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第1章 南方正教会

第205話 えっ!? マギーさんや、何ちゅう技を教えてんの!?

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 「シャドウ、下がれ! こいつら足止めに命懸いのちかけてやがるっ!!」

 そう叫んで距離を取ろうと駆け出した俺の背後で、爆炎が天を焦がした――。

 仲間意識があるとは思わんかったぜ。

 まあ、そう言われてみれば深淵の森や迷宮で出会った魔物も、同種は共食いしてなかったな。川辺の街ホバーロの側で遭遇そうぐうしたオークの群れも、死んだ仲間には容赦なかったが、生きてる奴には手を出してなかった記憶がある。

 ブスブスと肉の焦げるきつい臭いが辺りに充満するが、それも風に運ばれてすぐに薄まっちまった。爆発で吹き飛んだのと炎に焼かれたので、原型を留めてる死体はなさそうだ。

 あんまりジッと見ときたい光景じゃねえがな。

 「まんまと逃げられちまったな、シャドウ」

 「――」

 【餓者髑髏がしゃどくろ】を見上げながら同意を求めると、シャドウの奴が遠くを見る仕草をして、うなずいた。馬か何かで逃げてるんだろう。

 今回は上手く逃げれられたってこった。

 「主君しゅくん!」「ハクト!」

 おお、ヒルダに戻ったみたいだな。あいつのことも考えてやらにゃならんか。

 マギーを含めて3人が駆け寄って来るのを見ながら、ヒルダと入れ替わったアドヴェルーザの事を思う。遺恨が晴れてると言う程じゃねえが、思うとこはある。それに一つの入れ物に二人が居るんだ。あんまりのんびりできる話じゃないだろう。

 「ピィッ」

 「おお、何処に行ってた? 怪我してねえか?」

 頭の上に何処に飛んでいたのか知らねえが、青い小鳥スピカが下りて来た。小さな首筋をコリコリといてやると、気持ち良さそうに目を細めるんだよ。可愛いなぁ。

 ガイの姿も見えた。ま、迷宮の時みたいに打っ飛ばされなかっただけでも、あいつも成長したんだろうと思う。あ~成長するのかどうか、そこら辺はまだ良く分からんがな。

 「ガイも、シャドウもご苦労さん。助かった。帰って良いぞ」

 その一言で、2体の足元に魔法陣らしきモノが現れ、スゥッと沈んでいった。



 あれ? 前はそんな風に見えてなかった気がするんだが?



 あれか? 【魔力感知】とかというスキルのお蔭で仕組みが少し見えるようになったって事か? うへへ。だったらもうけたな。

 「ハクト、怪我してない!?」

 そこへ、プルシャンが胸に飛び込んでくる。倒れねえように受け止めて、見上げて来る頭を撫でてやると嬉しそうに目を細めてくれた。

 そういやあ、最近は前みたいに変な声は出さなくなったな。慣れたのか?

 「おう、ちょっとヘマったがまあ、こんなもんだろ。お前たちはどうだ?」

 「うん、わたしたちは大丈夫! ね、ヒルダ!」

 「うむ。馬車の上から魔法を撃つだけだったからな。問題ない」

 冷静に答えながら、抱き着いて来るヒルダも抱き締めておく。これって、心配してもらえてるって事だよな?

 「あ~……つう事はそれも含めて話をしねえといかんって事か」

 「何の話?」

 「いや、俺は兎人のくせに魔法が使える可怪しい存在なんだと。で、色々と見られてるからな。あそこにいる爺さん婆さんに説明せにゃならんのさ」

 「ふ~ん。面倒臭そうだね?」

 「ああ、面倒臭めんどくせえ。イドゥベルガの婆さんが説明してくれねえかな?」

 「失礼します。直接頼まれてみてはいかがでしょうか?」

 後ろに回ったマギーが腕を腹に回して抱き着いて来やがった。

 いや、ちょっと待て。俺の体はまだ女だ。まずい、女同士で抱き合ってるのを見たら、あの百合趣味の女エルフユリフがどんな行動に出るか――。




 ――遅かった。



 現状に気付き、慌てて顔を上げて辺りを見回そうとした瞬間、前傾姿勢で両手をワキワキさせながら鼻血を垂らす残念エルフの女騎士と目が合っちまったのさ。

 ロサ・マリアが後ろに回ってベルトを引っ張り、こっちに来ないように踏ん張ってるじゃねえか。グッジョブ!

 「たあっ!」

 「はうっ!?」

 そうしてると、白い影がユリフの背後に振って来て首筋に当て身をしたんだよ。カクッと綺麗に気絶させる手際の良さに目を疑ったのは、俺だけじゃねえはずだ。

 おいおいおいおい、マヂか。下手すると死んじまうぞ!?

 「プラム、よくやりました」



 えっ!? マギーさんや、何ちゅう技を教えてんの!?



 背中から顔だけ出してプラムを褒めるマギーの言葉に耳を疑った。6歳児に何教えてんの!?

 「だ、奥様を狙う者は敵でしゅっ! はわ――っ!?」

 あ、んだな。と思ったら、煉瓦れんが色の前髪ぱっつん姉ちゃんに後ろから抱き締められるプラム。

 「いや~ん! 何て可愛いのかしらっ! そんなお莫迦は放っておいてお茶にしましょう! 美味しいお菓子もあるのよ!」

 「ふえっ!? わたしもだ、奥様の所にぃ――っ!?」

 「あ~良いから、茶菓子を貰っとけ」

 どうやら、ロリコンの気がありそうだな、あの前髪ぱっつん姉ちゃん。と思いながら手を振って見送ってると、その途中に居たおかっぱ嬢ちゃんも抱えてお持ち帰りしやがった。

 真面まともかと思ってたが、油断できねえらしい。

 「で、誰がそのユリフを連れて帰るんだ? 俺は嫌だぜ?」

 途中で意識を取り戻して、体をまさぐられるのはごめんだ。
 
 「ほっほっほっ。その役はワシに任せておくのじゃな。そこな線の細いじじいに比べれば、ワシは体力もある。馬車に連れて帰るだけじゃ、少しの間看病も必要じゃぶふぉ――っ!!?」

 何処から現れたのか、エロパンダ爺さんが誰に頼まれるでもなく、そそくさとユリフを抱き抱えようと手を伸ばした時だった。

 二つの影が間に割り込んだぞ?

 おお、綺麗にエルフのイケメンと暴力婆ちゃんのフックが腹に刺さったな。

 勢い余って後ろへ回りながら転がっていくエロパンダ爺さん。嫌いじゃねえぜ、そのガッツ。

 「ああっ!! マルカ様っ!? ちょっと目を放した隙に何やってるんですか!? 大人しくって言ったじゃないですか! お騒がせして申し訳ありません!」

 小豆色の髪の姉ちゃんが小柄な体を折り曲げて謝罪し、殴り飛ばされたエロパンダ爺に駆け寄ってた。謝ってばっかりだな、あの姉ちゃん。

 それを見て「うわ~」ってあきれてるロサ・マリアの声が聞こえる。

 呆れる気持ちも判らんではない。

 「ふんっ、秩序の神殿が聞いて呆れる」

 「全くです。戦いの後で気がたかぶってしまうのはわかりますが、ウチの子に手は出させません。ふ~。やれやれ、このもこの性癖さえ無ければ直ぐにでも良縁を紹介するのですがね……」

 背負うというよりも、荷物の様にイケメンエルフの右肩に担がれるユリフ。

 色んな意味で容赦ねえな。

 「ま、何にせよ、その兎は"二葉にようを"退け十分資格があることを示したのだ、期待を裏切らなかっただけでなく、な。些事に気を散らさず大局を見るのだ」

 「おわっ!? どっから湧いて来やがった!?」

 急に、そばでおかっぱ刈りの爺さんが現れて熱く語りだすじゃねえか。

 「ちぇっ、何で女の子同士で抱き合うかな? 俺の方がもっと楽しいよ?」

 その後ろから、前髪をハラッと払いながら優男やさおとこが出て来た。ああ、そういやあ、こいつが護衛だったな。日本でこんな甘いマスクをしたイケメンに微笑まれたら、大概たいがいの奴はイチコロだろう。

 けど、俺に抱き着いてる三人と来たら――。

 「失せろ」

 「ハクトの方が良いもん」

 「申し訳ありません。他を当たってください」

 ――取り付く島もねえ。

 「そういう事だ、わりいな」

 「あははは……。自信なくしちゃうな~」

 後五日もすりゃ、元に戻るんだ。詳しい話はそん時にすりゃいい。

 優男がまだ何か言いたそうに口を開きかけた時、パンパンと拍手かしわでが打たれたのさ。誰かと思ったら、イドゥベルガの婆さんが馬車の方から歩いて来てた。

 「長居は無用ですよ。話は馬車の中でもできます。日もまだ高いですし、進めるところまで進んでしまいましょう。ラジスラフとマウリシオはそのまま騎乗護衛をお願いします」

 「承知」

 「分かりました」

 イドゥベルガの婆さんの指示に、さっきまで馬に乗ってた二人が小さくうなずく。

 チラッと見たが、四頭とも無事だ。馬もられずに済んだってのは、かなり幸運じゃねえか?

 「リッツァーニはブリギッタの代わりに御者席を頼みます」

 「え~何で俺が? 可愛い女の子と一緒なら」

 けど、優男は違った。チャラチャラした男だな、とは思ってたが思ってた通りの男だったらしい。喜べ、お前さんは優男からチャラ男に格上げだ。

 「じゃあ、あんたがマルカの相手をするのかい・・・・・・・・・?」

 「いっ!? いやだなぁ~冗談だよ。冗談! あはっ! あははははは!」

 不平を最後まで言い終える前に、頬に刀傷を持つ暴力婆さんに遮られたんだが、そのまま笑いながら走って行きやがった。

 何となく察しは付くが、口の出すのは野暮やぼってもんだろう。

 俺らも抱き着き状態を解除して、馬車の方に向かう。

 青い小鳥スピカが機嫌良さそうに歌う声を聞きながら、雲の流れる空を見上げると、太陽が中天に近づいてるのが見えた。

 ああ、もうそんな時間か。

 怒涛どとうの流れで時間が経つのも気付かなかったわ。

 気が抜けたせいか、またシクシクと下っぱらの痛みを感じ始めた俺。

 いや、これ、何か中ではががれてるんじゃねか!?

 そんな言いようのないぶり返した痛みを感じながら、誰に聞かせるでもなく、俺は小さく愚痴ぐちっていた――。

 「あ゛~二日目は辛いわ……」





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