257 / 333
第2章 森の関所
第223話 えっ!? いや、何でそうなる!?
しおりを挟む「で、見た感想はどうよ?」
振り向きながら聞く俺も驚えた。
何つっても迷宮の奥に飛ばされて、一ヶ月籠った時から見てねえからな。プラムとかマギーが職種替えした時に、俺も【転職を行う水晶玉】を触ってみたんだが、ウンともスンとも言わなかったぜ?
聞いてみたら、何も出ないのは打ち止めだとよ。転職可能な候補があって、まだその条件を満たしてない場合、【星天儀】に薄く候補が浮かび上がってるらしい。
んな物なかったよ。何にもねえ。
つまり、俺は三次職で終わりってことだ。
とは言うが、俺の場合は固有職だからか、レベルの幅が可怪しい事になってる。上がり難くなってるとはいえ2500って、どうなんだ?
まあ、驚いた表情のままで固まってる女副隊長見れば、何となくは分かる。
「……」
完全に言葉を失ってるんだが……どうすりゃいい?
まあ取り敢えず、ステータスを出しっ放しにするのもなんだから、【偽装】を施してステータス画面を引っ込めてやったわ。
「ほい、終わり。これ以上は見せねえぞ? お、おいっ!?」
そう言い終わるかどうかで、突然ヴェニラが土下座をするじゃねえかよ!?
「申し訳ありませんでした! ロサ・マリア嬢やパトリック様からハクト様の事をお聞きしてはいたのですが、わたし自身実際に目にするまでは信じておりませんでした。これまでの非礼、どうぞお許しください!」
おいおいおい! お前、自分が何してるのか解ってんのか!?
俺も慌ててガタンッと椅子をずらして席を立ち、ヴェニラの手を引っ張って無理やり立たせる。冗談じゃねえぞ!?
こんな場面をあの隊長に見られてみろ。間違いなく面倒事になっちまうだろう!?
「いやいやいや、それは良いから、一先ず立ってくれ! 誰がどう見ても絵面が拙い! この場面を見られたら、俺の立場がもっと拙い事になるくらいちょっと考えれば判るだろうが!」
「こ、これは、も、申し訳ありません!」
「その敬語も止めてくれ。お前さん、俺をどうしたいんだ?」
「い、いえ、"使徒"様に不敬があってはと……」
「だから、それを止めろって言ってるんだよ。良いか。よく考えろ。お前さんは貴いエルフだ。片や俺は底辺の雪毛の兎人だ。社会通念上、俺とお前さんの立場にゃ天と地くれえの差がある。それは俺が言わんでも良く知ってるだろうが。それに俺は敬われたいとはこれっぽちも思ってねえ。逆だ。目立たずに生きてえんだよ」
「……」
「何だ?」
「何と謙遜な御方……」
「えっ!? いや、何でそうなる!?」
キラキラした眼差しで俺を見るヴェニラに思わず突っ込んじまった。
エルフの女って言うのは、こう一癖も二癖もある変わった奴しか居ねえのか!?
パトリックを護衛してるリサも百合趣味だが、こいつも大概だな!
「ロサ・マリア嬢が従者になるのも当然でございます。あたっ!?」
黙らせるのに、無言でチョップを頭に入れてやった。
「五月蠅い。俺の連れしか周りに居ない時ならお前さんの好きにすりゃ良いが、他の奴の目や耳がある時は、俺に敬語を使うな。こりゃ命令だ」
「分かり……おほん。分かった」
頭を摩りながら席に戻るヴェニラに気になってた事を聞いてみた。
「んで? これから俺たちはどうなるんだ?」
「何もしなければ、王都で形だけの裁判をして、首切り台に載せられて、こうよ」
そう言いながらヴェニラは自分の首に手刀を当てて見せる。ギロチンかよ。こっちでもそう呼ぶかは知らねえがな。あの断頭台があるのかどうかも分からねえし。
中世のフランスみたいな感じなのか?
公開処刑が一種の大衆娯楽になってたんだっけ?
と言っても偏った知識しかねえから、何でもかんでも判る訳じゃねえ。
「そりゃ、勘弁だな。どうにかならねえのかよ」
「ん~……隊長はあの通り融通が利かない堅物だからね。エルフ以外は虫と同じ扱いだと思うわ」
俺の聞き間違いか?
