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第2章 森の関所

第219話 えっ!? 何でわたしたちが疑われるんですか!?

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 「あれ・・を集めて何をするつもりだ? いや、違うな。あれ・・は何だ?  何か来るぞ

 俺らを取り囲むように、遠巻き気配が止まったのが判った。オーガどもはまだ気が付いてねえ。

 確信に迫る質問を投げ掛けておいて、小声で俺は注意を促したんだが――。



 『Նպատակն狙いは օգուտ է:オーガ! Ազատ արձակել այն:放て!



 何をどうするかを伝える前に、聞き取れても意味の解らねえ言葉と共に、大量の矢が雨のように風切り音を引き連れて、俺たちへ降り掛かって来たんだ――。

 「ちぃっ! 森エルフかっ!?」『ギャア――ッ!!』

 「「「【風の壁】!」」」

 矢がオーガたちに降り注ぐ中、パトリックイケメンエルフリサユリフ、ウチのロサ・マリアが、ほぼ同時に手を掲げて俺たちの頭上に風の膜を作ってくれた。

 「あの女が森エルフって言ったが、本当か?」

 「ええ。今の掛け声は"妖精語"ですからね。恐らく、国境警備隊がオーガの存在に気付き出て来たのでしょう。関所も近くですから」

 また物騒な名前が聞こえたぜ。

 国境警備隊?

 ちっ、面倒な事にならねえと良いんだがな。これまでの経験上、雪毛ゆきげの俺が初対面で良い顔されることはねえ。しかも相手はエルフと来たもんだ。

 ロサ・マリアが巧く言ってくれることを願うばかりだな。

 俺たちの上に降って来る矢は魔法で弾かれてるが、オーガどもには容赦なく突き刺さってるのが見える。牛鬼も暴れるかと思いきや、あの大きさで固まってるせいで良い的だ。

 オーガどとは言っても、急所は同じ。牛鬼を操ってエルフが居るであろう場所に襲い掛かろうとするが、木を切り倒すだけが関の山だ。

 ……けどな。



 何か引っ掛かるんだよ。



 自暴自棄になるんだったら、エルフどもにじゃなく、俺に襲い掛かってもいいはずだろ? 用があったのはエルフじゃなく俺なんだから。

 これじゃまるで……。

 「まずいっ!?」

 「きゃっ!? ご主人様、何を急に大声出すんですか!? 吃驚びっくりするじゃないですか。ほら、またオーガが一体倒されましたよ!」

 俺の横で事の成り行きを見守っていたロサ・マリアが驚いて俺の腕にしがみ付いて来た。そんなにでかい声を出したつもりはねえんだがな。

 「阿呆アホ! このままだと、疑われるのは俺たちだぞ!」

 「えっ!? 何でわたしたちが疑われるんですか!? 国境警備隊は森エルフですよ!?」

 「だからだよ。お前ら三人は森エルフで同族だ。俺らは違う。分かるな?」

 「は、はい」

 「国境警備隊に撃たれて針鼠ハリネズミになってるのもエルフじゃねえ・・・・・・・。俺らに襲い掛かるどころか、まるで俺らを守る様にエルフに抵抗してる様に、国境警備隊に見えてるとしたらどうなる?」

 「「「「「あっ!?」」」」」

 「確かに拙いですね」「残り"二葉によう"を入れて三体だぞ!?」

 イケメンエルフとユリフの言葉を背中で聞きながら、俺は駆け出してた。

 「ちっ! 後手後手だが何もしねえよりはマシだ! 行って来る!!」

 駆けながら、俺はもう一つの違和感を考える。あの"二葉"の女オーガオグレスだ。俺から受けた傷がもとで利き腕を失ってるんだ。俺の顔を見たら、笑顔じゃなく・・・・・・・別の感情が一瞬でも浮ぶはず。

 それなのに微塵みじんも浮かばなかった。

 俺があおっても喰い付いてこねえ。



 何でだ?



