283 / 333
第4章 杜の都
第245話 えっ!? マヂでそれ投げんの!?
しおりを挟むチチチチッ
ピィピィッ
鎧戸の向こう側から、小鳥たちの挨拶が聞こえる。
「ん……。もう朝か……」
鎧戸が締まってるせいで部屋の中は薄暗いが、隙間から差す光から陽が昇ってる事は判った。
顔だけ動かすが、体はいつも通り動かん。
朝が弱いマギーが俺の体に腕を回して抱き着いてるからだ。マギーは蜥蜴族と人族の混血だからな。母が人族だったこともあって、人間の体に蜥蜴の特徴が出てる。変温で朝が弱えのさ。
良く分からんが、混血の場合は母の種族が強く出るのかもしれんな。
そんなことをぼんやり考えてると、凪の公国で出会って寝た、狐人の混血娘と熊人の混血娘を思い出した。賑やかな虎女と、ホビット娘、チビッ子魔法使いも居たな。情も交わし、【骨譲渡】で骨も分けてやったせいかは知らんが、いつの間にか俺の従者扱いになってる女たちだ。
あいつらも、元気でやってるかな?
コンコンと扉がノックされた。マリアだろう。
この部屋には俺たち4人しか居ねえからな。ああ、青い小鳥は空いたとこが在れば問題ねえから、数に入れてねえよ。
「おはようございます。ご主人様、起きてますか?」
マギーが傍にいる時にはなるだけ口調に気を付けてるらしいが、直ぐぼろが出る。
俺としちゃあ、そこまで気にしてねえんだが……。マギーが気にしてるからな。余程の事がない限り、好きなようにやらせるつもりだ。
「おう、悪いが、入って来て窓開けてくれるか?」
「畏まりました」
蝶番の軋む音と一緒に扉が部屋の方に向って開くと、マリアが立ってた。見た目15,6歳の少女に見えるんだが、実際は153歳と言う婆さんだ。
いや、年を取らねえ種族だから、婆さんと言うのは流石に酷えな。エルフだけあって美少女だが、「ヒルダやプルシャンには負けるな」と俺は思ってる。
コツコツと床を鳴らしながら入って来たマリアが鎧戸を開けると、気持ちの良い微風と日差しが部屋の中に朝を知らせてくれる。
『あ、もう朝なのですね……』
青い小鳥がゆっくり目を開けて毛繕いを始めるのが見えた。
結局、神殿の大聖堂に立つ巨大アルっ子の立像の顔と手足の補修が終わったのは、大分日が傾いた頃だったのさ。都の宿も取れなくはなかったんだが、雪毛の兎人が居ると交渉の余地なく断られるのが見えててな。最悪、俺だけ野宿って思ってたら、イケメン司祭のお蔭で大神殿の一室を借りれたって訳だ。
マリアは、護衛騎士と同じ部屋に寝てもらったんだが、あの女は百合趣味のエルフだ。喰われてねえだろうな?
「あ~マリアさんや?」
「はい?」
「リサに変な事されなかったか?」
心配になったから聞いてみた。
「はい。特に何も。何かあったんですか?」
「い、いや。なかったんならそれでいい。忘れてくれ」
「はあ……」「ん~~!」「ん……朝か」「旦那様~……」
ジトリと半目で疑るような視線を向けて来たが、俺とマリアの声にシーツの下で隠れるように寝ていた3人がもぞもぞと起き始めたよ。
ああ、ご想像の通り国境警備隊と一緒じゃ夜、何もできなかったからな。昨日晩は久々に燃えたね。てなもんで、俺らは全員すっぽんぽんだ。
赤髪の美女と紺髪の美女がゆっくりと上半身を起こしてシーツから抜け出ると、当然シーツが引っ張られる訳で、俺とマギーの姿も露わになる。
「――っ!?」
ヒルダとプルシャンの何も着てない上半身の白い肌には反応しなかったが、シーツがずれたことで出て来た、俺に抱き着くマギーの姿にマリアの顔が耳まで赤くなったのが判った。
初心だねえ。
プラムはおませさんだが、マリアは長く生きてても大人の男女がする行為に免疫が無いようで、偶にこういう場面に出会すと固まっちまうのさ。
「ああ、悪い。朝飯はここで食べれるなら人数分持って来てくれるか? なけりゃ、後で屋台で買おう。無い時は盥に湯を貰って来てくれ。軽く体を拭きたんんっ!?」「ん~~ふふふ。旦那様おはようございます」
「し、失礼します!」
スルッとマギーの腕が伸びて来たと思ったら、おはようのキスをされちまった。寝ぼけてるからか、安心してるからかは知らんが、マリアの存在に気付いてねえ。
まあ、ナニしてるとこに入って来られるよりかは良いか。
口元に軽く握った左拳を当てて、マリアが部屋を小走りに出て行くのを見送っていると、マギーに先を越されたとばかりに体を寄せて来たヒルダとプルシャンに自由を奪われちまった――。
◆◇◆
ガラガラと石畳の上を小気味良く回る大きめの車輪の付いた馬車の上に、俺は今座ってる。
ああ、馬車の屋根の上さ。風通しが良くって気持ち良いぜ?
それとは裏腹に、気分は最悪だ。
中は窮屈だから、この場所がどうって言うつもりはねえ。だがな、迎えに来た奴がいけ好かねえ。貴いエルフの騎士様と来たもんだ。人の顔を見るなり舌打ちしやがるしよ。
おまけに迎えに来た馬車が4人乗りだぞ?
