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第4章 杜の都
第242話 えっ!? 何故これをおま、いえ、貴方がっ!?
しおりを挟む「ハクト、凄いよ! 石壁を樹で挟んでるよ!?」
「ああ、そうだな。これで強度が出るのか?」
プルシャンが俺の前で目をキラキラとさせながら指差す先に、奇妙な城壁が行く手を阻んでいたんだ。
城門は石造りなんだが、その左右に10パッスス進んだところで直径3パッススはあろうかという幹から伸びる大木が聳え立っているのさ。それも、石壁、大木、石壁、大木って等間隔で挟むようにぐるっとな。
ざっと見る限り、王都の城壁はこうなってるみたいだ。木と石壁の隙間? ねえよ。俺ももしかしたら、抜け道みたいに入れるんじゃねえかと見てみたが、石垣に吸い付くと言うか、押し当てられてる感じなのさ。
城壁の上で青々と茂る葉っぱを見るに、この樹は"竜鉄楓"だろう。ロサ・マリアの里の真ん中に生えてた大樹によく似てる。
俺に言わせりゃあ、「よくもまあ樹の成長で石壁が崩れなかったもんだ」と思えるような奇跡の城壁だよ。
樹の最大成長幅を計算に入れて石壁を作ったって事か!? まさかな……。
木霊にプラムを連れて行かれると言う一騒動の後、俺たちは太陽が中天に差し掛かる前に、石畳の終着地点である王都へ辿り着いた。
後ろを見渡すと、俺たちが同行した国境警備隊とは違う連中も何隊か居るようで、結構混雑してる感じだ。何処ぞの里からの買い付けだろうか、数人数の旅行者と言うか商人らしきエルフも見える。皆、美男美女と来たもんだ。ここまでくるともう見慣れちまったね。
ああ、俺たちは入都手続きの真っ最中で、順番待ちさ。
未だに慣れねえが、額で揺れる双葉が鬱陶しい。
ヒルダたち4人は頭の真ん中から生えてるんだぜ? だか、視界が遮られることもチラチラと視界に入って来ることもねえ。くそっ、あの野郎。会ったらとっちめてやらねえと気が済まねえぞ。
俺らの頭をチラチラと見ながら、コソコソ話し込んでる様子を見るのはストレスが溜まる。まあ、俺は人目に曝されて、ホームレスの生活を送って来た口だからな。多少の事は気にならんが、嫁たちの事を気にすると、なんかこう、モヤモヤするのさ。
手を出すと拙い事になるくらい百も承知だから、なるだけ無視だがな。
「次!」
どうやら、俺らの順番が来たようだ。
奥の詰所から顔を出した、エルフの男が左手の人差し指でクイックイッと手招きした。いちいち所作が様になるから腹が立つ。顔を見慣れたが、態度まで慣れたとは言ってねえ。
後、年齢な。結構歳が行ってれば、ああ、大分生きてるんだなとは思うが、2、300年じゃ見た目がまだ若えからなさっぱりだぜ。
ともあれ、マリアの手前抑える事に決めた。
自分の事をいくら言われようが、別にどうって事はねえが、嫁さんたちの事を言われたらと思うと不安に思うとこもある。
ま、相手の出方次第だろうな。
兎も7日なぶれば噛み付くって諺もあるしよ。ちょっとは我慢するが、やるときゃやるぜ?
