上 下
254 / 333
第2章 森の関所

第220話 えっ!? 何を莫迦な事を!?

しおりを挟む
 
 「主君!?」「ハクト!?」「旦那様!?」「ひっ!?」「ご主人様!?」

 俺の着地を狙い澄ましたかのようなタイミングで、森の奥から飛んで来た槍の穂先ほさき木漏こもれ日を反射してギラリと光り、俺の腹に吸い込まれた――。

 『ハクトさんっ!!』 ドンッ! 「ぐえっ!?」 ピキッ

 ――のと同時に青い弾丸が俺の胸にドンとぶち当たり、腹と胸へ同時に痛みと衝撃が加わって吹き飛ばされたんだわ!?



 何が起きた!?



 スピカの声が聞こえた気がしたぞ!?

 「ガハッ!?」

 ドカッと背中に樹の幹が当たり、肺の息を押し出したせいで息が詰まる。さっきの投げ槍はかわせたって事か!?

 『ハクトさん、ハクトさん、ハクトさん』

 青い小鳥スピカの声を聞きながら樹の根元にすべり落ち、ケツを根で打ったせいで悲鳴を上げそうになったわ。

 「ぐお! スピカか!? ぐっ、刺さってはいたのかよ」

 糞痛くそいてえ。いや、躱せるタイミングじゃなかったが、青い小鳥スピカのお蔭で致命傷は免れたって事か。

 腹に右手をえると、ぬるっと血が付き、ぶにゅっと柔らかい物に触れたのさ。

 『きゃあっ! ハクトさん、内臓が!?』

 「ああ。スピカのお蔭で腹から槍を生え出させずに済んだぜ。ありがとな。ぐむっ」

 左肩に降りて来た青い小鳥スピカの声に、手に当たった腸を見る。切れてはねえ。槍が切ったのは腹の筋肉と内臓を仕切ってた膜だろう。

 で、傷口から大腸がはみ出て来たってことか。右手で内臓を押し込みながら、左手で【無限収納】からヒールポーションを二本ばかり取り出し、一本を口で木栓きせんを抜いてグイッと飲み干す。



 うぇっ、にげぇ。



 もう一本は、同じ様に栓を抜いた後に傷口にぶっ掛けてやったわ。掛けても効果があるらしいからな。苦いのは一回で良い。

 「主君!」「ハクト!」「「旦那様!」しゃまっ!」「ご主人様!」

 そこへ五人が駆け寄って来るのが見えたが、「そう言えば、あの女オーガオグレスどうなった!?」と思って視線を動かすと、牛鬼ぎゅうきと一緒に串刺しになった姿が見えたよ。

 ……ありゃ、一撃で死んでるな。



 えげつねえ。



 間違いなく俺を狙った槍の一投だったと思った瞬間、ぶるっと震えが来たわ。青い小鳥スピカの体当たりがなきゃ、俺もあそこで固まっていたんだからな。

 間一髪だったってこった。

 「おう、スピカに押されてなけりゃ危なかったぜ。心配掛けたな」

 「傷は!? 大事ないのか!?」「ハクト血が出てるよ!?」「旦那様、ヒールポーションを!」「あわわわっ!」「ちょっと、落ち着きなさいって! 何でご主人様が血を出してると、いつも冷静なあんたたちがそんなにわたわたするの!?」

 俺にたかって来三人と、どうすりゃいいのか分からずにオロオロするプラムを見て、呆れたような声色でロサ・マリアがパンパンと拍手を打った。

 確かにな。ロサ・マリアが言う事にも一理ある。心配してくれるのは嬉しいが、このポンコツ具合がどうもな。

 五人の様子が面白いもんだから、自分が置かれた状況を忘れて笑っちまった。

 「何を悠長に笑ってるんですか」

 「良くあの槍をかわせたな」

 パトリックイケメンエルフリサユリフが、周囲を警戒しながら寄って来るのがみえたわ。

 「次は躱せんと思うぞ。躱せたのは偶然だ。【骨治癒ほねちゆ】。【骨治癒】」

 【粉骨砕身ふんこつさいしん】を解除して、骨へのダメージの回復させておく。青い小鳥スピカがぶつかって来た衝撃で胸の骨にヒビが入ってそうだったからな。合わせて治しておいたわ。

 と、そこへ、樹の上から一人、また一人と矢をつがえたエルフたちが下りて来たじゃねえか。

 「む。どうやらお客さんだ。招かねざる客か、待ち人かは知らんがな」

 座ったままそうイケメンエルフに振ると、緊張がこっちにも伝わって来る顔で声だけ返って来た。

 「善処しますが、国境警備隊は人族の騎士団のようなものですからね。油断しないでください」

 エルフの国に騎士団はねえとは言ってねえ。中は中で用心しねえといかんって事か。面倒な事にならなきゃいいんだがな。

 「ああ。よろしく頼む」

 短く言葉を投げ返したが、どう見ても剣呑けんのんな雰囲気だぜ?

 誰一人笑ってねえ。むしろ、男も女も視線で射殺さんばかりににらんで来やがる。その数ざっと三十人、か。

 「良いか。武器に手を掛けるな。ここはエルフ王国ではないが、あいつらはエルフ以外には容赦ない。紛らわしい動作一つで命を取られかねん」

 おいおい。何を危険物取扱注意みたいなこと言ってやがる。

 どういう神経してるんだ!?

