253 / 333
第2章 森の関所
第219話 えっ!? 何でわたしたちが疑われるんですか!?
しおりを挟む「あれを集めて何をするつもりだ? いや、違うな。あれは何だ? 」
俺らを取り囲むように、遠巻き気配が止まったのが判った。オーガどもはまだ気が付いてねえ。
確信に迫る質問を投げ掛けておいて、小声で俺は注意を促したんだが――。
『Նպատակն օգուտ է: Ազատ արձակել այն:』
何をどうするかを伝える前に、聞き取れても意味の解らねえ言葉と共に、大量の矢が雨のように風切り音を引き連れて、俺たちへ降り掛かって来たんだ――。
「ちぃっ! 森エルフかっ!?」『ギャア――ッ!!』
「「「【風の壁】!」」」
矢がオーガたちに降り注ぐ中、パトリックとリサ、ウチのロサ・マリアが、ほぼ同時に手を掲げて俺たちの頭上に風の膜を作ってくれた。
「あの女が森エルフって言ったが、本当か?」
「ええ。今の掛け声は"妖精語"ですからね。恐らく、国境警備隊がオーガの存在に気付き出て来たのでしょう。関所も近くですから」
また物騒な名前が聞こえたぜ。
国境警備隊?
ちっ、面倒な事にならねえと良いんだがな。これまでの経験上、雪毛の俺が初対面で良い顔されることはねえ。しかも相手はエルフと来たもんだ。
ロサ・マリアが巧く言ってくれることを願うばかりだな。
俺たちの上に降って来る矢は魔法で弾かれてるが、オーガどもには容赦なく突き刺さってるのが見える。牛鬼も暴れるかと思いきや、あの大きさで固まってるせいで良い的だ。
オーガどとは言っても、急所は同じ。牛鬼を操ってエルフが居るであろう場所に襲い掛かろうとするが、木を切り倒すだけが関の山だ。
……けどな。
何か引っ掛かるんだよ。
自暴自棄になるんだったら、エルフどもにじゃなく、俺に襲い掛かってもいいはずだろ? 用があったのはエルフじゃなく俺なんだから。
これじゃまるで……。
「拙いっ!?」
「きゃっ!? ご主人様、何を急に大声出すんですか!? 吃驚するじゃないですか。ほら、またオーガが一体倒されましたよ!」
俺の横で事の成り行きを見守っていたロサ・マリアが驚いて俺の腕にしがみ付いて来た。そんなにでかい声を出したつもりはねえんだがな。
「阿呆! このままだと、疑われるのは俺たちだぞ!」
「えっ!? 何でわたしたちが疑われるんですか!? 国境警備隊は森エルフですよ!?」
「だからだよ。お前ら三人は森エルフで同族だ。俺らは違う。分かるな?」
「は、はい」
「国境警備隊に撃たれて針鼠になってるのもエルフじゃねえ。俺らに襲い掛かるどころか、まるで俺らを守る様にエルフに抵抗してる様に、国境警備隊に見えてるとしたらどうなる?」
「「「「「あっ!?」」」」」
「確かに拙いですね」「残り"二葉"を入れて三体だぞ!?」
イケメンエルフとユリフの言葉を背中で聞きながら、俺は駆け出してた。
「ちっ! 後手後手だが何もしねえよりはマシだ! 行って来る!!」
駆けながら、俺はもう一つの違和感を考える。あの"二葉"の女オーガだ。俺から受けた傷がもとで利き腕を失ってるんだ。俺の顔を見たら、笑顔じゃなく別の感情が一瞬でも浮ぶはず。
それなのに微塵も浮かばなかった。
俺が煽っても喰い付いてこねえ。
何でだ?
俺の名前を一度も呼ばなかった。競売の時に使った俺の偽名でも呼ばん。そこまで考えて、俺は結論に辿り着いたわ。
「……そういう事かよ。一杯喰わされたぜ! 【粉骨砕身】! 【骨盗り】! 【骨盗り】! 【骨盗り】! 【骨盗り】! 【骨盗り】!」
【粉骨砕身】を使うまでもねえかと思ったんだが、何もしないうちに事が終わったらあいつらの思う壺だ。やらせるかよ!
【骨法】で身体能力を上げて、オーガと牛鬼をの間を跳び回る!
