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第4章 杜の都
第254話 えっ!? あれって喰えんのかよ!?
しおりを挟む何だよ、勇者補正ってやつか!?
ステータスを見て直ぐに浮かんだのは驚きだ。
だってよ。俺の半分以下のレベルなのに、ステータスの伸びしろが半端ねえんだぜ? 同じレベルになったら、完全に抜かれてるだろ、これ!?
いや、それよりもだ。
ブルータスお前もか!?
と言いたいね。
鬼の勇者!?
鬼人種!?
なんじゃそりゃ!?
勇者ってえのは、RPGで言うとこの人間様の特許みたいなもんじゃなかったのかよ!?
いや、まあ、俺は獣人だし、んな目立つ職には興味なんぞねえんだが、色々ツッコミどころ満載だぜ。それに、鬼族じゃなかったって事か!?
ますますもって分からん!
称号も碌でもねえやつずらっと並んでやがる。【異世界人】は良いとして、【同族喰い】に【人の皮を被った戦狂い】、【堕ちた勇者】? オマケに【鎖を引き千切りし者】だあ!?
さっきの"禁が解けた"ってやつに関係があるのか?
同士討ちが出来ないようになってた……とか、ありそうな話だな。
「マリア」
「は、はい!」
「こんな時に何なんだが、カレヴィ・アサーヴ・グルバルガ・キル・バンガロールって長過ぎんだろ!?」
「……本当、どうでもいい話」
4、5歩の距離だが、俺の後ろに駆け寄ったマリアが大きく溜息をつきやがった。気になるだろうがよ。
謁見の間の入り口付近に居る俺らと、騒ぎが起きた王座周りまでの距離はざっと見て10パッススはある。その先で、エルフ語でだろう驚く声が上がった。
『ああっ!!?』
「「「「「「っ!!?」」」」」」
俺らもその声と言うか、奴さんの所業を見て言葉を失っちまった。あの女の首を刎ねたのは百歩譲って良しとしても、これはダメだろ。薄々気が付いてたが、やっぱりこいつだったのかよ。
ああ、そうさ。死体の胸に穴を開けやがった。
それだけじゃねえ。
「うっぷっ!」
「見なるな!」『ぅおええええええっ!!』
あの気狂い、穴から心臓を引き出して喰いだしたんだよ!
慌ててマリアの目を隠すが、御貴族様たちはモロ見えだ。と言うか、ショックで理解が追い付かないとこに、追い打ちをかける形で生実食だからな。目が離せない状況でんなもん見せられたら、吐かなくても胸が悪くなるだろうさ。
「お前ら、気を抜くなよ?」
「うむ」「分かった」「畏まりました」「ううっ……」
チラッと後ろに視線を向けて嫁たちを見るが、問題なさそうだ。青い小鳥に至っては毛繕いしてやがる。本当、肝が据わってるぜ。
「マリアさんや。さっきの話の続きだがよ。何でこいつら名前が長えんだ?」
阿呆な話でもして、意識を焼き付いたさっきの絵を少しでも消さねえとな。なるだけ早く自分で動ける状態に戻しとかねえと、今の状況が続けば命取りになりかねん。
「ううっ。最初がカレヴィ・アサーヴ・グルバルガ・キル・バンガロールって続いてるのよ」
「ほほ~。意味が在るのかよ。聞いてみるもんだぜ。けどよ、お前さんもロサ・マリアって余分に名前があるだろ? ありゃ何でだ?」
視線を気狂い王子に戻してマリアに聞く。勿論マリアの目はまだ隠したままだ。
だってよ、まだもしゃもしゃ喰ってんだぜ?
