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第4章 杜の都
第257話 えっ!? あれを一人でですか!?
しおりを挟む『済まぬが、スルバラン家の娘よ。皆の不安も頷ける。このような姿で余が言えたことではないかもしれぬが、助けてくれまいか』
一気に噴き出した声や俺の怒気を遮るように右手を上げ、幾分正気を取り戻したように見える王様がマリアへ話しかけてきた――。
同時に雑音が止む。面白え。けど、首の前に三日月型の刃を突き付けられてるっていうシュールな絵面だ。
『陛下。それは、私にこの場に残れと、そう言われてるのでしょうか』
『うむ。其方が国の外へ連れ去られた経緯は"影"から聞き及んでおる』
『っ!?』
『今其方が置かれた状況を知った上で頼む。最初で最後で構わぬ。貴族の責を果たしてくれまいか。済まぬが、他にもう一人ここに戻って来る楔を頼む』
王様の言葉に体がと言うか、マリアの両拳に力が込められたのが分かった。ったく、こんな顔させるために王都へ来たんじゃねえんだがな。
苛々させられるぜ。
「何て?」
「……私ともう一人、ちゃんと要求を果たして戻って来るという保証を置いて行けって……」
「……」
なんていうか、腹が立つよなあ。
ガリガリッと無言で後頭部を掻いていると、ヒルダが頭を掻いている右手を取って両手で包んでくれた。
「主君、そう言う事であれば吾が残ろう。大方、貴族の務めとか、聞こえの良い言葉で周りの貴族の溜飲を下げようとしたのだろうよ。何、外では吾の魔法は無用の長物、それに一人ではないしな。任せておけ」
頼りになる嫁だと思いつつも、「じゃあ頼まあ」ってサラッと言えるかと言うと、んな訳ねえ。結局のところ、危ないとこに置いて行く訳だからな。
そうモヤモヤしてると、オニトウが穂先を王様から外して、俺らに向けた。
「話は纏まったようだな? ならば、競売で手に入れた翡翠の岩はここに出せ」
マヂかよ。あれの存在は聞いてたって事か?
けどよ、じゃあ何で共喰いする必要があった?
あの女も翡翠の岩を集めていただろうが?
手柄か?
いや、あの戦闘狂に限って言えば、それは二の次だろうと簡単に想像できる。……寧ろ、より己を高める手段に同族食いをしてたって事か?
考えたくもねえが、1回喰っちまえば後は慣れだと思ってるんじゃねえだろうな?
人間辞めちまったせいで、味覚が生肉を美味いと感じるようになっちまってるのかもしれん。
「……ほらよ」
どの道、王様が人質に取られてるんだから、奴の言いなりだ。仮に俺が突っ込んで奴と殺り合っても、隙を縫って嫁たちに【転移魔法】で接近されて手を出されちまえば取り返しがつかん。今は癪だが仕方ねえ。
【無限収納】から取り出しゴロンと床に転がす。
『おい、貴様、あれを持ってこい』
『えっ!? あれを一人でですか!? ひっ!? も、申し訳ありません! て、手を借りるのを、お、お許しいただけますか?』
近くに立つ近衛騎士らしいエルフに顎で指図するが、聞き返されてやがる。
まあそうだろうな。軽く見て200リーブラはありそうだ。線の細いエルフが1人でどう頑張っても無理だろうさ。下手すりゃ、ぎっくり腰だぜ?
『……』
ほう。ぶっ殺すのを我慢したか? 口答えしたら、あっという間に殺しそうな雰囲気が駄々洩れしてるが、俺がいる時それをしちまうと拙いと思ったって事かよ。
『あ、ありがとうございます!』
無言で、もう1回顎で指図された近衛騎士らしきイケメンエルフが2人、俺らの前に駆け寄って来て、岩を持って行った。
……2人でも重そうだな。
意外に頭が回ってやがるみたいだな。
「何をしている。さっさと行って来い! ああ、そうだな。幸い、まだ昼前だ。聖域までは王城の裏から一本道だ。迷う心配もないだろう。夕刻の鐘が鳴るまでにここに戻って来い。鳴り始めた時に1歩この部屋に届かなくても、此奴らの命はないと思えよ?」
「ちっ、わあったよ! ま、行ってくらあ! ヒルダ」
サラッとこの部屋全員の首に縛りを上げやがった。喰えねえ奴だぜ。
「何だ、主君んんっ!? ぷはっ」
右横に立つヒルダの名前を呼んで、唇を奪う。
「後は頼む」
短いキスだが、少し俺の心も落ち着いた気がする。
「ふふふ。うむ。任せておけ」
俺の行動に一瞬驚いたようだったが、頬を赤くしながら頷くヒルダを見てると、何かこう、むらっと来るものがある。……が、我慢だ。
「マリアも行って来る。ヒルダが無茶をしねえ様によく見とけよ?」
「わ、わたしにもキスして良いのよ? きゃっ!?」
「莫ぁ迦。お前さんとはそんな関係じゃねえだろうが。これくらいで我慢してろ。マリアも無茶すんじゃねえぞ?」
「う、うん、分かった」
マセたこと言いやがったから、一先ず抱き寄せて背中をぽんぽんと叩いておいた。こいつにも無理をさせてる自覚はあるからな。これくらいはセーフだろ。
あ~年齢から言えば俺よりかなり婆さんなんだが、外見がな。ギリ女子高校生というのが、どうも……。俺の腰に腕を回してギュッと力を込めて来るし、嫌われてはねえだろうが、ま、そこは追々、な。
「いいな~」
「莫迦。ここで盛り上がれるかよ。ほらさっさと行くぞ」
プルシャンに釘を刺す。
「はあ~い」
「畏まりました」
くるっと向きを変え、両手の指を頭の後ろで組んだまま入口へ向かうプルシャンと、お辞儀して俺が動くのを待つマギーを横目に、オニトウへ苦し紛れの要求を押し通す。
「悪いが、城の中でこれ以上ゴタゴタは御免だ。侍女を1人連れて行くぞ?」
「好きにしろ」
そこは、こっちが拍子抜けするほどあっさり通ったよ。
ま、それはそれでありがたい話だ。城の中を迷子にならずに歩ける自信なんかねえ。100%迷子になる自信があるぜ?
それで入っちゃダメなとこに入って、お縄になったんじゃ目も当てれねえだろ?
マリアやイケメン司教は別としても、端からエルフって言う種族に良いイメージがねえ。今は緊急事態だからって話が通じるとは思えん。その為の保険だ。
「つう訳で、ミカリアさんや、もうしばらく頼む」
「は、はい! 畏まりました!」
「ほら、マリアも離れろ。行って来るからよ」
「う、うん」
ぽふぽふっと背中を優しく叩いて、マリアを腰から引き離す。色んな感情の籠った視線が俺らと言うか、俺に刺さってるのが判るが、知った事か。
ヒルダとマリアになんかあったら、お前らぶっ殺す。
「じゃあ、頼まあ」
「うむ。任せておけ、主君」「き、気を付けてね!」
2人に短く言葉を掛けてくるっと背中を向けると、2人の声が追い掛けて来る。
それに背中を向けたまま手を上げて応え謁見の間を出ると、ちょうど見計らったかのように昼を知らせる鐘の音がカラーンと都の空に鳴り響くのが聞こえた――。
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