御者席に座ってるのは下っ端エルフだが、俺の顔を見て眉を顰めやがった。悪意があるとしか思えねえだろ!?
俺への対応じゃなねえ。俺に対するというよりも、雪毛の兎人に向けられる偏見の視線や扱いは大体決まってるからな。もうある程度は慣れたよ。
俺が怒ってるのは、ヒルダとプルシャンに対する扱いだ。
あの野郎。ヒルダとプルシャンを見て「幾らだ?」って言いやがったんだぞ!?
物でも娼婦でもねえよ!
「あ゛!? 人の嫁に何色目使ってくれてんだ!?」って、思わず騎士野郎の喉に手を掛けてたわ。
見送りに出てたイケメン司祭たちに仲裁されて手を下し損ねたが、嫁たちがくねくねと嬉しそうに照れてた姿を見れただけでも良しとする。まあ、止められるのがもう一拍遅かったら、首の骨抜いてたんだがな。惜しい事をしたぜ。
ヒルダたちは、人前で「嫁」と言ったことがお気に召したらしい。
馬車の中は御者席側に奥からマギーと騎士野郎。向かいにヒルダ、マリア、プルシャンの順に奥から座ってる。俺は、騎士野郎の頭の上だ。
嫁たちの気分は良くなっても、俺の腹は治まらん。んな訳で、俺はご立腹中だ。
苛々した状態のまま、神殿に迎えを寄越した第8王子殿下の屋敷に向かってる最中って訳さ。ったく、いつ俺たちが神殿に居る事を聞きつけやがった?
国境警備隊の連中からか?
俺たちより先に門を潜って、森の主の頭蓋骨を届けに行くと意気込んでたからな。
謁見の間に居合わせてれば、あれでも聞こえてきたかもしれん……か。
大神殿を出て彼此2時間近くは揺られてる気がするぞ?
まあ、2頭立ての馬車の速さが常足だからな。人で言う小走りくらいの速度で進んでるんだから、そりゃすぐには着かんわな。尻の下には、凪の公都で買ったクッションを敷いてるのもあってあんまり痛くねえ。
「お? 見えて来たっとおっ!?」
進んでる大通りの先に、街並みの雰囲気が変わる大きな屋敷の屋根が複数見えて来た。差し詰め貴族街だろうな、と思い掛けた瞬間、風切り音と共に1本の矢が飛んで来やがったじゃねえか!?
それも、正面からじゃねえ。左真横からだ。
結構な強弓から放たれた矢だろう。兎の耳が良かったからこそ気付けたレベルだ。普通の奴なら、蟀谷か側頭部を貫かれて即死だっただろうさ。
こういう時は――。
俺は、矢が飛んで行った先を追って右に振り向く。
――ほらな。
案の定、右からも殆ど同じ勢いで飛んで来る別の強弓から放たれた矢が目の前に来てたよ。今度は、見えてるから矢柄を掴むのは簡単だ。
人ってのは、何かが飛び出たらそれに目を奪われて、飛んでったものを目で追っちまう習性がある。それだけに注目するから周りが一瞬見えなくなっちまうのさ。暗殺犯はそれを使う。2人1組で、意識が切れた側から本命を撃つ。
けど、こいつらは後からの方を保険で撃ってた。良い殺気が込められてやがる。矢だけにな。ぷっ。
2人とも良い腕だ。相手が俺じゃなきゃ、良い仕事ができただろうさ。
けどな。そもそも問題、そんな凄腕の弓使いに狙われる理由なんて思い当たらねえんだが?
ん?
矢片手に腕組みして、んな事を考えてると嗅いだことのある香水の匂いが、前方から風に乗って流れて来たじゃねえか。人影も急にまばらになって行くと言うか、どんどん建物の中に入ってるんだが!?
『まさか、まさか!?』
御者のエルフの兄ちゃんが何か言ってるが、エルフ語だからさっぱり分からん。
石畳の大通りの真ん中に誰か立ってるのが見えるな……。
何か棒みたいな物を手に持ってる……?
先が今太陽の光を反射しなかったか?
「おいおいおい。マヂかよ」
思わず、見間違いかと思って目を擦ったね。
ありゃ、あの時の第8王子だわ。確かカレヴィったか。
んで、手に持ってるのは……ありゃ、何処をどう見ても槍だな。
どうやら、俺の到着が遅いから迎えに出てくれたらしい……のか?
って思ってたらあの第8王子、何を思ったのか徐に槍を肩の上で構え始めたじゃねえか。何する気だ?
ここは天下の往来だぞ?
「えっ!? マヂでそれ投げんの!?」
俺の常識も飛び越えて、気狂い王子の手から槍が放たれた――。
0
お気に入りに追加
574
あなたにおすすめの小説
虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~
すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》
猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。
不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。
何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。
ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。
人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。
そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。
男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。
そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。
(
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
スマートシステムで異世界革命
小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 ///
★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★
新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。
それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。
異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。
スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします!
序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです
第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練
第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い
第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚
第4章(全17話)ダンジョン探索
第5章(執筆中)公的ギルド?
※第3章以降は少し内容が過激になってきます。
上記はあくまで予定です。
カクヨムでも投稿しています。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。
異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる