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第3章 迷いの樹海

第236話 えっ!? ちょっ、お前もかよ!?

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 「ああ――っ! 言わんこっちゃないっ!!」

 「「「ああ――っ!?」」」「――っ!?」「――ふん」

 俺たちが見てる中で、白い骨粘土製の全身鎧姿の骸骨騎士ガイ蟒蛇うわばみ斧槍ハルバードごと丸呑みされていた。おい、アル、お前いま鼻で笑ったろ!?

 ニ三合にさんごう噛み付いて来た蟒蛇の牙に斧槍ハルバードをぶち当ててたがな。それだけだ。

 想像通り、牙を折るほどの威力もねえ。何があいつを駆り立てるんだか……。

 けどまあ、ガイは所謂いわゆる【召喚獣】扱いだ。俺の魔力をにえに何処かに潜んでいるあいつをび出してるんだろうと、勝手に解釈してる。

 と言うか、【召喚】について詳しく話せる奴が俺の周りに誰も居ねえからな。

 気にするだけ無駄って事さ。

 んでもって、こっちに止まれなくなる程ダメージを喰らって【強制送還】されちまうか、俺に【送還】されるかすると居なくなっちまう存在だ。だから、少々あいつが蟒蛇にどつかれようが呑み込まれようが焦る事はねえ。

 精々「何やってんだ?」くらいの話だ。

 そもそも、俺が幾らレベルが高いとは言っても、体格差はどうにもならん。グーパンチ1発でせるほどどうにかなる話でもないんだよ。

 パンチ1発で空高く飛んで行って星になる? そりゃ、漫画の見過ぎだぜ。

 んな事できる奴は、デコピンで人が殺せちまうだろうさ。

 まあ良い。ガイの奴が【強制送還】された感覚がねえって事は、まだ蟒蛇の腹ん中に居るってこった。腹に穴を開けてやったからそのうちそこから出て来るだろうが、エルフどもは完全に戦意喪失してるぞ?

 どうするつもりだ?

 周りを見回しても、蟒蛇の腹から出て来た奴で居残ってるのは女副隊長ヴェニラだけだ。どうにもならんだろう。

 いけ好かねえイケメン隊長の姿もねえ。最初から蟒蛇の傍に居なかったんだろう。居たなら、腹ん中に一緒に佃煮つくだにになってたはずだ。

 俺が見た限り居なかった。なら、別動隊を指揮して村人の避難を粗方済ませてるって事だろう。現に後ろの方に気配の塊がある。

 村の反対側の方にでも集まったってとこか。

 「ん?」

 「だ、旦那様、ガイさんはどうなるのですか?」

 溶けかけた袖を引かれてる事に気付いて視線を落とすと、プラムが見上げていた。

 「あ~今んとこあの蟒蛇の腹ん中だが、心配はねえだろう。腹を切ってるから、最悪そこから出て来れる。と言うか、アル。何を隠してる? いい加減教えろや」

 「……我の口からは言えぬな。ヒルダ・・・に聞けば良い」

 「あ、おい! ……引っ込んじまった」

 何というか、器用に人格が入れ替わるもんだぜ。お蔭で、入れ替わった雰囲気の違いが分かるようになて来たな。

 「……」

 「今までの話、聞いてたな、ヒルダさんや? うお!?」

 「主君、無茶をしないでくれ。われとプルシャンは、主君が居るからこそここに在る・・のだ。それが全て無くなってしまえば、吾もプルシャンも後を追う」

 がばっと抱き着いて来たヒルダに押し倒されそうになって踏鞴たたらを踏むが、何とか踏ん張って抱き締め前す。胸当て越しに顔を押し付けて来るヒルダの後頭部を、ぽふぽふと撫でながら、そこまで思い詰めていたのかと改めて思ったわ。

 「……ああ。悪かった」

 重いと言っちゃいけねえんだが、そこまで思ってくれてたって事かよ。己の暢気のんきさに嫌気がさすぜ。



 ――ここまで言われて、受け止めねえとなると男が廃るってもんだ。



 「ハクト……」

 「プルシャンも心配掛けたな。命を粗末にする気はねえよ。安心してくれ」

 「……うん」

 空いた右胸に頭を預けて来るプルシャンを、ヒルダと同じように片腕で抱き締めて良い雰囲気になりそうだったんだが――。



 ジャアアアアアア――――――――ッ!!!!



 蟒蛇うわばみの絶叫で台無しだ。

 いや、忘れてたわけじゃねえぞ?

 現実逃避でもねえ。

 「ご主人様、わたしの目が可笑しくなったのかな? 何かあの大蛇、苦しんでるように見えるんだけど?」

 「奇遇だな。俺にもそう見えるよ」

 一斉に振り向き蟒蛇を見ると、周りの樹を折りながらのたうち回る姿が飛び込んできたのさ。ロサ・マリアの問いに、間髪入れず同意する。

 あ~蛇が車にかれた瞬間見た事あるか?

