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第3章 迷いの樹海

第237話 えっ!? それって、俺らだけじゃねえの!?

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 『うはははっ! ハクト殿飲んでおるか――っ!?』『ハクト殿――っ!』『ささ、先ずは乾杯――っ!』

 「は、はあ」

 俺は、入れ代わり立ち代わり遣って来る村人や警備隊の面々にエルフ語で話し掛けられ、バシバシと背中や肩を叩かれるという罰ゲームの様な宴の中、木製のマグカップにがれたチビチビと蜂蜜酒ミードをやってるとこだ。

 ロサ・マリアが通訳してくれようとしたが、断った。

 断ったというよりも、俺の従者というのがバレてアイツも引っ張りだこだ。やいのやいのと馴れ初めを話せと強請ねだられ連れて行かれたよ。要するに、俺にかまってる暇がなくなったってことさ。

 ああ、蟒蛇うわばみはあのまま事切れてたよ。

 ヒルダの時と同じように一滴残らず血が付いつくされた状態でな。オマケに骸骨騎士ガイの奴、どうやら魔石まで食っちまったらしい。

 ん? いや、しゃべれるようになった訳じゃねえぞ?

 相変わらず、一方通行だ。

 一方通行とは言っても、話すという事だけだがな。質問には首を振って答えるし、身振り手振りで何となく説明してくれようとしてる。こっちがガイの意思を汲み取りやすい様な質問をすれば問題ねえってこった。

 んで、アルの魔石じゃなくて、ダンジョンで見つけてた小さい魔石を取り出して見せて、「こんな石があったか?」って聞いたらよ。ひょいと俺の手から奪い取ってバリバリと喰って見せやがったのさ。

 溜息しか出なかったぜ。

 ……蟒蛇の魔石を喰ったって事だろ?

 何となくだが、一連の行為でガイの格が上がったんだろうな。雰囲気が変わったのが判ったぜ。

 んで、ガイだが、白かった全身鎧フルプレートだけじゃなく、ヒルダと同じように骨の体なかみも真っ赤な血の色になっちまったよ。

 ああ、あかりの魔道具で照らしてみたから間違いねえ。

 月明かりの下じゃ黒く見えたんだが、赤だったわ。

 この後、ヒルダみたいに人の肉体を持つようになるのか俺には判らんが、なる様にしかならんだろう。そう思う事にした。

 どっかの国の人みてえに、空が落ちて来ねえかと悩む気はねえのさ。

 【召喚獣】の枠内に収まるならそれで良し。枠から外れて人になるなら、それも良し、だ。それを楽しまねえと、旅をしてる意味がねえだろう。

 一番の功労者のガイだが、実は解体作業に借り出されたりする。

 捻じれた状態の死体を伸ばすのが大仕事だったようだがな。そこは力持ちのガイ様様だろう。

 あ~本来は倒した者が総取りって言うのがこの世界の常識らしんだが、蟒蛇がこの森にやって来た経緯を聞いちまってる俺としては、びも含めて蟒蛇を譲る事にしたのさ。

 と言っても、ガイの奴が魔石と血を飲み食いしちまってるもんだから、そこは差し引かせてもらったよ。喰ったものを吐けと言ってももう戻りそうにねえだろ?

 宴会は死体からかなり離れたとこでやってるから、こっから解体現場はチラチラと灯りの魔道具の光が見えるくらいの距離だな。

 俺が開けた腹の傷を使って、腹を裂いてるとこだ。うちもんしか使えねえ剣鉈けんなたなら腹を開くのも問題ねえだろうが、家の者にそれをさせるつもりはねえし、俺もするつもりはねえ。

 消去法で、ガイの斧槍ハルバードも骨粘土製だから、「こいつを使ってやってくれ」と送り出して、俺らは飯を食てるって話さ。

 それも随分前の話で、随分時間が経った気がするな。

 串差しになった蠑螈イモリの黒焼きの様な、蜥蜴トカゲの丸焼きをガシッと噛んで串を抜くと、丸ごと口に入れて咀嚼そしゃくする。

 お、美味いな、これ。

 空が白んできたような……?

 蟒蛇の白蒲焼しらかばやきが焼ける良い匂いが、微風そよかぜに乗ってやって来た。どうやら、皮を剥ぐのと、肉の切り出しも始まったようだな。

 蛇を食べる事に抵抗はねえようだ。それなら味付けも期待できるか?

 そんなことを思いながら、俺は口の中に広がった蜥蜴の丸焼きの燻製に似た匂いを洗い流すべく、マグカップに残った蜂蜜酒ミードをグイッとあおった――。



                 ◆◇◆



 陽が昇ると大変な事が起きてることが判った。

 何とまああの蟒蛇うわばみ何百人・・・・・・・って人間や獣人を喰ってやがったのさ。

 エルフの警備隊が奥に流されてなかった理由がそれだったらしい。つまり、既に詰め物が大量にあったから、単純に止まってたということさ。

 言わずもなが、腹を裂いて出て来たのは全部死体だ。可怪しいのは、どの死体も武装してた・・・・・・ってこった。大半が奴隷の首輪を着けられていたらしいが、何処ぞで戦争でもするつもりだったって事かよ?