 『 Մենք սահմանապահ ենք:我らは国境警備隊である! Դուք կասկածում եք, որ փորձել եք արտագաղթել դեւերին:貴様らには、オーガを密入国させようとした嫌疑がかけられている! Հուսով ենք ուղեկցել ձեզ դեպի անցակետ:関所まで同行願おう! 』

 んな事を考えていると、一番偉そうなエルフの美男子が俺たちの前に立って何か言うじゃねえか。矢をつがえた弓の弦を引いてるって事は、穏やかな内容じゃねえってこった。

 ザニア姐さんに共通語と獣人語は話せるようにしてもらったが、エルフがしゃべってる妖精語はさっぱり分からん!

 確か、それ以外の言語は自分で覚えろって言われてたっけな。使えねえ。

 『 Դա նշում է:それは言い掛かりです! 』

 『 Կա մի բան, սխալ է:何かの間違いです! Մենք ճարտարագիտական տաճարի շահագրգիռ կողմեր ենք:わたしたちは、技芸神殿の関係者ですよ!? 』
 
 イケメンエルフやユリフも何か弁明してくれてるんだろうが、奇妙な音の並びにしか聞こえねえよ。

 「お、おい、ロサ・マリアさんや。この怖い顔の色男は何て?」

 「この人たちは国境警備隊で、あたしたちには、オーガを密入国させようとした嫌疑がかけられているんだって。関所で取り調べられるみたいです」

 えっ!? 何を莫迦バカな事を!?

 「おいおい。言い掛かりもはなはだしいな!」

 『 Անջատեք:黙れ! Ինձ հարցնում եմ, թե ինչ է ուզում ասել:言いたいことは検問所で聞いてやる! 』

 『 Խնդրում ենք սպասել:待ってください! 』

 「パトリック様やリサさんも違うって言ってくれてるんですが、ダメみたいです」



 Оh……。マヂかよ。



 ロサ・マリアの通訳にくらっと眩暈めまいがしたわ。

 こりゃ完全にめられたな。俺一人ならどうとでも逃げれるが、嫁を放って逃げる訳にはいかんだろうがよ。

 「お前ら、ゆっくり両手を上に上げろ。武器に触るんじゃねえぞ? 取り合えず、俺らは妖精語なんて高尚な言葉は喋れねえから、通訳はロサ・マリアに任せた」

 「わ、分かりました」

 『 Կանգնեք:立て! 』

 ロサ・マリアに通訳を頼んだところで、隊長らしいエルフの色男が俺の前に立って、顎をしゃくりやがった。これは雰囲気で解る。立てって事だろ?

 「へいへい。がっ!?」

 『 Պատասխանը մեկ անգամ է:返事は一回だ! Ես երկու անգամ կարիք չունեմ:二回は要らん! 』

 両手を上げたままゆっくり腰を上げてると、頬に衝撃が入ったのさ。蹴られたかのか!? いや、その前にこいつら俺らの話してる言葉解ってるんじゃねえのか!?

 「主君!?」「ハクト!?」「旦那様!?」「ひっ!?」「ご主人様!?」

 蹴り飛ばされた俺に駆け寄る五人を手で制しながら、ゆっくり視線をエルフの隊長に向ける。



 野郎。そう言う事かよ。



 『 Շտապեք պարան:縄を掛けろ! Ներկայացրեք այն:連行する! 』

 隊長の号令の下、俺たちはあっという間に手首と足首を縄で縛られ、最低限しかうごけねえ状態にされちまったよ。

 イケメンエルフと、ユリフ。それにロサ・マリアは森エルフという事もあってか、縄はかけられてねえ。それだけが救いだな。

 油断はできねえが、今のところじたばたしても仕方がねえ。

 腹をくくって今は大人しくしょっ引かれることにした――。





しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~

すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》 猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。 不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。 何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。 ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。 人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。 そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。 男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。 そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。 (

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界で俺はチーター

田中 歩
ファンタジー
とある高校に通う普通の高校生だが、クラスメイトからはバイトなどもせずゲームやアニメばかり見て学校以外ではあまり家から出ないため「ヒキニート」呼ばわりされている。 そんな彼が子供のころ入ったことがあるはずなのに思い出せない祖父の家の蔵に友達に話したのを機にもう一度入ってみることを決意する。 蔵に入って気がつくとそこは異世界だった?! しかも、おじさんや爺ちゃんも異世界に行ったことがあるらしい?

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

主人公を助ける実力者を目指して、

漆黒 光(ダークネス ライト)
ファンタジー
主人公でもなく、ラスボスでもなく、影に潜み実力を見せつけるものでもない、表に出でて、主人公を助ける実力者を目指すものの物語の異世界転生です。舞台は中世の世界観で主人公がブランド王国の第三王子に転生する、転生した世界では魔力があり理不尽で殺されることがなくなる、自分自身の考えで自分自身のエゴで正義を語る、僕は主人公を助ける実力者を目指してーー!

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

処理中です...