 俺の名前を一度も呼ばなかった。競売の時に使った俺の偽名でも呼ばん。そこまで考えて、俺は結論に辿たどり着いたわ。

 「……そういう事かよ。一杯喰わされたぜ! 【粉骨砕身ふんこつさいしん】! 【骨盗ほねとり】! 【骨盗り】! 【骨盗り】! 【骨盗り】! 【骨盗り】!」

 【粉骨砕身】を使うまでもねえかと思ったんだが、何もしないうちに事が終わったらあいつらの思うつぼだ。やらせるかよ!

 【骨法スキル】で身体能力を上げて、オーガと牛鬼をの間を跳び回る!

 狙うは、腰の骨だ。牛鬼の方は足の付け根な。

 動けなく出来れば、後は始末してもらえる。俺が殺せば、口封じをしたと取られかねんからな。気を遣うぜ。

 「よう、まんまとだまされたぜ。偽物さんよ」

 「あら、#変化_へんげ__#は完璧でしたのに。気付かれてしまいましたか」

 "二葉"の替え玉・・・・の前に立つと、牛鬼にまたが女オーガオグレスが姿をあらわにしやがったよ。

 ああ、見事に別人。別オーガって言うのか? だったぜ。

 上位種じゃねえな。雄のオーガオルグよりもこぢんまりしてるが、それでも俺よりも身長たっぱはある。

 ただ、牛鬼の方はでかい割りに小回りが利いて、降って来る矢を脚先の刃のような爪で切り落ちしてやがる。後ろでロサ・マリアの「あ――ッ!」って驚きと言うか、騙された事に気が付いた声が響いてた。

 そりゃそうだ。片腕かと思ったら両腕あるんだからよ。

 「おう、姿形すがたかたちは完璧だったぜ? 何がダメだったのか、墓で考えな。【骨盗り】!」

 「くっ! 払い落としなさい!」

 矢を避けて跳びかかろうとしたら、牛鬼の前足で払われたのさ。当然、そのまま脚先あしさきの刃みたいなのはかがんでかわし、足の骨は抜き取る。

 本来なら、女オーガオグレスの太腿の骨だったんだがな。まあ良い。

 と思ったら、女オーガオグレス乗る牛鬼がでけえ角で横の木を引き抜くように倒して来た。腕をやられて焦ったのか?

 知能はあるって言ってたからな。身の危険を感じたんだろうが……。

 「おっと、パワーはすげえな!?」

 結構太い木が根ごと引き千切られて、俺の方に飛んで来たんだよ。

 1000万パワーのなんちゃらミキサーかよ!?

 けど、お蔭で良い目隠しになる。茂った木の上部の方に跳んで、女の視線から隠れて回り込むのは楽な作業だ。

 相変わらず、矢が止むことがねえ。どんだけ大量に矢を常備してるんだ!?

 現状、生き残ってるのは目の前の女オーガオグレスだけで、矢も何本かは刺さってるから時間がねえ。

 ドオンと地響きを上げ、他の木に受け止められる音を聞きながら、俺は女オーガオグレスの死角から背後に跳ぶ。

 牛鬼と言うだけあって、首の力といい、角の頑丈さはあなどれんという事か。



 ま、当たれば、な。



 矢を払いながら俺の姿を探す女オーガオグレスがまだ俺に気付かねえ。まともに戦闘訓練を受けた奴とは思んな。変化能力と身体能力だけかよ。

 何でまたこんな奴を、"二葉"じぶんに成り代わらせて寄越したんだ?

 完全に捨て駒だ。もしくは釣りか?

 そう思いながら、身構えた状態で牛鬼の背中に足を着け、女の背後を取った瞬間だった――。



 ゾクリッ!



 背筋せすじ悪寒おかんが走り抜け、追い掛けるように背筋から首の付け根までの毛が瞬時に逆立ったんだよ!



 拙いっ!?



 誰が投げたかは判らねえ!

 この瞬間を狙ってたって事かよ!?

 「主君!?」「ハクト!?」「旦那様!?」「ひっ!?」「ご主人様!?」

 俺の着地を狙い澄ましたかのようなタイミングで、森の奥から飛んで来た槍の穂先ほさき木漏こもれ日を反射してギラリと光り、俺の腹に吸い込まれた――。





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