 ――いや待て。深淵の森の主であるこいつの腹の中に、何で消化しきれてない大量の死体があるんだ?



 深淵の討伐隊でも組織されたか?

 いや、それなら、死体と一緒に長旅用の荷物がないと可怪しいだろ?

 武装しただけの着の身着のまま・・・・・・・って事は、何処かで野営してたってことだ。そこを蟒蛇に襲われた?

 ……深淵の森の中にそんな野営できるような場所なかったぞ?

 姫さん付きの女騎士たちと野盗が居たあの廃墟くらいか?

 いや、あそこは外縁からも出たとこだったからな。蟒蛇こいつが出るとは考えられん。人間を襲って食うよりも、森の中で魔物を喰ってる方が格が上がりやすいだろう。

 じゃあ何でこんなに死体がって考えたが……。



 ――分からん。



 一先ず、死体の処理で大童おおわらわさ。

 幸い、警備隊と村人の中に【土魔法】を使える者が居てな。手っ取り早く、魔法で地面に穴を開けてもらって装備品事放置投げてやったわ。装備品の中に魔力を帯びた物もあったが、俺らには必要ないもんだからって、好きなようにしてもらったよ。

 死体の処理と皮剥ぎを班分けして作業してたんだが、ザワリと周りが騒がしくなった。「何だ?」と思って騒がしい方を見たらよ。ガイの奴がぶっ倒れちまってるじゃねえか。

 しかも、ビクビクと痙攣してる。おい、普通じゃねえだろ!?

 「お、おい、ガイどうした!?」

 「――!」

 思わず聞いちまったが、何とか顔を横にして俺の方を向くのが精一杯だったわ。兜から生えてる2本の牛みたいな角が地面に刺さって、上手く動かせねえみたいだ。

 『あ~これは、成長痛ですね~!』

 どうしたもんかと思ってたら、青い小鳥スピカがパタパタと俺の頭に舞い降りて来て、そうのたまうじゃねえか。

 「ようやく起きて来たのかよ。お寝坊さん」と言おうと思ったが、聞き捨てならねえ言葉があったぞ!?

 「えっ!? それって、俺らだけじゃねえの!?」

 『む~。ハクトさん、酷いです! わたしが嘘吐うそついてるって言うんですか!?』

 「あたたっ! いや、そうじゃねえって! 今回俺らに成長痛が起きなかったから安心してたらよ。まさかガイに成長痛が出てるとは思わねえだろ!?」

 俺の頭を突きながら講義の声を上げる青い小鳥スピカに、思わず言い訳をしちまった。

 『確かに珍しいケースですが、ガイはハクトさんから命を吹き込まれましたからね。生を持つ者は、成長する時に痛みを伴うのがこの世界の有り様なのです。例外はありませんよ』

 そうらしい。不思議な世界に来ちまったもんだぜ。

 ま、何がどうあれ、目の前のガイは動けずに痙攣してるだけだ。放っておいても邪魔になるだけだろうし、成長痛が治まるまで時間が掛かるだろう。と言うか、何処がどう成長すんだろうな?

 「ご苦労さん。今日はこれで帰って休んどきな。【送還】」

 そう言いながら、ガイの体に触れて召喚解除のキーワードを唱えると、ガイの姿がスッと消えるのだった。

 成長痛が治まったらどう変わるか、楽しみだな。

 「よっしゃ! 美味い肉を食べるためにももうひと頑張りするか! ヴェニラ――!」

 「は――い!」

 ロサ・マリアじゃなく、通訳してくれそうな奴を呼ぶと、蟒蛇うわばみの背中からひょこっと顔を出しやがった。んじゃ、骨抜くかね!

 「これから骨だけ先に抜く。その方が皮も剥ぎやすいだろ? 蟒蛇に乗ってる奴に一旦下りろって伝えてくれるか?」

 「は、はい。え、ええっ!? 抜いちゃうんですか!?」

 「おう、腸も出したみたいだしな」

 「それはそうですが、骨を抜く!? 肋骨ですか?」

 「ん~まあ、黙ってみてな」

 説明が面倒だから、適当ににごしてやった。蟒蛇のと言うか、蛇全般の頭の骨は鼻の薄皮1枚剥げば顔を出す。牙を持っても良いんだが、こいつが毒持ちなのかどうかも判らねえから、迂闊うかつな事はしねえよ。

 死体だから、もう成功判定が絡むこともねえだろう。鼻の穴と口を剣鉈けんなたで切って繋いで引っ掛かりを減らす。

 「俺の真後ろにも立つなよ~~!」

 鼻の穴に手を突っ込んで爪を立てると、ガリッと骨の感触が伝って来た。チラッと後ろを確認すると、良い感じに人も木立も隙間が空いてる。



 ――良し、やるか。



 「【骨盗り】!」

 その瞬間、ずるんっと蟒蛇の骨が動いた――。





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