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第3章 迷いの樹海

第230話 えっ!? 何やってんの、あいつら!?

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 あれからロサ・マリアがブチ切れて大変だったんだが、何とかマギーの当身で意識を刈り取って事なきを得た。

 止める前に手を出してるんだからな。あっという間にタコ殴りだ。

 ん? ん~……ああ、【骨譲渡ほねじょうと】はしてる。してる分、身体能力が上がってるのは確かだな。

 川辺の街ホバーロで別れた虎人族の女クロたちにも【骨譲渡】してるんだが、どうなってるか分からん。分からんが、【骨譲渡】してるヒルダたちは、軒並み身体能力が上がってるのは確認済みだ。

 マギーのアイアンクローは、マヂでやばそうだ。粗相そそうしたロサ・マリアの奴が、折檻せっかんでマギーから蟀谷こめかみを左手で掴まれた時、意識を失いかけたからな。

 同じ様に【骨譲渡】してるロサ・マリアは耐えれなかったんぞ?

 まあ違いと言やあ、夜伽よとぎをしてもらってるかどうか……。

 あ、ロサ・マリアには夜伽はしてもらってねえぞ? してもらってねえというか、プラムとあんまり変わらない幼い姿に、背徳感が半端はんぱねえのさ。

 歳が行ってるのは頭では理解してるんだがな。

 食指よりも保護欲しか動かんのよ。

 まあ、エルフの国に入るって言ってるのに、貴いノーブルエルフを雪毛の俺が頂いてしまうと、この国で命の危険も有り得るから、余計にそんな気は起きん。

 それと……。

 アルトゥルと言う美青年野郎は、俺の予想通りロサ・マリアの許嫁いいなずけだった・・・よ。

 ああ。だった・・・のさ。

 一年以上行方不明になっていたロサ・マリアの許婚の方の家が、結婚を急いで来たんだと。それを聞いて違和感を感じたね。

 だってよ、エルフやドワーフは長命種ちょうめいしゅって言うらしいじゃねえか。俺の感覚からすれば、千年も生きる種族は永遠に近い寿命を持つって思うよな?

 それなのに、一年やそこら結婚が伸びたからと言って急ぐ必要があるのかね?

 疑問をぶつけてみたら、そこら辺はエルフ内の貴族のお話だと返された。首を突っ込む気はねえから、これ以上は聞かねえ。

 人間の政略結婚と大して変わらねえんだな、と思ったもんだ。

 それよりもだ。それよりも、ちと面倒な事になってる。

 首に着けてる、レースの首飾りチョーカーを突っ込まれたのさ。色はそれぞれ違うんだが、デザインは一緒な訳で……デザインに五月蠅うるさい御貴族様の奥様に気が付かれずに済まなかったってこった。

 「俺と従者契約を結ぶと、この首飾りチョーカーが現れるんだ」と言ったとこで、寝かせてたロサ・マリアが起き、俺たちの居る居間に入って来たのさ。

 ま、そいう言うこった。

 「何でマリアの首に同じものがあるのかね?」

 「説明してもらえるのでしょうね?」

 「まさか、マリアを従者にしてると言うんじゃないでしょうね!?」

 親父さん、お袋さん、姉ちゃん。そんなに怖い顔で見るなって。

 「あ~ロサ・マリアさんや。俺の口から説明したら余計にややこしくなりそうだから、お前さんから説明してくれるか?」

 って頼んだのは良いが、何処の時点から話すのかとやきもきしたぜ。だってよ、襲われたとこで、姉ちゃんと元許婚の姿を見たって話しをしたら、余計に話がややこしくなっちまうだろうが。

 そこら辺はブチ切れてタコ殴りしたのが良かったのか、冷静に上手く胡麻化ごまかしてくれたぜ。ただ、視線は姉ちゃんの方に向いてたがな。

 元許婚アルトゥルに呼び出されたが、約束の場所には誰も居なくて、背後から誰かに襲われ頭を殴られて気を失ったって感じさ。

 その後は、奴隷として売られて奴隷としての作法を教育され、地下の競売に売りに出されたとこを俺が買ったと大分端折はしょったな。

 何ともいえない微妙な視線や、明らかに敵意き出しの視線が刺さって来る。気分の良いもんじゃねえぞ?