「虫?」
「そっ、虫。ノーブルエルフは特権階級意識と言うか、選民意識が強くてね。エルフは同胞として受け入れるが、それ以外の種族は下に見る傾向が強いのよ」
マヂかよ。どんだけ面倒臭いんだ。
「お前さんや、ロサ・マリアたちは違うみたいだがな?」
「まあね。ノーブルエルフの連中から見れば、わたしたちの方が頭が可笑しいって事になるわ。だから煙たがられるんだけどね」
両手を胸の前で開きながら、肩を竦める仕草を見せるヴェニラを見てピンと来た。
「なる程な。態の良い左遷かよ。で、隊長はお目付け役か」
「……正解」
「ロサ・マリアから何か言ってもらう事は?」
「名前はどうあれ、首輪が付いてるのよ? どうにかなると思う?」
まあ、無理だろうな。となると、脱走くらいか?
「あんまり目出つことはしたくねえんだが?」
「わたしに言わないでよ」
遠回しに言ってみたが、取り付く島もねえな。と言うか、森の中に逃げても無駄だって言いたいんだろう。自分を当てにするな、と。
やれやれ、面倒な事になったな。
「ま、今すぐには俺も案が浮かばんからな。足らねえ知恵を絞ってみるさ。ところで、話は変わるんだが」
「何?」
「雌オーガと牛鬼を槍で仕留めた奴が居たな? 姿が見えなかったが、そいつが国境警備隊の隊長じゃねえのかよ?」
「ああ、わたしたち国境警備隊とは関係ない。言わば助っ人――」「チッ」
その質問を選んだのを後悔した。後悔先に立たずとは良く言ったもんだぜ。ヴェニラが話している最中に床を蹴って、ヴェニラと壁越しに突き出された槍の間に体を滑り込ませる!
間に合えっ!
おいおいおい!? 豆腐みたいに槍が壁を崩さず、穴だけ開けれるもんかよ!?
「ひゃあっ!?」
右手首を半回転させるように、手甲に沿わせた槍の穂先を弾くと、ヴェニラの左頬をスレスレに突き出されて止まる。
「扉の方へ離れてろ」
ジンと重く痺れる右腕のダメージを確認するように指を動かして拳を作ってみる。問題ねえな。
驚くのも無理もねえ。突き出すその瞬間まで気配がなかったんだからよ。
あれか? さっきヴェニラが指輪を外したのと同じ感じだぞ?
「は、はひっ」
机に両手を突きながら体を支え、俺が居た側に回り込むヴェニラ。幾ら戦闘経験があっても、不意打ちには対応できなねえって事か。
それよりも、壁の向こうに居る槍使いの腕を褒めるべきだな。
「それ以上は捨て置けぬな」
低い男の声が、穿たれた穴の隙間から漏れ聞こえて来た。
「誰だ?」
下手に槍の柄を握ると、捩じられてバランスを崩しちまうからな。これくらいの達人なら造作もないだろうさ。
俺の方からは顔も姿も見えん。
槍も引き戻される気配はねえ。いつでも動けるように、重心を落とした姿勢で短く声を掛けると――。
「毛虫を串に刺し損ねた者だと言えば判るか?」
背筋の毛が逆立つような殺気を纏った冷たい声が、俺に刺さった――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
拙作をご覧いただいている皆様。
早いもので、この作品も投稿を始めて丸一年が経ちました。
沢山のコメントやアドバイを下さり、皆さんが見守ってくださったおかげです。
ありがとうございました!
本年も◇兎オヤジの見聞録◇を宜しくお願い致します。
この新たな一年に、皆さんの幸多からんことを願いながら。
0
お気に入りに追加
574
あなたにおすすめの小説
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
スマートシステムで異世界革命
小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 ///
★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★
新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。
それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。
異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。
スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします!
序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです
第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練
第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い
第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚
第4章(全17話)ダンジョン探索
第5章(執筆中)公的ギルド?
※第3章以降は少し内容が過激になってきます。
上記はあくまで予定です。
カクヨムでも投稿しています。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
黒き魔女の世界線旅行
天羽 尤
ファンタジー
少女と執事の男が交通事故に遭い、意識不明に。
しかし、この交通事故には裏があって…
現代世界に戻れなくなってしまった二人がパラレルワールドを渡り、現代世界へ戻るために右往左往する物語。
BLNLもあります。
主人公はポンコツ系チート少女ですが、性格に難ありです。
登場人物は随時更新しますのでネタバレ注意です。
ただいま第1章執筆中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる