上 下
261 / 333
第3章 迷いの樹海

第227話 えっ!? どれが目印だ!?

しおりを挟む
 
 「これは?」

 「血止草ちどめぐさ。ヒールポーションの材料ね」

 「これは?」

 「蛇蔦へびつた。こっちはマナポーションの材料よ」

 「これは?」

 「縄蔦なわつた。蛇蔦とよく似てるんだけど、薬効は全然無いただの草よ」

 「へ~」

 俺は今、目の前であっちへちょろちょろ、こっちへちょろちょろ動いてはロサ・マリアに質問する幼い雪毛の兎人娘プラムの様子を見て、だらしなく頬を緩めていた。



 婚約者というか、娘を見守る気持ちなんだがな。



 どうもプラムは七歳になって、大人と同じような扱いをするよう俺に求めることが多くなった。口に出しては言わねえが、むすっと不機嫌になるのさ。

 頬を膨らませる仕草は、それはそれで可愛いんだが、オマセさんな年頃なんだろう。向こうの世界に残して来た娘も、小さい時はこうだったのかもな。

 今は見る影もねえが……。

 いや、ホームレスになる前に見たきりだから、成人前か。まあいい。

 ロサ・マリアの奴も、妹が出来たみたいで色々と自分が知ってることを教えてる。家事はまるっきりダメだがな。逆に、プラムから教えられてる始末だから笑えるぜ。

 今は、使える草とそうじゃない草があることを教えてる、ってとこか。

 流石、150年も生きてりゃそこら辺の人族よりも薬草の知識量は半端はんぱねえだろう。

 「ん? どうした?」

 そう思ったら、ジト目で俺を見てるロサ・マリアと目が合う。

 「今失礼なこと考えてなかった?」

 年齢でもセンサーが利くのかよ!?

 「んにゃ。それよりも、しっかり歩かねえと、怖い隊長にぶった切られるぞ?」

 「そんなことせん!」

 「そうかい。誰だったかな? 獣にられたことにして、毛皮だけいで持って行くとかのたまってたのは?」

 「あれは言葉のあやでそう言ったまでだ」

 俺の言葉で、一斉にヒルダたちの殺気の籠った視線に射抜かれたネストリが弁解する。ま、分からんでもねえ。女はこええからな。

 それはそれこれはこれだ。いじれる時に弄る。

 「言葉の綾? そりゃ言葉の使い方間違ってるだろうが。それを言うなら、失言じゃねえのかよ?」

 「うぐっ」

 「おお怖え怖え。ヴェニラちゃん、お宅の隊長が怖えんだ。助けてくれよ」

 「な、何でわたしになすり付けるんですか!?」

 言葉に詰まって俺を睨みつけて来るネストリから距離を取って、近くを歩いていた女副隊長ヴェニラの背後に回り込んでやった。

 言いたいことは解る。警備隊の指揮官二人が付いて来て良いのか、って話だろ? 俺もそう思ってよ。「隊長も副隊長も関所を出て問題ねえのか?」って聞いたら、二十日に一度別隊と入れ替わるんだと。

 俺たちを王都に連れて行くという任を受けた手前、長居はしたくなかたったらしいんだが、取り調べから二日後に別隊が到着して、都合つごう良く入れ替われたって話さ。

 関所とその周辺を守るのが、国境警備隊。国境の巡視や害獣駆除と言った、国防を司るのが騎士団と言う線引きらしい。

 と言っても、国土の九割が森に沈んでる場所だ。岩手県もびっくりだぜ。

 いや、そうじゃなくてだな。それだけ森が成長しちまってると、馬車が通るような道はねえ。つまり、旅は徒歩だ。

 馬で走るよりも、風魔法を使って駆けた方が早いらしい。現実を見せられたらそれもうなずける。木の根が地面から顔を出して、網目状になってんのさ。こんなとこを駆けたら、馬じゃなくたって捻挫ねんざするに決まってる。下手すりゃ骨折だ。

 それでも王都周辺は、馬車が通れるように道が整備されているらしいが、それ以上伸ばす労力と費用を考えれば、必要ないと判断されたんだと。

 まあ、木を一本切り倒すだけでも犯罪になるってんだから、森を切りひらいて道を造るという構想は、土台無理どだいむりな話って訳だ。

 王都から関所まで、強行軍きょうこうぐんで一ヶ月、通常の速度で二ヶ月かかるらしい。で、俺らはエルフじゃない女子どもも多いということもあり、通常だ。

 ずは、ロサ・マリアやヴェニラの生家せいかのある、ベル氏族の集落へ寄って行くというルート設定をした。ロサ・マリアもりたいことがあるって息巻いてたからな。元々、それに付き合うためにここへ来たんだし、異論はねえ。

 ねえんだが、流石に太陽が見え隠れする樹高じゅこうがある森だと方向感覚が莫迦ばかになっちまうのさ。

 俺は行った事はねえが、もしかしたら"富士の樹海"はこんな感じなのかもなって思っちまったよ。というのも、方向感覚が狂わされてるという確証が、俺の中で生まれてるからに他ならない。



 《【耐磁力】の熟練度が3に上がりました》



 って言うアナウンスがついさっき頭の中で流れたんだよ。

 この国に来るまでは熟練度1だったのに、わずか二十日で二つも上がってる。深淵の森の外縁がいえんでこのスキルが上がったのと、この森で上がったのには共通点があるはず。

 磁力があるって事は、あのそびえ立つ山脈の中で一番高い山が火山だった――、いや、この森も含めて火山帯と言う可能性もある。

 何かで見た記憶があるが、溶岩は固まると磁力を持つ。小さい溶岩なら問題ねえだろうが、この森の下が全部冷えて固まった溶岩の一枚板・・・・・・・・・・・の上にできたものだったら?

 その仮説に落ち着いた時、背筋がゾクリとした。



 ……まさか、な。



 現実味のない仮説に首を振り、ヒルダたちに確認を取ってみたらよ。【耐磁力】のスキルを獲得してたり、熟練度が上がってたりしたのさ。



 マヂかよ。



 念の為、ロサ・マリアにも確認したらよ、「まよいの樹海で生まれたエルフは、皆【耐磁力】のスキル持ってますよ? じゃないと、樹海の中で生活できないじゃないですか」と来たもんだ。

 そりゃそうだがよ。

 今、迷い・・・って言ったよな?

 ちなみに、「熟練度は?」とロサ・マリアにこっそり聞いたら、両手をパーにしやがった。つまり、熟練度10だ。

 逆を言えば、熟練度が10ないと迷うってこった。何ちゅう森だよ。

 「あ、ご主人様! あの木がベルの集落の目印です! あと半日ですよ!」

 「えっ!? どれが目印だ!? 同じもんにしか見えねえぞ!?」

 ロサ・マリアが指差す方に目を向けるが、鬱蒼うっそうとした樹海が伸びてるようにしか見えん。それも、半日先の距離で良く見えたな!? おいっ!?

 『結界の要みたいな大木がありましたよ?』

 心の中でロサ・マリアに突っ込んでいると、樹海の上から戻って来た青い小鳥スピカが俺の頭に止まり、気持ち良さそうにさえずった――。





しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

アレク・プランタン

かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった と‥‥転生となった 剣と魔法が織りなす世界へ チートも特典も何もないまま ただ前世の記憶だけを頼りに 俺は精一杯やってみる 毎日更新中!

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...