 幸いと言うか、有難ありがたい事にと言うか……。

 概要は伝える事が出来たんだが、家族だけで話したいからと言って俺らは部屋に案内されたよ。飯もそこで食った。にらまれながら食うよりも、余程よっぽど気が楽だったぜ。

 部屋の鎧戸よろいどは閉じてあって、内側で横木の閂止かんぬきめをしてあるから、風にあおられて開く心配はねえ。

 元々シングルベッドが一つしかない部屋だ。そこに五人放り込まれてるんだから、寝る場所がねえわな。飯を片付けてもらってから、自前で購入しているダブルベッドを部屋に出してそこで寝ることにしたよ。

 シングルベッドは一旦俺の【無限収納】に放り込んどいた。

 体を拭くお湯や桶はこっちで用意できるから要らんと、メイドらしきエルフの姉ちゃんには言っておいたから、朝まで来ることはねえだろう。

 久し振りのベッドだ。

 体を拭いてもらい、水気を乾かして貰った俺とプラムが先にベッドに腰を下ろし、壁に背中を預けて体を拭くヒルダたちの裸をぼんやりと眺めていると、いつの間にか眠りに落ちていた――。



                 ◆◇◆



 何で眠りに落ちたのが判るかって言うとだな。

 夢の中で、青い小鳥の姿じゃないスピカに逢えるからだ。いや、夢の中だけしか逢えないからこそ、今眠ってるって言う事が判るのさ。

 「ハクトさん!」

 「おお、スピカは今日も可愛いな」

 抱き着いて来るスピカを抱き締めて、腰まで伸びるウェーブ掛かった水色の髪の毛を指に絡ませながら、ぽふぽふと後頭部を優しく叩く。

 そうすると、ギュッと強く抱き着いて来るのさ。そうすると、胸に伝わって来るマシュマロの弾力が気持ちいのさ。ま、逢引あいびき決まり事ルーチンって事にしといてくれや。

 俺ら以外に誰も居ねえから、こんな事が出来てるって言う自覚はあるんだぜ?

 それに、夢の中でする事とと言やあ決まってるしな・・・・・・・……。

 物欲しそうに上目遣いで見上げて来るスピカの口を、俺の口で塞ぐ。そのまま……といつもの流れだったんだが、今夜は違ったんだわ。

 どん、と腰にぶつかって来る奴が居るじゃねえか。

 初めに言ったが、ここは俺の夢ん中だ。こんな無粋な事をする奴は本来居ないんだが、入ってこれる奴らに心当たりがある。

 「ハクト、スピカ姉様、ごめんなさいなの!」

 俺の腰に小さな腕を回して謝る声に聞き覚えがあった。

 「アルっ子か!?」

 本当は、ライエル・アル・アウラって言うんだが、舌みそうでよ。俺はアルっ子って呼んでる。特に怒られる訳でもねえから、そのままだ。

 と言うか、いつも出て来る時は他の姉ちゃんズたちと一緒なんだが、何で今単独で出て来た!? そもそもスピカが出てる時は居なかっただろうがよ?

 「ごめんなさいなの! 深淵しんえんの森の主をアキラと真っ黒勇者が飛ばしたの!」

 まっくろ勇者? ノボルの事か!?

