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第2章 森の関所

第223話 えっ!? いや、何でそうなる!?

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 「で、見た感想はどうよ?」

 振り向きながら聞く俺もおでれえた。

 何つっても迷宮の奥に飛ばされて、一ヶ月った時から見てねえからな。プラムとかマギーが職種替えジョブチェンジした時に、俺も【転職を行う水晶玉星天儀】を触ってみたんだが、ウンともスンとも言わなかったぜ?

 聞いてみたら、何も出ないのは打ち止めだとよ。転職可能な候補があって、まだその条件を満たしてない場合、【星天儀せいてんぎ】に薄く・・・候補が浮かび上がってるらしい。



 んなもんなかったよ。何にもねえ。



 つまり、俺は三次職で終わりってことだ。

 とは言うが、俺の場合は固有職ユニークジョブだからか、レベルの幅が可怪しい事になってる。上がりにくくなってるとはいえ2500って、どうなんだ?

 まあ、驚いた表情のままで固まってる女副隊長ヴェニラ見れば、何となくは分かる。

 「……」

 完全に言葉を失ってるんだが……どうすりゃいい?

 まあ取り敢えず、ステータスを出しっ放しにするのもなんだから、【偽装】を施してステータス画面を引っ込めてやったわ。

 「ほい、終わり。これ以上は見せねえぞ? お、おいっ!?」

 そう言い終わるかどうかで、突然ヴェニラが土下座をするじゃねえかよ!?

 「申し訳ありませんでした! ロサ・マリア嬢やパトリック様からハクト様の事をお聞きしてはいたのですが、わたし自身実際に目にするまでは信じておりませんでした。これまでの非礼、どうぞお許しください!」

 おいおいおい! お前、自分が何してるのかわかってんのか!?

 俺も慌ててガタンッと椅子をずらして席を立ち、ヴェニラの手を引っ張って無理やり立たせる。冗談じゃねえぞ!?

 こんな場面をあの隊長に見られてみろ。間違いなく面倒事になっちまうだろう!?

 「いやいやいや、それは良いから、一先ず立ってくれ! 誰がどう見ても絵面えづらまずい! この場面を見られたら、俺の立場がもっと拙い事になるくらいちょっと考えれば判るだろうが!」

 「こ、これは、も、申し訳ありません!」

 「その敬語も止めてくれ。お前さん、俺をどうしたいんだ?」

 「い、いえ、"使徒"様に不敬があってはと……」

 「だから、それを止めろって言ってるんだよ。良いか。よく考えろ。お前さんは貴いノーブルエルフだ。片や俺は底辺の雪毛ゆきげの兎人だ。社会通念上、俺とお前さんの立場にゃ天と地くれえの差がある。それは俺が言わんでも良く知ってるだろうが。それに俺は敬われたいとはこれっぽちも思ってねえ。逆だ。目立たずに生きてえんだよ」

 「……」

 「何だ?」

 「何と謙遜な御方おかた……」

 「えっ!? いや、何でそうなる!?」

 キラキラした眼差まなざしで俺を見るヴェニラに思わず突っ込んじまった。

 エルフの女って言うのは、こう一癖ひとくせ二癖ふたくせもある変わった奴しか居ねえのか!?

 パトリックを護衛してるリサも百合趣味ポンコツだが、こいつも大概だな!
 
 「ロサ・マリア嬢が従者になるのも当然でございます。あたっ!?」

 黙らせるのに、無言でチョップを頭に入れてやった。

 「五月蠅うるさい。俺の連れしか周りに居ない時ならお前さんの好きにすりゃ良いが、他の奴の目や耳がある時は、俺に敬語を使うな。こりゃ命令だ」

 「分かり……おほん。分かった」

 頭をさすりながら席に戻るヴェニラに気になってた事を聞いてみた。

 「んで? これから俺たちはどうなるんだ?」

 「何もしなければ、王都で形だけの裁判をして、首切り台に載せられて、こうよ」

 そう言いながらヴェニラは自分の首に手刀を当てて見せる。ギロチンかよ。こっちでもそう呼ぶかは知らねえがな。あの断頭台があるのかどうかも分からねえし。

 中世のフランスみたいな感じなのか?