横目で左右をそれとなく確認しながら詰所に進む。プラムの事は、無事なら目の前の事に対処するという方針で嫁さんたちとも話し合ったから良いだろう。
貴いエルフだのマークールだの、"純血種"だの見た目には判らねえからな。いちゃもん付けて来たら、で良いだろう。
ん? マークールとキルエルフって同じ意味だったっけな? まあいいか。
俺たち5人と、俺の頭に乗った青い小鳥が詰所の中に通される。
俺の感覚で見た部屋の大きさは8畳間くらいの広さだな。俺らを呼び込んだエルフの門衛は、入り口で直立不動だ。部屋の中に入らねえらしい。
念の為、嫁たちを先に入れて俺が殿で入る。と言ってもほぼ一塊だから、大した差はねえがな。
詰所に足を踏み入れると、両袖机に1人の中高年層を思わせる風貌のエルフが両肘を突き、指を組んだ手の上に顎を乗せてる姿が視界に入ってきた。
偉そうな男だ。
雰囲気も態度もな。
敬えと言ってる訳じゃねえが、人に対する対面する態度じゃねえだろうがよ。
おっと。落ち着け落ち着け。
「ふう……。実際に目で見るまで俄かには信じられなかったが、その頭の芽は本物か? 頭に根付いているのか?」
「「「「……」」」」
渋めのエルフの問い掛けに、嫁たちが一斉に振り向いて俺を見た。つまり、俺が話せという事だろうな。へいへい。ようござんすよ。
「さてね。俺たちは勝手に植え付けられた側だからな。何とも言えんってのが正直話だ。ただ、見た目と触感は本物と見分けが付かんね。ああ、勘違いして欲しくねえんだが、そこら辺にある植物の葉っぱと比べて遜色ねえって話だぞ?」
「……そうか。ところで、何故雪毛の兎人の君が皆に先立って話すのかね?」
ほら来なすった。
返事の前に一拍間が開いたからな。眉も顰めてたしよ。イケメン隊長だけじゃなく、雪毛の偏見はエルフでも根強いって事か。
ま、毛虫と揶揄われなかっただけでも好感が持てるってもんだぜ。
「そりゃ簡単だ。俺がこいつらの旦那で、主人だからだな」
その一言で、渋メンエルフの雰囲気が変わるのが判った。
「……わたしも老いて耳が遠くなったのかもしれんな。もう一度同じことを聞くぞ? 何故雪毛の兎人の君が皆に先立って話すのかね?」
こいつ、一字一句同じ質問をしてきやがった。
「そりゃ簡単だ。俺がこいつらの旦那で、主人だからだな」
凄まれてビビるほどやわな玉じゃねえよ。
「……口の利き方に気を付けろ。君とて、雪毛の兎人がどう扱われているのか知らぬわけでもあるまい? そのエルフのお嬢さんは、ロサ・マリア・ベル・スルバラン嬢ではないのかね?」
どうやらこの渋メンエルフ、マリアの里の事を知ってるらしいな。
「聞かれてるぞ? マリア?」
「そうです」
「ベル・スルバラン嬢にお尋ねする。貴女とこの雪毛の兎人の関係は?」
「人攫いに捕まり、人族の奴隷になって闇市場で売られる所をご主人様に救って頂きました。この首飾りがその証です」
「ベル・スルバラン嬢を解放するのだ」
「無理だね」
「口の利き方に気を付けろと忠告はしたぞ?」
奥の部屋から殺気が流れてくる。やれやれ、気の短い奴らが多いな。いや、誇りが無駄に高いせいだろうな。長生きする種族なんだから、もう少し穏やかで居られねえもんかね?
「すまんね。俺も歳みたいでな、耳が遠いみたいだぜ?」
「無理とゆうのにはちゃんとした理由があります」
喧嘩を売ろうとしたら、マリアに止められた。悪い。
キッと俺を睨んで説明を始めるマリアを横目に、俺は肩を竦めて見せるのだった。
「ほう? というと?」
「この契約が女神様によって仲介されたものだからです。それに、ご主人様がわたしに求めたのは、『ご主人様とご主人様に属する者の情報を妄りに喋らない、害さない。わたしが居た施設の事、そこで見聞きしたことを妄りに喋らない。どちらも、話したくなったり、話すように強調された場合、ご主人様に伺いを立てること』だけですから。破格の待遇だと思います」
「……」
「こいつの言う通りだな。別に奴隷にしたくて金貨1,000枚も払うかよ。こいつをあそこから連れ出すのにそれだけ金がかかったって事だ。ま、そこを信じるか信じないかは、お前さんだがな。それと良いのか?」
「……何の話だ?」
ま、普通はそれを言われたからって鵜呑みには出来ねえよな。単なる与太話だとっても仕方ねえだろう。
このまま水掛け論で、最後には腕に物を言わせることになるのが目に見えてる。
だから俺はあれを使う事にしたのさ。
【無限収納】に収めている例の硬貨を、懐から取り出すように見せて取り出し、キンッと渋メンエルフに親指で弾いて渡す。
「それが何だかわかるか?」
無造作に掴み取った後、渋メンエルフが目を瞠った。
「えっ!? 何故これをおま、いえ、貴方がっ!?」
そうだ。例の第8王子とかいう転生者からもらった硬貨を見せてやったのさ。そしたらよ、「さっきまでの威勢は何処へ行きやがった!?」って聞きたくなるくらいにオロオロし始めたじゃねえか。
「あう」
「確か、話は通ってるはずだよな? この落とし前、どうつけてくれる?」
マリアの頭に左手をポンと置いて、くしゃくしゃっと頭を撫でながら、俺はできるだけ悪そうな笑顔でそう聞いてやった――。
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