 頭が潰されてなくて体を轢かれた場合、蛇ってのはなのたうち回るんだよ。痛みに耐えようと思ってなのかはわからねえが、今目の前で繰り広げられてるような団子になる事もあるのさ。

 「――始まったか」

 ぼそりと呟いたヒルダの声を聞き逃すはずがねえ。

 「ちっ。ここまで来ることはねえとは思うが、下がるぞ。それとヒルダ、そろそろ種明かししてくれ。こう、喉の奥に魚の小骨が引っ掛かった様で気になって仕方ねえんだ」

 「ふふふ。主君は面白いな。魚の小骨か。言い得て妙だな」

 「そりゃ嬉しいね」

 2人を胸からがし、両腕を腰に回す形で促すとヒルダに笑われた。あんまこういう言い方はしねえんだな。「で?」と視線で先を促す。

 声に出して急かすのは野暮ってもんだろう。



 ジャアアアアアア――――――――ッ!!!!



 と、再び蟒蛇の絶叫が俺たちを抜き去る。横で、プラムが「ひっ!」と声を上げてたが驚いただけだろう。マギーがプラムの後ろに付いてるから問題ねえ。

 「主君は、アルの体を解体した時の事を覚えているか?」

 「解体?」

 アルと解体という2つのキーワードで思い出すのは、深淵の森の端にあった"骨の谷"の出来事だけだ。赤竜アドヴェルーザを殺した後で、鱗を取り、皮を剥ぎ、心臓を取って――。

 「なあ、ヒルダさんや」

 そこまで考えて、俺はある事に気付く。

 「何だ、主君?」

 「お前さん、あの時の記憶なかったんじゃねえの?」

 「うむ。あの時は・・・・・なかったぞ?」

 「あの時は・・・・・?」

 「うむ。どうやら、吾がアルの血を飲んだ瞬間から、アルは吾の中にたらしい」

 「マヂで?」

 つう事は、初めから記憶を共有してたってことかよ。

 「うむ。マヂだ。この使い方で合ってるか?」

 「いや、合ってるが、真似しなくていい。むしろせんでくれ」

 美人の口から「マヂ」とか聞くとがくって来るな。一気に疲れたぜ。

 「む。……そうか?」

 「あの時は、まだ肉のない骨格だけだったもんな。……んで、血を飲んで」

 思わず、ヒルダから蛇団子になった蟒蛇に視線を戻す。

 確かに、まだガイが【強制送還】された感触はねえ。つまり、あのじれた腹ん中に居るってこった。俺らが居た時はまだ蛇行してたとは言え、蠕動ぜんどう運動の締め付けだけだったんだが、それでも死にそうになってたんだぞ?

 ありゃ、まだ誰か腹の中に居たとしたら生きちゃいねえな。

 気配を探すと、何となくだが俺たちが出て来た傷の辺りの様な気がする。確か、その上の骨を抜いてやったんだっけ……。



 ――待てよ?



 「なあ、ヴェニラさんや」

 「は、はいっ! 何でしょう、ハクトさん!」

 俺たちと一緒に距離を取った女副隊長に話を振る。見る事のない光景に声を失ってたのか、俺に声を掛けられて慌ててそばに駆け寄って来た。

 「ちなみに、蛇の心臓ってどの辺りにあるか分かるか?」

 正直、蛇の造詣ぞうけいは詳しくない。ロサ・マリアとヴェニラを比べれば、どっちが経験豊か言うまでもねえ。なら、詳しそうな奴に聞くのが手っ取り早いだろう?

 「そう、ですね。木の上で生活する蛇は頭寄り、平地に居る蛇は真ん中より頭寄りにあったと思います。あの大蛇がどういう生活をしてたのかは分かりませんが……。森の中をってたのなら、平地の蛇と差はないのかもしれません」

 なる程ね。

 俺が腹を切った場所は真ん中よりも頭寄り。3分の1くらいの場所だ。

 「つう事は、――えっ!? ちょっ、お前もかよ!?」

 分かっちまった。

 通りで、ガイの気配が1箇所から動かねえはずだぜ。犬に付くマダニみてえに蟒蛇うわばみの心臓へ噛み付いて、血を吸ってんだろう。

 同じことをしてたアル・・が鼻で笑ったのもうなずける。

 こりゃあれだ。もう俺らが手を出す必要はねえな。

 「ハクト、何がお前もかよ、なの?」

 プルシャンが俺の顔を見上げてる。

 「あ~……ガイの奴がな。昔ヒルダがした事と似た事をしてるのさ。それを思い出してビックリしたんだよ。もう俺らが出を出さんでも、やっこさん事切れるぜ?」

 俺がそう言ってあごで蟒蛇を指すと、糸が切れて床に落ちる人形の様に、蟒蛇の巨体が力を失って森に沈み、地響きをとどろかせるのとが同時だった――。





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