがったな。話に行くなら一言ひとこと言っとけ。スピカみたいに喰われちまうかと心配しただろうが」

 ヒルダには言ってたみたいだが、俺には言ってなかったからな。

 けど、何か話してたらおれの耳には聞こえてたと思うんだが……。

 「あぎゃっ」

 チビ四翼竜アルはそう鳴いて頭を縦に動かした。

 「ん?」

 アルの声は聞こえなかったぞ?

 パタパタとヒルダのとこに飛んで行って左肩に降りるチビ四翼竜アル。「あぎゃあぎゃ」とヒルダに何か言ってるようだが、俺にはさっぱり分からん。

 「なあヒルダさんや?」

 「ん? 何だ主君?」

 「俺にはアルが話してる事がさぁ~っぱり分らんのだが、お前さん、アルの言ってる事分かるのか?」

 「分かるぞ?」

 「マヂで?」

 「うむ。今もシルティムーザに挨拶して来たら、笑われたとか憤慨ふんがいしているとこだ」



 Oh……。



 マヂですかい。

 こりゃあれだ。スピカが一緒にこの世界へ降りて来た時と同じパターンじゃね?

 スピカと話ができるようになったのって、随分経ってからだったからな。あ~でも、全く分からねえ訳でもねえのか。ヒルダがアルの言ってること分かるなら、通訳してもらえばいい。

 「然様さようか。か、確認なんだが、アルよ、お前さんとあの砂竜さりゅうは顔見知りって事で良いのか?」

 「あぎゃ。あぎゃあぎゃ。あぎゃあぎゃあぎゃあぎゃ」

 あぎゃあぎゃ五月蠅うるせえ。

 「何て?」

 「そうらしい。自分の居た深淵しんえんの森と大砂海だいさかいが隣り合わせだったから、シルティムーザとよくり合ってたと言ってるぞ?」

 何処の怪獣大戦争だ!?

 「言いたい事は分かるんだが、話がでかすぎて気持ちが付いて来ねえよ。んで、あいつが砂に潜る前に何か妙なことしただろ? ありゃ何だ?」

 ヒルダに突っ込みそうになったが、何とか抑えて気になってた事を聞いてみる。

 「あぎゃあぎゃあぎゃあぎゃ」

 「シルティムーザに主君が旦那様だと紹介したら、【鑑定眼】でどんな男か見てやると言われたそうだ」



 伝説の砂竜さりゅうに品定めされるって、何だそりゃ?



 「そりゃ光栄だ。盛大に揶揄からかわれた気がするがな」

 そう言って首をすくめてみせる。

 「旦那さま、何か声が聞こえます!」

 「何!? 何処だ!?」

 「ん~~あれじゃない?」「ルシ姉さますごいです!」

 背中側で聞こえたプラムとプルシャンの声に空気が変わる。

 どうやら2人は目星めぼしが付いたようだ。確かに俺にも声が聞こえた。大人の男と幼い女の子の声のようだ。

 「俺とマギーで行く。 砂漠用のかんじきを履くぞ」

 「畏まりました」

 本来、かんじきてえのは雪の上を深く沈まずに歩くための足に着ける道具だ。砂漠を歩いてみて、ずずっと足が取られるから「あ、これ、かんじきで歩きやすくなるんじゃね?」とおもったのが始まりだな。

 骨粘土ほねねんどで作ってて思ったんだが、駱駝ラクダも砂漠の上を歩くが基本、砂に足が取られることはない。つまり、沈みにくい構造になってるってこった。

 なので、完全な円形だと歩くの時に内側が当たって歩きにくくなるから、足より少し大き目の楕円だえん形で、外側に大きく楕円がふくらむ形の砂漠用かんじきを作ったのさ。

 ひもは、蟻牛ぎぎゅうの皮をなめして革紐かわひもを大量に作ってもらったから十分あるのさ。

 「ヒルダ、何か見えるか!?」

 「獣人族の親子が砂鮫すなざめに追われているようだぞ? さっきまでいた砂竜さりゅうの出入りに巻き込まれたのかもしれぬな」

 頭の上でヒルダの推察が聞こえる。十分あり得る話だ。

 「ちっ! 何と人騒がせな事を! マギー?」

 「行けます」

 確認するともう着け終わってたわ。慣れたもんだぜ。

 「おし、一応救助優先で行く。盗賊が化けてるかどうか、最初はけんで行く」

 「承知しました」

 「行くぞ!」

 そう掛け声と共に、俺とマギーは四阿あずまやから駆け出した――。





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