見せられるかよ。
「あ、あたしの場合は、マリアって名前を伯母様からもらったので、間違わないようにロサって付けたって聞いてるわ」「ガリンッ!」
マリアが言い終わるかどうかのタイミングで、田舎で精米した白米飯を食ってる時に、小石を米粒と一緒に噛んだ時のような音が聞こえて来たのさ。
「何の音だ!?」
コンビニ飯を食ってる様な奴らには判らんだろうがな。
「むっ。主君、あの王子の気配が変わったぞ? 魔石を喰ったのかもしれん」
「えっ!? あれって喰えんのかよ!?」
ガリゴリと嚙み砕く音が耳に届いて来るが、好奇心には敵わず振り向いちまった。
ああ、ヒルダの口調は家族以外の時は相変わらずだが、夜は変わるんだぜ? だから、昼間の口調は気にしねえ。と言うか、形は今のところ主従契約だからな。波風が立たねえ方が良いと言うのと、本人が人前だと恥ずかしんだとよ。
「うん。甘くて美味しいよ?」
「それはプルシャン様だけです。普通の者には毒以外の何物でもありません」
「マヂで!? プルシャン何ともないのかよ!?」
プルシャンとマギーの漫才に思わず目を剥いちまう。魔石ってあれだろ? 魔物の心臓に時々埋まっていた奇麗な石だ。あれが毒!?
「旦那様、わたしたちと魔物の体の違いがお分かりですか?」
「うんにゃ、お分かりでない」
聞いたこともねえし、今まで気に掛けたこともなかったな。
あ~……どうすっかな。気狂い王子が鬼だって言った方が良いのか? 結果的には、城や離宮に入り込んだ鬼を狩ってただろ? 鬼族じゃなく、鬼人ってなってるし……。
「魔獣は、魔力を体に巡らせる心の臓を持っていますし、魔力が流れる血の管がありますが、わたしたちは血の中に魔力が混ざっているので魔石は必要ないのです」
「マギーの言うとおりだぞ、主君。魔素を取り込み、体に馴染ませながら格を上げるのは同じだが、魔石のように凝固した魔力を取ると体を壊すのだ。幼くして自分の魔力で体を病む者もいる」
俺が上の空で聞いてるのを知ってか知らずか説明を続けるマギーとヒルダ。
ま、2人とも元は国のお抱え専門家だ。
「病気?」
「うむ。己の魔力が暴走して体を壊す病を"魔力過多症"、別名"紫斑病"と言い、逆に魔力がない故に体調を崩す病を"魔力欠乏症"、別名"白蝋病"と呼んでいるのだ」
"しはんびょう"に、"はくろうびょう"ねえ。
日本で聞いたことのある病気とは名前だけ似てるって事だろうな。何となくだが、出る症状も想像できるっうか……。
なんて考えたら、増々気狂い王子の存在感が大きくなってくるじゃねえか。周りを威圧する雰囲気が勝手に漏れ出てるっつうか、圧迫感が増してやがるのさ。
こりゃあれか。魔石を喰えば喰うほど格が上がりやすくなるってことか? そりゃこのタイミングを利用しないという選択肢はないだろうさ。
言ってみりゃ、"棚から牡丹餅"だもんな。
と思ったら、見てる先で消えやがった!?
どこ行きやがった!?
狙いは何処だ? もう魔石じゃねえだろ? なら俺か?
それともヒルダ? プルシャン? マギー? マリア狙うんなら王様だろう?
考えろ!
『旦那さま! スピカ様が!』「ちぃっ!」
拙いっ!
何処からともなくプラムの声が聞こえた瞬間、俺は弾かれたようにマギーに向かって踏み込んでた。俺の脚力なら一瞬で傍に行けるが、タイミング的に出遅れた感は否めん。
俺の莫迦野郎! 気狂い王子が目で追ってただろうが!
「クハハ! 遅かったな。この鳥を喰らえば俺は更なる高みに至れる! 貴様からの献上品、確と受け取ったぞ!」
「しまっ! マギー止せっ!」
マギーの右斜め後ろに現れたカレヴィの左手が、マギーの右肩に止まって毛繕いをしていた青い小鳥の伸びるのと、左拳を右手で包んで腰の回転を利用して肘打ちを打ち込もうとするマギーの光景がスローモーションに見えてるのに、思わず待ったをかけた。
マギーの動きが読めてねえ訳がない。
手を出せば良くて串刺し、悪けりゃ首ちょんぱだ。
俺の声に、ビクンと体を強張らせたマギーの手を引き俺の後ろに引き倒す。
驚いて羽を広げようとする青い小鳥。
伸びる左手と俺の右掌打。
掴まれたとしても、当身を入れられればどうにかなる!
気狂い王子の左手が俺より一瞬早く青い小鳥を掴もうとした刹那、閃光が俺らの、いや、謁見の間全体を呑み込んだ――。
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