 あいつ等も深淵の森に修行に入ったのか。

 「森の主を飛ばした!? いや、アルっ子落ち着け。ほら、深呼吸してみろ」

 スピカから腕を放して、アルっ子に向き直り、スピカと同じ水色の頭をぽふぽふと撫でる。胸の前で小さな両手を持ち上げて、もじもじと指先を動かす幼女を、誰が女神と思うのかはなはだ疑問だぜ。

 「う、うん」

 「ハクトさん」

 「おう、何だ?」

  と思ったら、後ろからスピカの声が聞こえたが、少し離れて聞こえたのさ。それで、振り返ってみたら俺たちに背中を向けてたのよ。

 「ライエル・アル・アウラに伝えてもらえますか? わたしは今創造主様から罰を受けている身。なので、直接妹と言葉を交わせば、妹が罰を受けてしまいす。今日はわたしがこの場を去りますが、次はそこを考えて行動するように、と」

 「スピカ姉様、ごめんなさいなの!」

 はあ、そういうことか。面倒な話しだぜ。俺は全然気にしねえんだが、そうも言ってられんのだろう。俺に伝言を頼むのはフリで、その実、妹のアルっ子に言い聞かせてるんだからな。

 良い姉ちゃんだよ、お前さんは。

 もう一度頭を下げるアルっ子の頭を、ぽんぽんと優しく叩いてからスピカに向き直る。

 「ああ、判った。んじゃ、また明日なスピカ」

 「はい。ん……」

 おやすみの挨拶はこれ・・って言われてるから仕方なく始めたんだが、もう何も考えずに自然としちまってるな。

 いや、すまんね。五十路男いそじおとこの濡れ場はここまでだ。

 「んで? アウヴァの姉貴あねき出張でばって来たって事は、そこそこやばいんだろ?」

 姿を水に溶かす絵の具のようににぞませて、消えて行くスピカを見送った俺は、振り返らずにそうもう一つ現れた大きな気配に声を掛けた。

 「これでも、戦の神なのだがな?」

 「それ以前に、ここは俺の夢ん中だぜ? 俺が有利に決まってる」

 「ふむ。それもそうだな」

 気配を読まれたことがご不満なようだ。アウヴァ姉ちゃんと言うよりも、俺の中じゃ姉貴なんだよな。

 んで、ここに姉貴が来たって事は、アルっ子じゃらちが明かんと思ったんだろう。

 「何やら、あんまり聞きたくねえ言葉をアルっ子が口走ってたんだが、どういうこった? 姉貴が来たって事は、その説明をしてくれるんだろ?」

 向き直って、アマゾネスみたいな筋肉質の腕や腹をさらすショートヘアーの姉貴を問いただした。髪の毛の色は、スピカやアルっ子よりも少し色が濃い水色だ。髪は短くても、巻き毛のせいでボーリュームがある様に見える。

 ボーリュームがあるのは胸もなんだが、あんまり見ねえ様にしてるんだが……。

 「可愛げのない」

 胸の前で腕を組まれると、腕にそれ・・が乗る訳で……。目のやり場に困るんだよ。わざとしてるんじゃねえかと思うこともあるくれえだ。

 「すまんね。かんが良くて。で? あきらとノボル、今は鬼若オニワカか。二人が何をやらかしたんだ?」

 俺の腰に抱き着いて来るアルっ子の頭を撫でながら姉貴を促すと、耳を疑うような答えが返って来たのさ。

 「勇者は、格が上がると【時空魔法】が使えるようになる。その中に【転移】もあるんだが――」

 マヂかよ。何て都合のいい魔法が使えるようになりやがるんだ。

 「――」

 何となく流れは読めたが、黙ったまま先を促すことにした。

 「その魔法が使える様になったその二人が、深淵の森の主に二人掛かりで不完全な【転移】を発動させたのだ。本来は、勇者と勇者と契約した者しか移動できないのだが、我々にも予想のつかない使い方をしたせいで魔法が暴走してな」

 「――」

 「天界に転移してきそうになったのだ」

 「えっ!? 何やってんの、あいつら!?」

 姉貴の説明に思わず突っ込むと、俺の腹の毛に顔を突っ込んでるアルっ子の体がビクッと動いた――。





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