 公開処刑が一種の大衆娯楽になってたんだっけ?

 と言ってもかたよった知識しかねえから、何でもかんでも判る訳じゃねえ。

 「そりゃ、勘弁かんべんだな。どうにかならねえのかよ」

 「ん~……隊長はあの通り融通が利かない堅物だからね。エルフ以外は虫と同じ扱いだと思うわ」

  俺の聞き間違いか?

 「虫?」

 「そっ、虫。ノーブルエルフは特権階級意識と言うか、選民せんみん意識が強くてね。エルフは同胞として受け入れるが、それ以外の種族は下に見る傾向が強いのよ」

 マヂかよ。どんだけ面倒臭いんだ。

 「お前さんや、ロサ・マリアたちは違うみたいだがな?」

 「まあね。ノーブルエルフの連中から見れば、わたしたちの方が頭が可笑しいって事になるわ。だから煙たがられるんだけどね」

 両手を胸の前で開きながら、肩をすくめる仕草を見せるヴェニラを見てピンと来た。

 「なる程な。ていの良い左遷させんかよ。で、隊長はお目付け役か」

 「……正解」

 「ロサ・マリアから何か言ってもらう事は?」

 「名前はどうあれ、首輪・・・が付いてるのよ? どうにかなると思う?」

 まあ、無理だろうな。となると、脱走くらいか?

 「あんまり目出つことはしたくねえんだが?」

 「わたしに言わないでよ」

 遠回しに言ってみたが、取り付く島もねえな。と言うか、森の中に逃げても無駄だって言いたいんだろう。自分を当てにするな、と。



 やれやれ、面倒な事になったな。



 「ま、今すぐには俺も案が浮かばんからな。足らねえ知恵をしぼってみるさ。ところで、話は変わるんだが」

 「何?」

 「雌オーガオグレスと牛鬼を槍で仕留めた奴が居たな? 姿が見えなかったが、そいつが国境警備隊の隊長じゃねえのかよ?」

 「ああ、わたしたち国境警備隊とは関係ない。言わばすけ――」「チッ」

 その質問を選んだのを後悔した。後悔先に立たずとは良く言ったもんだぜ。ヴェニラが話している最中に床を蹴って、ヴェニラと壁越しに突き出された・・・・・・・・・・・槍の間に体を滑り込ませる!



 間に合えっ!



 おいおいおい!? 豆腐みたいに槍が壁を崩さず、穴だけ開けれるもんかよ!?



 「ひゃあっ!?」

 右手首を半回転させるように、手甲てこうに沿わせた槍の穂先ほさきを弾くと、ヴェニラの左頬ひだりほほをスレスレに突き出されて止まる。

 「扉の方へ離れてろ」

 ジンと重く痺れる右腕のダメージを確認するように指を動かして拳を作ってみる。問題ねえな。

 驚くのも無理もねえ。突き出すその瞬間まで気配がなかったんだからよ。

 あれか? さっきヴェニラこいつが指輪を外したのと同じ感じだぞ?

 「は、はひっ」

 机に両手を突きながら体を支え、俺が居た側に回り込むヴェニラ。幾ら戦闘経験があっても、不意打ちには対応できなねえって事か。

 それよりも、壁の向こうに居る槍使いの腕をめるべきだな。

 「それ以上は捨て置けぬな」

 低い男の声が、穿うがたれた穴の隙間から漏れ聞こえて来た。

 「誰だ?」

 下手に槍の柄を握ると、じられてバランスを崩しちまうからな。これくらいの達人なら造作もないだろうさ。

 俺の方からは顔も姿も見えん。

 槍も引き戻される気配はねえ。いつでも動けるように、重心を落とした姿勢で短く声を掛けると――。

 「毛虫を串に刺し損ねた者だと言えば判るか?」

 背筋の毛が逆立つような殺気をまとった冷たい声が、俺に刺さった――。





 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 拙作をご覧いただいている皆様。

 早いもので、この作品も投稿を始めて丸一年が経ちました。

 沢山のコメントやアドバイを下さり、皆さんが見守ってくださったおかげです。

 ありがとうございました!

 本年も◇兎オヤジの見聞録◇を宜しくお願い致します。

 この新たな一年に、皆さんの幸多からんことを願いながら。
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