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第4章 杜の都

第245話 えっ!? マヂでそれ投げんの!?

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 チチチチッ

 ピィピィッ

 鎧戸よろいどの向こう側から、小鳥たちの挨拶が聞こえる。

 「ん……。もう朝か……」

 鎧戸が締まってるせいで部屋の中は薄暗いが、隙間から差す光から陽が昇ってる事は判った。

 顔だけ動かすが、体はいつも通り動かん。

 朝が弱いマギーが俺の体に腕を回して抱き着いてるからだ。マギーは蜥蜴とかげ族と人族の混血ハーフだからな。母が人族だったこともあって、人間の体に蜥蜴の特徴が出てる。変温で朝がよええのさ。

 良く分からんが、混血の場合は母の種族が強く出るのかもしれんな。

 そんなことをぼんやり考えてると、なぎの公国で出会って寝た、狐人の混血娘ヴェーラ熊人の混血娘ソレンヌを思い出した。賑やかな虎女クローディーヌと、ホビット娘オリーヴチビッ子魔法使いロザリーも居たな。情も交わし、【骨譲渡ほねじょうと】で骨も分けてやったせいかは知らんが、いつの間にか俺の従者扱いになってる女たちだ。

 あいつらも、元気でやってるかな?

 コンコンと扉がノックされた。マリアだろう。

 この部屋には俺たち4人しか居ねえからな。ああ、青い小鳥スピカは空いたとこが在れば問題ねえから、数に入れてねえよ。

 「おはようございます。ご主人様、起きてますか?」

 マギーが傍にいる時にはなるだけ口調に気を付けてるらしいが、直ぐぼろが出る。

 俺としちゃあ、そこまで気にしてねえんだが……。マギーが気にしてるからな。余程の事がない限り、好きなようにやらせるつもりだ。

 「おう、わりいが、入って来て窓開けてくれるか?」

 「畏まりました」

 蝶番ちょうつがいきしむ音と一緒に扉が部屋の方に向って開くと、マリアが立ってた。見た目15,6歳の少女に見えるんだが、実際は153歳と言う婆さんだ。

 いや、年を取らねえ種族だから、婆さんと言うのは流石にひでえな。エルフだけあって美少女だが、「ヒルダやプルシャンには負けるな」と俺は思ってる。

 コツコツと床を鳴らしながら入って来たマリアが鎧戸を開けると、気持ちの良い微風と日差しが部屋の中に朝を知らせてくれる。

 『あ、もう朝なのですね……』

 青い小鳥スピカがゆっくり目を開けて毛繕いを始めるのが見えた。

 結局、神殿の大聖堂に立つ巨大アルっ子の立像の顔と手足の補修が終わったのは、大分日が傾いた頃だったのさ。都の宿も取れなくはなかったんだが、雪毛の兎人おれが居ると交渉の余地なく断られるのが見えててな。最悪、俺だけ野宿って思ってたら、イケメン司祭パトリックのお蔭で大神殿の一室を借りれたって訳だ。

 マリアは、護衛騎士リサと同じ部屋に寝てもらったんだが、あの女は百合趣味のエルフユリフだ。喰われてねえだろうな?

 「あ~マリアさんや?」

 「はい?」

 「リサに変な事されなかったか?」

 心配になったから聞いてみた。

 「はい。特に何も。何かあったんですか?」

 「い、いや。なかったんならそれでいい。忘れてくれ」

 「はあ……」「ん~~!」「ん……朝か」「旦那様~……」

 ジトリと半目で疑るような視線を向けて来たが、俺とマリアの声にシーツの下で隠れるように寝ていた3人がもぞもぞと起き始めたよ。

 ああ、ご想像の通り国境警備隊と一緒じゃ夜、何もできなかったからな。昨日晩は久々に燃えたね。てなもんで、俺らは全員すっぽんぽんだ。

 赤髪の美女ヒルダ紺髪の美女プルシャンがゆっくりと上半身を起こしてシーツから抜け出ると、当然シーツが引っ張られる訳で、俺とマギーの姿もあらわになる。

 「――っ!?」

 ヒルダとプルシャンの何も着てない上半身の白い肌には反応しなかったが、シーツがずれたことで出て来た、俺に抱き着くマギーの姿にマリアの顔が耳まで赤くなったのが判った。



 初心うぶだねえ。



 プラムはおませさんだが、マリアは長く生きてても大人の男女がする行為に免疫が無いようで、たまにこういう場面に出会でくわすと固まっちまうのさ。

 「ああ、わりい。朝飯はここで食べれるなら人数分持って来てくれるか? なけりゃ、後で屋台で買おう。無い時はたらいに湯を貰って来てくれ。軽く体を拭きたんんっ!?」「ん~~ふふふ。旦那様おはようございます」

 「し、失礼します!」

 スルッとマギーの腕が伸びて来たと思ったら、おはようのキスをされちまった。寝ぼけてるからか、安心してるからかは知らんが、マリアの存在に気付いてねえ。

 まあ、ナニ・・してるとこに入って来られるよりかは良いか。

 口元に軽く握った左拳を当てて、マリアが部屋を小走りに出て行くのを見送っていると、マギーに先を越されたとばかりに体を寄せて来たヒルダとプルシャンに自由を奪われちまった――。



                 ◆◇◆



 ガラガラと石畳の上を小気味良く回る大きめの車輪の付いた馬車の上に、俺は今座ってる。

 ああ、馬車の屋根の上さ。風通しが良くって気持ち良いぜ?

 それとは裏腹に、気分は最悪だ。

 中は窮屈だから、この場所がどうって言うつもりはねえ。だがな、迎えに来た奴・・・・・・・・がいけ好かねえ。貴いノーブルエルフの騎士様と来たもんだ。人の顔を見るなり舌打ちしやがるしよ。

 おまけに迎えに来た馬車が4人乗りだぞ?

 御者席に座ってるのは下っ端エルフだが、俺の顔を見て眉をひそめやがった。悪意があるとしか思えねえだろ!?

 俺への対応じゃなねえ。俺に対するというよりも、雪毛の兎人に向けられる偏見の視線や扱いは大体決まってるからな。もうある程度は慣れたよ。

 俺が怒ってるのは、ヒルダとプルシャンに対する扱いだ。

 あの野郎。ヒルダとプルシャンを見て「幾らだ・・・・?」って言いやがったんだぞ!?

 物でも娼婦でもねえよ!

 「あ゛!? 人の嫁に何色目使ってくれてんだ!?」って、思わず騎士野郎の喉に手を掛けてたわ。

 見送りに出てたイケメン司祭パトリックたちに仲裁されて手を下し損ねたが、嫁たちがくねくねと嬉しそうに照れてた姿を見れただけでも良しとする。まあ、止められるのがもう一拍遅かったら、首の骨抜いてたんだがな。惜しい事をしたぜ。

 ヒルダたちは、人前で「嫁」と言ったことがお気に召したらしい。

 馬車の中は御者席側に奥からマギーと騎士野郎。向かいにヒルダ、マリア、プルシャンの順に奥から座ってる。俺は、騎士野郎の頭の上だ。

 嫁たちの気分は良くなっても、俺の腹は治まらん。んな訳で、俺はご立腹中だ。

 苛々いらいらした状態のまま、神殿に迎えを寄越した第8王子殿下の屋敷に向かってる最中って訳さ。ったく、いつ俺たちが神殿に居る事を聞きつけやがった?

 国境警備隊の連中からか?

 俺たちより先に門をくぐって、森の主の頭蓋骨献上品を届けに行くと意気込んでたからな。

 謁見の間に居合わせてれば、あれでも聞こえてきたかもしれん……か。

 大神殿を出て彼此かれこれ2時間近くは揺られてる気がするぞ?

 まあ、2頭立ての馬車の速さが常足なみあしだからな。人で言う小走りくらいの速度で進んでるんだから、そりゃすぐには着かんわな。ケツの下には、なぎの公都で買ったクッションを敷いてるのもあってあんまり痛くねえ。

 「お? 見えて来たっとおっ!?」

 進んでる大通りの先に、街並みの雰囲気が変わる大きな屋敷の屋根が複数見えて来た。差し詰め貴族街だろうな、と思い掛けた瞬間、風切り音と共に1本の矢が飛んで来やがったじゃねえか!?

 それも、正面からじゃねえ。左真横からだ。

 結構な強弓こわゆみから放たれた矢だろう。おれの耳が良かったからこそ気付けたレベルだ。普通の奴なら、蟀谷こめかみか側頭部を貫かれて即死だっただろうさ。



 こういう時は――。



 俺は、矢が飛んで行った先を追って右に振り向く。



 ――ほらな。



 案の定、右からもほとど同じ勢いで飛んで来る別の強弓から放たれた矢が目の前に来てたよ。今度は、見えてるから矢柄やがらつかむのは簡単だ。

 人ってのは、何かが飛び出たらそれに目を奪われて、飛んでったものを目で追っちまう習性がある。それだけに注目するから周りが一瞬見えなくなっちまうのさ。暗殺犯はそれを使う。2人1組ツーマンセルで、意識が切れた側から本命を撃つ。

 けど、こいつらは後からの方を保険で撃ってた。良い殺気が込められてやがる。矢だけにな。ぷっ。



 2人とも良い腕だ。相手が俺じゃなきゃ、良い仕事ができただろうさ。



 けどな。そもそも問題、そんな凄腕の弓使いに狙われる理由なんて思い当たらねえんだが?

 ん?

 矢片手に腕組みして、んな事を考えてるといだことのある香水の匂いが、前方から風に乗って流れて来たじゃねえか。人影も急にまばらになって行くと言うか、どんどん建物の中に入ってるんだが!?

 『まさか、まさか!?』

 御者のエルフの兄ちゃんが何か言ってるが、エルフ語だからさっぱり分からん。

 石畳の大通りの真ん中に誰か立ってるのが見えるな……。

 何か棒みたいな物を手に持ってる……?

 先が今太陽の光を反射しなかったか?

 「おいおいおい。マヂかよ」

 思わず、見間違いかと思って目を擦ったね。

 ありゃ、あの時の第8王子だわ。確かカレヴィったか。

 んで、手に持ってるのは……ありゃ、何処をどう見ても槍だな。

 どうやら、俺の到着が遅いから迎えに出てくれたらしい……のか?

 って思ってたらあの第8王子気狂い、何を思ったのかおもむろに槍を肩の上で構え始めたじゃねえか。何する気だ?

 ここは天下の往来だぞ?

 「えっ!? マヂでそれ投げんの!?」

 俺の常識も飛び越えて、気狂きちがい王子の手から槍が放たれた――。





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