狙うは、腰の骨だ。牛鬼の方は足の付け根な。
動けなく出来れば、後は始末してもらえる。俺が殺せば、口封じをしたと取られかねんからな。気を遣うぜ。
「よう、まんまと騙されたぜ。偽物さんよ」
「あら、#変化_へんげ__#は完璧でしたのに。気付かれてしまいましたか」
"二葉"の替え玉の前に立つと、牛鬼に跨る女オーガが姿を露にしやがったよ。
ああ、見事に別人。別オーガって言うのか? だったぜ。
上位種じゃねえな。雄のオーガよりもこぢんまりしてるが、それでも俺よりも身長はある。
ただ、牛鬼の方はでかい割りに小回りが利いて、降って来る矢を脚先の刃のような爪で切り落ちしてやがる。後ろでロサ・マリアの「あ――ッ!」って驚きと言うか、騙された事に気が付いた声が響いてた。
そりゃそうだ。片腕かと思ったら両腕あるんだからよ。
「おう、姿形は完璧だったぜ? 何がダメだったのか、墓で考えな。【骨盗り】!」
「くっ! 払い落としなさい!」
矢を避けて跳びかかろうとしたら、牛鬼の前足で払われたのさ。当然、そのまま脚先の刃みたいなのは屈んで躱し、足の骨は抜き取る。
本来なら、女オーガの太腿の骨だったんだがな。まあ良い。
と思ったら、女オーガ乗る牛鬼がでけえ角で横の木を引き抜くように倒して来た。腕をやられて焦ったのか?
知能はあるって言ってたからな。身の危険を感じたんだろうが……。
「おっと、パワーは凄えな!?」
結構太い木が根ごと引き千切られて、俺の方に飛んで来たんだよ。
1000万パワーのなんちゃらミキサーかよ!?
けど、お蔭で良い目隠しになる。茂った木の上部の方に跳んで、女の視線から隠れて回り込むのは楽な作業だ。
相変わらず、矢が止むことがねえ。どんだけ大量に矢を常備してるんだ!?
現状、生き残ってるのは目の前の女オーガだけで、矢も何本かは刺さってるから時間がねえ。
ドオンと地響きを上げ、他の木に受け止められる音を聞きながら、俺は女オーガの死角から背後に跳ぶ。
牛鬼と言うだけあって、首の力といい、角の頑丈さは侮れんという事か。
ま、当たれば、な。
矢を払いながら俺の姿を探す女オーガがまだ俺に気付かねえ。まともに戦闘訓練を受けた奴とは思んな。変化能力と身体能力だけかよ。
何でまたこんな奴を、"二葉"に成り代わらせて寄越したんだ?
完全に捨て駒だ。もしくは釣り餌か?
そう思いながら、身構えた状態で牛鬼の背中に足を着け、女の背後を取った瞬間だった――。
ゾクリッ!
背筋を悪寒が走り抜け、追い掛けるように背筋から首の付け根までの毛が瞬時に逆立ったんだよ!
拙いっ!?
誰が投げたかは判らねえ!
この瞬間を狙ってたって事かよ!?
「主君!?」「ハクト!?」「旦那様!?」「ひっ!?」「ご主人様!?」
俺の着地を狙い澄ましたかのようなタイミングで、森の奥から飛んで来た槍の穂先が木漏れ日を反射してギラリと光り、俺の腹に吸い込まれた――。
0
お気に入りに追加
574
あなたにおすすめの小説
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
スマートシステムで異世界革命
小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 ///
★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★
新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。
それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。
異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。
スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします!
序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです
第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練
第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い
第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚
第4章(全17話)ダンジョン探索
第5章(執筆中)公的ギルド?
※第3章以降は少し内容が過激になってきます。
上記はあくまで予定です。
カクヨムでも投稿しています。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
異世界で俺はチーター
田中 歩
ファンタジー
とある高校に通う普通の高校生だが、クラスメイトからはバイトなどもせずゲームやアニメばかり見て学校以外ではあまり家から出ないため「ヒキニート」呼ばわりされている。
そんな彼が子供のころ入ったことがあるはずなのに思い出せない祖父の家の蔵に友達に話したのを機にもう一度入ってみることを決意する。
蔵に入って気がつくとそこは異世界だった?!
しかも、おじさんや爺ちゃんも異世界に行ったことがあるらしい?
異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる